中川淳一郎氏が解説「芸能人の政治的発言からコタツ記事まで。コロナ禍の炎上の推移と傾向」【第48回ウェビナーレポート】
- 公開日:2021.05.19 最終更新日:2023.06.22
コタツ記事を止められないメディアの事情
桑江:まずは「非実在型炎上」とは何かということですが、少数の批判意見をネットメディアが大げさに「炎上した」と報じる現象です。実際には炎上していないにも関わらず、「炎上」「批判が殺到」という過激なタイトルをつけたコタツ記事を量産して読者を煽り、ページビュー(PV)数を稼ぐことで収入を得ようとするわけですね。
中川:スポーツ紙や雑誌などの紙媒体は掲載スペースが限られているので記事を厳選せざるを得ませんが、デジタルの空間は無限です。このため、各メディアはネットやテレビなどで流通している情報だけを集めたコタツ記事を大量に配信しています。
ネットニュースは過当競争の時代なので、まずはタイトルで目を引かなければなりません。そうして読まれさえすれば、記事の質に関係なく稼げるのが事実です。だから、コタツ記事の成功の法則は「著名人の名前を出す」「過激なタイトルをつける」ということになります。
桑江:メディアの理論として、コタツ記事には経済的なインセンティブがあるということですね。アテンション(注目)実現のための手段としてよりバズる、人々の注目を集めるセンセーショナルな内容が求められています。真実かどうかということよりアテンション、つまり経済的なインセンティブに重きを置いているので「非実在型炎上」が作られるということですね。
中川:テレビ番組での発言内容をなぞるだけの記事は、スポーツ各紙が書いています。さらに、取材力のないあらゆるメディアもこうした記事を作っています。これらは本当に、まともなニュースとしてYahoo!ニュースに配信されています。アルバイトに短時間で大量の記事を書かせるだけなので、ものすごくコストパフォーマンスが良いんですね。
テレビを見るのも取材の一環であるという論理は成り立ちますが、そもそもメディアの人間が他のメディアが報じたことをそのまま報じていいのかという問題は置き去りにされたままです。本来、メディアは本人に取材をして発言を取るべきなのですが。
桑江:記事を作るための原価はほとんど発生していないので、PVの収入は丸儲けですよね。
中川:実際、コタツ記事が国内アクセスランキング1位になっている現状を見ていると、丁寧に取材をして記事を作り込むのがばかばかしくなりますよね。
一方、何だかんだ言って、みんな意外とニュースが好きなのかなという希望も抱いています。そう考えると、国内最強のニュースサイトであるYahoo!ニュースが「コタツ記事は一切掲載しない」という思い切った判断を下さない限り、この流れは終わらないと思っています。
問われるべきは報道人としての矜持
桑江:読者の理論としても、コミュニケーションのネタや「自分はこんな話を知っている」という優越感を覚える材料になるので、ついクリックしてしまうということですね。
自分自身、無意識のうちにコタツ記事を読んでしまうことがあります。ある意味、暇つぶしのような感覚なのですが、そうして気軽に飛びついてしまっていることを反省しなければなりませんね。
中川:反省する必要はありませんよ。スポーツ紙は新聞が売れなくなったので、Web担当班を作ってコタツ記事を量産したところ、稼げることが分かったからそうしているだけです。それ自体が悪いこととは言えませんから。
あくまでも、独自情報をきちんと取材して記事にするというメディアの矜持はどこに行ってしまったのかというモラルの話です。
桑江:ちなみにこの1年くらい、政治的な発言をされる芸能人も増えている印象があるのですが、どうお感じになっていますか。
中川:「政治的な発言をするのがセレブの役割」というような意識が生まれたのかなと思います。ハリウッドスターがそういう発言をすると称賛されるので、日本の芸能人も追随したという形ですね。
テレビCMなどのスポンサー企業は政治的な発言をする人物の起用を好まないのですが、そもそも出演する気がなければ自由に発言できますよね。要するに、ネットがあるおかげでテレビに忖度しなくても良くなったということだと思います。
桑江:そうした有名人がTwitterなどで発信した内容も、メディアがこぞって記事にしています。その結果、発信された内容がさらに知れ渡るという流れができていますよね。
中川:みんなが「流行りネタ」にいかに乗るかばかり考えているのですが、多分それは正しいんですよ。ただし、最低限の取材をすればという前提はあります。流行しているものを記事のヒントにするのはいいのですが、やはり報道人がコタツ記事を良しとするのは恥ずかしいことでしょう。
フェイクニュースのファクトチェックは困難!?
桑江:一方で、最近はフェイクニュースも話題になっています。外部から寄稿された記事の信ぴょう性をどう担保するかは、メディア側の方々も頭を悩ませているのかなと思うのですが。
中川:筆者がフェイクニュースを書いた場合は、すぐに契約を切るべきですね。きちんとチェックしなかったのかと怒られれば、編集部員としては「その通りです」と言うしかないのですが、筆者が何を書くかは分からないので、虚偽が発覚した場合は縁を切れば何とかなると思います。もっと言えば、問題が起こったら切るということを前提に掲載すればいいと思いますね。
また、情報がフェイクだった場合は謝罪することも大切です。そうすればメディアとしての信頼性は担保できると思います。筆者に聞き取りをした結果はこうで、後で調べたら事実はこうでしたと検証して謝罪するのがメディアの存続につながるはずです。
桑江:編集とサイト運営のマナーやモラルも絡んでくると思うのですが、ご自身で編集も執筆もされている立場で感じることはありますか。
中川:編集者として、上がってきた原稿のファクトチェックは当然するのですが、漏れてしまうことも結構あります。きちんと編集はすべきですが、それでも見逃した場合は仕方ないんです。書き手も正しいと思って書いたのでしょうから、真偽を本当に見抜けるかどうかは分からないですよね。
健康被害や人命に関わる問題でなければ、謝罪で何とか収めようという考え方でいいと思います。
桑江:メディアとしてしっかりとファクトチェックなどをした上でのことなら仕方がないし、記事が事実でなかった場合はきちんと謝ればいいということですね。
中川:本当はWebメディアが儲かって校閲がきちんと入るようにした方がいいのですが、現実的ではありません。Webメディアは人員が足りないんですよね。
桑江:Yahoo!ニュースに掲載された記事のマネタイズ手法はPVと広告の両方があると思いますが、具体なシステムを教えてください。
中川:Yahoo!ニュースは各ニュースサイトと配信契約を結んでいます。我々の場合、1回読まれると0.025円が課金される契約なので、Yahoo!ニュース内で400回読まれると1円になるわけですね。
それプラス、関連リンクの記事がクリックされ、各ニュースサイトで記事が1PVを獲得すると1円か2円くらい儲かります。つまり、自社サイトで記事を100万回読まれれば数百万円儲かるという仕組みです。
レコメンドエンジンに依頼すれば、ネット上の広告代理店が閲覧者に合わせた広告をサイトに張ってくれます。これがクリックされれば1発で100円とか1,000円をもらえるので、いかに優秀なレコメンドエンジンの会社と契約するかが重要になってきます。
Yahoo!ニュースはあくまでも入り口です。そこから自分たちのサイトをクリックしてもらうと、ガンガン儲かるというシステムですね。
「非実在型炎上」被害には毅然と対応を
桑江:「デジタル・クライシス白書2021」によると、炎上事案の48.0%は24時間以内に放送・記事化されています。コタツ記事のように拙速に量産されるコンテンツが氾濫する状況下では、企業の発信の一部だけが切り取られるなどして誤解されてしまうこともあると思います。こうした場合、どう対応するのが良いのでしょうか。
中川:毅然とした対応で、理詰めで反論するのが一番効くと思います。私の一番好きな事例ですが、あるスーパーに寄せられたお客様の声の中に「ゲイの男性2人が手をつないで入店した。すぐに止めさせてほしい」という投書がありました。これに対し、店側は「その方々は大切なお客様です。でも、あなたは大切なお客様ではないので、もう来ないでください」と突っぱねたというのです。
これがTwitterに投稿され、「このスーパーは素晴らしい」ということになりました。要するに、社会通念に合うことを強気の姿勢で言い切れば称賛されるのがネットだと思います。
桑江:逆に、企業側に非があった場合はどうすべきでしょうか。
中川:そのときは素直に間違いを認め、嘘をつかないことが大切ですね。正直に全部言えば、何とか許してもらえると思います。
桑江:隠蔽しようとしているように見えてしまってはいけないということですね。
※この記事はセミナー開催日時点での情報を元に作成しています。