オリンピック・芸能人の不適切発言が多発した8月を振り返る(デジタル・クライシス白書-2024年8月度-)【第124回ウェビナーレポート】
- 公開日:2024.09.05 最終更新日:2024.09.20
目次
子ども向けTシャツなどのデザインに「男性差別」の批判
桑江:最初のテーマは、「ジェンダー・フェミニズム」です。ベビー・子ども用品専門店のA社が販売したTシャツや靴下のデザインが、「男性差別だ」として批判を浴びました。
現代美術作家のB氏とコラボレーションしてデザインした商品には、「ママがいい」「パパパママいつもありがとう」などの他、「パパは全然面倒みてくれない」「パパはいつも寝てる」と書かれたものもありました。
ネット上では「男性差別の商品を売り出すのはおかしい」「デザインにOKを出した感性を疑う」といった声が相次ぎました。
当然ながら、ジェンダー問題は男女に関係なく差別してはならないという認識を持たなければなりません。
また、コラボする場合は、本人の評判や過去の作品も踏まえた上で起用の是非を判断する必要があります。
前薗:これまでは、「ジェンダー問題=女性蔑視」が炎上のトレンドでした。しかし現在は、いかなる性も差別してはならないというニュアンスに移り変わっています。こうした変化をしっかりと押さえておかなければ、今回のようなミスに繋がってしまうかと思います。
PR動画に登場する夫婦の年齢差に賛否両論
桑江:大手消費財メーカーC社が公開した柔軟剤のPR動画に登場する夫婦の年齢差が、物議を醸しています。
動画では共働き夫婦の日常が描かれていますが、歳の差が開いて見えたことで、C社の公式Xのコメント欄には「親子に見える。気持ち悪い」「今の時代にそぐわない。非現実的」といった否定的な意見も上がり、「久しぶりに心温まるCMを見た」「良い夫婦」といった意見と合わせて賛否両論が巻き起こりました。
ただ、この件に関しては週刊誌のデジタル版に「クレームが殺到している」という記事が掲載されましたが、実際にそのような状況は確認されていません。そのため、メディアの報じ方を疑問視する記事も出てきています。
前薗:「炎上した」という記事が出ることで、「炎上していない」「炎上しているというのはおかしい」という声が上がり、それがまた話題になって情報が拡散していきます。
もともとの情報に関係、関心がなかった人も非実在型炎上の記事を見てさらに批判することで、まるで本当に炎上しているかのような状態がつくられてしまうということを感じた事象でした。
「おじさんの詰め合わせ」自民総裁選ポスターへの発言が波紋
桑江:女性タレントのD氏は報道番組で、自民党総裁選のポスターに対して「おじさんの詰め合わせ」と発言して波紋が広がりました。
ポスターには26人の歴代総裁の姿が写し出されており、ネットでは「歴代総理が男性のみだったことは事実」「男性差別の発言」「間違ったことは言っていない」「女性への配慮が足りないポスター」など、賛否両論の声が上がっています。
前薗:過去には、首都圏の自治体が作成した女性参画推進のポスターに、男性しか写っていなかったことが批判されたケースもあります。しかし、歴代総裁の顔ぶれを変えることはできないため、今回は異なる文脈で語られなければならないでしょう。
ただし、同一ジェンダーだけが並ぶコンテンツは指摘や批判を受ける可能性があるということを念頭に置いていたかどうか、作り手としては振り返っておくべきポイントかと思います。
夏場の男性の臭いに苦言、女性アナウンサーの投稿が物議
桑江:続いては「不適切発言・表現」です。女性フリーアナウンサーのE氏が、自身のXに「夏場の男性の臭い」に関する意見を投稿し、物議を醸しています。
男性のみを対象にしたことで非難が殺到し、E氏は該当の投稿を削除して謝罪したものの、批判の声は止みませんでした。
E氏は企業向けのハラスメント講師を務めており、彼女の言動の矛盾を指摘する声も上がっています。
投稿内容は男性をダイレクトに中傷したわけではありませんが、異性に対する発言は注意しなければなりません。特に、批判的な文脈で投稿する場合、十分に気を付けたとしても今回のようなことが起こり得るかと思います。
前薗:おっしゃる通り、異性の批判はしない方が良いということに尽きるかと思います。
ラジオの国際生放送で中国人外部スタッフが不適切発言
桑江:F局のラジオ生放送では、関連団体の中国籍スタッフが「尖閣諸島は中国の領土」と発言し、炎上しています。
スタッフは国際放送の中国語ニュース番組で、靖国神社で見つかった中国語の落書きに関するニュースを読み上げた際、「尖閣諸島は中国の領土」など原稿にない内容を追加で発言しました。
この件が広まると、SNS上ではF局への批判が殺到し、複数の政治家からも「事実であれば遺憾」といったコメントがありました。
前薗:企業としては今回の発言自体の是非を問うというよりは、どうすれば問題発生を防ぐことができたのかということに焦点を当てた方が良いかと思います。
海外の国や外国人に対する論調は非常にセンシティブになりつつあり、本件はそのひとつかと思います。
女性タレントの不適切なX投稿が炎上、謝罪と活動休止を発表
桑江:次は「芸能関連」です。女性タレントのH氏は、女性芸人G氏のX投稿に対し、「おまえは偉くないので、死んでくださーい 予選敗退でーす」と返信して炎上しました。
その後、投稿は削除されましたが、H氏が出演するラジオ番組の放送が中止となり、追って正式な降板が発表されました。
他にも、出演中だったスマートフォンのCMが非公開となり、バラエティ番組の出演シーンもカットされるなど、各社が対応を行うこととなりました。
騒動を受け、H氏は自身のXで謝罪と活動休止を発表したものの、謝罪前にサブスクリプション会員向けに行っていた「誹謗中傷マジ余裕タイプの芸能人」などの投稿が拡散され、さらなる批判を集めてしまいました。
企業に置き換えると、社内のインナーコミュニケーションにも注意が必要です。対外的に言っていることと違う動きなどをすれば晒されてしまうということを意識しなければなりません。
前薗:G氏への返信内容は、自身が破天荒なキャラクターだからといって許されるというものではありません。
ただ、H氏が唯一評価されているのは、「アカウントを乗っ取られた」という言い訳をしなかったことです。世間からすると、「乗っ取られた」という回答には炎上を収束させる効果はあっても、問題を解決する効果はないと感じています。
飲酒・喫煙の体操女子日本代表選手がパリ五輪を辞退
桑江:最後のテーマは、「オリンピック」です。パリオリンピックに出場予定だった体操女子日本代表のI選手の喫煙・飲酒が物議を醸しました。
喫煙・飲酒は日本国内の宿泊施設で発覚し、日本体操協会が定める行動規範に違反があったとして、パリオリンピックの出場辞退に至りました。
ネット上では「代表選手としての自覚が足りない」「妥当な判断」と批判する声が上がりました。「代表権を奪うほどではない」などと擁護する意見も聞かれましたが、「ルールを破ったのに擁護すべきではない」との反論も上がりました。
また、パリオリンピックでは、試合の判定や結果を巡って審判、相手選手、関係者などへの批判も殺到しました。柔道女子日本代表の選手が敗戦後に泣き崩れる姿がテレビで放送されると、速やかに退場しなかったことへの批判が噴出し、SNS上での誹謗中傷も問題視されました。
日本オリンピック委員会はこうした誹謗中傷を止めるよう声明を出し、話題となりました。
前園:これまではテレビに向かって発していた野次がエスカレートし、ソーシャルメディアを通じて誹謗中傷という形で可視化されたと見ています。
自社の従業員が誹謗中傷行為に加担してしまうことも十分考えられるため、注意喚起や教育・啓発を行っていく必要があると思います。
南海トラフ地震のデマや誤情報がSNS上で拡散
桑江:「その他」としては、南海トラフ地震に関する臨時情報を発表した後、SNS上で多くのデマや誤情報が拡散される事象が発生しました。
「地震雲」や「人工地震」など非科学的な内容の投稿が拡散されて不安の声が広がり、「2024年8月14日に南海トラフ地震が発生します」という過去の投稿が広く拡散されたことで、その内容を信じる人たちが騒ぎ立てました。
国や自治体は、不確かな情報をむやみに信じたり拡散したりしないよう呼び掛けています。
前薗:投稿者にとっては、拡散されればお金になります。そのため、デマ自体は必ず発生するということを前提に行動していただく必要があるかと思います。
AIアーティストとのコラボ動画が騒動に
桑江:大手ファストフードチェーンのJ社が公式Xで公開したAIアーティストとのコラボレーション動画が賛否を分けています。
動画では生成AI技術を使い、商品のセールを告知する動画で、公開後のインプレッション数は1000万回を超えました。
ネット上では「素晴らしい作品」「すごい」といった肯定的な意見が上がった一方、「気持ち悪い」「不気味」「AIである必要性が感じられない」といった否定的な声もありました。
また、広告動画の目的や質に対しても、批判的な見方が寄せられています。
前薗:企業の生産性改善やコスト削減にとって、AIが果たす役割は非常に大きいと考えています。一方、著作権の問題やクリエイターから仕事を奪うという論点など、AIの活用には一定数の批判が集まってしまうのも事実です。
企業としては、「なぜAIを用いたのか」「権利関連への配慮をどれだけ丁寧に行ったのか」について説明できるように準備しておくことが重要かと思います。
ステマ規制で「勝手広告」が続出、企業イメージ毀損の恐れも
桑江:「今月のトピックス・注目記事」では、ステルスマーケティング規制を巡って発生している想定外の動向を紹介します。
ステマ規制は、ステマや根拠の乏しい「ナンバーワン」表示を防ぐために導入されました。ところが、企業から依頼された広告でないにもかかわらず、個人がSNS上で商品の口コミを書き込む際に「PR」などと表示する例が急増しています。
いわば「勝手広告」とも言える現象ですが、ステマ規制を拡大解釈して「何でもPR表示をしておけば良い」と考えるユーザーが増えたことが原因とみられています。そうした書き込みが企業のお墨付きのような印象を与えてしまい、ブランドイメージを毀損するリスクも出てきています。
企業としては、自社のブランド名や屋号でヒットする情報をモニタリングし、「勝手広告」を発見した場合はしっかりと対応する必要があります。
前薗:世の中に普及している監視ツールは、YouTubeやInstagram、TikTokの情報を機械的に収集できないことが多いのが実情です。「勝手広告」を捕捉するには一定のリソースを割く必要があり、そうしたことも併せて確認していただければと思います。