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フリマアプリサービスの返品トラブルに学ぶ炎上後の対応

公開日:2025.01.10

著者:前薗 利大

返品トラブルへの厳しい対応が大炎上

2024年11月11日、A社が運営するフリマアプリサービスで商品を販売しようとした、ある出品者のコメントがXに投稿されました。その内容は、サービスを利用して窃盗に遭ったというもので、どうしたら良いのか知恵を貸してほしいという切実な訴えでした。

投稿によると、新品未開封のプラモデルを購入者に発送したところ、「パーツが破損していたため購入をキャンセルしたい」との連絡があったといいます。A社からの指示も受けた出品者は返品に応じたものの、送料着払いで返ってきた商品を開封すると、中身がほぼ抜き取られたあげく、ごみが入っていたというのが事の経緯です。

さらに、投稿には、サービスの窓口に被害を相談した出品者に対し、A社は「購入者は正しい商品を返したと言っている」との理由で補償を拒み、サポートも打ち切られたまま取引をキャンセル扱いにされてしまったということが書かれていました。

購入者にとって一方的に有利な対応をして事態の仲裁に応じず、返品トラブル自体をなかったことにするかのようなA社の対応に、猛烈な批判が浴びせられました。X上では「同様の被害に遭った」とのコメントが相次ぎ、大炎上が巻き起こりました。

炎上後に一転した補償対応にも批判

さて、今回の事案から企業が学ぶべき教訓は、炎上を受けたA社の対応にあります。炎上後、A社は返品トラブルを訴えた出品者のXアカウントにDMを送っています。DMでは経緯の見直しや補償を検討している旨の連絡があり、その3日後にはプラモデルの販売価格に相当する額の補償金を振り込んだことを伝えました。

しかし、炎上後に対応を一変させることは、「もし炎上しなければ、何もしなかったのではないか?」という不信感を招くことに繋がります。事実、過去に返品トラブルに遭ったという複数のサービス利用者からは「自分も同様の被害に遭ったのに、なぜ補償してくれなかったのか?」という反発が噴出しました。

しかも、補償を受けて一件落着したはずの出品者も、メディアの取材などに対し、A社への強い不信感が消えていないことを明らかにしています。A社は補償することで騒動の幕引きを図りたかったと推察されますが、思惑通りにはなりませんでした。

「炎上したから対応を変えた」という見え方に

A社はその後、サービス利用者へのサポート体制や補償を強化する新たな対策を公表しましたが、過去に返品トラブルに遭った利用者をどこまで救済するのかという点には言及していません。そのため、世間では「今回のプラモデルの出品者に補償をしたのは、炎上したから」という論調が広まっています。「炎上させた者勝ち」という見方を払拭できない限り、SNSを使ってA社への不満などを発信する動きを止めることはできないでしょう。

もちろん、当初の段階でA社が取った対応は、社内の規約に則っていたと思われます。しかし、Xのユーザーから大きな反発が上がったため、対応を変えざるを得なかったという事情は理解できますが、「炎上したから対応を変えた」という見え方になってしまうこと自体は避けるべきでした。

だからと言って、炎上を放置しても構わないというわけではありませんが、今回の事案では「皆様からのご指摘を受け、我々のこれまでのやり方に問題点があったと判断しました。誠に申し訳ございません。これからはこう変えていきます」ということを鮮明にするのが望ましかったと思います。

また、過去に返品トラブルに遭ったサービス利用者に対しても「可能な限り救済します」、あるいは「完了した取引の全容把握は難しいので、過去の件の補償はご容赦ください」という姿勢を示すことが正解だったと考えます。

A社は「炎上したから対応を変えた」というSNS上の怒りを認識していないかのように、「これからの補償を手厚くすることを考えました」という体裁のリリースを公表しました。

問題に対応する際は広報対応も必須

プラモデルの出品者に個別の連絡を取るにあたっては、自社の公式見解として、SNSの公式アカウントでも同時並行の形で広報しなければならなかったと思います。出品者が投稿したやり取りの内容から批判の声が上がっている状況について謝罪した上で、「多くの指摘を受け止めてサービス利用者へのサポート体制などを手厚くしていく」という考えを示せば良かったのではないでしょうか。

大炎上に至った要因は、A社が特定の出品者のみとのやり取りで事態を収めようとしたことに、世間が納得しなかったということが最も大きいと思います。

もう1つ言えるのは、自分の不満さえ解消されれば良いというタイプの人は、そもそもSNS上ではあまり声を上げないということです。先述したように、SNSに返品トラブルを投稿した出品者も、補償金を得られたにもかかわらずA社に強い不信感を抱き続けています。

国際グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授の調査(※)を見ても、SNSの炎上に参加している人の70%程度は「間違っていることをしているのが許せない」という正義感が動機になっていることがわかります。

どうしても補償金が欲しいということであれば、60万円以下の金銭支払いを求める場合は簡易裁判所で少額訴訟手続を取ることもできます。いくら大きな騒動になったところで実際に補償金を得られるかどうかわからないSNS投稿をしなくても、高い確率で解決を図れる手段は存在するのです。

※「炎上から見るネット世論の真実と未来」講演資料(20ページ)  「炎上から見るネット世論の真実と未来」講演資料

シエンプレならどう対応する?

今回の炎上をめぐる対応をシエンプレにお任せいただいたと仮定すると、「特定の出品者だけに補償をすることは現状の規約下では難しく、ここまで騒動が広がった中では不可能」と判断します。

その上で、プラモデルの出品者とのやり取りに対して上がっている声をきちんと把握し、サービス利用者へのサポート体制の充実など、「これから取り組もうとしていることをメッセージングするべき」という方針も打ち出します。そうすれば、未来の利用者が救われることになるため、溜飲を下げても良いと考える人が一定数出てくると思われるからです。

さらに、過去の返品トラブルで泣き寝入りせざるを得なかったサービス利用者の不満をどう拾っていくかということにも目を向けます。

被害者の救済にあたっては、そうした人たち専用の窓口を開設することに加え、いつの時点までさかのぼった取引を対象とするかという期限を設定しなければなりません。期限を区切るのは難しい作業ではありますが、「騒ぎになったときだけ補償される」という不平等感が解消されなければ、今なお火種がくすぶっている今回の炎上が完全に収束しない状況は続くと思います。

炎上の有無に関わらず真摯な対応を

繰り返しになりますが、「炎上したからこのような対応をした」という見え方になると、消費者には「炎上させてやろう」というイニシアチブが働き、その流れを止めること自体が困難になってしまいます。

消費者からの不満がSNSに上がった場合、企業として守らなければならない原則は、炎上の有無に関わらず真摯に対応することです。ブランドとしての誠実さを表す「Brand Integrity(ブランド・インテグリティ)」の考え方を実践する行動こそが、消費者からの信頼を醸成し、トラブルなどの問題を収束させることになるのです。

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