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レポート:【第22回ウェビナー】「ウェブを炎上させるイタい人たちの“今”」~ネット炎上の10年を振り返る~

公開日:2020.10.21 最終更新日:2023.06.20

炎上原因は「何を」より「誰が」 もともとのイメージがカギ

桑江:炎上のモチベーションを分類すると、まずは義憤。自分の「正義感」で間違っていると思ったものを批判する。他には不満や怒り、嫉妬、マウンティング。そして、便乗や祭りというところです。これは10年前、中川さんが著書でまとめたものですね。

出典:中川純一郎著「ウェブを炎上させるイタい人たち―面妖なネット原理主義者のいなし方」

中川:炎上には普段のイメージが関係していると思っていまして、「何をするか」「何を言うか」より「誰がするか」「誰が言うか」が非常に大事な状況だと思います。例えば、もともとのイメージがいい会社はどんなニュースも良い文脈で書かれ、すべて好意的に捉えられました。逆に言うと、悪い会社は何をやっても悪いイメージで受け止められてしまう。結局、言う内容より誰が言うかが問題視される、非常に理不尽なんですよ。

桑江:類型自体は今も、そんなに変わっていないのではないかと感じています。

中川:炎上するような問題を起こした従業員は、きちんと指導した方がいいと思います。ただちに処分するのが大事。炎上はその一瞬の出来事だけでなく、過去のものまで探される。炎上ネタを見つけようと血眼になって探している人がたくさんいます。昔のことだからと言って油断してはだめですね。

桑江:やはり、一度ついてしまったイメージがずっとついて回るのは、企業にとっては怖い部分かなと思います。

中川:炎上してしまえば一生残るわけで。ネットの「忘れられる権利」は、まだ認められていない状況かなと思います。ただ、ネットの「風」には乗った方がいいということもあります。例えば、上司が「自社が炎上しているのではないか」と警戒したものの、実は炎上していなかったということがよくあります。そういうときは、部下が「ネットでつくられた自社のイメージは悪くないんですよ」ときちんと助言してあげればいいだけです。

桑江:「悪いイメージがついたらどうしよう」というところも悩みかと思うんですよね。中川さんは何か対処されていますか。

中川:アンチというのはどうしようもないと思いますし、恐らく話し合っても無駄なのであきらめています。結局、人の怒りのポイントというのはよく分からないんですよ。ただ、企業の中には復活した例もあって。例えば、ファストフードのA社は、ことあるごとにたたかれていましたが、業績が良くなった頃から、そうした動きはほぼ見なくなったんですよ。自分たちの本業を頑張ることで挽回できると見せつけた例かなと思います。

桑江:いろいろなユーザーを取り込んだ結果、本業で真面目に頑張ったということが評価されて、イメージを回復したということですよね。

中川:そうしたら、悪口なんか言えなくなりますよ。

桑江:もちろん、長い期間は必要になってくるというところではあるということですね。

熱狂的ファンやオタクがいる分野への書き込みには注意を

中川:炎上に関しては、熱狂的ファンとオタクがいる分野も注意しなければなりません。鉄道関係などで批判的な論調の投稿をしても、ものすごい知識量で反論されるだけ。褒めるならいいのですが、むやみに書き込むと彼らの逆襲にさらされることになります。だからと言って、そういう人たちをあおってもいけませんので、言葉遣いは丁寧にということです。

桑江:なるほど。

中川:炎上を引き起こすようなミスをしたらすぐに謝り、4日間は耐えることが大切。炎上の翌日には別の炎上が生まれ、ほぼ忘れられるので。一方で、粘着質のクレーマーは無視すべきです。おかしなことを言う人にビシっと言い切るのは今の時代、むしろ賞賛されます。企業だからといって媚び続ければいいというわけではありませんし、毅然とした態度でモンスタークレーマーを撃退してもいいと思います。

桑江:企業の意見として主張したいことは、主張しましょうということですね。

中川:過去の炎上事例を整理すると、ただの愚行というバカッター、子育てなど「聖域」への切り込み、非常識行為の告白などに類型化されます。非常識なことはせずとも、普段から叩かれ気味な会社だと、少々のことでも叩かれる隙を与えてしまいかねません。また、芸能人などが政治的な意見を発信すると、アンチの人たちが絶対に叩いてきますね。

しかし、炎上させ過ぎると悲劇も発生します。本当に、炎上を原因に死ぬ時代だということは皆さんにも覚えておいてほしいですし、仮に従業員などが炎上した場合は全力で守ってあげましょうということです。

桑江:確かに、コロナ禍のこの半年間だけでも、芸能人の政治的発言は今までより増えた印象があります。

中川:多分、「発言するのが格好いい」という風潮が出ているのだと思います。ハリウッドのセレブがやっているからということもあるでしょうし、単純にコロナで暇になったというのが大きいかなと。CMで起用するかどうかも政治的発言を見た方が無難だろうと思うので、キャスティングに影響を与えるかもしれません。

ネット上の自由な発言はノーリターン、ハイリスクに?

桑江:ここで質問が来ています。中川さんは以前の著作で「ネット世論にビビって人々は自由に発信ができなくなる」と予言されていましたが、まさに今そうなっている気がする。特にコロナの影響もあって炎上しやすくなっていると思うが、どう見ていますかと。

中川:まさにその通りです。一般の人にとって、ネット上で自由に発言することは、ほぼノーリターン、ハイリスクになってしまっている。身元が割れたり、職場に電話が及んだりするとか。自粛警察なども含め、コロナで監視し合っている社会になってしまったというところから、ますます不自由になっているという感じはすごくしています。

桑江:一般人、ユーザーという観点だけでなく、企業側も炎上、リスクを恐れて、チャレンジングな企画やキャッチコピーを採用しにくくなっているというところが、世の中的にいいのかどうか。逆に「これは表現の自由でしょう」と押し通してしまうインフルエンサーさんなどもいる中で、かなり両極端になっているという印象があるのですが。

中川:炎上というものの解釈の差だと思っていて。企業の部署の中には、本当に炎上しているのどうかをきちんと判断できる人物がいなければまずいと思います。その人が「炎上については私が専門家なのだから、言う通りにしてくれ」と上司に言えるくらいの権限を与えた方がいいと思います。

自社の不祥事などによる炎上時は該当者の処分を

桑江:片方の意見の側からは必ず批判が出るということを想定した中で、どこまで対処するかというところですね。次の質問は、自社の不祥事やミスなどで炎上してしまった場合、うまく切り抜けることができる可能性はあるでしょうかという内容です。

中川:「悪いことをした人間は処分しました」と公表することですね。きちんとした処分をすれば、大体のことは許されるはずなんですよ。その後の対応については「問題行為などを見つけた場合は、通報してください」「より良い会社になりたいので、皆さんの協力が必要です」とか、そこまで若干媚びた美談風にしてしまうのがいいかなと思いますね。

桑江:いわゆる自己弁護に見えず、丁寧な言葉で「私たちも悪かったんです」ということをしっかり伝えると。

中川:反対に、自分たちに全く非がない場合は「炎上している」と怖れるのではなく、「話題になっているだけだから、プラスに使ってしまえ」と。その判断をできる人が、ちゃんといなければならないということですね。

桑江:最後にもう1つ、炎上の類型や防止策における最低限のポイントなど、まとめの形のお話をうかがえれば。

ネット上に頻出する島宇宙 炎上させる人の連帯が生まれている

中川:炎上の類型はこの10年間、ほぼ変わっていないと思います。最新の傾向としては、ネット上に島宇宙のようなものがたくさんできているということ。その人たちが連携し合い、1つの論調をつくり上げていく。みんなの集合知によって叩く材料を探し、炎上させる人の連帯というのが生まれているということですね。

桑江:ネットがそれぞれの個人に最適化され、自分の近いところしか見えなくなっていて、それが島宇宙になってしまっていると。

中川:雑誌やテレビや新聞は、その論調が好きな人しか買わないし見ません。ところがネットは無料なので「どんなトンデモ論を言っているのだろうか」とアンチがちゃんと見にくるんです。当然、アンチも大事なPVを稼ぐお客様。それで利益を得られる仕組みをつくり上げたのが、ネットメディアの特徴なんですよ。だから、炎上を意図的に誘発する流れができている気がしますね。

桑江:例えば20年前、2ちゃんねるに書き込まれたことはアングラと言うか、そこで完結していました。調べにいかなければ見られなかったので、書かれていることもそこまでの影響力はなかった。しかし、20年たった今は、誰もが普通に目につくところで批判が見えてしまっています。そうしたことの変化について、感じていることはありますか。

中川:偏差値が下がったということでしょうね。昔の2ちゃんねるは遊びで書き込む人も多かったのですが、SNSがどんどん出てきて、何でも書けるようになった。今は飽和状態になりつつありますが、これからは70代、80代の人もさらにスマホを持つようになるでしょう。そこで、いわゆる「暴走老人」が出てきて、もっと良くないことになるのではという気がしています。部下に物を言うように「その口の利き方は何だ」とか「この若造が」とか。

桑江:企業としては、そういったものに注意しながら活動していかなくてはいけないと。

中川:厄介ですけど、その耐性をつけましょうということです。

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