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炎上する社会~メディア報道による企業のレピュテーションへの影響~【第75回ウェビナーレポート】

公開日:2022.01.26 最終更新日:2024.03.05

2021年の炎上は前年比24.8%増の1,766件

桑江:「デジタル・クライシス白書2022」によると、2021年の炎上件数は前年比24.8%増の1,766件でした。月平均100件以上が発生している計算ですが、特徴はメディア報道が絡む炎上が増えているということです。
白書では、炎上事案を放送・記事化したデジタルメディアが前年の98.7%から100%へと究極に高まったことも明らかにされており、メディアがいかに多くの炎上事例を記事化しているかが分かります。

吉野:炎上は2000年代後半から頻発するようになりました。2013年にいわゆるバカッター、バイトテロが何度も起きてマスメディアで大きく報道され、炎上という言葉が知れ渡ったところです。今はしょっちゅう発生しているという印象で、日本のインターネット社会に根付いてしまっています。
ちなみに、炎上は米国やロシア、EU、中国でも見られることから、ネット社会がある程度栄えると起きやすくなっていると言えます。

桑江:そうですね。

吉野:企業に全く非がないのに炎上に巻き込まれてしまうパターンもありますが、圧倒的に多いのは何らかの非がある場合です。先ほど言ったバイトテロもそうですし、経営者などがネット上で失言をしてしまって一気に燃えることもあります。
また、これをやってはいけないと思うのは不適切なマーケティング活動ですね。ステルスマーケティング、やらせが指摘されて燃える場合もありますし、近年はWeb動画や広告などのジェンダー表現に関する炎上も多く発生しています。

桑江:それらは社内で十分に気を付けていれば、ある程度は防げるはずですから、慎重に対処していただきたいですね。

メディアが炎上を拡大させている

吉野:社内外からの告発が原因となることもありますので、炎上はいろいろな角度からやって来るということです。
炎上の主戦場となっているTwitterは拡散スピードも速く、あるラーメン店の炎上事例では、発端となった投稿の10分後には延べフォロワー数が3,837アカウントから14万7,941アカウントに膨らみ、32分後には551万5,799アカウントに激増しました。

桑江:確かに、炎上スピードは加速していますよね。

吉野:ただ、私が分析したTwitterの投稿データを見てみると、炎上に関する投稿は批判的、攻撃的なものばかりとは限らないことも分かりました。
炎上しているときは世の中の人が全員、自分を叩いているように感じられることもあると思いますが、ネタ化して笑いにしていることもあります。
もちろん、炎上すると攻撃的・批判的な投稿は増えますが、大半はどちらでもありません。
つまり、攻撃的な投稿はリツイートされにくいのではないかということも分かってきました。

桑江:とは言え、ネットメディアやマスメディアで報じられた炎上事例は、やはり再燃してしまうことが多いですよね。

吉野:テレビやラジオで炎上事例に言及したタレントのコメントをネットメディアやスポーツ紙のオンライン版などが取り上げ、それを見たTwitterユーザーの皆さんがその炎上事例に再び反応するケースもあります。
つまり、ネットからマスメディアへというだけでなく、マスメディアからネットへの流れで揺り返しが起こる可能性もあるわけです。
Twitterや5ちゃんねるで騒動が発生すると、ネットメディアはよく取り上げます。なぜかと言うと、広告収入を得やすいから。実際には炎上というほどではなくても、「炎上」というタイトルを付けた記事を配信すればクリックする方がいらっしゃるので、その内容に対する反響が表面化します。
それなりに反響が広がるとマスメディアが報道し、それをネットメディアが記事化することで、事態がなかなか収束しないパターンもあります。

消費者の「信頼」があればレピュテーションを守れる

桑江:企業としては、どのように対処すべきなのでしょうか。

吉野:企業広報を担当する方にしてみれば炎上は本当に怖く、面倒だと思います。そのため、炎上すると「謝罪リリースを出すしかない」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそうでもないこともあります。
お客様に誠心誠意応えるとしたら徹底した速い対応が答えるとしたら求められはしますが、炎上の原因を取り下げたことで批判された、あるいは取り下げずに押し切った事例もあります。
企業の姿勢によっていろいろな選択肢があるということなので、「炎上が起きたら謝る」というイメージは持たない方がいいと思います。

桑江:なるほど。

吉野:2020年8月のWebモニター調査では、企業の炎上を認知したことがある人のうち42.9%が「その企業の印象が悪くなったことがある」と答えました。さらに「その企業の商品やサービスを利用するのを避けたことがある」が18.3%、「その企業の商品やサービスを利用するのを避けるよう、周りの人に伝えたことがある」は6.6%でした。つまり、炎上を認知した人だけではなく、その周りの人にまで悪影響が広がるかもしれないということです。
商品・サービスの利用を「避けたことがある」「避けるよう伝えたことがある」という人がそのようにした最大の理由は「その企業が信頼できなくなったから」(72.0%)ですが、逆に言うと、危機管理広報で「信頼」の毀損を抑えられれば回避行動までには至らない可能性もあるかと思います。

桑江:企業の炎上の種類について、消費者はどのように捉えているのでしょうか。

吉野:売り上げや株価にネガティブな影響が出るのはバイトテロ型炎上ですが、マーケティング活動や人事関連のトラブルによる炎上は企業側が非難される傾向が強いですね。
多くの企業が防止策を講じているバイトテロに関して、今の消費者の多くは「勤務先で不適切な行為をした人間が悪い」という認識をお持ちなのではないでしょうか。
一方、マーケティングコミュニケーションや人事関連の問題でこじれてしまうと、顧客や従業員に対する企業姿勢そのものを疑問視されやすくなるのではないかと推測しています。

桑江:企業が批判をかわせるかどうかは、ビジネスの根幹である信頼を守れるかがカギですね。

吉野:広報の基本は情報を公開して信頼を得ることだと学生にも教えていますが、結局はそれですよね。何がトラブルの原因になったのかをごまかそうとしているように感じる謝罪文もお見受けしますが、そのような対応はあまり良くないと思います。

桑江:非常時に急場しのぎの対応で信頼を失ってしまわないよう、平時のうちから謝罪文のテンプレートを準備しておくのも手でしょうね。

自社への批判拡大を素早く検知できる体制を

吉野:炎上の問題は、批判を投稿されること自体ではありません。炎上を見た人、あるいは炎上報道を伝え聞いた人の間で、広くレピュテーションの毀損が発生するのが大きな問題なのだと思います。
マスメディアはネット上である程度、炎上が広がってから報道しにやって来るので、それまでに対応して鎮火してしまえば事なきを得られる可能性が高くなります。
もちろん、仮に報道されたとしても、適切な対応によって信頼を取り戻すことが大切です。
対応が必要な場合、少なくとも翌日にはリアクションを示す必要があります。批判が拡大し始めた時点で炎上を検知しなければ対応が間に合いません。
事前のシミュレーションやソーシャルリスニングサービスとの契約といった準備が必要かと思います。

桑江:炎上の発生から、わずか数時間後に取材が入った事例もありますからね。

吉野:誰にどう謝るかも大切です。世間を騒がせてしまったことをまず謝罪するようなリリースは良くないですね。外部からは「騒動になったことは悪いけれど、原因になった企業活動は悪くない。不本意に責められている」と見えてしまう可能性があります。

桑江:謝るのか謝らないのかを、はっきりさせなければならないということですね。

炎上対応を誤ると逆効果、大切なのは「ごまかさない」こと

吉野:炎上の対応パターンは4つあると思います。
「対応しない/取材対応のみ」「Twitterなど公式アカウントで説明」「謝罪文リリースをサイトで公開」「記者会見など」で、反響の大きさや批判を招いた活動の深刻度で判断すべきでしょう。
最も重い対応である記者会見はマスメディアで報道されることが多いですから、必要ではないにも関わらず不用意に開くと逆にダメージが大きくなってしまう可能性もあります。
また、同じ投稿数であっても、一部の人だけではなく、さまざまな人が反応している場合の方がレピュテーションの毀損が大きくなる可能性があります。
炎上が広がり始めた段階でいろいろな人が反応していると、さらに広がってしまう恐れがあるからです。
Twitterであれば投稿者のプロフィールを見るだけでもどういう人が反応しているかが分かりますので、ぜひご覧いただければと思います。

桑江:対応を誤れば、かえって批判を浴び、自社の信用を失墜させてしまいかねませんからね。

吉野:炎上対応の大事なポイントは、ごまかさないこと。いったんは炎上が収まったのに、事後のごまかしを批判されて再び炎上した事例もあります。
謝罪告知を画像データで出すのも、検索エンジンに引っかかって上位表示されないようにするための細工としか思えません。
情報を発信するとき、何が起きたのかを隠そうとするのもごまかしのうちに入ります。何か問題があって「これはだめだろう」と思っている人たちが、それを見てどう思うかということですね。

桑江:あくまでも消費者の立場で、適切な対応を取らなければなりませんね。

吉野:また、今回のテーマとは直接関係しませんが、ネット上での誹謗中傷を排除しようという意識も大変高まっています。
法改正も行われていますが、自社から加害者を出さないよう、社内広報などを通じて従業員に働き掛けるのも、企業の社会貢献として非常に重要なことだと思います。

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