国際女性デーやウクライナ情勢など世間の動きに合わせたリスクへの対応とは(デジタル・クライシス白書-2022年3月度-)【第80回ウェビナーレポート】
- 公開日:2022.03.30 最終更新日:2023.06.21
「差別」をめぐる炎上が続発
桑江:スマホ向けゲームAの公式Twitterが、シリーズのアニメの作中で「不適切な表現」があったと謝罪し、動画の公開を停止しました。
問題の放送回をめぐっては、海外の視聴者から「ブラックフェイスと取れる表現がある」との批判が寄せられ、謝罪文は英語でも発表されています。
日本のいわゆる「黒ギャル文化」を使った表現で、日本人の視聴者からは「どこが不適切なのか?」といった声も上がりましたが、人種差別撤廃を訴える国際的なブラック・ライブズ・マター運動の流れにもつながってしまいました。
多くの日本人は国内で人種差別の被害を受ける機会が少ないため肌の色に対する意識が低いと言われていますが、海外ではかなりセンシティブです。
前薗:日本人にはピンとこない問題ではあるものの、海外では十分炎上し得るので、リスクチェックの一環として押さえておくべきことと認識していただければと思います。
桑江:米国の化粧品・香水メーカーB社は、自身のInstagramアカウントで差別的な投稿をしたとして、自社のエグゼクティブ・バイス・プレジデントC氏を解雇しました。
C氏は黒人に対する差別発言に加え、新型コロナウイルスにまつわるジョークを投稿し、SNSで多くの批判を集めていました。
C氏はInstagramで謝罪文を投稿し、出勤停止の懲戒処分も受けていましたが、それでも収まりませんでした。
F社はここ数年、ダイバーシティ&インクルージョンの施策を強化しています。そのような中、企業のトップでも解雇されたというのは興味深い部分ですが、トップがこのような言動をすると企業も守り切れないということは世界の常識になりつつあると感じます。
前薗:女性、動物、差別、そしてロシアのウクライナ侵攻に関する不適切な発言は、例え個人の立場だったとしても企業は守りにくくなってきていると思います。
企業の公式見解と捉えられてしまう可能性も十分あるので、公人に近い個人のSNS利用は細心の注意を払っていただく必要があるでしょう。
スポンサーとしての企業対応が厳しく問われる
桑江:あるテレビ番組では、飼い主が犬に初めて服を着せる企画に対し、視聴者から「動物虐待」との批判が続出しました。
動物、ペット、赤ちゃんといったテーマに関しては、一般の方も含めて炎上事案には事欠きません。企画や演出によって虐待と受け止められた場合は、こういう形になります。
さらに注意すべきなのは、こうした番組に対してはスポンサーにまで飛び火することが多く起こっているということです。スポンサーを務めている番組の内容や企画には気を付けなければいけないですし、番組の評判を定期的にチェックすることも必要になるかと思います。
前薗:先日も海外のプロサッカー選手がペットを虐待している動画を公開してしまい、スポンサーがことごとく撤退しましたが、同じようなことは日本でも十分起こり得ます。
動物、ベビー、環境、ジェンダー関連の4つの要素は、特に世間の関心事です。これらの炎上に関わる先のスポンサーになっていた場合にどう対応するのかというのは、リスクシナリオの中に組み込んでいただいた方がいいと思います。
結果的には、物言うスポンサーにならなければいけないということですね。
ライバー、Vチューバーのリスクチェックも必須
桑江:VチューバーグループDは、アダルトビデオを違法視聴した疑いが浮上していたVチューバーEさんの活動自粛を発表しました。
事の発端はEさんのゲーム配信で、デスクトップ画面の「クイックアクセス」にそれが表示されてしまうトラブルがあったことです。表示されたフォルダ名が、あるセクシー女優の出演作品の型番と同じだったことから、視聴者の間で違法視聴の疑惑が生じました。
生配信中に自分のパソコンの画面を見せることによるトラブルは結構あります。ビジネスでもZoomの画面共有をしたときにメールやLINEの通知などが出てしまうのと同じような話で、配信者にはこのようなリスクが発生します。
最近は企業がVチューバーをスポンサードするケースも増えていますが、契約時はリスク確認が必要でしょう。
前薗:ライバー、Vチューバー絡みの炎上は増えている印象です。企業は芸能人と同じような感覚で起用してしまいがちですが、一般の人の延長線上のリスクマネジメントしかしていない方々もたくさんいます。
そのことを前提に所属先の管理・監督状況をチェックし、起用するかどうかを判断しなければ危険性が高いでしょう。
桑江:次は、2月1日に女性アイドルグループFに加入し、グループ史上最速でセンターを務める予定だったG氏の事例です。
加入前に「被写体モデル」として活動していた際の写真や映像がSNSで出回り、そこから「パパ活」疑惑などが生じてファンをざわつかせました。
さらに、過去にG氏が使用していた疑いのあるSNSのプライベートアカウント、いわゆる「裏アカ」も発掘され、大きな騒動になりました。
グループの運営会社は公式サイトで「一部の発言に関して本人のものであることが確認できた」と認めて謝罪し、一定期間の本人の活動自粛を発表したところです。
我々も企業の依頼で読者モデルやインフルエンサーの起用チェックをしていますが、裏アカが見つかるケースは多く、そのようなリスクは十分あると考えた方がいいでしょう。
前薗:先ほどのライバー、Vチューバーもそうですが、裏アカがあるかどうかというのも起用のリスク因子になるので、しっかりとチェックしなければならないということですね。
炎上のシナリオを想定しておく
桑江:人気ユーチューバーグループHは、大阪で開催されたファッションイベントの騒動について謝罪しました。
問題視されたのは、指定席制だったにも関わらず、Hの出番になるとファンがステージに殺到した件です。SNS上を中心に、ステージに押し寄せる複数のファンや大声で声援を送る女性の姿などが動画で拡散され、「迷惑すぎる」など批判の声が寄せられました。
Hは本人たちのファンの行為を謝罪したのですが、出番が終わって帰りの車に乗り込もうとするメンバーを待っていた大勢のファンたちに大きく手を振ったり両手を広げたりしてアピールするメンバーの姿も動画で拡散され、「モラルはないの?」「ファンを煽っている」といった指摘が出たところです。
謝罪はこうしたことも含めてだったと思いますが、イベントの主催者側も「お詫び」のコメントを公表しました。
前薗:Hは以前に参加した別のイベントでもSNS上で騒動が起きるなど、これまでも炎上気味でした。そのようなグループだということを踏まえ、主催者側が十分なリスクシナリオを用意できていたかどうかが注目すべきポイントだと思います。
桑江:YouTubeの自身と親交のあった芸能人の「裏の顔」を暴露し続けているI氏のYouTubeチャンネルで標的にされた芸能人に実害が及んでいます。
目下のところ窮地に立たされているのは俳優のJ氏で、数々の疑惑を語られて契約中の3社のCMがすべて非公開になってしまいました。前所属事務所もJ氏に対して「納得のいく釈明をするべき」と助言したとのことです。
前薗:私もウォッチしていますが、こうしたことは今後も続くと思います。CMなどのキャスティングをしている企業にとってダメージが大きい内容が多そうなので、事前に防衛策を取っておいた方がいいでしょう。
いわゆる「暴露系」のユーチューバーが炎上のトリガーを握っている状況は変わらず、そういう方々が増えてくる可能性があると思います。
ウクライナ問題でも問われる企業姿勢
桑江:最後は、ロシアのウクライナ侵攻関連です。ロシア生まれのタレントでコラムニストのK氏がテレビ番組でウクライナへの人道支援について言及したところ、ネット上で大ブーイングが起きました。
しかし、K氏は自身の発言を「編集されている」と否定したことから、今度は番組に批判の声が集まっています。このように、ワイドショーやニュース番組のコメンテーターのコメントが切り取られることは結構ある話です。
前薗:もともとはテレビ局側が「出演者のコメントを放送してあげている」というスタンスでしたが、今は出演者自身がSNSなどで「違う」声を上げやすくなっているので、そもそも番組の作り方から見直さなければ今後も同じようなことが続くと思います。
桑江:今や世界的なアパレルメーカーになったL社がロシアでの事業を継続すると発表したことに国内だけではなく、海外の消費者からも厳しい声が寄せられました。
グローバル企業がロシアでの事業を次々と停止し、日本の自動車メーカーなども追随する中、L社は一転してロシアでの営業を一時停止すると表明したのですが、ネット上では「今さら感が強い」など引き続き厳しい声が上がりました。
前薗:L社の判断は非常に難しかったと思います。炎上という切り口で見ていけば、皆さんと同じ方向を向かないとこうした批判にさらされてしまう可能性があるということ自体は避け難いでしょうから、かじ取りが非常に難しいポイントですね。
桑江:全体的な状況としては、芸能人などを起用する企業、スポンサーとして協賛する企業の対応が非常に難しくなっていると感じます。
スポンサーに求められる責任がかなり変わってきているので、企業としての意思表示をしっかりしなければなりません。ウクライナ情勢を含めて正しい判断をしていくことが、ますます必要になると強く思っています。
判断をするときは、目の前でつぶやかれているTwitterを中心としたSNSの論調を見極めるのが第一ステップで、それを踏まえて自社の行動がどう思われるかを考えていくべきではないでしょうか。