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レポート:【第28回ウェビナー】デジタル・クライシス白書-2020年11月度-

公開日:2020.12.02 最終更新日:2023.06.21

コロナ、ジェンダー対応ミスで炎上が続出

桑江:新型コロナウイルスの集団感染が発生したJリーグクラブが運用する複数のSNSにマスクをしていない選手たちの集合写真と映像がアップされ、サッカーファンの批判を浴びました。クラブはマスクなしの写真を削除し、コメントの書き込みもNGとしましたが、企業でクラスターなどが発生した場合もそれ以前の活動を収めたコンテンツがチェックされると思います。企業発信の写真やイベントは非常に気を付ける必要がありそうです。

前園:まさに学べるポイントがあると思います。まず、マスクなしの写真を上げる場合は補足などをした方がいいですね。また、SNSユーザーは魚拓を取っていますので、何か指摘を受けてから説明をせずにコンテンツを削除するのは最も悪手と思います。コメント欄をシャットアウトするなど今まで受け付けていたものを受け付けなくなるのは最終手段の逃げになってしまうので、注意すべきだと思いました。

桑江:次はジェンダー関連の炎上事例です。大手玩具メーカーのA社が、自社の看板商品である少女人形の販売キャンペーンに合わせて「某小学5年生の女の子の個人情報を暴露しちゃいますね!」といったコメントを公式Twitterに投稿しました。「個人情報を勝手に暴露します」という流行のハッシュタグを使ったものでしたが、「キモい」「イラっとさせる」「性犯罪を意識させる」といった批判が殺到したところです。

前園:SNSを運用する上で流行に乗るのは重要で、私たちも流行りのハッシュタグを活用させていただきます。ただし、性的な印象を表立って見せるのはリスクのある運用です。商品の購入を判断する立場で、Twitterを見ている親御さん世代からすると気持ちいいものではないというところの配慮、リスクチェックが不十分だったのではないかと見ていました。一方、批判を受けた後は削除、お詫びを含めてスムーズに対応されていた印象があります。

桑江:繊維製品メーカーのB社は、Twitterで展開したタイツのキャンペーンのイラストが「性的だ」と批判を浴びて炎上しました。SNSを運用する企業の「中の人」にとって、やり取りする相手の多くは公式アカウントのフォロワー。B社の本来の顧客はタイツを買う女性ですが、イラストが好きなフォロワーが増えたことで「その人たちを喜ばせるにはどうするか」を優先してしまい、実際の顧客の感覚とずれてしまった可能性があると思います。

前園:Twitterはフォロワーの属性が見えづらいのですが、一番反応を得られるのもTwitterです。だから、どうしてもTwitterで炎上する可能性は高いのかなというところです。

フォロワーファーストの落とし穴に注意!

桑江:企業アカウントのKPI(重要業績評価指標)としては、自分の投稿が「バズった」とか「いいね!」がたくさんついたということが上司への報告に使われやすいわけですね。そうなると、フォロワーファーストになる。フォロワーからいかにいい反応をもらうかに目的が向いてしまいます。
本来やるべき顧客とのコミュニケーションではなく、「バズるために」という目的が上に来てしまうと、気付かないうちにリスクが増大する気がします。

前園:企業の担当者の方は、ジェンダー問題は必ず拒否反応が出るコンテンツだということを頭に入れておくべきだと思います。100%ネガティブなテーマというわけではないのですが、そのような反応を織り込むしか解決策はなくなってきているのかなと思います。

桑江:女性芸能人のC氏がテレビのバラエティ番組で「不妊の原因は堕胎」と主張し、炎上してしまった例もありました。「自分はこうだから、こうに違いない」「これが100%正しい」という意見を言って噛み合わなくなるのは、Twitter上でもよくあるパターンです。最終的に、この芸能人は発言の真意を伝えて謝罪しました。
また、写真家のD氏はcakes上での人生相談連載に寄せられた「夫からモラハラ、DVを受けている」という内容を「大げさ」「嘘」と決めつけ、炎上しました。D氏の人生相談はそのようなスタイルが評価されてバズってもいたのですが、今回は物議を醸してしまったというところです。

前園:炎上事例のケーススタディの重要性を感じました。「ほとんどがそうだよね」と言い切ってしまうとそのフレーズだけが一人歩きし、真意や意図が置き去りにされるリスクがあります。ざっくばらんでストレートなキャラクターが受けているとしても、DVやモラハラに関してそうしてはいけないということですね。

桑江:テーマによるというところがあると思います。DV、モラハラで悩んでいる人たちにしてみれば自分自身が否定されているという意識を持ってしまい、反応してしまうというのもよくあるパターンです。テーマによっては今までと同じような対応が正しいのかどうか、しっかり見極める必要があるでしょう。

前園:事前のリスクシナリオを、いかに作っておけるかだと思いますね。

桑江:愛知県のサル類動物園は公式Twitterで、サルを見に来た若い女性の後ろ姿の写真を投稿しました。「来園してくださるのは素敵なお姉さまばかりだと思っていましたが、本日初めて『女子』にお会いしました!」とのコメントを添えたところ、不適切との批判を浴びたのです。これはレベル感の部分だと思いますが、実際にこのような反応があったのは事実で、削除と謝罪に至りました。

前園:越えてはいけないバーを少し越えてしまったというところで、ハードルの程度感の難しさを感じさせる事例でした。性に関わる発信は炎上することが多いということを認識して投稿しなければならないと思いました。年齢のことを触れづらいテーマにしてはいけないのですが、現実にはそのようなテーマになってきている気がします。

桑江:写真の女性が小学生とか幼稚園児の「女の子」なら炎上しなかったのではないかという気もします。そのあたりの曖昧さ、難しさもあると思いますが、やはりケーススタディで学んでいくしかないと思います。

前園:そこまでして、これを投稿しなければならなかった理由は何だったのかというのが重要ですよね。あえてこのネタをピックアップしたことでどうなるかを想定していなかったところに危険性を感じます。

世の中の論調を把握 安易な謝罪を避けた対応に称賛

桑江:そして次の話題は、いろいろな示唆に富んでいる話ですね。

前園:食品大手のE社が即席麺の公式Twitterで連載したPR漫画が炎上状態になった事案です。仕事に出掛けていた妻が、留守番中の夫と幼い息子が昼に食べた即席麺の食器を帰宅後に洗っているコマに、一部読者から「自分が食べていない昼食の後片付けをするという謎の場面ですべてが台無し」「(夫は)自分で皿を洗え」といった批判が寄せられました。
半面、「そこまで気にならない」「いちいち面倒な批判」など擁護の声も根強く、F社はいったん中断していた漫画の公開を再開すると発表。原作は自社の責任で制作・公開しているため、作画担当者への批判はしないでほしいとのコメントも出し、安易に謝罪をしなかった対応が称賛されました。

桑江:私も企業の講習などで「スピード対応と真摯な受け止めが必要」という話をしますが、そもそもどう批判されているのかをしっかりと見極めなければなりません。F社は、批判は出ていたが少数だったという実態を調べたのだと思います。
もう1つのポイントは、作画担当者を擁護したこと。「すべての責任は自社にある」と打ち出したのが「しっかり対応した」という評価につながったポイントです。
ただし、安易に謝罪をしないのが正しいかは別の話。F社の場合は状況をよく見極めた上で考えた対応が安易に謝罪しないということだったので、安易に謝罪しないということだけが広がってしまうと大変なことになります。

前園:仮説ですが、この企画を立てる段階でこうした批判を受けるかもしれないというシナリオを想定されていた、もしくは批判の声を早期に発見できる仕組みを導入されていたと思います。炎上状態になってからの対応が非常に速く、世の中の論調に合わせて適切な対応を選択されました。従来は数日かかるところをわずか1、2日で判断されて対応に入ったので、非常に理想的なSNS運用の流れだったと見ています。

桑江:もう1つ、私が注目したニュースがあります。英国発ナチュラルコスメブランドのLUSH社がダイバーシティ&インクルージョンの観点から、人種や年齢、多様なライフスタイルに関連する商品名を変更しました。先行事例として覚えておいていただきたいと思います。

前園:こういった対応はコストがかかると思いますが、今だと先行者メリット的に宣伝効果が見込めるものなのでしょうか。

桑江:いくつかの記事で取り上げられていますし、SNS上でもバズっていますので、「ちゃんと対応してくれている」と思ってもらえるメリットはあると思います。

前園:なるほど。

桑江:最後になりますが、ニュースやTwitterのトレンドでコロナ関連の話題が増えているタイミングでは、企業のキャンペーンや広告について一定のリスクを考慮する必要があります。とは言え、リスクにおびえてプロモーションを全く行わないというのもロスだと思いますので、ネットで同業他社などの事例をしっかりと追うことがポイントかと思います。

前園:万一炎上しても、必ずプレスリリースを出さなければならないわけではありません。原則は発表していただきたいのですが、事案によっては公式SNS上で謝罪をして終わったケースもあります。発表する場所や内容は世の中の声に合わせる必要もあるので、当社などの専業事業者にご相談いただくのが一番いいと思います。

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