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レポート:【第19回ウェビナー】デジタル・クライシス白書-2020年9月度-

公開日:2020.09.30 最終更新日:2023.06.21

論点が分散した「マスク拒否おじさん」

桑江:まずは直近1カ月にどのような炎上事例があったのか、SNSやデジタル・リスクの観点から見ていこうと思います。

前薗:航空機内でマスクを着用しなかったことで他の乗客、乗務員と口論し、運航の安全を妨げるとして機長に降機させられた「マスク拒否おじさん」が印象深いですね。

桑江:この男性を映した機内の動画が拡散したほか、居合わせた乗客のブログやツイートなども多数出回ったこともあり、非常に話題になりました。この方自身もTwitterアカウントを開設していて、どうだったのかということを自ら発信しています。
リアルで話題になった方がすぐにTwitterアカウントを立ち上げて発信するのは珍しい例です。このTwitterアカウントには意見や批判などが相次いでいますが、本人は意に介さずに続けています。

前薗:この問題の論点は2つに分かれました。1つは、そもそもマスクを着用すべきかどうか。もう1つは、マスクの未着用を指摘された後の応対や暴言です。論争が分散して問題が見えにくくなったのは気になります。
ただ、「そもそもマスクをしたくない、あるいは病気などで着用が難しい人に『着けてほしい』と我を通すのはどうなのか」という声に集約されつつある印象ですね。

桑江:いくつかのテーマが混ざっているとき、それを分解できずに批判したり賛成したりすることが起こりがちです。
一方で、企業側の対応に何らかの瑕疵があった場合、他の顧客が撮影した動画などを見られれば「この会社はおかしい」と指摘されてしまうリスクがあります。お客さん側が何らかの書き込みをする、発信することを前提に対応する必要があるでしょうね。他に、何か気になった事例はありますか。

後を絶たない「ジェンダー炎上」

前薗:私自身、デジタル・クライシス総合研究所で主たるテーマとしてインプットを続けているのが、ジェンダー問題です。最大限に留意しなければならないテーマであるはずなのに、炎上事例に枚挙にいとまがないのはどうしてなのかと思います。

桑江:性暴力や女性蔑視を連想させるデザインのTシャツを4月に発売したセレクトショップが、8月30日になって炎上しました。発信した当初は大丈夫だったことが後になって掘り起こされるのは、よくある話です。
また、妻を立たせたままの食事写真を発信した政治家は「昭和的だ」と批判されました。「妻に感謝している」という内容でしたが、発信側と受け止め側の意図のずれを表す1つの事象かと思います。

前薗:Tシャツを販売したセレクトショップの企業カラーやこの政治家の人柄をよくご存知の人なら、女性蔑視の意図はなかったと理解できるかもしれません。自社、自分をよく知らない人が投稿を見たときにどう映るのかを見極めることが大事です。
投稿者は良いことだけを伝えたいと思って発信しても、実際には反対の見られ方をしてしまうことがあります。第三者の意見、意向を十分に検証してから投稿する必要があると思いました。

桑江:企業に置き換えると、普段の姿勢やアカウント運営を通じ、ファンやユーザーとしっかり関係性を築けているかというのも重要になると思います。周囲との関係構築ができていれば、いざというときにファンやユーザーが擁護してくれるかもしれません。いずれにせよ、ジェンダーに関する発信をする際は、専門家の意見を取り入れるべきでしょうね。

前薗:ちなみに、女性国会議員による「『産後うつ』は『甘え』です」「もし奥様が『産後うつ』を言い訳にして家事や育児を怠ったら怒鳴りつけて躾(しつ)けましょう」という投稿が炎上した事例もありました。
これは「産後うつは甘え」もさることながら、「躾けましょう」という表現が、男性が上に立ち、女性が下という捉え方をされて炎上したと思いますが、いかがでしょうか。

桑江:表現というのは細部まで見られてしまいます。発信した人の立場やたった1つの表現で捉えられ方が変わるというのはジェンダーに限らず、ここ数年のSNSで見られる潮流です。そこは注意が必要ですね。
また、世界的に議論を巻き起こしている問題が企業に波及し、批判を浴びてしまうことも十分起こり得るでしょう。特にグローバル企業は、世の中の動きに関してしっかりと意見を持つことが求められていると言えます。世界的なムーブメントには注目し、自社にどう絡んでくるかを意識しておかなければなりません。

炎上リスクを防ぐ企業の広報対応は?

前薗:例えば、人種問題は日本ではあまりピンと来ない人も多い印象です。ただ、直近で3件ほど外国人差別に関する炎上事例もありますので、今後も論争が起こりかねないテーマと言えるでしょう。

桑江:外国人をめぐる投稿が一方的な視点で解釈され、批判された事例もありますからね。人種問題は日本人にとってさほどセンシティブなテーマではないかもしれませんが、過剰に反応するケースも見られるのは確かです。

前薗:投稿をネガティブに捉えて攻撃しようとして狙われてしまうことも考えられます。1つ1つの発言のリスクには十分留意すべきでしょうね。

桑江:ネット上で起こる論争では、そもそも論点が違う、あるいは勝手な解釈に基づく意見をぶつけられてしまうことも多いですからね。そうした意見を推す人は「自分は正しい」と思い込んでいるので、誹謗中傷のような言葉を浴びせたとしても意に介しません。
こうしたケースは過去のウェビナーでもよく取り上げていますが、自社の発信情報がターゲットになってしまうこともあるので注意しなければなりません。

前薗:そうですね。

桑江:企業広報という観点で興味深いのは、商品への異物混入動画がTwitter上で拡散し、販売会社が謝罪した騒動です。目立ちにくいリリース文や謝罪の仕方、自社アカウントのリプライ機能を制限したことなどに批判が出たということで、今後の広報対応の1つのケーススタディになるかと思います。

前薗:ソーシャルメディアを活用する上で、ガイドラインやポリシー、マニュアルなどを設定する企業は増えていると思います。ただ、自社アカウントの機能を制限するのは「批判の声から目を背けようとしている」と受け止められてしまうことが多いのが実態でしょう。
「返信はしない」「ダイレクトメッセージ(DM)に関してはこうする」など媒体ごとに対応を決めておく方が炎上リスクを防げると思います。

桑江:なるほど。

前薗:企業広報の担当者からは「リリースを目立たなくしておきたい」「目に付きにくい場所に掲載したい」という相談を受けることも少なくありません。しかし、過去の事例を紐解いても、そのような手を使ったことがプラスに働いたケースは非常に少ないですね。
むしろ、お知らせの上部に掲載するなど、世間を騒がせている企業としてしっかり謝罪する姿勢を見せておくことが求められると思います。

発信情報に対する反応のパターン認識を

桑江:ちなみに、新型コロナウイルスの感染拡大下で注目されている企業もあります。転職系口コミサイトのオープンワーク株式会社は2020年6月、「フードサービス、飲食」「旅行、ホテル、旅館レジャー」「小売」の各業界で、社員の士気とチームワークが高い企業の調査結果を発表しました。
確かに、コロナ禍のような緊急時はチームワークが求められるでしょう。社内のコミュニケーションを図れているか、みんなで一致団結して頑張れる体制が整っているかが重要ということですね。

前薗:企業として世の中の動きをきちんと捉え、的確に情報を発信していくことの重要性も高まるでしょう。

桑江:コロナ禍の中では、さまざまな情報が飛び交っています。その情報がファクトであるかどうかを見抜く上で最も簡単で確実なのは、SNS上でどんなレスがついているのかをよく見ること。さまざまな知見に基づく議論を吟味し、判断するということですね。

前薗:まずは発信元をしっかりと確認し、その情報がどう受け止められているかを踏まえ、最終的に自分で判断するしかありません。コメントのサンプルを多く見ることと、誰が発信しているのかをしっかり見ていくことに尽きるのではないかと思います。

桑江:SNSでの情報発信に向けては、利他的な精神を養うような社内の風土や取り組みも必要ですね。投稿する際に相手の立場をイメージできるのが、うまい情報発信だと言えます。
SNSに限れば「どういう発信がどう思われたか」「どういう発信でどうファンが増えたか」というパターンを把握しておくべきです。
また、それらのパターンは時間の経過と共に古くなるので、最新の情報にアップデートしていかなければなりません。

前薗:もう1つ付け加えると、利他か利己かを1人で判断するのは非常に危険です。性別や年齢を超え、書き込んだ内容に対する不快感などの炎上リスクをダブル、トリプルでチェックできる体制を構築するべきでしょう。いろいろな価値観の人が混じった中で、投稿内容を作れているかが重要だと思います。

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