ホーム > 炎上が起きたら > レポート:【第26回ウェビナー】100万回の殺害予告を受けた炎上弁護士・唐澤貴洋が教える企業の危機管理

レポート:【第26回ウェビナー】100万回の殺害予告を受けた炎上弁護士・唐澤貴洋が教える企業の危機管理

公開日:2020.11.18 最終更新日:2023.06.20

誹謗中傷、嫌がらせ行為がエスカレート

桑江:唐澤先生は2012年、「2ちゃんねる」(現5ちゃんねる)で誹謗中傷されていた少年の弁護を引き受けられ、誹謗中傷の削除請求や書き込みをした人を特定するための情報開示請求を行いました。
しかし、当時の「2ちゃんねる」は削除請求や投稿者特定依頼は掲示板ですべて公開されていて、心ない者たちによる唐澤先生への誹謗中傷や嫌がらせ行為が始まったわけです。
それらの行為はエスカレートし、のちに10件以上の事件で犯人が逮捕されました。唐澤先生はそのうちの何人かと実際にお会いしていますが、このようなケースはかなり珍しいと思います。

唐澤:実際にお会いした方々は、一見すると至って普通。どちらかと言うと物静かな雰囲気で、リアルな世界で加害行為に手を染める人物には一切見えませんでした。
ただ、話しかけてもなかなかコミュニケーションを取れない、あるいは家庭環境が孤独だったという方もいました。そこで、何のためにそういった行為に至ったのかを考えるようになりました。

桑江:近年も、芸能人などに対するSNSでの誹謗中傷で逮捕される方が相次いでいます。誹謗中傷を含めた炎上がなぜ起こるのか、ご自身の見方をお聞かせください。

唐澤:私が考える炎上の定義は「誹謗中傷などの権利侵害行為や、違法とは評価できない批判行為を繰り返すこと」です。炎上は少数の人間の仕業でも、投稿を繰り返すことで多くの人間が加担した場合と同じような外形を保てるので、主体となる人数の多寡では区別していません。
私の場合は、積極的に投稿していた人物が複数に上って逮捕、立件されると、炎上は鎮静化しました。それによって攻撃の過激さが弱まった現象は、炎上に加わっていた人がさほど多くなかった可能性を物語っていると思います。

桑江:SNS上で誹謗中傷を受けた女子プロレスラーが自殺した事件でも、誹謗中傷が明るみに出たタイミングでSNSに書き込む人が減って炎上が収まりました。逮捕、立件のようなことが起こって初めて鎮静化するという側面もあるのでしょうか。

唐澤:炎上は嫉妬や怒り、悲しみ、自尊心、正義感など人間の感情、価値観に訴え掛ける現象が起きたときに発生します。インターネット上では大きな目的がなくても、動物的な反応で情報を発信してしまうことがあり、そうした場合は何を発言してもさほど罪悪感を持たないんですね。
例えば、何か犯罪があったという情報を得た人は、「許せない」という正義感が強く働きます。その結果、容疑者やその家族に攻撃を加えようとする行為が炎上という形で膨れ上がっていくことがあるということです。

桑江:なるほど。

炎上加害者の目的は自分の居場所づくり?

唐澤:ただ、炎上によって達成できることは非常に不明確です。例えば、容疑者の家族とされる方の情報をいくら調べ上げて公表したとしても、その人たちを社会から排除することなどできません。
目的も結果もはっきりしない中で炎上が継続するのは、ネット上に散らばっていた人たちが騒ぎに反応して集まってくるから。つまり、炎上にはコミュニティのような機能があるので、「そこにいたい」と考える人が、自分の居場所を確保するために燃やし続ける側面があるとみています。

桑江:新型コロナウイルスの緊急事態宣言下でも話題となった「自粛警察」もそうですが、「誹謗中傷の標的を見つけることが手柄になる」という気持ちから、自分の居場所と考える節もあるのでしょうね。

唐澤:人間は常に自己確認をする生き物で、コミュニケーションした相手の反応を受けてそうすることがあります。炎上のネタを提供する人は称賛され、そのネタを基にさらなるプライバシー侵害を積み重ねる人が出てくると自分の行動の成果を確認できるので、炎上が居場所を確保するためというように自己目的化するのです。

沈黙は金、不用意な反論や弁明は格好の炎上ネタに

桑江:炎上した場合の対策として、唐澤先生は「ネタを投下しない」「時間が経過するのを待つ」「警察、弁護士に相談する」ことを挙げてらっしゃいます。

出典:唐澤貴洋 著書『そのツイート炎上します!』

唐澤:炎上させる側は被害者が知られたくない、明らかにしたくない情報を集めてネットに晒そうとします。場合によっては晒される人が社会的に追い詰められることがあるので、炎上の燃料となるネタをネット上に残さないことが大切です。ネタがあるとそれを話題として新たなコミュニケーションが発生してしまいますので、よく注意してください。
匿名の相手との戦いは徒手空拳の側面があります。すべてを真に受けて戦うこと自体が非常に難しいので、黙って炎上が鎮静化するのを待つのも必要な行動だと思います。

桑江:炎上被害を受けた方としては弁明したり否定したりしたくなるところですが、それがさらなるネタになってしまうことを避けなければなりませんね。火に油を注がないようにするためにも、時間が経過するのを待つということですね。

唐澤:炎上の参加者にとって、時間が経過すればネタの新鮮味がなくなってきます。世の中では日々、炎上につながる情報が発信されていて、新しい情報の方が面白いとなればそちらに飛びつくということが毎日のように繰り返されています。
炎上させられる側は精神的に不安定になるので、あまり拙速に感情に任せて行動してしまうとネタを投下するような動きにつながりかねません。いったん落ち着いて状況を観察し、しかるべきところに相談して対策を取っていくことが必要だと思います。

桑江:警察に相談するべきなのは、どのような場合でしょうか。

唐澤:明らかに権利侵害があるとき、例えば何もしていないのに「犯罪をしている」など虚偽の事実が書かれて業務が妨害されている場合は警察に相談して立件していただく方がいいでしょう。
ただ、警察の対応も被害者側がどれだけ努力するかに懸かってきます。単にネットの書き込み内容を伝えるだけでは対応が鈍いこともあるので、警察と一緒に自分の問題に取り組む姿勢が必要だと思います。その際には当然、問題の書き込みのURLと発信時間が分かる証拠を示さなければなりません。
民事的な手続きを取り、犯人を特定してから警察に相談した方が対応されやすい場合もあります。警察官が一様にネットの問題に詳しいわけではないので、必要なら専門家に説明してもらうなど、みんなで一緒になって解決していく姿勢が望ましいと思います。

桑江:弁護士への相談に関しては、いかがですか。

唐澤:権利侵害の問題は、民事で言えば損害賠償請求ができる、刑事で言えば名誉棄損罪や業務妨害罪が成立する話です。
自分についての書き込みが法的にどう取り扱われるべきかということについては、同様の事案をよく扱っている弁護士ならそれなりの知見があるでしょうから、意見を仰いでもいいと思います。警察に提出する資料の整え方についても知恵を借りると。警察と協力関係を築いて問題解決を図れる弁護士にご相談されると良いと思います。

企業の炎上対応は素早さと誠実さがカギ

桑江:個人と企業で、炎上した場合の対応例の違いはありますか。

出典:唐澤貴洋 著書『そのツイート炎上します!』

唐澤:一般の人(私人)は情報発信について専門的な教育を受けていないことが多いので、反論や説明の能力にばらつきがあると思います。誹謗中傷が起きても、基本的には無用な反論をするべきではないでしょう。先述したように、反論が格好のネタになることも少なくありません。
SNSで情報発信していると、自分の生活圏の情報を不用意に流してしまうことがあります。住んでいる場所や交友関係、親族の情報などを掘り下げられるとネタにされかねないので、そうした情報が集積しているアカウントは早急に閉じた方がいいと思います。
炎上被害に遭った場合、当事者だけで問題を抱え込むと精神的な負荷が増すので、学校や勤務先、家族に状況を説明し、「事実はこうだけど、こういう非難をされている」ということを理解してもらう必要があるでしょう。法務省人権擁護局のインターネット人権相談窓口にご相談されるのもよろしいかと思います。

桑江:企業にお勤めの方々がプライベートで炎上した場合、勤務先に報告するというフローができているかどうかは、あまり意識されていないと思います。SNSの使い方に関する講習や研修があれば、報告の徹底を促していただいた方がいいと思います。従業員の炎上が飛び火してくる前に手を打てるようにしておくことが重要です。

出典:唐澤貴洋 著書『そのツイート炎上します!』

唐澤:自社の不祥事などで企業が炎上した場合は的確に問題を把握し、プレスリリースや記者会見などを通して情報公開しなければなりません。その際は何について誰に謝罪し、どのような責任を取るのかといったことを明確にする必要があります。
「黙っていれば分からないだろう」と情報を隠そうとするのは非常に悪手です。退職、転職した人が内部情報をネット上に投稿する危険性も十分考えられ、どこから情報が漏れるか分かりません。問題に対してどう取り組むのか、素早さと誠実さを持って社会に公表していく姿勢が求められます。

桑江:先ほどの個人の場合と真逆ですね。個人はできるだけアカウントを消すということですが、企業は消してはいけないと。

唐澤:企業がアカウントを削除すると、明らかに「逃げた」ということになりますから。企業自体は炎上後も事業活動を継続しなければならないでしょうから、社会と誠実にどう付き合っていくのかという視点で情報発信を考えると良いと思います。

損害賠償請求と刑事告訴、発信者特定には難しさも

桑江:炎上被害を受けたときは、具体的にどう戦えばいいのでしょうか。

出典:唐澤貴洋 著書『そのツイート炎上します!』

唐澤:発信者に精神的損害の慰謝料や営業損失の賠償を求める場合、慰謝料は数十万円のレベルになってしまうことがあります。法的手段は、発信者が二度とそうした行為をしないように、あとは自分がSNSなどに書かれたようなことはしていないと世の中に弁明することを目的にするのが良いと思います。損害賠償請求は訴訟を起こさなくても、内容証明郵便などで相手方と交渉して示談がまとまることもあります。
刑事告訴は記事のURLなどが記載されているスクリーンショットとともに発信者を特定したプロセスを示す書類、つまり裁判所の仮処分決定や開示請求訴訟の判決結果、それを踏まえてプロバイダが開示した発信者情報をそろえて警察に相談するといいでしょう。
なお、刑事告訴の場合はどんな罪に該当するのかを明確にする必要があるため、法律の専門家に相談するのが良いと思います。名誉棄損罪は親告罪ですが、脅迫罪、業務妨害罪はそうではなく、被害届だけで警察の対応を求めることもできます。

出典:唐澤貴洋 著書『そのツイート炎上します!』

桑江:実際に発信者を特定するには、どうしたらいいのでしょうか。

唐澤:大きく分けると、基本形は2段階あります。まず掲示板、ブログのコメント、SNSなどの投稿者を特定するためには、サイト管理者からIPアドレスと投稿日時などの開示を受けることが必要になります。サイトによっては任意で開示してくれるところもありますが、大手ほど発信者情報開示の仮処分申し立てを求める傾向です。
発信者情報としてIPアドレスの開示を受けたら、IPアドレスを管理しているアクセスプロバイダたるネット接続業者に契約者情報の開示を求める訴訟を行います。

桑江:サイト管理者そのものが権利侵害をしている場合もありますね。

唐澤:whois(フーイズ)というサイトで検索すると、ドメインの登録者とIPアドレスの紐付け、すなわちどのホスティングサービスを利用しているかを調べられます。それが分かれば、ホスティングサービスを提供しているサーバー管理会社に発信者情報の開示請求訴訟を行い、サーバー利用契約者の情報開示を求めることができるというわけです。

出典:唐澤貴洋 著書『そのツイート炎上します!』

桑江:ただし、それらもハードルがあるということですね。

唐澤:発信者を完全に特定するのは難しさもあります。プロバイダ責任制限法という法律の問題ではあるのですが、IPアドレスやそれに紐付く契約者情報の保存期間、保存方法は法律上の定めがありません。また、発信者情報を隠す技術もいくつか存在しています。

桑江:発信者情報を隠すためにTor(トーア、The Onion Router)や防弾サーバー(防弾ホスティング)などが使われた場合、有効な対処法はあるのでしょうか。

唐澤:警察の方からも「正直、Torを使われたらおしまいだ」という話を聞いたことがあります。また、例えば日本と関係の薄い欧州圏のどこかでサーバーを借りて運営されているサイトの発信者情報を特定したいと思っても、国境を越えて法的手段を取るのは非常に難しいのが現状です。

炎上対策の専門会社に相談し、プラス情報の発信を

桑江:ご自身の戦いを振り返り、改めて思うところはありますか。

唐澤:1人で戦う必要はありません。相談できるところはどこかにあるという前提で、専門家や専門に対応されている会社の知見を求めることが必要です。
私はネット上に大量のマイナス情報を書かれましたが、それで社会的に終わるということはありません。ネット上では常に新しい情報が検索結果の上位に入る傾向があるからです。
過去のマイナス情報を消すという後ろ向きの風評管理より、どうやって新しいプラス情報を発信していくかという前向きな姿勢で取り組まれる方が、社会とのより良いリレーションを築けると思います。

最新記事の更新情報や、リスクマネジメントに役立つ
各種情報が定期的にほしい方はこちら

記事一覧へもどる

おすすめの記事