コタツ記事量産メディアに注意!ヨッピーが教える付き合うメディアの選び方【第44回ウェビナーレポート】
- 公開日:2021.04.14 最終更新日:2023.06.20
安易な「コタツ記事」が生み出す「非実在型炎上」
桑江:「コタツ記事」とは、文字通り「コタツに入っていても書ける記事」のことです。取材や下調べをせずにテレビの情報などで書かれたネット記事で、事実に反する内容も少なくありません。
そのようなコタツ記事が生み出す「非実在型炎上」は、少数の批判意見をネットメディアが大げさに「炎上した」と報じることです。
実際は炎上していないにも関わらず、あたかも炎上しているかのようなタイトルの記事を配信して読者を煽り、ページビュー(PV)数を稼いで収入を得ようとしていると言われています。
テレビなどで芸能人やスポーツ選手の発言が切り取られ、「炎上した」と報道されるケースが増えていますが、このネガティブサイクルが平常化すると、大して騒がれてもいないのに「炎上した」というレッテルを貼られた個人に誹謗中傷などの攻撃が集中し、当人が追い込まれるという問題が再発してしまいます。
ヨッピー:ネットメディアは、言いがかりをつけるポイントをずっと探しています。テレビでワイドショーなどが放送されている間は各コタツ記事メディアのライターさんが手ぐすねを引いていて、少しでも何かあるとすぐに書き立てるパターンが常態化しているのです。難癖をつけようと思えばいくらでもつけられるので、番組の作り手側の配慮でどうにかなる状況ではないと思っています。
桑江:「言った者勝ち」ではありませんが、そういうタイトルを付けながら騒ぎを大きくしていく手法が問題になっていると思います。メディアに取り上げられるとSNSなどの反応が一気に跳ね上がるというのは、それだけ記事が注目されるということの表れでしょう。
「炎上」はホットなワードですので皆さんも見てしまい、良くも悪くも物を言いたくなるのかなと思います。
ヨッピー:「炎上した」という記事が出たとき、別のメディアが「それは違うのではないか」と打ち消すことがありますが、そうしたメディアも結局は風見鶏に過ぎません。
2020年2月に人気アニメの炎上騒ぎが報じられた際は、ファンの人たちが「炎上などしていない」と怒り出しました。そのタイミングで炎上を否定する記事が出たのですが、それは「ファンが喜んで拡散してくれるだろう」という目論見があったからでしょう。どうしたら読まれるかを考えただけのことで、正義感など全くなかったと思います。
桑江:風見鶏的、正義感からではないという背景は確かにあるでしょう。炎上を否定すること自体、PV数稼ぎではないかということですね。
ヨッピー:注目されている、知っている人が多いコンテンツで非実在型炎上が起こった場合は反論が出るケースがあるかもしれません。しかし、バックグラウンドのない一般の人や企業が燃えてしまった場合は誰も追ってくれないと思います。
桑江:企業の皆さんは、どう対処すべきでしょうか。
ヨッピー:TwitterなどのSNSやオウンドメディアでマーケティングをする場合、上層部にあらかじめ「こういうバックグラウンドがある」と説明し、理解を得ておくべきです。
膨大な数のネットユーザーを1人も怒らせないというのは不可能な上、炎上していないのに大きく騒ぎ立てるメディアもいます。このような状況で炎上の可能性をゼロにするというのは、まず無理でしょう。
桑江:企業にとって、想定内の批判は炎上ではありませんからね。その範囲を組織で把握しておくことが重要です。
ヨッピー:2、3年くらい前まで、炎上は避けようと思えば避けられると思っていました。ただ、こうなってくると完璧に避け切るのは絶対に無理ですね。
PV数至上主義が招いた現象
桑江:非実在型炎上が生じる要因は、多くのメディアが広告収入ありきの経営をしていることです。「読みたい」とクリックされる率が高いほど収入が増えるため、できるだけ多くの人の興味を引く記事を書くことが至上命題とされ、事実かどうかは置き去りにされてしまうことがあります。
「注意(アテンション)を引くことこそに価値がある」という考え方はアテンションエコノミーと呼ばれ、ネット社会における基本経済原理の1つになっています。
ヨッピー:ニュースサイトで取り上げられた記事に「炎上」のタイトルが入っていると、気になってクリックしてしまう。そういう人が多いほど、たくさんのPVが返ってきてお金が儲かるという構図ですね。
サイト側が非実在型炎上の記事を精査できればいいのでしょうが、どうにかして審査を厳しくできないものかと感じます。そうした記事を出すメディアは限られているので、もう少し締め付けを厳しくしてもいいと思いますね。
桑江:お出かけメディア「SPOT」の編集長を務められている立場として、PV数の捉え方について思うところはありますか。
ヨッピー:正直、PV争いはあまり重視していません。ただ、お出かけメディアはPV争いが激しく、雑な記事が氾濫しています。リテラシーがある人が見れば「こんなメディアに仕事は頼まないだろう」「取り上げられてもうれしくないだろう」と思うはずです。
僕らは「分かる人に分かってもらえばいい」という考え方でクオリティを大事にしていて、PV争いから一歩距離を置くことが自分たちのブランドになると考えています。
桑江:きちんと取材をして真摯に記事を書けば、それなりに時間とコストがかかるのは当然です。しかし、コピペなどで作るようなコタツ記事はものの数分で完成し、実費もほぼかかりませんね。
ヨッピー:「SPOT」の記事にかかる経費を平均すると、1本当たり3万円から30万円くらい。これに対し、コタツ記事は5000円以下で作れてしまいます。“効率的”なコタツ記事とまともに戦っても当然負けるので、それらと争うのは止めようと思っただけです。
桑江:なるほど。それほど効率が違えば、コピペが横行しますよね。
「本当に読まれているか?」はUU数と流入元、滞在時間で分かる
ヨッピー:非実在型炎上のような記事を仕掛けるメディアは、モラルより金儲けを優先しています。普通の志を持って媒体運営やライターの仕事をしていたら、そもそも存在しない炎上を仕立て上げてPV数を稼ごうという発想にたどり着かないでしょう。
非実在型炎上に加担しているメディアは、まともな取材などしているわけがなく、クライアントに対しても誠実な仕事をするはずがありません。
PV数を水増しして報告しているケースも相当あると思います。過剰なページ分割や「アルバム」の写真を並べる手法を取れば、PV数の桁は簡単に増やせるのです。それに騙されている人たちもいるので、しっかり見極めてほしいですね。
桑江:PV数の報告に騙されないためには、UU(ユニークユーザー)数と流入元、滞在時間を必ず確認すべきでしょう。
ヨッピー:Googleアナリティクスの数字を改ざんしていない限り、UU数と流入元、滞在時間を確かめれば本当に記事が読まれているかどうかが分かります。
記事に対するSNSの反応がどれくらいあるかも必ず見てほしいですね。本当に何十万PVもあるなら、SNSで言及する人がわずかしかいないはずがないので。
桑江:「過去にこういうクライアントの広告記事が載りました」ということを強調するメディアも見受けられます。
ヨッピー:「大手企業が出稿してくれた」と強調するメディアもありますが、よく見極めた方がいいですね。単発で終わっているなら期待通りの数字を取れていない可能性が高いので。
桑江:そうしたことが、なぜまかり通るのでしょうか。
ヨッピー:代理店としては、コタツ記事を出すようなメディアに適当に仕事を流しておけば一瞬で広告記事を作ってもらえますし、言うことも全部聞いてくれる。つまり、非常に楽なのです。損をするのはクライアント企業ですが、その担当者も面倒なやり取りを避けられます。でも、このようなループは断ち切らないと。そんなところにお金を使っても、全く意味がないですから。
桑江:結果的に「ネットの広告はだめだ」と言われてしまいかねませんよね。非実在型炎上を鵜呑みにしないためには炎上の実態を知り、引いて見ることが必要。炎上記事には根拠のない嘘(非実在型炎上)も含まれることを理解しておかなければなりません。
私たちが情報に接するときも、それが偏った見方ではないか常に注意し、確証のない情報をむやみに共有・拡散しないようにすることが大切です。
情報が錯綜するコロナワクチン、企業の発信はリスク
桑江:新型コロナのワクチン関連の炎上事例も後を絶ちません。「接種時に副反応がなかった人ほど、感染しやすくなるようです」というブログを書いた教育評論家に対し、「事実ではない」という指摘が相次ぎました。
新型コロナやワクチンに関していろいろな情報が入り乱れている中で、誤った情報を記載してしまうとこうした指摘が出てしまいますね。
ヨッピー:非実在型炎上を止めるために対策を講じる緊急性が高いのはスポーツ紙もネットのプラットフォームも同じですが、スポーツ紙には今のところ対策にお金をかけるメリットがありません。実際に対策を取れるのはプラットフォームしかないと思います。
また、取材もしていない記事を作るのは良くないので、取材経費を出せない企業はそもそも広告記事を書いてもらおうとしない方がいい。他のことにお金を回す方がいいと思います。
桑江:本日のテーマを踏まえ、これからのメディアに期待したいことはありますか。
ヨッピー:儲かるメディアが出てきてほしいですね。お金がないと、どうしても雑な仕事で稼ごうとしますから。クオリティや信頼性を保とうとするとお金が必要ということもひしひしと感じているので、メディアにうまくお金が回るようなシステムを構築できる社会になってほしいと思います。