実業家の急死事件から見る、マスコミの偏向報道について
- 公開日:2018.08.01 最終更新日:2022.10.11
※この記事は雑誌『美楽』2018年8月号の掲載内容を一部修正の上、転載しております。
2018年8月、和歌山県の実業家Aさん(享年77)が生前に遺言書を残していたと報じられました。Aさんは5月に急性覚醒剤中毒で急死しており、その死因に不審な点があるとして、事件発生当時からマスメディアで頻繁に取り上げられていました。
遺言状の内容は「遺産の全てを出身地の田辺市に寄付する」というもので、2月に結婚したばかりの妻が「遺留分(※1)」を請求するかに注目が集まりそうです。この事件の初期報道がさながらミステリードラマのように演出されていたことを思うと、今後の報道姿勢に一抹の不安が残ります。
例えば、Aさんが死亡する前にその愛犬が死亡していたことを受け、一部の報道機関は愛犬から覚醒剤が検出される可能性を示唆し、愛犬に薬物を投与した「容疑者」がいるかのように報じました。しかし、愛犬から覚醒剤が検出されなかったことは後に証明されています。
また、Aさんに比べ妻の年齢が若いことから、この女性が遺産目当ての犯行に及んだのだと結論を誘導するかのような報道も見受けられました。この女性が法律に基づき遺留分権を行使した場合、マスメディアによる過剰な報道が再燃するかもしれません。仮に渦中の人物が無実だとしても、後の生活に支障をきたす恐れがあります。
「犯人」の特定は客観的な事実に基づいて判断する必要があるでしょう。メディアが特定の個人を「犯人」に仕立て上げる危険性を有していることは、歴史が証明しています。
本件はネット上でも様々な記事になっており、断片的で不確実な情報も多々あります。しかし新聞や雑誌、テレビ番組といったメディアの偏向報道を論理的に批判する発信も見受けられます。自身で情報を集め、分析することにより、新聞や雑誌、テレビ番組などのメディアに頼るよりも中道的な見解を得ることが可能です。
※1 兄弟姉妹以外の相続人が最低限の遺産を確保するために設けられた制度。相続財産の一定割合を取得できる権利(遺留分権)を指す。(民一〇二八条)