不用意な発言の影響力から学ぶ危機管理体制(デジタル・クライシス白書-2024年12月度-)【第128回ウェビナーレポート】
- 公開日:2025.01.17
目次
メディア取材に対する社長の発言に批判殺到
桑江:まずは、「不適切・不用意な発言」についてです。電動マイクロモビリティのシェアリングサービスを提供するA社の社長が、通信社の取材に応じて発言した内容に批判が殺到しています。
本件の取材は、一部の電動キックボードが免許不要、ヘルメット着用も努力義務となった2023年7月の法改正後、A社のサービス利用者の検挙数が約2万5000件に上り、うち55%は歩道を走行するなどの「通行区分違反」だったことを取り上げたものでした。
社長は「違反を繰り返しているのは本当に一部なので、撲滅できる」などとコメントしましたが、SNS上では「責任を一部利用者に押し付けただけ」などの批判が相次ぎました。
前薗:これまでも、企業のトップなどがインタビューや株主総会での発言を一部だけ切り取られ、炎上するケースは多数発生しています。広報対応や記者会見、イベントなどで発信をする際は、いつ、どこを切り取られても問題のないようにしておかなければなりません。原稿などを用意する場合は、バズワードやパワーワードを含めないようにすることがポイントです。
一方、切り取られた言葉が誤解され、想定外の炎上が発生したときは、時間の経過とともに収束するのを待つ方法もあります。
ただし、放置しておくとブランドイメージの毀損が懸念される場合は、それを防ぐために間違った論調を正し、誤解を解く責任も広報担当の業務に加わっているということを認識しておく必要があります。
インド出身の会長は「移民受け入れ」を肯定して物議
桑江:インド出身の大手製菓会社会長も、別の通信社の取材に対する発言が物議を醸しています。
会長は「日本経済を再生するためには意識改革を行い、より多くの移民を受け入れる必要がある」との考えを示しました。
しかし、この発言がSNS上で拡散されると、「日本に移民はいらない」「移民政策が失敗している国を見ればわかる」など批判的な意見が相次ぎました。
さらに、一部のSNSユーザーからは、この会社の製品の不買を呼び掛ける声も上がっています。
前薗:SNS上でも騒がれている移民関連のトピックは、そもそも触れるリスクがかなり大きいかと思います。
他方で、経営者などが政治的な問題などについて見解を求められるケースは、これからも想定されます。
広報担当としては、経営者個人の発言が、会社の公式見解として捉えられてしまうリスクを考慮する必要があります。
特に、経営陣が積極的に外部に露出している企業においては、経営者個人の発言が自社の公式見解ではない、という打ち消しができるリリースを速やかに出せるよう、準備しておくことが重要です。
県知事の「お金のない日本の若者」発言に猛批判
桑江:近畿地方の県営公園で企画されている無料のK-POPイベントに関する、知事のXでの発言に批判が集まっています。
県は韓国との友好を深めるため、2025年10月にK-POPアーティストが出演する無料イベントを企画。事業費として約2億7000万円を計上し、県議会で議論の対象となっていました。
そのことがメディアやSNSで取り上げられると、一般の人たちからも「税金の無駄遣い」などの意見が相次ぎました。
知事は自身のXで「本事業は税金ではなく事業収益金を財源としている」と正当性を主張し、「お金のない日本の若者も大好きなK-POPアーティストに生で接することができる」と説きました。
ところが、「お金のない日本の若者」という表現に対しては、さらなる批判が殺到してしまいました。知事は「日本の若者が財布の中身を気にせず楽しめるという趣旨でしたが、不適切な表現で誤解を与えたことをお詫びし、訂正いたします」と謝罪しています。
前薗:昨今は、政治家の粗探しをするトレンドができつつあります。企業に置き換えて注意していただきたいのは、知事はXで自分にとって優位な投稿だけリポストしているという指摘を受け、さらに炎上を呼ぶ可能性があったということです。
自社が何らかの指摘を受けた場合、どのような方針でアカウントに関与するかを慎重に見極めないと、都合が良い意見だけを採択しているという見方をされてしまう可能性があります。
靴下メーカーが一般ユーザーの投稿に反論を経て謝罪
桑江:靴下の企画・製造・販売を手掛けるB社は、自社の公式Xで不適切な投稿があったとして、公式サイトに謝罪文を掲載しました。
問題の投稿は、Xの一般ユーザーによる「今の技術なら破けないストッキングを作れるのに、わざと穴が開きやすい生地にしていると聞いた」という投稿に対して、「破れないストッキングは都市伝説、陰謀論の領域です。作れるなら作っています」などと主張したものです。
SNS上では「もう少し思慮深く考えて発言してほしかった」「購買層に向けての見下しと敵意がありすぎて擁護できない」などの批判が相次ぎました。その後、本件におけるB社の関連投稿は削除されています。
前薗:企業の公式Xが一般ユーザーの投稿に反論などをすると、過度に関与すること自体がマイナスに捉えられてしまう可能性があります。
過去には、他社の公式Xが一般ユーザーの投稿に辛辣なコメントをしてしまい、炎上した事例もあります。一般ユーザーとの距離感を間違えないようにするためにも、きちんとした線引きを「中の人」に求めていかないと、今回のようなケースが起こりかねないと思います。
回転寿司店で醤油差しに口をつける動画が拡散
桑江:次は「客テロ(迷惑行為)」です。回転寿司チェーン大手C社の店舗で醬油差しに口をつける男性の動画が、拡散されて騒ぎになりました。
動画は「自信がない投稿・炎上しそうな投稿を代行」と説明しているXアカウントが投稿したもので、拡散後は動画の男性を批判する声や「C社の店舗に行くのが怖くなった」といった意見が見受けられました。
しかし、その後、動画の投稿者が「C社公式様から動画の削除を求めるとともに、法的措置を取る」と連絡を受けて動画を削除したと投稿し、これ以上拡散しないよう求めたことで、拡散傾向は一気に緩やかになっています。
前薗:拡散されたアカウントに対して、企業が迅速に削除要請を行った結果、その投稿を引用して拡散していた他のアカウントでも動画を閲覧できなくなり、被害を最小限に抑えられたように見受けられます。
しかし、一部の悪質なユーザーが動画を保存し、後から再投稿する可能性もあるので、引き続き警戒が必要です。
本件のような投稿や、ネット上におけるデマ、フェイクに対しては、企業が毅然とした態度を示すことも重要です。
「貝類展」のポスターにAIを使用し物議
桑江:最後は「生成AI」です。国立の博物館の公式Xが投稿した「貝類展」のポスターに関する投稿が物議を醸しました。
投稿には「研究者による監修のもとでAI技術を活用し、人類と貝類の深く長い関わりを幻想的な世界観で表現しました」と記載されていました。
博物館は「AI技術を活用」と説明しているため、生成AIを使用しなかった可能性もありますが、SNS上では「展示物は実際の貝類だろうに、なぜポスターは生成AI」「写真の展示物も生成AIで作ったと疑われそう」「ポスターを見て行く気をなくした」など批判的なコメントが見受けられました。
一方で、「また反AI派が騒いでいる」「博物館が最新技術を使うのは当たり前」などAIの使用に肯定的な意見も上がりました。
前薗:クリエイティブにAIを用いることに対しては、アレルギー反応を持つ人が一定数います。
使用する場合は、具体的にどういう使い方をしているのかということに加え、とりわけ批判を招きやすい、商用利用が可能なAIを使用しているか否かをより具体的に明示しておくことが求められていると思います。
第129回『デジタル・クライシス白書-2025年1月度-』 - 一般社団法人 デジタル・クライシス総合研究所
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