ラーメン店騒動から駅広告の炎上まで。賛否を分けたポイントとは?(デジタル・クライシス白書-2021年10月度-)【第70回ウェビナーレポート】
- 公開日:2021.11.03 最終更新日:2023.06.21
目次
炎上リスクにいち早く気付き、対応できるかが重要
桑江:最初にご紹介するのは、中国を代表する人気ファッションブランドAの子供服に不適切なデザインが採用されたということで、インターネット上に批判の声が広がった事例です。
英語が分からない祖母が4歳の孫にプレゼントしたシャツにプリントされていたのは「WELCOME TO HELL(地獄へようこそ)」「LET ME TOUCH YOU!(触らせて)」の文字でした。
これに気付いた母親が抗議文付きの画像をネットに投稿したところ、多くのネットユーザーから「子ども向けのデザインとしては不適切だ」「デザイナーは幼児の性犯罪を推奨しているのか」といった賛同意見が集まり、ブランドが謝罪しました。
アパレル製品の不適切な文字、デザインに関しては昨年、日本のメーカーB社が炎上した事例もあります。これらに共通しているのは発売後、しばらく時間が経過してから抗議する方が現れたという点です。
アパレル製品はデザインの盗作も含めて注目されやすいので、そのあたりは注意した方がいいでしょう。
前薗:同様の問題は時々起こりますが、商品のデザインやクリエイティブについて世の中に迎合すればいいというわけではないと思います。
重要なのはリスクにいち早く気付き、対応できるかどうか。こういったトラブルを契機に、自社のチェック体制を確認いただいた方がいいですね。
ジェンダー問題は「対女性」だけではない
桑江:続いては、東京都内の大型書店Cの炎上事例です。男性の人気アイドルグループのメンバーが表紙を飾った雑誌の発売を記念し、店内に特設コーナーを設置しました。問題となったのは、本人が上半身裸で写った雑誌の表紙を引き延ばした特大ポスターに、霧吹きで水をかけられるようにしたことです。
CはTwitterで「汗すらも美しい」「それを体感していただけるように、霧吹きを用意してみました」と動画付きのPRも発信したのですが、「気持ち悪い」「性的消費とも言える演出で不適切」「女性アイドルで同じような企画をしたら通らない」といった怒りの声が上がり、謝罪に追い込まれました。
ただ今回の企画は、このグループが所属する芸能事務所の許可を得ていなかったことも炎上要因に1つに挙げられるでしょう。実際に許可を得られるかどうかはともかくとして、芸能事務所や本人が全面的に協力するという形が見えていれば、これほどまで反発を浴びる事態にはなっていなかったかもしれません。
前薗:ジェンダー問題は、日本だと「対女性」の見方が強いと思いますが、「対男性」も含まれます。セクシャルな表現、媒体に関しては「女性ではないから大丈夫」ということにはならないということを念頭に置いていただいた方がいいと思いますね。
過去の不適切な言動が蒸し返されることもある
桑江:Twitterでは過去の軽率な投稿が掘り返され、波紋を呼ぶ事例も相次いでいます。例えば、野党の男性参院議員は「ショートパンツの女の子みたいなら夏場のサッカー観戦はいいと思う…」などと書き込んだ2012、2013年のツイートが蒸し返されました。
そもそもSNSで不適切な言動を発信するべきではないのは当然ですが、炎上させようという意図があれば、どんな投稿も切り取られて火をつけられるということが起こり得ます。
自社のクリエイティブなどにタレントやインフルエンサーを起用する場合は、過去の発言をチェックしなければなりません。所属する芸能事務所が過去の本人の発言をしっかり管理できているかを確認するのも手です。
前薗:企業にとって、過去のSNS投稿の棚卸しは本当に重要だと思います。後付けでもいいので、起用するタレントやインフルエンサーの過去の投稿はどこかで可視化し、チェックできるようにしておいていただくのが一番いいと思います。
炎上のトレンドが変わってきたり、企業に対してネガティブな声が増えたりしたときに過去の投稿が掘り返されてしまうことはよく起こるので、注意が必要です。
問題提起した側も粗探しされるのが「炎上」
桑江:さて、直近で大きな注目を集めたのは、複数の人気ラーメン店を経営する、女性の人気アイドルグループの元メンバーが発端となった炎上事例です。テレビ番組の取材に対して「ラーメン評論家からのセクハラや誹謗中傷被害などを受けた」と訴え、「ラーメン評論家の入店を拒否する」と宣言しました。
これに対し、フードジャーナリストのD氏が自身のブログで「自分のことだ」と名乗りを上げて反論・回答したのですが、その内容が「あまりにひどい」と話題になっています。
セクハラの指摘に対しては、謝罪どころか「酔っぱらったらセクハラをしてしまう人間です」などと開き直っているような印象です。そうした態度への怒りと、何を訴えたいのかが分からない「おじさん構文」の文体が大炎上につながったと言えるでしょう。
一方、元メンバーの店舗もメニューの食材の産地偽装が取り沙汰され、本人が全面謝罪しました。このように、問題を提起した側が粗探しをされてカウンターを浴びてしまうことも十分起こり得ます。
前薗:まさに双方がダメージを受け続けていて、型通りの炎上という印象です。問題を提起した側もされた側も、どちらかだけが傷を負って終わるケースは少ないと思います。
未だに注目を集めている状況なので、これからも粗探しが続くでしょうし、元メンバーの店舗に行った人がYouTubeに動画を上げることも考えられます。
そういう意味では、「炎上はこうなっていく」というのを押さえておいてほしい事例です。炎上対応に当たるときは「他の案件でも刺されてしまう可能性がある」ということを念頭に置くべきというのも、今回の事例から学べるポイントでしょう。
誰もが発信力を持つ時代 従業員のリークに備えた対応を
桑江:引っ越し会社最大手であるE社の従業員が労働組合を結成し、会社に対して労働環境の改善を求めた事例も話題になりました。
「基本給がわずか6万円」「残業時間は過労死レベル」といった社員の訴えが新聞などで大きく報じられ、SNS上にも「令和の時代にこんな会社があるのか」「ブラックすぎる」など驚きの声が多数書き込まれています。
今は誰もが発信力を持っている時代です。新聞や雑誌などマスコミへのリークもそうですし、影響力のあるユーチューバーに情報発信を依頼するなどさまざまな方法があります。
もちろん、自身のSNSアカウントへの投稿もハッシュタグをつければ注目されるので、企業としては各種ハラスメントを含めた労働環境などについて社員が声を上げるリスクを想定し、マニュアルに基づくフローを用意しておかなければなりません。
前薗:物流業界はもともと残業代で稼ぐ仕組みが根強くありましたが、「基本給でケアしていきましょう」という世の中の流れに自社の制度・慣習が追いついているかどうかは必ず見ていただいた方がいいと思います。
そうした観点を持たなければ、E社と同じような問題が顕在化してしまう可能性は十分考えられるでしょう。
桑江:似たような話として、転職系の掲示板への書き込みでお困りの企業は結構いらっしゃいます。会社を辞めた方は基本的に自身を擁護するので、会社の粗探しをして「これが悪かったから自分は辞めた」というコメントを投稿するわけです。
そのように一方的な切り口のコメントが転職希望者の目に触れてしまう被害も、実際に起こっています。企業としてはそうした声があるということを前提に、自社のリクルートサイトにO&Aのコーナーをつくり、正しい情報や改善報告をアンサーとして明記しておく対策も必要です。
前薗:そうですね。
根絶は絶望的なのか?未だに繰り返されるバイトテロ
桑江:企業関連の炎上事例としては、再びバイトテロが発生して大きな話題になりました。バイトテロを起こした従業員に対しては法的措置を取る企業も増え、抑止が期待されていましたが、まだまだ続いてしまっています。
都内の高級焼肉店では、肉を乗せて焼くための岩塩プレートを何度も舐める若い女性従業員の不適切動画がInstagramに投稿され、物議を醸しました。動画は投稿者本人がすぐに削除したのですが、謝罪をするに至った店側は大きな影響を免れませんでした。
ちなみに過去のバイトテロの事例と同様、この投稿者もネット上に名前や出身校の卒業アルバムなどが晒されています。
前薗:バイトテロ自体は繰り返し起こってしまっていて、企業としては本当に避けたい問題だと思います。発生を防ぐための術としてはスマホの持ち込み制限や研修がポイントになりますが、社内で「これくらいは大丈夫だろう」という雰囲気が徐々に広がってくると、バイトテロのような行為が顕在化するという印象です。
企業側は、従業員の入社時に研修を受けさせて終わりにしてはいけません。世の中でこうした事例が発生するたび、「自社でこういうことをするとこんなデメリットがある。損害賠償を請求され、実名を晒されることもあるから気を付けて」という話をすることが大事だと思います。
炎上被害を食い止めるSNSガイドラインの策定を
桑江:企業におけるSNSの発信に関しては、我々もマニュアルとフロー、書き込みの内容についてのガイドラインを策定するサービスを提供しています。
クリエイティブに対しては複数の人がチェックするべきと言われますが、SNSの発信にはタイムリーさも重要です。そのため、企業がチェックを緩くしているケースも見受けられますが、そのあたりをどうすればいいかは個別の企業の体制や職種、業種などに合わせて考える必要がありますね。
前薗:いわゆる「憲法」のようなガイドラインを定め、企業の内外に明示しておくことで、仮に「投稿を削除しましょう」となったときも「基準に沿った対応です」と言い切ることができます。
企業を無用な批判から守ることもできるので、そういった意味でもガイドラインの制定が必要でしょう。