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「赤いきつね」アニメCMの炎上騒動に学ぶ企業のリスクマネジメント

公開日:2025.03.14

著者:前薗 利大

頬を赤らめながら麺をすする女性を描く

食品メーカー大手・東洋水産が公開したカップ麺「赤いきつね」のWeb限定アニメCMが、SNS上で物議を醸しています。

このCMは2025年2月6日、同社のブランドであるマルちゃんの公式YouTubeやXなどの各媒体で公開されました。若い女性が薄暗い自室でテレビの恋愛ドラマを見て感動するシーンから始まり、頬を赤らめて涙ぐみながら「赤いきつね」 を食べるというシチュエーションです。

翌7日には、男性バージョンのアニメCMも公開され、残業中の男性がデスクで仕事をしながら「緑のたぬき」を食べる姿が描かれています。

「性的な表現」をめぐり賛否両論が噴出

当初、これらのCMは話題になっていませんでしたが、公開から10日後の2月16日、SNS上で「きっしょ!女性を赤面させるなら、男性もちゃんと赤面させろ!」「セクハラCM」「男性向けに作られた内容」といった批判的なコメントが噴出しました。これらは急激に拡散され、CMへの注目度が一気に高まったのです。

こうした指摘に対し、SNS上では「性的な表現?どこが?」「エロ要素なんてないでしょ?」などと異を唱える投稿も相次ぎました。

料理研究家のリュウジ氏はCMの再現動画を投稿し、「一昔前のグルメ漫画で育ったから頬を染めて食うのはデフォルトだし全く性的に見えない」とコメントしたことで話題になりました。

「生成AI使用」「非実在型炎上」でも混乱が広がる

CMの是非をめぐる論争がヒートアップする中、2月21日には、CMの企画を担当した企業が、SNS上で噂されていた生成AIの使用を公式Xで否定しました。さらに、虚偽の拡散や関係者への誹謗中傷を止めるようにも呼びかけています。

また、本件については一部メディアが「非実在型炎上」と報じたことで、新たな混乱が広がりました。非実在型炎上とは、メディアなどが記事や広告の閲覧数を稼ぐ目的で、実際には炎上していない事象について、あたかも炎上しているかのように見せかけた記事を作成して公開することです。ここで問題となるのは、「公開する」行為そのものではなく、その結果として閲覧者や読者が「多くの批判的な意見が寄せられていると誤解すること」です。

しかし、東京大学大学院の鳥海不二夫教授は、2月16日から17日にかけて「CMは性的である」という主張が1万回以上拡散されたことを突き止め、「小規模な炎上ではあっても非実在型炎上ではない」との結論を導き出しました。

引用:赤いきつねと非実在型炎上

騒動を収束させないのは「ツイフェミ」?

実際に、SNS上の論争は今なお続いています。とは言え、鳥海教授の調査でも、賛否両論で明らかに多いのは、CMに批判的な意見への反論であることがわかっています。多くが「CMに問題はない」との立場を取っているにもかかわらず、騒動がなかなか収束しないのは、なぜなのでしょうか?

大きな理由として挙げられるのは、本件が「ジェンダー・フェミニズム」に関係する問題であるということです。ジェンダー・フェミニズムやLGBTQ、宗教、政治などに関する話題は非常にセンシティブで、SNS上でも主義・主張が真二つに分かれて激しく対立し続けることが珍しくありません。

X上には、「フェミニスト」を自称して、女性差別を行っているとみなされた個人・企業を痛烈に非難するアカウントや、男性への憎悪をむき出しにした投稿を繰り返すアカウントも数多く存在します。

こうした人たちの強硬な言動や思想は、「ツイッターフェミニズム」(通称ツイフェミ)と呼ばれています。今回の件でもCMを批判したSNSユーザーの中には、自分たちへの反論を意に介さず、振り上げた拳を下ろそうとしない人が一定数いることが推察されます。

批判スルーは過去の成功体験を踏襲か

一部では「赤いきつね」の不買運動を呼び掛ける声も上がった中、東洋水産はCMを削除しておらず、騒動に関するコメントも発表していません。公式Xの更新も続けており、2月末にはフォロワー数30万人を達成しています。

30万人の達成が間近となったタイミングでは、大手の有名企業が東洋水産の公式Xアカウントを続々とフォローして応援する動きも見られました。30万人達成を受け、公式Xは明るいトーンで感謝と喜びのメッセージを投稿しています。

東洋水産が平常運転を続けている背景には、インスタントラーメン「マルちゃん正麺」の公式Twitterアカウントで2020年に実施した、4コマ漫画を使ったプロモーションの騒動を乗り切った成功体験があるとみられます。

夫婦の日常を描いた漫画の最終コマでは、夫と息子が昼食で使った食器を仕事帰りの妻が洗う姿が描かれていました。これに対し、SNS上では「ジェンダーロールを脱却できないのですね」「なんで夕方帰ってきた母親に洗わせているの」など、性的役割分業に関して批判的な投稿が続出したのです。

こうした指摘に対しては、「独自の解釈でいきり立って噛み付いている人に対処する必要はない」「これに反応するくらい日々つらいお母さんが多いと思うと悲しい」など、東洋水産を擁護する意見も多数に上りました。

賛否の声があった中、東洋水産は漫画を削除しませんでした。その上で、ツイートの内容は「炎上に屈するな」など自社を擁護する論調が多いことを把握し、騒動の沈静化を見計らって第2話を公開しています。冷静な判断で批判をかわした対応に寄せられたのは、大きな称賛でした。

東洋水産の公式Xをフォローした企業に“飛び火”

しかし今回は、2020年当時のような幕引きには至っていません。2025年2月20日には、モーターショーに展示されているトラックの前でポーズを取る女性コンパニオンの写真が掲載された記事とともに、「働くクルマの前にまだこんな格好させた女性立たせるメーカーの感覚疑う」と疑問を呈したライターのX投稿が話題になりました。

このライターは、続けての投稿で「ちまたでは『赤いきつね』が炎上してるが、女性の『食べる』という動作をどう描写するかで賛否出ること自体はある程度理解できる」と言及しており、「赤いきつね」のジェンダー・フェミニズム論争が女性コンパニオンのトピックに発展した可能性も伺えます。

また、東洋水産の公式Xをフォローした企業に対しては、「このタイミングでフォローする理由って、煽ってフェミニストを不買させたいから?」「公式アカウントでわざわざ渦中に入っていく人をX担当にして放置している企業はかなりまずい。リスク管理ができていない」といった批判が“飛び火”し、新たな炎上を引き起こしました。

騒動が収束していない中、こうした批判が強まれば、これまでCMを擁護していたSNSユーザーが自らの意見を翻すことも懸念されます。東洋水産の公式Xをフォローした企業についても、不買運動を呼び掛ける動きが表面化するかもしれません。

企業のリスクマネジメントに不可欠な対応

企業がこのような騒動に巻き込まれた場合、自社のSNS公式アカウントの更新を継続すべきかどうか、慎重に判断する必要があるのは当然です。東洋水産は、自社への批判やキャンセルカルチャーに迎合しない姿勢を取っていますが、いかなる場合もそのような判断が支持されるとは限りません。

企業としては、自社に批判的な人たちの属性・論調を把握し、ネガティブな論調が勢いを増す動きがあれば、いち早く察知する必要があります。一部のユーザーが騒いでいるだけなのか、あるいは批判的な意見が一般消費者にも波及しているのかという分水嶺を見極めなければ、一気に悪い方向へと流れてしまうことが十分に考えられます。

また、東洋水産の公式Xをフォローした企業への風当たりが強まったことからもわかるように、強硬な意見や感情を持つ人たちが目を光らせるセンシティブなトピックで炎上している企業との交流にも注意が必要です。

もちろん、すべてにおいて適切に対処するのは困難だと思いますが、まずは自社に対する論調に関心を向けておけるかどうかが大切です。その上で、ネットやSNSをモニタリングする体制を整え、炎上時の動き方も理解しておかなければなりませんが、それらができているとしても十分とはいえません。

皆さんの企業では、「赤いきつね」の騒動が、自社の広告やイベント、他社との絡み方に飛び火しないかどうかということまで確かめていたでしょうか?

炎上のリスクマネジメントは、そこまで手を打ってこそ、初めて「しっかりできている」といえるでしょう。


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