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デジタル・クライシス白書-2021年7月度―【第59回ウェビナーレポート】

公開日:2021.08.04 最終更新日:2023.06.21

容赦なく掘り起こされる過去の不適切な言動

桑江:2021年7月は、過去の不適切な発言の掘り起こしによるキャンセル・カルチャー(コールアウト・カルチャー)の炎上事例が続出しました。まずは、代表的な事例からお話ししましょう。
米国の女性シンガー・ソングライターA氏が、アジア人への差別用語を口にした自身の動画について謝罪しました。発掘されたのは彼女がデビューする前、13、14歳の頃の動画です。本人は「差別用語であることは知らなかった」と釈明し、「そんな言葉を自分自身が使っていたなんて愕然とするし恥ずかしい」と反省の弁を述べましたが、中国国内のファンがSNSでボイコットなどを呼び掛ける事態に発展しました。

前薗:芸能人がステルス・マーケティングに関与した過去を暴露され、炎上するといった構図と共通していますね。

桑江:スペインのプロサッカーチームに所属する2人の選手も2年前の来日時、日本人スタッフに侮辱的な言葉を浴びせた動画が問題視され、謝罪しました。ネット上では「本当にそのような意味の発言だったのか?」という論争も起こりましたが、過去の動画が出回ったことで騒動になった点はA氏と同じです。

前薗:新たな炎上のトレンドが生まれると、「他にも同様のネタがないか」と探す動きが活発化します。企業の皆さんには、その情報を発信した当時は大丈夫だったのに、時間の経過と共にそうではなくなったケースがたくさんあることを知っていただきたいですね。

芸能人らの問題発言も即炎上

桑江:芸能人がテレビ番組での発言を批判され、炎上した事例も多数ありました。タレントのB氏は東京五輪開催の賛成派を「やりたいやりたい病」と表現し、「病気扱いはさすがにひどい」などと批判されたところです。
また、元東京都知事のC氏は五輪反対派を「愚か」と評したツイートを投稿して炎上しました。C氏のツイートに対してはもともと、自身が起こした政治スキャンダルを引き合いに「言行不一致」と批判されることが少なくありませんでした。だから今回も、「お前が言うな」と切り捨てる論調が目に付きました。

前薗:そうですね。

桑江:その他、お笑いコンビのD氏は自身が出演するラジオ番組で静岡県熱海市の土石流被害について不適切な発言をし、その日の番組内で謝罪しました。それにも関わらず、彼の発言はYahoo!ニュースのトピックスに掲載されてコメント欄が大荒れになり、SNSなどでも批判が相次いだという形です。
このように、すぐに謝罪しても一定の批判が出てしまうところが、ネガティブな反応が飛び交うSNSの現状を表していると感じます。

前薗:それ以降もD氏がテレビ番組などに出演するたびに、メディア側は「批判が殺到」という声を拾ってきてはコンテンツ化しています。そうした対応も問題があると思いますが、この動きはしばらく続きそうですね。

盲目的で行き過ぎた対応は批判の的に

桑江:さて、続いては外国人の不法就労・不法滞在防止を呼び掛けるポスターのイラストが炎上した事例です。東海地方のある県がホームページに掲載したイラストには作業服や防護服、ドレス姿の男女3人が描かれていましたが、いずれも肌の色は灰色、目は黄色と不気味で、「悪意がある」などと批判されました。県は「(批判は)想定外だった」という理由で削除したということです。

前薗:最近は官公庁などのポスターが炎上しがちですが、そもそもクリエイティブが100%ポジティブに受け止められることはないでしょう。ネガティブな意見がどれだけ集まるかを想定しておかないと、今回のような事案になりやすいと思います。
啓発ポスターの類は前例踏襲型で作られることも多いと思いますが、そのような手法とクリエイティブは相性が悪いですね。

桑江:次は、新型コロナウイルスの感染予防に関して、行き過ぎたマスク信仰が招いた炎上事例です。関東地方にあるE市の小・中学校のプール授業で子どもたちが水泳用マスクを着用している様子が報道され、市教育委員会に多数のクレームが寄せられました。これを受け、水の中に入る際はマスクを外し、タオルで保管する方針に変わったそうです。
マスクの問題はこの1年間、ずっと取り沙汰されてきました。マスク着用を頑なに拒否してトラブルになったケースもありましたし、着用を強制し過ぎたことへの批判も出ています。企業にとって双方のバランスを取るのはかなり難しく、どちらにしても極端な対応に映らないように気を付けなければいけませんね。

前薗:米国疾病予防管理センター(CDC)が「感染拡大地域では、ワクチン接種完了者も屋内でのマスク着用を呼び掛ける」という話も出ていました。こうした行政の指針にうまく沿うような形で対応していただくと、企業のリスクは軽減できるのではないかと思いますね。

社長が社員に「ワクチン禁止令」

桑江:コロナ関連で言えば、大手住宅メーカーF社の社長が社員にワクチン禁止令を出していたと週刊誌で報じられました。
週刊誌が入手した社内資料に書かれていたのは、「ワクチンを接種した場合は無期限の自宅待機とし、その間は欠勤(無給)扱いとする」という通達です。T社は報道内容を否定するリリースを出しましたが、そこでさらなる証拠を突き付けてくるのが週刊誌の定石なので、安易に否定するとより炎上してしまいかねません。
また、F社のリリースは細かい部分に一切言及せず否定だけをしているので、「説明が不十分だ」という反発もくすぶっています。

前薗:無言を貫いた部分は「肯定した」と捉えられてしまうので、「否定した点以外は事実だと認めた」という見方をされてしまうでしょう。コーポレートガバナンスの重要性も叫ばれている中、報道内容が事実だとしたら潔く認めるしかないのかもしれませんね。

桑江:F社に対しては、会社側の都合で社員に自宅待機を命じたにも関わらず無給にした場合、労働基準法に違反するのではないかという指摘も出ています。

前薗:無言を貫いた部分は「肯定した」と捉えられてしまうので、「否定した点以外は事実だと認めた」という見方をされてしまうでしょう。コーポレートガバナンスの重要性も叫ばれている中、報道内容が事実だとしたら潔く認めるしかないのかもしれませんね。

個人のSNS発信で上司が引責 注目すべき前例が出現

桑江:続いて、ホビー誌などを発行するG社が、SNS上で転売・買い占め行為を容認する不適切発言をした編集者を退職処分とし、常務取締役と編集長も監督責任があったとして降格処分を受けました。
ここで考えさせられるのは、この編集者が発言したのは個人のアカウントだったという点です。今の世の中は「個人の発言なので会社は関係ありません」という言い分が通用しにくいのは確かですが、上司の監督責任が問われるとなると個人のSNS発信も会社が責任を持つという話になります。そうした前例が実際に出たということは、覚えておいた方がいいかもしれません。

前薗:従業員が会社に隠れて裏アカウントをつくるきっかけ、要因になる可能性もあるので、個人の発信と法人の関係性には注意が必要でしょうね。

桑江:そして、7月のトピックは鳥取県のH高校の事例です。学校関係者が新型コロナに感染したため、野球部は夏の高校野球県大会への出場を辞退したのですが、一転して出場が認められることになりました。
きっかけとなったのは「何とか出場する道を模索していただけませんか」という主将のツイートで、ネット上で拡散されて「子どもがかわいそう」といった声が多く寄せられました。大阪府知事も自身のTwitterに「これで終わりとはあまりにもひどい」と投稿した結果、世論が動いたという形ですね。

前薗:「東京五輪は開催するのに、甲子園には出場できないのか」といった声が集まったことも後押しになりましたね。大阪府知事らがインフルエンサー的に問題を発信して世論を形成した事案だと思います。

またしても五輪関係者の不祥事 謝罪の「質」に見る明暗

桑江:その東京五輪・パラリンピック開会式の楽曲制作を担当していたミュージシャン、I氏の話題に移りましょう。
I氏は20年以上前に発売された雑誌のインタビュー記事で、障害者へのいじめを自慢していたことを指摘されて謝罪しましたが、炎上が収まることはなく楽曲制作担当を辞任しました。そのインタビュー記事は通常のいじめを逸脱した残酷な内容で、炎上後は多くの海外メディアでも報道されたところです。
しかし、ここで改めて注目すべきなのは、彼のいじめ行為は以前から問題視されていたということでしょう。それが元でファンの交流サイトが閉鎖に追い込まれるなど定期的に炎上していたので、本人も気付かなったわけがありません。
それにも関わらずなぜ、今になってなぜ謝罪したのかということで、行き当たりばったりの対応と捉えられてしまいました。
開会式に起用した人も、いじめ行為を知っていたのではないかという噂があります。また、知っていたけれど「それほど大きな問題にはならないだろう」と高をくくっていた、あるいは本当に下調べをしていなかったのではないかという見方もあります。

前薗:そうですね。

桑江:I氏が参加するバンドのメンバーの1人がTwitter上でI氏を擁護したところ批判が殺到し、ツイートを削除して謝罪しました。I氏のいとこの音楽プロデューサーも、O氏の辞任後に「正義を振りかざす皆さん」と皮肉を込めたツイートを投稿し、大炎上した次第です。
いじめ記事を掲載した雑誌の出版元も謝罪しましたが、ネット上では当時の編集長に対して「過去にこんなことをされた」という告発も相次ぎ、関連するネガティブ情報がどんどん掘り起こされました。

前薗:I氏を少しでも擁護した人は「同罪」とみなされ、批判が殺到したということですね。

桑江:I氏の辞任から3日後には、五輪の開閉会式を統括するディレクターだったJ氏が解任されました。お笑い芸人時代の「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」という不適切な発言が問題視された結果ですが、I氏と比べたK氏の謝罪対応はしっかりしていた印象です。
K氏の場合、問題の発言以降に見せていた自身の言動が、謝罪文の中身と一致していたんですね。つまり、J氏は心から反省して今に至ることが証明されたため、謝罪が好意的に受け止められたと言えます。場当たり的な謝罪に見えてしまったのか、しっかり反省した上での謝罪だと納得してもらえたのかが大きな差を生んだのではないでしょうか。

事前の人物調査は行われたのか?

前薗:違う観点で言えば、「そもそもなぜ、この2人を起用したのか」という議論が出てくるでしょう。東京五輪の開会式をめぐっては、関係者による炎上事案が続きました。
水面下で任命された人物の名前が突然公表された結果、「この人は大丈夫なのか?」という見方で多くのネットユーザーなどが調査したところ、過去の不適切な言動が出てきてしまったという流れがあると思います。
それらの関係者が世の中でどんな批判を受ける可能性があるかというシナリオづくりが不十分だったのか、それとも「これくらい大丈夫だろう」という認識でいたのかどうかは分かりませんが、五輪を運営する側は世論を先取りするためのチェックが必要だったでしょう。
五輪の流れを受け、一部のSNSユーザーは有名人の過去の不適切な言動を探しているでしょうから、企業の皆さんも最近の炎上トレンドに当てはまる自社の発信情報がないかどうか、今一度チェックすべきだと思います。

桑江:開会式で実際に使われた音楽の作曲者も、過去の問題発言を取り上げられて炎上しかけました。五輪反対派を含む人たちは、関係者の言動をかなり掘り起こして「少しでもつつける内容はないか」と探しているのではないかと思いますね。

前薗:そうした中でも、メダルラッシュが続く五輪に関してはネガティブな論調も一気に変わっていくのではないかと感じています。テレビで生中継された開会式の視聴率は関東地方で50%を超えたということですから。

桑江:SNS上の意見を、どこまで真に受けるべきかということも考えるべきでしょうね。SNSの投稿は意思を持った意見の表明ですが、潜在的な世論は検索トレンドもポイントになります。
例えば、「五輪」という言葉と一緒に出てきているワードはSNSだと「反対」かもしれませんが、検索トレンドは「日程」「競技」が多いでしょう。ネット上では見えない意見もしっかり見極めながら考えていくことが必要で、SNSの論調は世論の一部に過ぎないということを我々も肝に銘じなければならないと感じました。

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