withコロナにおけるPR動向と今後の傾向予測【第16回ウェビナーレポート】
- 公開日:2020.09.09 最終更新日:2023.06.20
目次
企業活動のオンラインシフトが加速
桑江:2020年5月にある民間企業が実施した調査によると、新型コロナウイルスの感染拡大で「生活・暮らしが変わった」と答えた人は約80%に上り、変化をポジティブに捉える人が約7割を占めました。コロナ禍の中ではネガティブな話題や炎上が相次いでいますが、個人の生活に限ればそうではないことが分かります。
また、別の調査では、コロナ禍の前後で「『インターネットを利用する時間』『スマートフォンで動画配信サービスを利用する時間』が増えた」と回答した人がそれぞれ半数を超えました。
こうした変化を活かせれば、withコロナは企業にとってPRのチャンスとも言えますね。
高橋:例えば旅行や結婚式、音楽イベントなど実際の体験そのものが価値になるサービス、製品の需要は減ったと実感しています。
その一方、ネットを使った販売に移行することで、減った分の売上を担保しているような業種・業態が増えた印象です。
桑江:2020年上半期の月間Webプロモーション予算の調査結果は「300万~499万円」が28%と最多ですが、「1,000万円以上」と「99万円以下」が21%ずつで並び、二極化の様相を呈しています。
2019年下半期との比較では「減額した」「増額した」「変わらない」がそれぞれ30%~35%を占めました。各企業が置かれている状況によって対応が異なったと言えますが、増額の理由は「オンラインの売上が伸長」「実店舗の売上減によるオンラインシフト」「新型コロナウイルスによる需要増」が多く、コロナ禍による変化が明確に見えます。
高橋:これまでネットビジネスを重視してこなかったものの、コロナ禍を機に注力し始めた企業が増えたと思いますね。
桑江:経済誌やテレビの経済番組でも、オンラインシフトで成功している企業が特集されるケースが多い印象です。時流に合わせてサービスを変えるのはもちろんですが、PR戦略としてはマスコミにうまく拾ってもらうことも必要かと思います。そうした働き掛けに関する変化は見られますか。
高橋:メディアへのアプローチ自体に大きな変化は見られませんが、これまで働き掛けるきっかけがなかった企業もコロナ禍によって変化せざるを得なくなり、それが結果的にマスコミ受けしているとは言えるでしょう。良くも悪くもコロナ禍が影響していますね。
桑江:コロナ禍の中では、メディアの方々に直接会ってPRするというのが難しいと思います。試食会などのリアルイベントに記者を呼ぶのも困難かと推測されますが、オンラインでかなりケアできるのでしょうか。
高橋:メディアの方々に実体験を伴う機会を経験してもらうのはほぼ不可能なので、資料の送付などで対応せざるを得ません。ただ、リモートを使うことで、日頃お会いできない方と面会できるようにはなりましたね。
プロモーション成功のカギは7つのカテゴリー
―「お家時間を楽しむ」
桑江:なるほど。withコロナのプロモーションは「お家時間を楽しむ」「ソーシャルグッド」「知識を蓄える」「疑似体験」「オンラインコミュニケーション」「無料提供」「参加型CP(キャンペーン)」の7つのカテゴリーに分類されると考えられます。
「お家時間を楽しむ」ためのPRでは、さまざまな企業が料理のレシピ動画など自宅で楽しめるコンテンツを提供していますが、中でも2020年上半期に飛躍的に売上を伸ばしたのが、デリバリー&テイクアウトアプリを提供しているA社です。
スマホで簡単に店舗を探して注文できるアプリで、外出自粛に伴いデリバリーやテイクアウトのニーズが拡大したのを受け、4月13日に飲食店での導入費を無料にすると発表しました。その翌週、人気お笑いコンビを起用したテレビCMを流したところ、新規申し込み店舗数が約5,000店となり、直近3カ月間で約19倍まで増えています。
ニーズの拡大に合わせ、しっかり露出を図ったのが要因でしょう。
高橋:従来は店舗に足を運ばなければ受けられなかったサービスを自宅で楽しめるようになったということですが、医療現場のオンライン診療のようなものも、こうした流れの中で市民権を得たと感じます。
―「ソーシャルグッド」
桑江:「ソーシャルグッド」の取り組みでは、世界的に認知されている数多くの多国籍企業が自社のロゴのデザインをモチーフにし、ソーシャルディスタンスやマスク着用など社会的に必要とされているメッセージを発信しました。普段からロゴを活かしたブランディングに余念がないからこそ通用した手法だと言えます。
高橋:正直、「うまいな」と思いましたね。みんなが今取り組まなければいけないことに対し、自社のアイコンを使って的確なメッセージを表現するという手法は非常に優れていると感心します。
―「知識を蓄える」
桑江:「知識」に関する試みで、豪華な景品がなくてもPRに成功しているのが、コーヒーチェーン店を展開するB社です。
Instagramのストーリーズ機能を使い、コーヒーの淹れ方などに関するユーザーからの質問に分かりやすく答えることでエンゲージメントを高めています。ユーザーとのコミュニケーションを深める取り組みですが、家で楽しんでもらおうという狙いもあったのではないでしょうか。
高橋:コロナ禍の中ではテキストを読み込んだり動画を見たりする時間が増えたので、読み物としてのオウンドメディアが非常に活性化したという印象です。
企業の製品・サービスにまつわるストーリーを見せるのも、皆さんに知識を知っていただく試みの1つかと思いますので、こうした流れが受け入れられるのはよく理解できます。
―「疑似体験」
桑江:リアルでの体験が難しくなる中では、「疑似体験」によるPR事例がいくつも出てきています。例えば、全国各地の遊園地が結集した「おうち遊園地」はホームページ上でアトラクションの体験動画を無料配信し、自宅で遊園地気分を味わえるのが特徴です。
このほかにも、バーチャルの展示会など自宅でイベントに参加している気分を味わえるコンテンツを提供する企業や有名人が増えています。最近は、海外の旅行会社のコーディネーターが、動画撮影用のカメラを手に現地を案内するサービスも登場しました。
「疑似体験」が可能な業界は限られているかもしれませんが、こうした動きは今後も続くのではないでしょうか。
高橋:こうした取り組みは今後も続いていくでしょうし、なぜ今までなかったのかとも思えますよね。最近は動画の技術も発達しているので、現地で楽しめることをイメージさせる上で非常に有効でしょう。
―「オンラインコミュニケーション」
桑江:「オンラインコミュニケーション」では「Zoom飲み」が話題になった中、ビールメーカーのC社は1,000人限定のバーチャルバーをオープンし、お酒を通じた新しいコミュニケーションの場を提供しています。こうした機会を企業がどううまく使うかがポイントになってくると思いますが。
高橋:オンラインを通じたコミュニケーションは仕事においては主流になりました。これまで距離障壁によって不可能だったことがある程度、活性してくることが予想されますし、もっと利用すべきかとも思います。
桑江:御社でも、記者会見がオンラインに切り替わったことでの苦労や留意点はありますか。
高橋:1つは言葉をきちんと伝えるということです。これまでは場の空気に応じて参加者が何がしかのことを忖度し、落としどころを決めるという流れがあったと思いますが、オンラインではなかなか空気を共有できません。誤解を防ぐためにも、言葉を選んできちんと伝えることが必要だと思います。
―「無料提供」
桑江:2月末の全国一斉休校を境に「無料提供」のコンテンツも増えましたね。通信教育などを手掛けるD社は学習教材を開放して話題になりましたが、アーティストのライブ映像や読み聞かせ動画、漫画など子どもたちを楽しませるためのサービスが多く見られました。
CSRのような社会貢献活動という意味合いも強いと思いますが、こうした取り組みを通したPRを展開するに当たって注意すべき点はありますか。
高橋:自社への利益誘導が見え見えの取り組みは、やはり厳しいでしょう。コロナ禍で何がしかの被害に遭われた方々に対する心からの支援が見える形が好ましいと思います。
―「参加型CP」
桑江:「参加型CP」の代表例は、E社のスポーツドリンクのCMです。97人の中・高生による自撮り映像を1本に編集したもので、好感度の高さも印象的でした。テレビ番組やCMでは一般の方の自撮り映像をつなぐ企画が増えていますが、このCMはそうした試みの先駆けと言えるでしょう。
成功するPRのポイントは3つ。「期間を区切って行う」「イベントに絡めて行う」「ターゲットを絞ってプロモーションを行う」ことです。
さらに、顧客体験ができるPRも満足度が高いと言えるでしょう。withコロナでは企画・製造・販売を一貫して手掛けるDtoCのビジネスモデルが注目されていますが、設立からわずか数年で売上を飛躍的に伸ばした企業も続出しています。すべての過程が顧客体験と密接に関わっているのが人気の理由です。
これからのPRは消費者に「自分たちが関わっている」「私たちの声が反映されている」という意識を感じてもらうことが重要で、ファンベースという考え方にも通じていると思います。
高橋:疑似体験ができる機会は限られているので、SNS上では顧客から顧客へと体験を言葉に乗せて伝えていく手法がよく使われています。そのときに、発信者と自分自身がどういう関係かという点が重要になってくるでしょう。
著名なタレントが声高に商品名を連呼するパターンが多いCMと違い、SNSの世界ではちょっと近しい憧れの人の影響が一番大きい場合もあります。そういった方たちに商品をお渡しして何か発信してもらうことがキーになるかもしれません。
withコロナで期待されるPR新時代
桑江:withコロナのPR活動はどのように変わっている、あるいは変わっていくでしょうか。
高橋:新型コロナの発生当初は非常に厳しい状況でしたが、オンライン会見など従来はあまり見られなかった手法が一般化してきたとも言えます。世の中とのコンタクトはさまざまな手段で取れるので、「現在の状況が新たなものを生んだ」と前向きに考えるべきでしょう。今取り組んでいることを、よりブラッシュアップする形で展開するのが望ましいと思いますね。