「男性差別」と叫ぶ声の裏にある、変わりゆくジェンダー観とは(デジタル・クライシス白書-2024年9月度-)【第125回ウェビナーレポート】
- 公開日:2024.10.22 最終更新日:2024.11.12
目次
女性限定の焼き肉半額キャンペーンに「男性差別」の声
桑江:最初のテーマは「ジェンダー・フェミニズム」です。大手の焼き肉レストランチェーンA社が、女性のみを対象とした食べ放題コースの半額キャンペーンを実施し、「男性差別」などと物議を醸しました。
キャンペーンは、若年女性向けファッションショーのブース出展を記念して企画されました。SNS上では「これは行きたい」「次の女子会はここで」など歓迎する意見もありましたが、「男女平等ではない」「このご時世、性別でサービスに差をつけるのは許されない」といった声も多く上がっています。
また、男性客が予約の際に「性自認女性」と記載し、女装して入店したことで半額が適用されたと投稿したことでも話題となりました。
騒動に対し、A社は「女性の食べ放題の注文量は、男性より肉4皿分少ないというデータなども考慮した」と説明しています。
前薗:ジェンダー問題のフェーズが変化してきていると感じます。これまでは女性蔑視をどう是正していくかということで炎上が起こっていましたが、現在は「レディースデイ」「レディースセット」など男性蔑視と受け取られるような企画もまかり通らなくなってきている側面が見受けられます。
今回のキャンペーンについても4割がネガティブに捉えているというデータがあり、性に基づくプロモーションやキャンペーンはだんだん難しくなっているように思います。実施する場合も、どのような批判を受ける可能性があるのかをしっかりと考えておかなければなりません。
セクハラ被害を容認?不動産会社代表の発言に批判殺到
桑江:次は「不適切発言・表現」です。不動産会社の代表者B氏が、テレビ局の情報発信サイトに掲載された「女性起業家の半数がセクハラ被害」の記事について、自身のXアカウントで「これで諦めるなら起業家に向いていない」「セクハラなんてかわいく思えるくらい、エグイ経験をするのが会社経営」と投稿しました。これに対し、「セクハラ擁護、軽視ではないか」「性被害が減らない理由がわかった」などの批判が殺到しました。
B氏はこれらの批判に反論しましたが、ネット配信番組に出演して「このような発言をしたのは失敗だった」と認め、自身のXアカウントでも謝罪しました。
前薗:B氏はセクハラを容認したかったわけではなく、会社や従業員を守っていく上では嫌なことを我慢して頭を下げなければならないときもあるということを言いたかったと説明しています。
発言の趣旨がうまく伝わらなかったのは、優越的地位を濫用したセクハラは相当厳しく批判されるという世の中の流れを十分に考慮できていなかったためでしょう。セクハラは容認されるべきものではないというポジションを明確にしておくべきでした。
「タメ口客お断り」温泉旅館のX投稿に波紋
桑江:青森県の温泉地にあるC旅館が、公式Xアカウントに「当館ではタメ口での問い合わせの場合、回答は必ず『満室』となります。来てほしくないですから」と投稿し、波紋が広がっています。
SNS上では「全サービス業はこのスタンスで良い」といった賛同の意見が見られた一方、「公式アカウントでこういう投稿をする時点で問題がある」などの批判も上がり、賛否両論が巻き起こりました。
旅館側はメディアの取材に対し、「常日頃思っていることを書いただけ。宿泊業界もそうだが、サービス業全般で店側の立場が本当に低く見られ過ぎだと思う」と回答しました。
これに対し、ある弁護士は「満室でないにもかかわらず、『タメ口』のみを理由に宿泊を拒否することは、旅館業法や青森県旅館業法施行条例に違反する可能性が高い」と述べています。
前薗:旅館業法などに限らず、サービス業が不合理な差別を理由に業務提供を拒んではなりませんが、現場の従業員が認識していないということも考えられますので、共有を徹底するなどの配慮が必要です。
また、最近は「カスハラ」という言葉が一人歩きしているがゆえに、「自分たちにとって都合が悪い客へのサービスは断っても良い」という曲解が進んでしまっているケースも見受けられます。
公式アカウントが法律に抵触するような発信をした場合、コンプライアンス遵守に向けた内部のチェック機能が働いていないというだけでなく、法律を理解している人が広報業務に携わっていないという見方もされますので、注意が必要です。
「Jアラートに酷似」CM効果音が物議
桑江:続いては「その他」です。大手の消費財化学メーカーD社の歯磨き粉のテレビCMに使われた効果音が、緊急時の警報音「Jアラート」に似ていると物議を醸しています。
CMの冒頭では、風船のような物体が膨らむときに効果音が流れ、SNS上には「注目させるためにわざと似せたのでは」「テレビから聞こえてびっくりした」といった声が寄せられました。
その後、D社は公式サイトで「当該CMの放映を中止し、指摘された部分を修正した上で再開する」と表明しました。
前薗:効果音に関する炎上事例は過去にありませんでしたが、放送中止の判断が迅速だったことで事態はすぐに沈静化しました。
クリエイティブを巡る問題を自社で起こさないようにするためには、効果音に至るまで複数名でチェックし、違和感があれば表明できる組織づくりが求められると思います。
店舗の利用形態を巡る客と店員の発言に賛否
桑江:家族で大手喫茶店チェーンE社の店舗を訪れた客が、「ほぼ勉強している人たちで座れない」「イヤホンをつけて自分の世界に浸り、長居されるのは迷惑」などとXに書き込み、コメント欄では賛同する意見や「店のコンセプトだから問題ない」といった声が交錯しました。
また、実際に働いている店員が「勉強する場所を提供する第3のおうち。店員は何ひとつ困っていない」と投稿し、まとめサイトでも取り上げられたことで賛否両論がさらに広がりました。
前薗:店員のコメントに対しては応援する声が目立ちましたが、コメント自体はE社が許可したものではないと思います。
「中の人」の発言は、企業の公式な見解・立場から乖離してしまう可能性が十分あります。今回の事例は、従業員の不用意な発信が話題になってしまうリスクを露呈したと捉えています。コメントを書いた店員が働いている店舗を特定されるようなことも起こり得ますので、企業としては注意喚起をする必要があると感じました。
他銀行の通帳画像を使用した広告に指摘
桑江:F銀行が自行のサービスの広告に使用した画像をXに投稿したところ、広告を見たXユーザーが「F銀行では使用されていないフォント」「画像の色調を変えると別の銀行名の文字が浮き出る」と指摘して話題となりました。
その後、F銀行は公式Xサイトで「他の金融機関さまの預金通帳の画像が含まれていることが判明した」「広告制作に際しての確認が不十分だったことが原因で、当該広告はすでに配信を停止している」と謝罪しました。
前薗:Xには、投稿された画像を検証する人が一定数います。クリエイティブの制作については代理店に一任しているケースも多いと思いますが、画像が検証されることを前提とした上でルールを決め、代理店の担当者ともシェアしておく必要があると思います。
デパート展覧会で「ほぼ全裸」撮影のインフルエンサーに批判
桑江:東京都内のデパートで開催中の展覧会に参加した女性インフルエンサーのG氏が、裸のように見える自身の写真をXに投稿し、「下品」「迷惑行為」といった批判を浴びました。
デパートの広報は「入場時には着衣していたが、会場内で脱衣したため、スタッフが注意を促した」と説明。G氏に対しては投稿の削除を求めており、今後はより安全な運営を目指す意向を示しました。
前園:最近は施設内で来場者が無断撮影され、肖像権を侵害されたというクレームが寄せられる問題も生じています。
各施設においては写真や動画の撮影に関し、施設管理権の範疇でどのようなルールを設けるべきかを判断しなければなりません。プロモーションの観点からSNSに投稿してもらいたいとしても、一定のレギュレーションが求められます。
ただし、過度に要求を強めるとステルスマーケティングのような見え方になってしまいますので、バランスを取る必要があると思います。