性別不問で利用できる試着室を案内 LGBTQ接客方針が物議(デジタル・クライシス白書-2024年10月度-)【第126回ウェビナーレポート】
- 公開日:2024.11.15
目次
- 性別不問で利用できる試着室を案内 LGBTQ接客方針が物議
- 女性の容姿に関する広告に「ルッキズム」の批判
- 人気漫画家のファンアートに「黒人差別」の声
- 音楽アルバムのPVに歴史批判、公開停止に
- 商品を投げて陳列 アルバイトの過去動画が拡散
- 客がカウンターに入り、店員の仕事を真似る動画が騒ぎに
- 「お前、話にならないな!」 客が店員を怒鳴る動画が拡散
- 消費者金融会社のハートフルなCMに「借金を美談にするな」
- トラック運転手の危険運転が拡散し、勤め先の運送会社が謝罪
- 回転寿司チェーンとコラボのラーメン店が実物の商品に苦言
- 生成AI使用のイラスト商品に批判、販売停止に
- 神社の鳥居で懸垂 外国人観光客の動画に世界中から怒りの声
性別不問で利用できる試着室を案内 LGBTQ接客方針が物議
桑江:最初のテーマは、「ジェンダー・フェミニズム」です。女性用下着販売などを中心に手掛ける衣料品メーカー大手A社が発表した新しい接客方針が、物議を醸しています。
指針では、LGBTQや障害者を含む多様な客層に配慮し、性別に関係なく利用できる試着室を案内する方針も含まれていました。しかし、SNS上では「男性が下着売り場に来る」「女性用試着室を利用できる」ことへの不安や、「盗撮や従業員に対するセクハラ」を懸念する声が多く上がっています。
A社はメディアの取材に対し、性別に関わらず使用できる試着室がある店舗ではそちらを案内し、女性専用の試着室については従来通り、外見や会話内容から女性と確認できた客に限定すると説明し、柔軟な対応を心掛けるとしています。
前薗:LGBTQやジェンダーなどの問題は、極端な意見が存在するトピックです。そのため、企業として表立って関わることにはリスクがあります。
しかし、グローバルブランドを展開する企業は、マイノリティと言われる方々に対するスタンスの明示を求められやすいので、自社の対応を公表せざるを得ない場面もあるでしょう。人種や宗教などを含むセンシティブなテーマに触れる際は、企業としてどんな対応をするのか、それに対するネガティブな反応をいかに最小限に抑えるかを周到に練る必要があります。
女性の容姿に関する広告に「ルッキズム」の批判
桑江:続いては、「差別・ダイバーシティ」についてです。世界的な日用消費財ブランドのBが、「私たちに必要ないカワイイの基準」と題した広告を渋谷駅で展開し、論議を巻き起こしました。
広告は「基準や正解」とされている容姿のワードを線で打ち消し、「#カワイイに正解なんてない」と異論を唱える内容です。また、公式サイトの特設ページでは、「子どもたちの自己肯定感を育むことが目的」とする特集も組まれました。
しかし、この広告がSNSで拡散されると、「ルッキズムを助長している」「既存の美容界隈の美の基準を知らしめた」「通学中に見たら泣く」などの批判が殺到しました。
さらに、「Bの商品で連想するのはクリームや洗顔料であるにも関わらず、美の基準として骨格や顔のパーツの位置など製品では変えられない部分に言及しているのは加害的だ」との意見も出ています
前薗:さらに、「Bの商品で連想するのはクリームや洗顔料であるにも関わらず、美の基準として骨格や顔のパーツの位置など製品では変えられない部分に言及しているのは加害的だ」との意見も出ています
今回の広告は、顏の大きさや横顔のEラインなどネガティブなキーワードが目立ち、「美の基準など気にしなくて良い」というメッセージが弱くなってしまったように感じます。
企画段階やコンテ段階、さらにはクリエイティブの実物が出来上がった段階などにおいて、消費者への伝わり方を複数回に渡ってチェックしなければ、こうした事象は防げないでしょう。ルッキズムに対する世間の反応は、多くの企業が考える以上に厳しいと認識しておくべきです。
人気漫画家のファンアートに「黒人差別」の声
桑江:人気漫画家のC氏が、コンピューターゲームのキャラクターのファンアートを自身のXで公開し、賛否両論を呼びました。
公開されたイラストでは、原作より肌の色を明るく描いたため、海外のXユーザーを中心に「白人化している」「黒人差別」と批判の声が上がっています。
C氏は自身のXで「私もこのキャラクターがもし人間ならば、黒人だろうと考えています」「私の着色が下手なために、正確ではありませんでした、ごめんなさい」と謝罪しましたが、コメント欄では「差別的な意図はない」「過剰反応では?」「謝罪する必要はない」など、C氏を擁護する意見も多く見受けられました。
前薗:肌の色など人種に関するコンテンツは、原作を踏襲しないと白人至上主義という捉え方をされかねません。グローバルな観点では、日本人が考える以上にセンシティブなトピックなので、注意する必要があります。
音楽アルバムのPVに歴史批判、公開停止に
桑江:次は「不適切発言・表現」です。人気アーティストグループDの新アルバムのプロモーションビデオ(PV)が、不適切な映像が含まれていたとの理由で公開停止となりました。
その後、D社は公式サイトで「当該CMの放映を中止し、指摘された部分を修正した上で再開する」と表明しました。
SNS上では「わざわざこの刀を使う意図がわからない」などの意見のほか、制作側の近代史の軽視やチェック体制の甘さを指摘する声が聞かれました。
前薗:この手の事例は、枚挙にいとまがありません。クリエイティブを制作する側は、細部に至るまでチェックする消費者がいるということを前提に対応する必要があります。
商品を投げて陳列 アルバイトの過去動画が拡散
前薗:続いて「バイトテロ」です。ホームセンター大手E社の店舗従業員が、トイレットペーパーを投げて売り場に並べる動画 がSNSで拡散され、批判を浴びました。
Xに投稿された動画内に映っていたのは「効率重視」の文字と、2人のアルバイトがトイレッ トペーパーを投げて棚に陳列する様子です
この動画が拡散されると、SNS上では「商品を雑に扱うのは良くない」「会社の評判を下げる」「何が問題なのかわからない」「これくらいバイトテロとは言わない」など、さまざまな意見が上がりました。
また、この投稿については、実際に働いている従業員が朝礼の場で「動画が拡散され、問題視されている」と情報共有があったことを自身のXに投稿しています。
E社の広報部はメディアの取材に対し、「動画は2023年11月28日に撮影されたもので、2人とも既に自己都合で退職している」「同従業員に事実確認した結果、在籍当時に店舗内で行った行為をネット上に公開したと認めた」と説明し、謝罪しました。
前薗:直近では、過去のコンテンツがネット上に再掲載されて炎上する事例が相次いでいます。企業としては、自社にどんな問題やリスクがあるのかを把握し、体系立ててストックしておく必要があります。
当初は問題視されなかったコンテンツが注目され、炎上するまでの時間軸は、今や数年単位に及びます。問題行為を確認した場合はすぐに対処し、その記録を残すことが大事です。そうすれば、過去のコンテンツが炎上したとしても、「既に対処済みです」と広報できます。
客がカウンターに入り、店員の仕事を真似る動画が騒ぎに
桑江:そして「客テロ(迷惑行為)」です。牛丼チェーン大手F社の店舗で、客がカウンターに入って店員の真似をする動画がSNSで拡散されました。 Xに投稿された動画には「せっかくなので接客体験」と記されており、カウンターに入った客が消毒スプレーを触るなど店員の真似をしながら注文を取る様子が映っています。
動画が拡散されると、SNS上では「不法侵入ならびに営業妨害」「警察に訴えるべき」 など批判の声が相次ぎました。
一方、動画内に他の客は映っておらず、店員も慌てていないことから、「話題づくりのために店舗側に許可を取って撮影している可能性がある」と見る向きもあります。
前薗:誰が許可をしたのか、店内に誰がいたのかは不明ですが、一種のコラボということであれば、客テロを否定するリリースを出すべきです。また、現場の従業員などが何も考えずに許可しているのであれば、バイトテロと同じだと思います。
企業としては、オペレーションやルールの再確認・周知の徹底を図る必要があるでしょう。
「お前、話にならないな!」 客が店員を怒鳴る動画が拡散
桑江:100円ショップ大手G社の店舗では、年配客が大声で怒鳴る動画がSNSで拡散されました。Xに投稿された動画では、セルフレジの前で年配客が店員に対し、「お前、話にならないな!」「黙れよ!」などと怒鳴り、店員が繰り返し「会計ボタンを押してください!」と声を張り上げて返答している様子が映っています。
この動画が拡散されると、SNS上では「セルフレジができないからってキレる老害が結構 います」など客側に対して否定的な声が上がった一方、「店員も客を煽っている」「どっちもどっち」「何度説明しても逆ギレするから、ゆっくり大きな声で話すしかない」など店員側を諭す意見も多く見られました。
前薗:このようなトラブルに関しては、ヒートアップした場面のみ撮影されることが多く、事実と異なるイメージで拡散するケースも確認されています。企業側は、起こった事象の事実関係を正しく押さえた上で、適切な対応を取らなければなりません。
カスハラの告発手段としては、第三者が撮影した録画・録音がネット上に出回ることも考えられます。その際も、事実関係をしっかりと調査し、カスハラの疑いがある客に対しては出入り禁止などの措置を検討する必要があります。
一方、従業員側に問題がある場合は、録画されているリスクを考慮した上で、お客様をヒートアップさせないためのクレーム対応の研修を行うなど、時代背景を踏まえてアップデートしていくことが求められます。
消費者金融会社のハートフルなCMに「借金を美談にするな」
桑江:最後は「その他」です。消費者金融大手H社の新CMがYouTubeで公開され、騒動となっています。CMでは、妹の結婚式で着るスーツがないバンドマンの兄が、お金を借りてスーツを購入し、結婚式へ向かうという内容です。
心温まるストーリーとして描かれたCMに対し、SNS上では「いい話にしようとして、嘘くささと胡散臭さがむしろ際立っている。後味の悪いCM」「消費者金融を利用することを美談として描くのは不適切だ」など批判の声が相次ぎました。
前薗:消費者金融に対して世間が持っているイメージと、CMの内容とのバランスを考慮する作業が不足していたと思います。
多様な価値観が存在する中、すべての人の反発を防ぐことの難しさは増しています。反発を防ぐためには、複数名並びに外部の視点を取り入れ、クリエイティブの制作段階ごとにチェックを行えるかが重要になります。
トラック運転手の危険運転が拡散し、勤め先の運送会社が謝罪
桑江:首都高速道路を走っていたトラックの運転手が、一般車両に詰め寄る動画がSNSで拡散され、この運転手や勤務先の運送会社への批判が殺到しました。
Xに投稿された動画には、車線をまたいだトラックが道路を塞ぎ、運転手が一般車両のドアを叩く様子や、後続車が通過できずに渋滞が発生している様子が映っています。
投稿者は、その他の危険運転の様子やトラックに映っている会社ロゴの写真も公開しており、 そこから当該運転手が勤務する運送会社が特定されました。
運送会社は、自社の公式YouTubeチャンネルで「弊社社員による危険運転のお詫び」 という文書を動画で公開しました。また、自社の公式サイトにも同様の文章を掲載し、被害者などへのお詫びや、 運転手本人への厳正な対処、再発防止のための指導を行う旨を述べて謝罪しています。
前薗:企業のロゴが入っている社用車は、企業の看板を背負って走っているのと同じです。
社用車を使う業務に従事されている方は、自分の行動が簡単に録画・録音されて伝播する可能性があるというリスクを理解し、批判されないように振る舞う必要があります。
また、経営者や広報担当者は、社用車の利用に関するガイドラインや教育を徹底し、社員一人ひとりが自覚を持って行動できるようサポートしましょう。
回転寿司チェーンとコラボのラーメン店が実物の商品に苦言
桑江:回転寿司チェーン大手I社が期間限定でコラボした有名ラーメン店監修のメニューに対し、ラーメン店の代表が苦言を呈したことが話題となりました。 自身のXで実際に提供されたラーメンの写真を公開した代表は、チャーシューがレアすぎることやスープの色が異なることを指摘し、「無償で看板を貸し、監修もしたが残念」と述べています。また、食中毒の恐れもあるとして、「きっちり指導して作らせてくださいね」と厳しく注意しました。
この投稿がSNSで拡散されると、「写真と同じ商品が提供された」「確かに盛り付けは微妙だが、美味しかった」など、実際に食べた人たちから意見が寄せられました。
その後、代表はI社側と協議をしたことを明らかにしています。I社も公式サイトのお知らせで安全基準を満たしていることを強調しつつ、見た目の不安を考慮した対応として調理法を「炙り」に変更すると説明しました。
前薗:このようなコラボを実施する場合、しっかりと品質管理について取り決めを行うと共に、コラボ相手と密にコミュニケーションを取り、何らかの不満や疑問があれば担当者に直接連絡が来るような関係性の構築が必要と言えます。
また、レシピ通りに作られていないこと自体がSNS上でネタにされる可能性もあるので、そのようなコンテンツの発生を防ぐためのオペレーションにも注意を払わなければなりません。
生成AI使用のイラスト商品に批判、販売停止に
桑江:コンビニ大手J社が販売を開始した少女のイラストのブロマイドが、初日に販売停止となりました。
イラストは、画像生成AIを用いて作品を描いているイラストレーターが提供したものでしたが、今回の商品にはAIを使用していることが明記されていませんでした。
また、ブロマイドについては「描き下ろし」との説明があったため、SNS上では「せめてAIって書けよ」「生成物なのに描き下ろし?」「学習データは?著作権侵害してない?」など、疑問や批判の声が上がりました。
J社は、その日の夕方に公式Xを更新し、「ご本人(イラストレーター)と協議の結果、販売を停止させていただきました」と発表した。
前薗:AIを使っていることを明記していない事案の方が、炎上しやすい傾向があります。商用利用可能なAIを使っている場合、その旨を記載しておくだけで、余計な批判を防げると思います。
神社の鳥居で懸垂 外国人観光客の動画に世界中から怒りの声
桑江:外国人観光客として来日した姉妹が、自身のInstagramに神社の鳥居で懸垂する動画をアップし、世界中から「罰当たりだ」といった怒りの声が相次ぎました。
姉妹は14万人のフォロワーを持つチリ人インスタグラマーで、北海道室蘭市の神社に立ち寄った際、鳥居で懸垂する姿や、階段の手すりで逆立ちする姿を撮影していました。
この動画はX上でも拡散され、批判が殺到したアカウントは一時非公開となりました。 その後、アカウントが再び公開された姉妹は、迷惑行為を撮った動画を削除した上で、 謝罪動画を投稿しています。
前薗:外国人観光客への批判が出やすくなっている中では、施設側が適切な管理をしていたかどうかを問われる可能性もあります。例えば、禁止事項の貼り紙を掲示する、不適切な行為を見かけたら注意するなど、現場でのしっかりとした対応が求められるかと思いますので、これまでとは違う現場マニュアルの整備も必要になりそうです。