ホーム > 声を聞く・話題を読む > デジタル・クライシス白書-2021年6月度-【第54回ウェビナーレポート】

デジタル・クライシス白書-2021年6月度-【第54回ウェビナーレポート】

公開日:2021.06.30 最終更新日:2023.06.20

「この化粧品を使って満足」…レビューした女性は実在しない?

桑江:大手製薬会社の化粧品ブランドを巡って不適切な広告が出稿されていたことが分かり、プロモーションを担当している子会社が謝罪しました。
広告には女性の顔写真とともに、このブランドの化粧品を使用して満足したという体験談が掲載されていたのですが、顔写真は画像売買サイトで販売されていたものでした。つまり、被写体の女性は本当の使用者ではない可能性があるということです。
さらに、商品比較サイトのランキングではこのブランドの化粧品が第1位に選ばれていましたが、調査期間が「2018年7月1日~現在」と曖昧でした。対象者も「シミケア商品利用者」と漠然とした記載で、本当に正しい調査結果なのかが疑われて批判が出ました。
後ほど詳しく紹介しますが、アフェリエイト(成果報酬型広告)サイトの規制を強化する動きがある中で、メーカーも商品の販売・紹介サイトに対する責任が追求される可能性も十分考えられます。広告の表現や使用する素材は、改めて確認しなければならないでしょう。

前薗:2021年は不適切広告を摘発する公的機関の動きが強まるのではないかと言われています。フリー素材の利用はユーザーが目を光らせているポイントなので、特に画像使用に関してはしっかりチェック・管理する体制をつくっておくのが望ましいでしょう。

「赤ちゃんは女の子」で両親が落胆 ジェンダー格差反対を訴えたはずのCMに批判

桑江:米国のスポーツメーカーがジェンダー格差をテーマに制作したCMにも、多くの批判が集まりました。世界で120位という日本のジェンダーギャップランキングのデータを用い、世界で活躍する女性アスリートも出演して「新しい未来を生み出すために頑張りましょう」というメッセージを発信しています。
このメーカーは昨年も、人種差別や在日韓国・朝鮮人問題に触れたCMで話題になりました。今回は女の子が産まれることが分かった両親と親族が残念がる表情を浮かべた演出が、最も批判されたポイントだったと思います。
ジェンダーをテーマとして扱う場合、いかに差別に反対する意図があったとしても逆の意味に捉えられてしまうリスクがかなり高まるのです。実際、女性を応援するためのクリエイティブが炎上した例は枚挙にいとまがありません。
今回のCMについても一定の批判は想定内だったと思いますが、消費者の反応を見るとそれ以上にネガティブ寄りだった印象です。このメーカーは一貫して差別に反対するCMを制作していて、多くの方は「差別をなくしましょう」という意図があることを前提として見ていたかもしれません。それでも、これほどの批判が出たというわけです。
普段からそういったメッセージ、ポリシーを伝えていないブランドなら、より荒れていたのではないかという気がします。

前薗:このメーカーの以前のCMの反応と対比してみると興味深いと思います。今回もある程度は想定した範疇のネガティブ反応だったと思いますが、難しいテーマにあえてトライしたという印象は変わりませんね。

桑江:両親が女の子の赤ちゃんに対してネガティブでなければ、炎上のリスクは軽減できたと思います。もちろん、本当に炎上しなかったかどうかは実際のクリエイティブの映像次第ですが、結果論として両親や家族というCMの主人公側が差別してしまったところからスタートしたので、そのあたりの見え方が炎上に至った要因ではないかという気がします。

前薗:ジェンダーを取り扱う以上、炎上する可能性がゼロにはならなかったと思いますね。

繰り返されるバイトテロ 問題の本質を理解しなければ防げない

桑江:バイトテロもいくつかありました。宅配ピザチェーン大手のアルバイト店員が調理用器具(へら)でシェイクをすくって舐めている不適切動画が拡散し、「不衛生だ」と批判が殺到しました。動画に映った本人は「これ、流出厳禁で」と話しながら食べていて、これが広がったら大変なことになることは意識していたと思われます。
また、ある大手コンビニチェーンでは、店内の防犯カメラが捉えた女性客の胸元をモニターで覗くような店員の様子が映った動画がアップされました。さらに、外食チェーン大手の店でも賄い料理に不衛生な行為がストーリーズにアップされて拡散されました。
本人は「仲間内だけで見るつもりだった」と投稿したのですが、見た人が「けしからん」と憤って、もしくは面白がって拡散したという両方の可能性があると思います。

前薗:そうですね。

桑江:こうした行為が、なぜ繰り返されてしまうのでしょうか。シエンプレのアドバイザーを務めている徳力基彦さんがnoteでまとめています。
それによると、飲食店側はアルバイトに対し、勤務中のSNS投稿を禁止する念書を書かせたり、スマホの持ち込みを禁止したりしていますが、「大勢の人に見られなければいいだろう」という思考回路自体が問題の根深さを表しているということです。
我々も飲食店を中心としたアルバイトへの研修や指導に出向いていますが、「投稿を禁止します」ということに重点を置いて話してしまうと、「こっそり撮影すれば大丈夫だろう」という誤解を残してしまうことになります。
本来すべきことは、投稿は誰もが見られるということと、本人にどれほどのリスクがあるかを明確に伝えることだと思います。ばれたらどうなるのか、そして実際にばれているという事例をしっかり伝えてあげることが必要です。

前薗:もしかしたら新型コロナウイルスの影響で、店側も社員の数を減らしているがゆえに。アルバイトの管理も行き届かなくなっているのではないかと少し気になっています。

勤務先を明かしてSNSアカウントを持つ人が増加 個人の言動で企業にクレームも

桑江:そうですね。コロナ関連で言うと、ワクチンの問題は今、ネット上でかなり荒れています。デマやフェイクニュースも飛び交っていますし、それらを信じた人が正しい情報を発信している人を攻撃する行為が見受けられ、ものすごく危うい状況です。
どこまで世論に迎合するか、正しい論調を把握した上で決めるべきですが、全国では「ワクチンの強制接種に当たる」との批判を受けた小・中学生向けの集団接種を見直す自治体も出ています。

前薗:ワクチンについて意見を述べている方、特に否定的な意見を主張している方の所属企業に対し、「こんなことを言っている社員を許していいのか」という声が寄せられているケースが何件か報告されています。こういったことが意外と会社のリスクに転換する可能性もあることを覚えておいてほしいですね。

桑江:個人のブランディングとして、自身が所属している企業名を明らかにした上でSNSのアカウントを持つ人が増えました。その場合は必ず企業側に申し出て許可を得るようにさせるというルールを徹底することが第一です。
さらに、やってはいけないことをマニュアルや誓約書などでしっかりと提示し、広報などのリスク部門がアカウントの運用を適宜チェックして問題の有無に関するフィードバックをしてあげればいいでしょう。

前薗:一方で、勤務先の企業名を伏せて自社のPRをするとステルスマーケティングになってしまうリスクもあります。企業側としては、従業員が自社に関してつぶやいた内容を把握できる体制を整えるということと、実例も使いながら「こういう投稿はしてはいけない」ということを全員に啓発・啓蒙するのが望ましいと思いますね。

アフェリエイト規制は不可避か ネットの広告手法を見直す動き

桑江:さて、冒頭の事例で触れた通り、消費者庁ではアフェリエイト広告の規制を強化する動きが出ています。討論会が開かれているほか、今夏までに実態調査の結果を公表し、不当表示による消費者被害を未然に防ぐための結論を出そうとしています。
こうした中で考えられるのが、広告主企業やアフェリエイト・サービス・プロバイダ(ASP)のリスクです。健康食品など医薬品医療機器法(薬機法)に絡みがちなカテゴリーの規制が強化された場合、アフェリエイト広告で一定の収益を上げていた企業は従来の手法を使えなくなる可能性も出てくるということは留意しておいた方がいいと思います。

前薗:各種SNS広告も規制が厳しくなってきているので、個人的にはそうした広告手法が見直される1年になるとみています。

最新記事の更新情報や、リスクマネジメントに役立つ
各種情報が定期的にほしい方はこちら

記事一覧へもどる

おすすめの記事