田端信太郎が炎上を斬る!炎上リスクより「燃えないゴミ」の心配をせよ!【第33回ウェビナーレポート】
- 公開日:2021.01.20 最終更新日:2023.06.20
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炎上は想定内の「研究開発」
桑江:オンラインサロン「田端大学」の塾生が2020年8月、自身が泊まった旅館の夕食の量の多さに「廃棄前提」とツイートし、「廃棄前提」「田端大学」がトレンド入りしました。この塾生は他のユーザーに「廃棄前提おじさん」と命名されてかなり叩かれた中、田端さんは「燃えないゴミは、ただのゴミだ。炎上できることは才能なんだ」「炎上マーケティング大成功」などと冗談で言及、それに対してもかなりのリプライなどがありました。
田端:個人として炎上するのはR&D(Research&Development、研究開発)で、自動車メーカーがF1に参戦するようなもの。クラッシュすることもあるけれど、そこで得た知見を活かして企業にフィードバックできる。一通り炎上すると、どういうパターンのときにどれくらいの燃え方をするか、どういうリプライが来るかが大体分かります。どこまでやったら着火するかとか、一発で着火させるためにはどうしたらいいかとか。
「炎上マーケティング大成功」のツイートでも、僕なりにリスクヘッジしているのは、事実関係を断定していないということ。何をもって大成功なのかも示していませんし、最後に紙一重で「いや、そうじゃないでしょう」と言えるよう常に意識しているつもりです。
桑江:「炎上マーケティング大成功」などのツイートは、想定内の燃え上がり方でしたか。
田端:消してもいないし、「ふーん」という感じで。真に受ける人があんなに多かったというのは意外でしたが、だからといってどうこうというのはないですね。
桑江:ここまで本気にされるのかという意外性があったと。
田端:「今のネットの空気はこうなんだ」「こんなに真に受ける人が多いんだ」という実体験に基づくフィードバックは、別のタイミング、企業の広報にお話をする場合も活かせるかなとは思っています。
桑江:逆に、田端大学の中ではどういう話になっていたのでしょうか。
田端:「盛り上がっていますね」という感じで。田端大学を1つのビジネスとして見たら、それが問題になったとは全然思っていなくて。
嘘をつかず、特定の人を攻撃しない
桑江:日常的なSNSの発信に関し、炎上するのもトライであるという哲学、最低限のリスクヘッジをしているという以外のことも含めて、どんなことを意識されていますか。
田端:正直であるということが大事かなと思っていて。例えば、大人の付き合い、事情で読んでもいない本を褒めることはしません。ちゃんと読んでいいと思った本だけを褒めるというマナー、モラルを大事にしています。
最低限、嘘はつかず、特定の人を攻撃することも絶対しません。ただ、SNS投稿のフォローや拡散は、こちらから誰かに頼んだわけでもない。嫌なら見なければ済むだろうと。僕は過激かもしれませんが、見ない自由があるのだから無視すればいいのにと思います。
桑江:ツイートの内容自体はどの程度精査し、投稿されているのでしょうか。
田端:反射的に投稿していることも多いのですが、正直、全く消去していないというわけでもありません。投稿から2、3分で「まずいな」と思い、さりげなく消していることもあります。消すなら最初の5分で「初期消火」した方がいいと思います。
桑江:「これは炎上するかも」という部分は、自分の中のルールに則って判断していると。
田端:そうですね。あとは、意識的に難しい言葉を使うとか。自分が言いたいことを言いたい人にだけ伝わるようにして、よく分からない有象無象の人が来にくくするというのは、言葉の偏差値の上げ下げで結構コントロールできます。
桑江:執行役員コミュニケーション室長を務められた前職のZOZO時代、株主総会で田端さんたちの炎上が「企業イメージを毀損しているのでは」という質問を受けたということですが、そのときはどう感じましたか。
田端:下を向いて苦笑いするしかない質問だなと。もちろん、こうした質問が出ること自体は極めて健全ですし、カスタマーサポートなどに問い合わせが入って余計な仕事を増やしてしまったことは非常に申し訳なく思いました。ただ、1個人として言えば、今となっては武勇伝でしかないですね。そんなサラリーマンはいないじゃないですか。
桑江:田端さんの起用は当然、SNSでの話題づくりを期待してのことだったと思いますが。
田端:この後のテーマにもつながる一般論ですが、あるランク以上の仕事をしようと思ったときは、自分の美学に照らして「できないことはできない」「それなら辞めます」と言える状態をつくっておくことが、その会社の中で価値を発揮する上で大事ではないかという哲学があります。
それは遠心力と求心力のバランスのように思えるのですが、「そんなに変なリリースや決算をするくらいだったら、自分の首を飛ばしてからやってください」というくらいの覚悟で直言するということが結果的に会社を守ることになるし、自分のプロとしての看板、レピュテーションを守ることになると常に思っています。
広報はワンマン経営者の「暴走ストッパー」に
桑江:それを踏まえて、田端さんから見た昨今の炎上事例を振り返っていければと思います。1つ目が化粧品・健康食品大手A社の問題。昨年11月、この会社の会長が公式サイトでヘイト発言をしたことに批判が殺到しました。
田端:これは非常に興味深い事例としか言いようがなくて、いわゆる創業オーナー社長を広報が止め切れない「暴走あるある」の事例に見えるのですが。さすがの僕でも正当化する余地がないような、明らかにアウトだと思っていますが、売り上げなどの実害が出ているのかどうか興味があります。もう1つ、他社を名指しで揶揄するのは良くないと思いますよ。
桑江:続いて、アパレルのB社の社長のセクハラ問題。ここで問題になったのは、最初に「セクハラ行為は認められず、処分もなかった」と説明をしていたものの、その後に諸々の問題を認めたと。
田端:これもいわゆる創業オーナー社長のあるある。こうしたネガティブ記事が出ると、よく「事実無根で、法的措置も検討しております」といったリリースが出ますが、その後に動かぬ証拠が出てくると恥の上塗りになることこの上ない。どうせ社長を辞めるなら、最初から「確かに問題がありましたので辞任します」としておけば、本人も含めて傷が浅かったのではないかと。「事実無根だ」などと言ってしまうのを広報が止め切れないとこうなってしまうという典型的な事例だと思いますね。
炎上を恐れず、信念を貫くメッセージの発信を
桑江:続いては、実際は炎上していないと思われる事例。日本には「差別、いじめ」があるということを描いたスポーツメーカーC社のCMですが、実際にわれわれが調べたところポジティブなSNS投稿の方が多かった。もし、これが事前に想定した状態で許容できる範囲だったとするなら、C社にとって「成功」だったかもしれません。これは田端さんの炎上を仕掛ける姿勢と同じかと思いますが、そのあたりを踏まえ、このCMについて何か思うところはございますか。
田端:賛否両論が五分五分なのは、良い炎上。教科書的なほど狙いすました感じかもしれないという意味では、お見事という感じ。逆に、C社はネガティブな投稿が9割だったとしても折れるつもりはなかったと思うんですよね。その覚悟があるから結果的に5対5になったという教科書的な事例だろうと。C社は特定の人種や民族に関係なく、スポーツを真剣にプレーするすべての競技者のためにあるという骨太な哲学と、CM手法の抜け目のなさがマッチしているから、企業広報的に見ても非常に良い炎上ではないかと思います。
桑江:信念を持って発信をしたメッセージがこのような形で話題となり、しっかりと伝わったという意味では非常に良かったかなという気はしています。ただ、同時に問題となるのが「非実在炎上」というワード。メディア側がアクセス数稼ぎなどをする中で、ひたすらテレビとラジオ、ネットで他人の粗探しをしながら「炎上だ」という言葉を使って「コタツ記事」を書くと。
田端:あまりに悪意がある場合はメディアに対して「どういうネガティブ記事が定量的にあったんですか」という逆質問状を送り付ける方法もありますが、ほとんどの企業広報にとっては大所高所に影響なしという感じでどんと構えていたらいい。正しく大所高所を判断できている自信があれば、無視しておけばいいと思いますけれどね。難しいのは、どんと構えていればいいレベルではなくなってくるところの見極めは極めて悩ましいと思います。
SNSは生身の自分の「アバター」
桑江:続いての話題はリスクとの向き合い方。田端さんが発信する際に心がけていることは「ファクト(事実)にとどめる」「最低限、会社に迷惑をかけないようにする」という2点ですが、簡単にご説明いただいてよろしいですか。
田端:どんなに不愉快なファクトでも、ファクトを言った僕のことを叩いたところでファクトがなくなるわけでなない。ファクトは情報発信するときの強固な岩盤。燃えるか燃えないかより、ファクトであるかないかの方が大事ですね。ファクトではないことを書く場合は、純粋にただオピニオンとして書く。僕の言論の範囲で、会社の公式見解ではないという前提を置いた上で書くと。守秘義務を守るのも当然で、そうした区別のようなことは結構やっていたつもりです。
桑江:田端さんがおっしゃっているのは「SNSは自分のアバター(分身)である」ということ。そのあたりも解説いただいてよろしいでしょうか。
田端:SNS上に映った自分は影のようなもの。実態がないと影は映りませんが、影をどう伸ばすかは光の当て方次第。だから、メディア上ですごくもてはやされている企業やブランドも、実態は全然違うかもしれません。
でも、それは嘘だというのではなく、メディアの光の当て方でそうなるということ。メディアでおだてられているから「自分はすごい」と思うのも違うし、メディアで叩かれているから絶望するのも違うということで言うと、メディア上のパブリックイメージの自分は生身の人間としての実態とは別。アバターのように泳がせておいて、いいところ取りだけするためのものという突き放した感覚で見ていますね。
桑江:「シャレが通じない」「文脈が読めていない」「書いていないことを勝手に読み取って怒る人がいる」。田端さんは、それそれが良し悪しではなく、現実だということを実感されたということですが、「記述的文章」と「規範的文章」が混在しているということもおっしゃっています。これは、どういうことでしょうか。
田端:夜空の星がつながると正座に見えるように、うまい情報発信はファクトを並べることである種のメッセージを伝えられる。例え攻撃されたとしてもファクトを並べているだけだから、リスクリターンで言うと非常に効率がいいやり方だと思うんですよね。
発信するからこそ得られる信頼もある
桑江:発信した情報に対して100%の賛同は得られない世の中で、企業の広報担当者はどうしていくべきか。今回のテーマでもある「リスクを取らずにリターンはない」ということかと思いますが、改めてお話しいただいてもよろしいですか。
田端:根本にあると思うのは、その会社は何のためにあり、皆さんはその会社に何をしたくて入ったのかということ。存続すること自体が目的の会社が多いから、そういう会社でつつがなく定年まで勤めるのを目的にしているようなサラリーマンが多いから「とにかく燃えない方が安心だ」ということになってしまうわけです。「そんな仕事をして楽しいですか」「そんな会社はブランドの魅力、企業としての魅力はありますか」というのが、個人の次元でも企業の次元でも僕が一番言いたいことですよね。
ワンマン社長のイエスマンになるなら、その会社にいる意味がありません。先ほどのA社、B社の事例は、刺し違えてでも止めに行くべき案件です。あれを止めるのが広報担当者の役割でありプライド。「上が言っているからこうなんです」ではなく、ときには「こんなことをしなければならないなら辞めます」という覚悟を持つべきだと思います。
桑江:自分の美学を貫いた投稿でも読み手が勘違いし、ひっそりと信頼を失う可能性があるということで、会社からは守りの広報姿勢を強いられています。炎上しなくても、どんどん信頼を失うという可能性はあるのでしょうか。
田端:可能性としてはありますが、そのように発信するからこそ得られる信頼もあると思います。そもそも、会社も個人も全員に好かれる必要はないと思うんですよ。もし、そういう会社の方針と個人の美学が合わないなら転職した方がいいと思います。
援軍の来ない中で籠城するような守りの広報が多いとしたら、それは何のためにあるのかという感じ。守っていると言っても、ただ延命しているだけに見えます。
桑江:最低限の投稿ルールは守りつつ、炎上を想定した範囲内の批判であれば成功にもなり得ることを意識しながら取り組んだ方がいいということですね。