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都知事選などトラブルの多かった7月を振り返る(デジタル・クライシス白書-2024年7月度-)【第123回ウェビナーレポート】

公開日:2024.08.08 最終更新日:2024.08.26

栄養ドリンク剤の広告に「男女差別」の批判

桑江最初のテーマは「ジェンダー・フェミニズム」です。製薬大手A社の栄養ドリンク剤の電車広告が「男女差別」と非難を浴びました。

広告は、男性向けと女性向けの2パターン。男性向けには「時代が変わると疲れも変わりますからね」、女性向けには「仕事、育児、家事。3人自分が欲しくないですか?」というキャッチコピーが記載されていました。

広告がネット上に拡散されると、「女性だけに仕事、育児、家事を押し付けていると感じる」「共働きが主流の今の時代に合っていない」「まずはジェンダー観を変えてほしい」「社内に誰も止める人がいなかったのか?」といった批判が殺到しました。

前薗マーケティングの観点から、ターゲットに合わせて広告を出していきたいと考えたのでしょう。とは言え、性別をセグメントして何かを伝えていくことは非常に難しくなってきていると感じます。

女性向けのキャッチコピーには「仕事、育児、家事」という言葉が具体的に書かれていました。そのため、全部女性の役割という見え方になってしまったのだと思います。

国のカスハラ対策資料に「偏見助長」の声

桑江続いては「不適切発言・表現」です。ある中央省庁が作成した「カスタマーハラスメント」の対策資料が物議を醸しました。

資料には、威張り散らす行為をする人について「社会的地位の高い人、高かった人、定年退職したシニア層などに傾向がみられる」と記されていました。しかし、「特定の人たちだけを名指しすることは誤解を招く」との抗議を受け、修正しています。

ネット上では、誤解を招く記載を批判する意見もありました。一方、抗議が1件のみだったにもかかわらず資料を修正したことで、「国がカスハラを受けた」「カスハラに屈した」などの意見が多く寄せられています。

この資料には、記載内容の根拠となるデータなどは併記されていませんでした。加えて、今回は1件のみだった抗議を受け入れています。少数意見を取り上げるには、それなりの理由が不可欠で、慎重に対応しなければなりません。

前薗本事案の論調は「高齢者が公園で子どもたちのボール遊びを禁止させた」というケースのように、「分断」というトピックスの中で語れる文脈かと思います。

ネット上では「高齢者を排したい」、反対に「子どもたちばかり優遇されるのは気に入らない」という極端な意見が表出しています。今回も、こうした状況に近いと感じました。

上場企業社長が株価絡みのX投稿で物議

桑江建設業界向けのアプリ開発・販売を手掛けるB社の社長は、X上で自社の株価に関する投稿を行いました。「我々の経営のことをなにも分からない人たちにイチイチ赤字がどうの言われる筋合いはありません」「黒字がマストならはなから黒字企業の株を買えばいいのでは?」などと発言し、批判が殺到しました。

B社は上場しており、社長のXでの発言は一部投資家の間で以前から問題視されていたといいます。社長は投稿当日に謝罪とアカウントを削除する旨を明らかにし、翌日にアカウントを削除しました。

前薗投稿内容は、経営者個人の私見だったのかもしれません。しかし、世の中は私見とは受け止めてくれません。

個人の発信と公人の発信の棲み分けをどのように図っていくのかということは、十分に注意しなければならないポイントかと思います。

採用担当者の発信内容にも「特権階級か」などの批判

桑江:企業の人材採用支援などを行うC社の採用担当者のX投稿にも、大きな批判が集まりました。投稿では再選考を受けた学生に対し、「今日リベンジ最終選考だった。結果は内定。その場で結果を伝えると感極まって涙を流していた。本当によく頑張った」などと自身の想いを述べています。

しかし、その投稿を見た人たちから「自己陶酔」「特権階級にでもなったつもりか」といった反発が続出し、採用担当者はアカウントを削除しました。

今回の投稿内容について、採用担当者は十分に注意しながら書いたのかもしれません。ただし、他人が読んでどう思うかということは、自分ではなかなか気付けない部分もあるかと思います。

前薗:採用担当者が書き込んだ文面をよく見ると、リベンジ再選考は「リベンジさせてほしい」と連絡してきた学生のみに実施したようです。つまり今回の投稿は、自社の採用現場で機会の不平等を起こしたという事実を世の中に発信してしまったということにもなります。採用担当者による発信は、そのくらい細かいレベルの注意を払わなければなりません。

イタリアンバルが「中国人、韓国人お断り」と掲示

桑江次は「差別・偏見」です。東京都内のイタリアンバルが店舗入り口の扉に「中国人・韓国人お断り」などと掲示し、その写真を店舗公式のXに投稿しました。

扉には「多様性とか寛容とか色々言われている昨今ですが嫌な思いをして働く気はないので中国人、韓国人お断りします」と書かれています。ネット上では「店側にも客を選ぶ権利がある」「人種差別に反対」など賛否両論が巻き起こりました。

外国人問題に詳しい弁護士は「個別に問題があった客を店側が拒否することは自由。一方、国籍や人種を理由とした入店拒否は、法的に言えば差別であり違法」との見解を示しています。

前薗法的に問題がないかどうかは、企業にとって最終防衛ラインです。ここを踏み越えてしまえば「コンプライアンス違反」という見方しかされなくなるので、何らかの意思決定をする際は慎重な法務チェックが必要になるかと思います。

都市公園の公式Xが政治的な投稿をして謝罪

桑江続いては、「SNS運用(誤爆・公私混同)」です。首都圏にある都市公園の公式Xが、政治に関する不適切な投稿をしたとして謝罪しました。

東京都知事選の告示前に作成された特定候補のチラシに対し、評論家が「アウトーー!」とコメントしたポストを引用したもので、投稿から約1時間後に削除されました。都市公園を運営する事業体の60代男性職員が自分のアカウントと勘違いして投稿したそうですが、公式アカウントを運用するなら投稿専用端末や管理ツールの使用を必ずルール化しなければなりません。

前薗スマートフォン1台分の投資で十分に防げた事象かと思います。今回のようなミスが引き起こす自社のブランド毀損は計り知れず、企業にとっては必要な投資です。

本事案に対し、世間から強い反応はありませんでした。それは、呆れてしまった人が多いからだと思います。

特定の都知事選候補を応援した会社社長に一部アンチから批判

桑江都知事選絡みでは、漬物の製造・販売で知られるD社の社長が特定候補への応援メッセージをXに投稿しました。

投稿は当該候補のアンチから激しく批判され、D社はもとより、D社製品を扱っている取引先にまで反発が及んだことが確認されています。SNS上では、不買運動を呼び掛ける声も上がりました。

社長は批判や不買運動の呼び掛けに対し、「関係先や取引先に苦情を入れる人に屈しない」などと反論しています。当該候補も自身のXで社長を擁護し、D社を応援する声が広がったことで賛否両論が巻き起こりました。

この社長のXアカウントは、SNS発信の成功例としてたびたび話題になってきました。そのため、自らの発言がどんな影響を与えるかは、重々承知の上で応援したと推察されます。

しかし、今の世の中では会社や取引先にまで影響が及ぶ事態が起きかねないことも確かです。経営者としてはこうしたことも想定し、どう行動するかを考えなければならないということかと思います。

前園:昨今の各種インシデントの傾向を踏まえると、オーナーシップが強い会社は「ガバナンスが効いていない」と判断されやすい状況にあります。

ネット選挙が活況になる中、今回のような場合は広報サイドが「社長個人の政治的な発言で、会社の公式見解ではない」というリリースを出すといった対応の必要性が増すと思います。

健康被害サプリ販売の製薬大手社長と会長が退任

桑江製品やサービスの不具合・不誠実な対応」では、2024年3月に初めて報じられた製薬大手E社のサプリメントによる健康被害問題で、被害報告の遅れが指摘されました。会社としてのリスクマネジメントやガバナンスが問題視されています。こうした中、E社は社長と会長の退任を正式に発表しました。

前薗オーナーシップが強い会社の場合、消費者は社長と会長が相当な自社株式を保有していることを知っています。退任しても「どうせ院政を敷くのだろう」と勘繰られてしまうので、企業としては株式の行方に関してQ&A形式で明確に回答できるようにしておかなければなりません。

配達員の「ながら運転」で正面衝突した映像が拡散

桑江最後は「その他」です。近畿地方の交差点で配達業務中の軽自動車が、いわゆる「ながら運転」で正面衝突してくる瞬間が対向車のドライブレコーダーで撮影されました。

運転していたのは、宅配大手F社の協力会社の配達員です。左手にスマホ、右手にたばこを持ち、地図を確認していたとみられます。さらに、対向車のドライバーは「配達員の胸部にシートベルトが映っていない」と指摘しました。

前薗最近はメディアに対し、動画などの素材が簡単に提供されるようになっています。YouTubeにニュース番組を持っているキー局もあるなど、不適切行為を拡散する出口は数多く存在します。

自社が告発される事態を防ぐには、「今この瞬間も撮られているかもしれない」という高い意識を社員一人ひとりに持たせ、その意識レベルをいかに維持させることができるかに懸かっているかと思います。

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