デジタル・クライシス白書-2021年3月度-【第42回ウェビナーレポート】
- 公開日:2021.03.24 最終更新日:2023.06.21
怒りや不満が拡散 「ネット世論」に要注意
まずは、東京都内の美容室に勤める美容師が女性客に対して「顔のランク」によって施術の内容が変わるというシステムを公表し、「失礼過ぎる」と炎上に至った事例です。
これに対し、美容室を運営する会社側の代表者3人がTwitterで個別に謝罪したのですが、3人ともほぼ同じ文面だったため、コピペだと思われてしまい炎上が拡大しました。
こうした批判に企業が個別で対応する場合は、文面を変えるなどの工夫をしなければ逆効果になり得ます。
SNSの公式アカウントで謝罪文を投稿する、ないしはリリースを出したホームページを公式アカウントにリンクするなど、いくつかの方法があったでしょう。個別に返信しようと判断したこと自体は良いと思いますが、やり方を誤ったということです。
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人気アニメとの連携、コラボでの炎上事例もありました。損保会社がアニメとタイアップをしてCMを作ろうと、Twitterでファンアートを公募した件です。
ただし、応募規約をよく見ると、応募作品の著作権はすべて損保会社に譲渡するものとしつつ、投稿素材に権利侵害があった場合は一切責任を負わないと明示されていました。
恐らく過去の類似したキャンペーンの騒動を受け、法的な見解も踏まえて整えた規約だと思いますが、ネット上では「応募者にメリットがなく、デメリットだけはしっかりある」「ただ乗り企画のくせに、かなり図々しい」といった声も寄せられました。
ネット上でキャンペーンを行う場合、応募規約を使い回すケースもあると思います。ただ、世論が移り変わる中で、規約は適宜見直さなければ今回のようなことが起こり得るでしょう。
顧問弁護士に規約をチェックしていただくことも多いかと思いますが、法的な見解とネット世論は相反する場合があるということをしっかり見極めなければ危険と言えます。
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3月に放送されたテレビのバラエティ番組では、体重30キロ台の女優にダイエットさせる企画が「危険だ」と批判されました。
ここ1、2年、これまでならスルーされていたようなメディアの企画、クリエイティブへの批判が相次いでいます。
2019年には浴衣姿の男性たちが磯釣りをする大手スーパーのCM動画が「ライフジャケットも着用せずに危ない」と批判されました。そうしたことを認識した上で、企画などを立てなければいけないということかと思います。
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さらに、鉄道会社が当事者になった事例もありました。マナーの悪い一部の「撮り鉄」に対して平仮名で注意を書いた紙を踏切に掲示したところ、「バカにしているのではないか」と疑問視する声が聞かれたということです。
鉄道会社は「子どもも読めるようにした」と弁明しましたが、こうした掲示物もネット上で拡散されるリスクがあることをしっかり考えておかなければならないということです。
「いじめ」に「差別」…海外でも炎上事例が続発!
ここからは、海外の事例です。韓国では有名人から受けた過去のいじめ被害の告発が相次ぎ、本人が謹慎に追い込まれる事象が起きています。
発端となったのは、双子姉妹のバレーボール選手です。2月10日には所属チームが正式に謝罪し、姉妹も事実を認めて直筆の謝罪メッセージを公開しましたが、世論の怒りは収まりませんでした。
結局、所属チームが無期限の出場停止処分を下し、大韓バレーボール協会も同じく無期限で代表資格の剥奪に踏み切る事態となりました。
ものすごく人気がある有名人が裏でこうしたことをすると、「裏切られた」というファンの気持ちは憎悪に変わり、インターネット上での執拗な誹謗中傷につながることがあります。
韓国では芸能人へのネットリンチ騒動が大きな社会問題となり、ネットが実名制となりましたが、誹謗中傷の減少幅は1%もなかったことが分かり撤回されました。
日本でも2020年に実名制の議論があった際、韓国の事例を基に効果が疑問視されたところです。
なぜ、効果がないのでしょうか。ネット上での加害者は「自分は悪くない」と正義を振りかざす心理に陥りがちだからです。例えば、企業が不正をしたとなると、「不正をしたのが悪い」という論理で辛辣な意見が出てきてしまうことになります。
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アメリカでは、ゴールデングローブ賞の母体であるハリウッド外国人記者協会に黒人が1人もいないということが大問題となりました。
もちろん、そうした意図があったかどうかは分かりませんが、日本においてはこうした審査員の中に女性が入っているかいないかも注目されています。
本来は男女に関係なく適任者を選ぶのが前提ですが、その結果がたまたま男性だけだったとしても、世間的には「女性はなぜ選ばれていないのか」「不公平ではないか」「差別だ」といった声が上がる可能性があります。
企業などでも委員会など何らかの組織をつくる場合は、そうした声をしっかりと認識しなければならないというところです。
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ドイツでは、サッカー解説者がテレビ番組で日本を「寿司の国」と呼び、SNSで「人種差別だ」と批判されて降板しました。
日本を「寿司の国」と表現したのが本当に差別に当たるのかという議論も出ましたが、最近の人種差別に対しての厳しさは海外でもかなり強いものがあります。特に、グローバルで展開している企業は認識しなければいけないでしょう。
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一方、スペインでは国王の姉2人が、前国王の父が長期滞在するアブダビ首長国を訪ねた際に新型コロナウイルスのワクチンを接種したことが分かり、「王女という特権を利用した」と大々的なスキャンダルに発展しています。
日本でもワクチン接種が始まりましたが、PCR検査を速やかに受けた国会議員らが「上級国民」などと批判されたことがありました。
実際はきちんとしたルートを経由すれば誰でも検査を受けられたのですが、「差別だ」という批判が相次いだのです。これもコロナ禍の分断の1つの事象だと思いますが、日本のワクチン接種でも何らかの問題が出る可能性がある気がします。
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そして、イギリスの事例です。ハンバーガーチェーンの運営会社が「女は厨房にいるべきだ」というツイートをして謝罪をしました。
会社側は「業界の女性シェフの割合は20%だけで、それを変えるべく取り組んでいる」「女性従業員が夢を追いかけられるように奨学金制度を導入する」といったツイートを補足したのですが、最初の投稿だけが一人歩きして「性差別で注目を集めようとするのは最低だ」といった批判が殺到したため、謝罪をしてツイートを削除したところです。
クリエイティブが本来の意図と違って捉えられてしまうことはよくある話で、注目を集めるための仕掛けには十分注意しなければいけません。
ちなみに、この事例は日本ではほとんど知られていないと思います。
シエンプレのデジタル・クライシス総合研究所で、このハンバーガーチェーンに対する論調を分析したところ、日本では「大好き」「うまい」などポジティブな印象がほぼ100%でしたが、英語圏ではネガティブな反応が半分以上を占めました。
つまり、海外と日本では扱われる事象が異なってきているので、国内向け、海外向けのコミュニケーションはしっかり分けて実施する必要があるということです。
今回のように日本に全く届いていない炎上事例もあるため、こちらもグローバル展開をする上では気をつけなければいけません。
「炎上」「延焼」対策に不可欠 広告出稿のコントロール
中国で大人気だった日本アニメでも問題が起きています。中国の視聴者が劇中の描写について「女性蔑視だ」猛批判したことで世論が炎上してしまい、アニメの配信サイトにも抗議が殺到して配信停止になりました。
さらに、スポンサーも広告出稿を取りやめる事態に発展したということです。
日本では全く問題視されていなかったのですが、表現への批判が出てスポンサー企業が対応しなければいけなくなることはどこでも起こり得ます。
そうなった場合は、状況を把握した上で広告を引き揚げるといった措置を取り、自社への「延焼」を防ぐ手も考えなければいけないでしょう。
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さて、今月のトピック・注目記事です。米大統領選のデマ発信源となった日本のサイトに大手企業の広告が表示されて問題になりました。
デジタル広告を配信するアドネットワークをしっかりとコントロールし、不適切サイトに表示されないようにすることがリスク対策として重要性を増しています。
閲覧数が伸びるほどサイト側の広告収入が増える仕組みの中では、多くのメディアが炎上事例を取り上げて読者の目を引いているところです。
非実在型炎上、つまり一部でしか批判されていないものを「炎上した」と騒ぎ立てることも閲覧数稼ぎの一端だと思います。
フェイクニュースとも言える非実在型炎上に自社が巻き込まれないようしっかりウォッチしなければいけませんし、巻き込まれてしまった場合は「本当に炎上しているのか」という世論を把握しなければなりません。
逆に言えば、世論は「完全にアウト」と判断しているのに謝らないという選択をすると、さらに炎上してしまうことにもなりかねません。「その見極めをしっかりしましょう」というのが、この1年のトレンドかなという気がします。
10年経っても消えない!? 炎上トラブルは蒸し返される
最後は、東日本大震災から10年に関してです。1つ取り上げたいのは2011年3月に発生した、大手文房具メーカーの炎上事例です。
未曽有の震災からわずか2日後の3月13日。この会社の人事担当者が、生活基盤を失った被災地の就活生への配慮に欠けた高圧的なメールを送付して大炎上しました。
翌日、会社側が公表した謝罪文はネットでも絶賛されたほど潔い内容でしたが、結果的には10年経った今でも当時の人事担当者のメールに対する恨み、怒りが蒸し返され、炎上した事実が思い出されてしまっています。
例え事後対応が見事だと評価されたとしても、トラブルになった事象はこのように掘り起こされてしまう可能性があるということです。