決めつけや誤爆による批判から誤情報での巻き込まれ、そしてSNSを巡る最新の潮流まで(デジタル・クライシス白書-2021年12月度-)【第74回ウェビナーレポート】
- 公開日:2021.12.29 最終更新日:2023.06.21
またしても「ジェンダー炎上」が多発
桑江:映画宣伝のA社が自社サイトで「気が向いたときに決算賞与あり」「水商売経験者の方(女性の方)、優先」「好きな業界での仕事に、“働き方改革は不要”と言う方、優先」と書いた採用情報を掲載していたことが分かりました。
これに対し、映画業界の労働環境是正などを目指す非営利団体が「求人内容をみて、愕然としました」とツイート。多くの関心を集めた結果、その求人は削除され、A社は自社サイト上で「表現や内容など不適切な表現であったと猛省しております」と謝罪しました。
自社の採用情報は誰の目にも触れるので、不適切な内容が書いてあれば指摘が入り、ネット上でも話題になることは十分起こり得ます。
前薗:Twitterに投稿された採用の募集ネタは、良い意味でバズることがあります。このケースの場合、そうしたウケを狙い過ぎて踏み間違えてしまったのかもしれません。
水商売で働く人たちをめぐっては、新型コロナウイルス感染拡大に伴う差別が問題視されました。
また、働き方改革についても厳しい目が注がれています。こうした世間との感覚のずれが、このような指摘に至ったと思うので、特に注意していただいた方がいいでしょう。
桑江:続いては、中国地方のB県が発行した「働く女性応援よくばりハンドブック」に対してネット上の批判が続出した事例です。
そもそも「子どもがいて仕事をするのが欲張りなのか?」との疑問に加え、「ワーキングママの心構え 同僚・周囲への感謝を忘れずに!」というアドバイスの内容が火に油を注ぎました。
そこに書かれていたのは、「仕事で疲れているのに夜泣きがうるさくても我慢しているし、育児も手伝っているのに、さらに妻が負担を要求するなんて…」という夫の言葉。つまり、男性が育児を「お手伝いする」という感覚自体がジェンダーバイアスに当たるわけです。
さらに、冊子のアドバイスは「ちょっと大げさに感謝すると、パパもやる気を出してくれます」と夫のケアを促す文言で、ネットでは「なぜパパが気遣いされる側の『周囲の人』に入っているのか?」といった感想が見られました。
この冊子はジェンダーの考え方を一番気にするべき分野で、実際に意識をして作ったはずです。それにも関わらず無意識のジェンダーバイアスが露呈してしまうことがあるということを学ばなければならないと思います。
前薗:いわゆる「ジェンダー炎上」のすべての要素が詰まった問題だと捉えています。
女性に対して何かを求めるのではなく、社会が変わらないとだめだという視点で語られるべきなのに、この冊子は「働く女性が何に気を付けなければならないのか」という切り口です。その大きなギャップが炎上の主たる要因ではないかと思います。
そもそもこうした観点の冊子を作るのであれば、どういう立ち位置で読者とのコミュニケーションを展開していくのかを考えなければならないと思います。
「規格外品を女性に例えた」と批判
桑江:次の事例は、繊維商社とタオルメーカー、NPO法人の3者が合同で企画した「B子プロジェクトです。規格外品タオルの有効活用を狙ったものでしたが、「『B級品』のタオルになぞらえ、欠点がある女性を『格付け』しているのではないか?」といった声が相次ぎました。
プロジェクトでは5人の女性のイメージキャラクーを「大ざっぱ先生」「もじもじっ子」などと名付けてイラスト付きで紹介しましたが、非難を集めた要素は2017年に大炎上した大手飲料メーカーのキャンペーン「~女子」にかなり近いと思います。
B子プロジェクトは5人の個性を褒める内容ではあったのですが、ファーストインプレッションで「こんなことをしていて、どうしたら女性が輝く社会になるのか?」「人間や性別に格付けしないでほしい」といった批判が出ました。
過去に問題となった類似事案を把握できていれば、「女性蔑視だ」と指摘されるリスクを察知できたのではないかという気がしてなりません。
前薗:これは何の申し開きもできない炎上事案だと思います。過去に炎上した企業・団体の事例に近い内容なので、それらをインプットして検証できていれば確実に防げたのではないかと思います。
そもそもなぜ、3者がそろってこのようなプロジェクトを容認してしまったのかが疑問というのが正直な印象です。
桑江:自身が10月に行った選挙応援演説の内容が炎上した中部地方のC県の知事は、女子学生の知性と容姿を結び付けるような発言でまたしても批判されました。ただし、その発言があったのは最初の炎上の数カ月も前のことでした。
前薗:一度炎上してしまうと、「他に揚げ足を取れるポイントはないか」と粗探しをされ、同じような話を掘り起こされることがあります。
その人の影響力が大きければ大きいほど暴露しやすいため、今回は過去の発言を掘り返しやすいタイミングだったとの見方もできるのではないでしょうか。
誤った言説に巻き込まれて騒動に
桑江:女性誌の出版社が運営する人気情報サイトDは、洗濯用の柔軟剤が香水やフレグランススプレーの代わりになるという記事を配信しました。
これに対し、SNS上では化学物質が原因の「香害」を心配する声が上がり、大手洗剤メーカーもこの記事に関する取材に対して「推奨しない」と回答。Dは自社サイトの記事を削除し、「メーカーが用途として想定していない使い方をご紹介したことは不適切であった」と釈明しました。
このようなハウツー記事は多いのですが、事実に基づかない内容をSEO対策で大量に配信し、問題提起されて大事になってしまったケースは過去にもあります。オウンドメディアでこのようなコンテンツを作っている企業は多いと思うので、注意すべきしょう。
前薗:こうした事例は過去にもたくさんあるので、企業としては事実関係の確認に注意を払うべきですね。記事の内容が正しいかどうかを検証されている方がいらっしゃるのは事実なので。
桑江:こちらは巻き込まれたパターンですが、大手スキンケアブランドのE社は、自社製品をめぐり誤った言説が広まっているとして注意喚起しました。
他社のネット広告で、E社のスキンケア用品に特定の他社製品を混ぜると肌のしみが消えると宣伝されてしまったため、消費者に対して「そのように使わないでほしい」と警鐘を鳴らしました。
自社製品が他社の広告に勝手に使われるというケースはたまにありますが、そうした事態に巻き込まれた場合は、しっかりと訂正・否定することが求められます。
前薗:「しみが消える」という断定型の広告は、そもそも医薬品医療機器法(薬機法)に抵触してしまう可能性があります。恐らくアフィリエイト目的なので、トラブルを招きやすいだろうと感じました。
桑江:関西地方にあるF市の個人情報を扱う部署が「韓国籍限定」で人材を募集しているとの噂が広まり、「なぜ韓国籍限定なのか」と批判が集まりました。
しかし、実際はデマで、韓国系の団体が自らのサイトにその求人情報を転載した際、勝手に「韓国籍限定」の条件を付記したと言われています。
これもF市が巻き込まれた形なので、きちんと情報を把握した上で対応・否定することが必要になるでしょう。
前薗:12月は首都圏の市で、日本国籍を持たない人に対する住民投票権付与の可否をめぐる論議もあり、外国人との関わり方が注目されました。そういった意味でも、より燃えやすい環境だったと思います。
「差別?」「言葉狩り?」 賛否両論が巻き起こった事案も
桑江:次は、大手人材・広告会社のG社の事例です。就職活動の学生に送った案内メールのタイトルに露骨な「学歴フィルター」がかかっていたとして批判を浴びました。
G社はミスとした上で「学歴フィルターはありません」と否定したのですが、「学歴フィルターはあって当然だ」という意見も顕在化しました。
セグメントをかけるというのはネット上における有効な手段ですが、このような形で条件や内容が露骨に見えてしまうと不満に思う人がいるというのは確かでしょう。
前薗:そうしたフィルターが存在すると分かってはいるけれど、改めて突きつけられることで揺り動かされる感情は間違いなくあると思います。
一方では、学歴フィルターを肯定する主張も出ているので、なかなか答えに行き着かないという印象はありますね。
桑江:賛否両論という意味では、江戸と東京の歴史・文化を伝える都の博物館の事例が挙げられます。人気アニメの舞台になった遊郭を公式Twitterで「煌(きら)びやかな世界」と紹介して批判され、「表現が不適切でした」と謝罪しました。
批判に対しては「言葉狩りではないか」という声もありましたが、遊郭の存在をどう捉えるかは立ち位置によって変わってくるでしょう。
こうしたテーマを扱う場合、一定数の批判が出ることを踏まえて考えなければならないかと思います。
前薗:炎上に見舞われる可能性があるということを、どれだけ想定しておけるかというジャンルだと思いますね。
桑江:テレビの情報系番組でキャスターを務める男性アイドルグループのメンバーの発言も賛否が分かれた事例です。
太平洋戦争で米軍艦に魚雷を撃って沈没させた元日本兵へのインタビューで「アメリカ兵を殺してしまったという感覚は、当時は?」と質問を投げかけ、ネット上で批判が殺到しました。
しかし、のちに「戦争を風化させてはいけない」という意図があって質問したという擁護の記事も多く報じられたところです。
前薗:Twitterではキャスターに対する好意的な意見が多かったと思いますが、まさに一部の発言を切り取られた炎上という印象です。
YouTubeでもそのような動きが盛んですが、切り取り型の炎上はさらに起きやすくなるのではないでしょうか。
TikTokとどう向き合うかが問われている
桑江:そして、2021年に大きな話題を集めたキーワード「TikTok売れ」に関する事例も発生しました。
書評家のH氏は「TikTokみたいなもんで本を紹介して、売れたからって、だからどうしたとしか思いませんね」などとツイート。名指しされたのは、TikTokでいろいろな本を紹介しているTikTokerの方ですが、実際にその紹介が起爆剤となって書店でも本が売れていたわけです。
そのため、H氏の投稿に対しては出版界からも「それを言ってはいけないだろう」という意見が出て、物議を醸しました。
TikTokでは本だけでなく、家や車まで売れていますから、企業としてはどう活用していくかを考えなければならないと思います。
前薗:ビジネス書もSNSを駆使して売る手法が主流になってきています。
H氏の投稿のような切り口の主張はよくありますが、「自分たちを正しく理解してくれる人なんていない」というスタンスだと叩かれてしまうことになると思いますね。
実際にTikTokでモノが売れているわけですから。
桑江:一方、TikTokでは大手宅配ピザチェーンIの従業員が自分のマスクを外した手で生地に触る動画が拡散され、運営会社が謝罪するに至りました。
10月には高級焼き肉店のアルバイト女性が来店客に提供する岩塩プレートを舐める動画をInstagramに投稿して問題になりましたが、まさに同じようなことがTikTokで起こったということです。
TikTokはユーザーがユニークなことをしてバズらせようという文化が強い印象ですが、一歩間違えば不適切な行為の拡散につながってしまいやすいと思います。
前薗:TikTokのデータを国内の管理ツールなどで収集して見ていくのはまだ難しく、Twitterに出てきてから捕捉していくという運用をされているのが実情でしょう。
我々としても、1日も早くTikTokというプラットフォームをチェックできるようになればいいと思いますね。