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津田大介が語る、ネット炎上と危機管理PR【第36回ウェビナーレポート】

公開日:2021.02.10 最終更新日:2023.06.20

「表現の不自由展」が騒動に

桑江:本日はジャーナリスト、メディア・アクティビストで、政治メディア「ポリタス」編集長も務めている津田大介さんをゲストにお迎えしています。それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

津田:2019年に僕が芸術監督を務めた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」は、連日いろいろな形で炎上し、報道もされました。それが「表現の不自由展・その後」という企画。公立美術館で撤去された、あるいは展示が認められなかった作品を、その経緯と共に展示しましたが、慰安婦を表現した「平和の少女像」などが大きな騒ぎになったということがあります。
そもそも、制作の背景や文脈を知らなければ作品全体を理解できない現代美術と、表面的な情報の一部だけを切り取って伝えることができるSNSの相性は非常に悪い。情報はどこに注目するかで全く違う印象になってしまいますから。

桑江:なるほど。

津田:スマートフォンの中で切り取った情報について発言し、拡散・炎上させられるようになったことで、個人がテレビなど既存メディア並みの影響力を持てる時代になりました。さらに、それらの影響力すらも超えたことが証明されたのが2021年1月6日、アメリカの国会議事堂襲撃事件だったと位置付けています。

桑江:実際、私が見る限り、津田さんのSNSアカウントに対しても、日頃からさまざまな発言が寄せられているのかなと思います。

拡散、炎上が集客につながる側面も

津田:情報の一部だけを切り取れる状態のまま閲覧する側の拡散を可能にすると、文脈の齟齬が起きてしまいます。議論を呼ぶような展示やイベントを催す際は写真撮影を禁止するなどの危機管理が何よりも重要です。
ただ、炎上と危機管理とPRはすべて裏腹で、混じってしまっている。むしろ拡散、炎上する特徴が人を呼び込むわけです。ここ数年、SNSをうまく使ってマーケティングすると集客につながるということが現実的に見えてきました。その負の側面として「あいちトリエンナーレ」は炎上が起きましたが、もちろん集客につながるという正の側面もありました。これはセットで考えないと理解できない話なのではないかと思います。

桑江:こうしたことを踏まえ、どう対処すればいいのでしょうか。

津田:報道に対して社会的な信頼が落ちていることがフェイクニュースにつけ入る隙を与えている中、結局は個人が自分の頭で考える能力を磨くしかありません。バランスは人それぞれでいいと思いますが、「ネット(スマホ)」「紙(書籍・新聞)」「人・体験」の3つの情報源を常に意識しておくことが非常に大事です。

桑江:「表現の自由」「批判の自由」を盾に、過剰な批判や誹謗中傷を正当化してしまうSNSユーザーは多いと思います。そうしたユーザーに攻撃された際に意識、注意していることはありますか。

津田:日本は同調圧力が強いので、その中で空気を読まずに生きるのは、そもそも難しいと思うんですよね。論争的なテーマに対してはっきりとした意見を言えば、Twitterなどは炎上してしまうと。炎上すると精神が削られるのは確かで、なかなか難しいとは思いますね。
単なる嫌がらせや暴言、誹謗中傷と感じるもの対しては真正面から応えなくていいと思います。
ただ、事実と違うこと、デマのようなものを流された場合、事実を基に丁寧に否定することは、レピュテーション(評判)を守るという意味でも大事です。また、批判的だけれども悪意はあまりない、もっともだという批判に対しては、丁寧に説明して誤解を解くべきだと思いますね。炎上したときは批判の数が多いと精神的に追い込まれることがあるので、全部を相手にしないのも大事。炎上時こそ、自分の理解者とちゃんとつながっておくということですね。

桑江:炎上を防ぐための方法としては個人のモラル向上も問われると思いますが、教育などの他にどんなアプローチが必要だと思いますか。

津田:情報リテラシーの向上は、もちろん大事だと思います。他方、SNSなどでは匿名でやりたい放題にできてしまうという状況があり、総務省で発信者情報開示の簡素化という議論をしています。あまりにも悪質な場合は法的措置のハードルを低くしようという議論もあるので、こうした動きも影響してくるのかなと思います。

桑江:それによって、状況を変えていきたいという感じですかね。

津田:日々巧妙化し、政治的、商業的な目的で量産されているフェイクニュースなどと同じで、これをやれば劇的に変わるということはないと思うんですよね。マスコミも教育も、TwitterやFacebookのようなIT事業者も、ネット広告を出している広告業者も変わらなければなりません。それぞれが問題意識を持ち、対症療法を重ねていけば、多少は改善する形になると思いますね。

桑江:紙の情報も、信頼性の度合いはさまざまだと思います。紙の情報の選択に当たって、何か注意されていることはありますか。

津田:お薦めしているのは新書です。何かを調べるときは書店に行き、調べたいことに関係する新書を買ってくる。さらに詳しいことを調べたいと思えば、新書の中で参考文献に挙げられているもので、もっと専門的な書物を購入する。新聞は複数紙を読んで比較することで見えてくることがあるのですが、そうするとコストが高くなるんですよね。だから、新聞1紙と新書を読むのがいいんじゃないかと思いますね。

桑江:SNSで自分が見たい情報を上位に表示していることが、同じような思考を持つ人が一気に増えてしまうことにつながると思うのですが、いかがでしょうか。

津田:「ネット(スマホ)」「紙(書籍・新聞)」「人・体験」の3つの情報源を常に意識しておこうと言ったのは、フィルターバブルを乗り越えるための手段でもあるからなんですよね。つまり、定期的に居心地の悪い情報とも接する機会を意識してつくるということ。それはネットの事業者に期待しても無理でしょうが、自分で主体的に変えることができるので、それを意識しておくことが大事だと思います。

炎上しやすいのは「マイノリティの違和感」

桑江:炎上が起こった際、どちらが正しいかというジャッジは誰に、どのような形で行われると思いますか。

津田:危機管理という点で言うと、「あいちトリエンナーレ」で炎上したときにメディアでずっと仕事をしていた僕が芸術監督だったのは良かった部分があると思っていて。自分が意識していたのは、何か大きな報道や事象があったときは基本的にメディア向けにコメントを出すこと。記者会見も質問がなくなるまでエンドレスで。また、常に不確定な状況もあった中、親しい記者には事前に見通しを伝えておくことで、情報不足のため変な記事を書かれるということをかなり減らすこともできました。このあたりは、危機管理として皆さんも使える技ではないかと思います。

桑江:「政治」「宗教」「人種」に加え、記事テーマなどで「年齢」「学歴」「年収」「ジェンダー」は炎上しやすいと思います。他にありますか。

津田:立教大学の木村忠正教授の研究が分かりやすいですね。基本的に、ネットで叩かれているのはマイノリティに対するマジョリティの違和感だと。これはアメリカですよね。かつて白人はマジョリティでしたが、マイノリティの人権を守るようになった結果、白人こそがマイノリティ化し、抑圧されていると。「中国・韓国」「マスコミ」「マイノリティ」が荒れる話題だけれども、実は全部マイノリティ問題であると言っています。
マイノリティが自分たちの権利を主張すると、それに対して違和感があるというマジョリティがネットで炎上させていると。主張するマイノリティがネットで炎上しやすいという分析をされていて、すごく当たっていると思います。例えば「障害者」「沖縄問題」も同じように分析できるので、炎上しやすいものの1つは「マイノリティへの違和感」ですね。僕は不当な違和感だと思いますけど。

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