その炎上は本物?「非実在型炎上」の現状とその影響【第47回ウェビナーレポート】
- 公開日:2021.05.05 最終更新日:2023.06.22
情報の氾濫がもたらすインフォデミック
桑江:まずは炎上件数の月別推移ですが、2021年に入って増加に転じています。3月は224件で、過去最多だった昨年4月(246件)と同水準に達しました。
ただ、新型コロナウイルス関連の炎上割合が減ったのが特徴です。3月は9件のみで、それ以外は個人の話題やメディアなどの記事を基にした案件、東京五輪や女性蔑視関係の炎上が目立ちました。
一方、ネットメディアが煽る炎上記事の中には、根拠のない嘘による「非実在型炎上」が含まれることも理解しておかなければなりません。
鳥海:2020年頃から、インフォデミックという現象が話題になっています。大量の情報が疫病のように伝染していく様子を表していて、多過ぎる情報が現代社会に大きな混乱を与えているということです。
情報はもともと、なかなか手に入りにくいものでした。20世紀まではどうしたら必要な情報を得られるかということに終始していましたが、21世紀に入ると一気に様変わりし、本当に必要な情報をどう取捨選択すべきかに悩む時代になりました。そうした状況を突いているものの1つが「非実在型炎上」かと思います。
桑江:フェイクニュースも一緒ですが、確証のない情報をむやみに共有・拡散しないようにしなければなりませんね。メディア側が「炎上」とタイトルを付けた記事を報じても、ページビュー(PV)数さえ増えなければ徒労に終わるので、ネガティブなサイクルを止める手段の1つになりますから。
鳥海:ネット社会の考え方にあるのは「注意(アテンション)を引くことこそに価値がある」というアテンションエコノミーです。メディアの大きな収入源は基本的に広告で、閲覧数の多寡に応じて広告収入が決まります。
経営的には閲覧数が多いほど良い記事だと判断されるため、そのための工夫をする。これがまさに「非実在型炎上」が作り出される原因です。
デマを拡散しているのは誰?
桑江:できるだけ多くの人の興味を引く記事を書くことを重視するあまり、真実性が置いてきぼりになってしまうことに関しては、メディアの責任を問う声もあります。
鳥海:「非実在型炎上」が誰にも知られずひっそりと存在する分には多分、問題がないんですよ。それが大きく拡散して本当に炎上してしまうことに問題があるのですが、拡散自体は誰のせいなんだということを考えてみましょう。
もちろん、記事を書いたメディアのせいでもありますが、ここで成り立つのが「ソーシャルポルノ仮説」です。炎上分析における客観的な知見として、特定のトピックにおいては一部のコミュニティのみに拡散する、一部の人だけに受けが良い炎上が存在することが分かっています。
桑江:なるほど。
鳥海:例えば、東京五輪エンブレムの盗作問題は、いわゆる「ネトウヨ」と呼ばれる保守系の人たちが炎上させていました。当初決まったエンブレムが撤回された要因はネトウヨの活躍によるものだったことが分かっていて、偏った考えの人たちが炎上させたことで政策の1つが決定されてしまったことの是非は議論の余地があると思います。
桑江:我々が情報に接するときも、それが偏った見方ではないかと常に気を付けることが大切ですね。
鳥海:炎上させようとする人たちは社会を何とかしたいというわけではなく、どちらかと言うと楽しんでいるのではないかということが見えてきます。
コンテンツを消費するのは快感を得るのが目的で、知識を得たり情報を広めたりするためではないというわけです。これが「非実在型炎上」に大きな影響を与えているのではないでしょうか。
消費財としての情報は、興味を引く話題として拡散されるケースがあります。「自分はこんな話を知っている」という優越感、あるいは嫌いな有名人などが悪いことをしているらしいと聞いて「バッシングされればうれしい」という快感を得るために使われる場合も同様です。
桑江:エコーチェンバー現象のようなものでしょうか。
鳥海:人は似たような情報を好む者同士でクラスターを形成すると言われます。同じような価値観を持つ人たちの中では願望も共有できるのです。
こうしたことがエコーチェンバー現象と結び付くことで「非実在型炎上」が拡散します。これにより、アテンションエコノミーの考え方に基づくメディア側も存在しない炎上を報じる記事を作るインセンティブが生まれてくるというわけです。
桑江:そうしたネガティブなサイクルが平常化してしまっているところがありますね。
個人の努力で防ぐのは困難な「非実在型炎上」
鳥海:もう1つ、拡散の要因として考えられるのがスラックティビズムです。手軽な手段で社会的に貢献した気分になることですが、Twitterで言えば「重要そうだ」と思った情報をリツイートしただけで「良い情報を広めた」という満足感に浸ることです。
情報の正しさを確認する労力は使わないため、災害時のデマの流布などの要因にもなり得ますが、自分は正義の味方であるという虚栄心を満たす道具として使われている可能性があります。
桑江:「ネット警察」や「自警団」と言われることもありますが、悪気があってやる人もいれば、義憤に駆られて犯人探しに動いてしまう人も実際にいるのかなと思います。個人だと自己顕示欲がモチベーションになるのではないかというところですね。
鳥海:人間には公正世界仮説、つまり「人間の行いには公正な結果が返ってくる」と考える認知バイアスがあります。誰かが炎上していると聞くと「その人は悪いことをしたから罰が当たった」と解釈して情報を広めがちです。
行動経済学には反射的に働く「システム1」と、人間的で理性的な活動の「システム2」という考え方があります。人間はシステム1が最初に動くので、情報を見たときに「これは面白い」「快感だ」と思うと、それに従って行動してしまいます。じっくり考えて本当かどうか調べようという行動は、根本的に難しいんですよね。
桑江:最初に与えられた情報を信じてしまいやすいと。
鳥海:結局、すべての情報を適切に処理することは不可能です。だまされて乗っかってしまいやすいというのは「非実在型炎上」もフェイクニュースも同じですが、そもそも「システム1」で動く人間に「システム2」を期待するのは無理があるでしょう。
もちろん「気を付けましょう」という話はします。ただ、個人の努力に頼るのは限界があり、人間がシステム1に影響されることを前提とした社会システムを構築していかなければなりません。
つまり、「非実在型炎上」を生み出すメカニズムの半分は我々が担っているということを自覚しながら対処する必要があるのです。
「本当に炎上しているのか?」と疑うことが大切
桑江:フェイクニュースに対しては、ファクトチェックという抑制方法が出てきました。「非実在型炎上」を作り出すことが多いコタツ記事も「個人や小さいメディアでも記事を出せる」という自由を確保しながら減らせる方法はあるのでしょうか。
鳥海:コタツ記事が良いか悪いかという論議がありますが、確実に世の中の役には立っているんですよ。そのような記事を読んで楽しむ人たちはたくさんいるので。事実ではないから悪いことだと一刀両断すべきなのか、あるいは人を楽しませているから良いと判断すべきかということです。仮に抑制するにしても、どこまでそうしたらいいのかを決めるのは難しいですよね。
もっと言えば、フェイクニュースに対するファクトチェックもどこまで役に立っているのかということです。ファクトチェックは万能ではないんですよね。
基本的には、我々が読む記事にはコタツ記事もフェイクニュースも混ざっているという認識を持つことが必要で、みんながそう思っていればマシだと思います。
桑江:我々も「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)という団体に参加させていただいていますが、基本的にネット上の情報なら事実関係や出所は追えると思います。
元となる情報自体がディープフェイクのように作られたものかどうかを技術的にどう調べるかは難しい面もありますが、いろいろな方が発信している情報を探していけば何とかなるのではという気がします。
鳥海:ひと口にファクトチェックと言っても、怪しいファクトチェックをするところもあります。また、ファクトチェックの結果を真実と思うかは人によって異なってくるでしょう。
例えば、40件のネガティブな書き込みを見て「炎上した」と感じる人がいる一方、「たったそれだけ」と意に介さない人もいます。ファクトチェックの信頼性だけでなく、真実性をどう考えるべきかというのも難しいところです。
桑江:フェイクニュースの言説の中で「事実と真実は異なる」という考え方を土台にして解説される方も増えてきました。そのあたりをしっかりと別で考えていくことが重要ですね。「非実在型炎上」に企業が巻き込まれた場合、どう対処すれば良いでしょうか。
鳥海:すぐに「炎上などしていない」と主張したくなるかもしれませんが、まずは3日間寝かせるのが正解だと思います。「非実在型炎上」が報じられてから1カ月後くらいに、データと共に反論するのが1つの方法です。
本当に炎上していない場合は、ネット上の2次反応が自社に対して否定的なのか肯定的なのかを見極めましょう。「炎上していない」という意見が優勢なら味方が多いという意味なので、それこそ放置が必要ですね。
「炎上しています」という記事が出たら、まずは本当に炎上しているのかを調べるのが大事になってきたということではないでしょうか。
桑江:実態をしっかり把握しなければならないということですね。
鳥海:はい。そのような場合は、デジタル・クライシス総合研究所に相談するのが一番良いと思います。