有名企業から総理、そして全世界へ 広がるAI活用による多様な炎上とその中身(デジタル・クライシス白書-2023年11月度-)【第114回ウェビナーレポート】
- 公開日:2023.12.06 最終更新日:2024.08.05
※当記事は「Twitter」当時の内容となります。
目次
「万博は中止やねん」など珍回答、大阪府提供の生成AIチャット
桑江:最初のテーマは「AI活用」による炎上です。大阪府が提供している生成AIチャットが大阪・関西万博をめぐる珍回答を連発し、物議を醸しています。
記者が「大阪万博は中止ですか?」と入力すると「せやな、大阪万博は中止やねん。残念やけど、またの機会に楽しめるやろうから、元気出していこか!」と回答。
改めて万博の開催期間を尋ねると、今度は「お父さんやお母さんが教えてくれたんやけど、大阪万博は9月18日で終わったみたいやで」と、すでに終了したという驚きの答えが飛び出しました。
生成AIチャットの活用を予定している企業は、管理・メンテナンスについてもツール提供会社との協議が必要になるかと思います。
CMの「AIタレント」が話題に
飲料大手B社は、CMに起用した「AIタレント」が話題を呼びました。ネットユーザーからは「言われなければAIだと分からない」「不祥事を起こすリスクがゼロなのは良い」「もうCMタレントはいらないかも」など、さまざまな意見が出ています。
これを受けて、B社はAIタレントの起用にはメリットもデメリットもあると説明。「自然な形で未来の容姿を表現できるなど汎用性が高い」という点を評価する一方、「誰もがひと目で分かる有名なタレントではないため、商品や企業のイメージを発信する際のインパクトは弱い」等の欠点も指摘しました。
AIのイラストやタレントを使うことの是非は、過敏な反応を招く可能性があることも含めて議論されています。起用する場合、否定的な声も一定程度は上がることを考慮しなければなりません。また、生成されたコンテンツが著作権を侵害していないかどうかも、しっかり確認しておく必要があります。
生成AI を悪用か、首相の偽動画が拡散
一方、AIを悪用した動画がSNSで拡散されるケースも発生しました。
実在するテレビのニュース番組の画面に見せかけ、カメラに向かって話す首相の声を加工。生成AIの技術を使って作成したものとみられます。
AIでの合成動画は過去にも問題になりましたが、フェイクニュースに詳しい法政大学の藤代裕之教授(ソーシャルメディア論)は「政治家の偽発言がニュースの形で事実であるかのように選挙前や災害時に拡散した場合、社会の混乱は計り知れない」と指摘。
「AI動画には、AI動画であることを示す統一マークの表示を義務付けたり、それがなければSNSで公開できない仕様にしたりするなど、発信側のルールづくりに向けた議論が必要」と対策を求めています。
実際に、1年ほど前には偽広告に大手消費財メーカーの製品、ロゴが使われたこともありました。SNS広告などは審査の基準が緩い、あるいはスピードが追いつかないというケースが取りざたされています。そのため、自社の製品などが悪用されていないかどうか注意が必要です。
また、そういったものを発見した場合は法的措置、または「自社とは関係ない」という告知をしなければなりません。
栄養食のカビ発生画像に騒然
続いては「不祥事」による炎上です。完全栄養食を販売するC社は自社の製品について、特定製造工場の一部製造ロットでカビ発生が多発する事案が判明したと発表し、謝罪しました。
SNS上では、この数日前からカビの画像が複数投稿されていましたが、C社の製品は過去に幾度も同様の事例が発生しています。ただ、これまでは個別に代替製品を送付するなどの対応を取っていた模様で、今回も個別対応をアナウンスするリリースを出しました。
ところが今回、SNS上の投稿はかなりの大拡散となり、中には「なぜ自主回収を行わないのか」という論調も見られました。そうしたことを受けてか、C社はリリースの翌日に一転して自主回収を発表しています。
しかし今回は、以前のように事は収まりませんでした。カビ発生の事実はもとより、後手に回った対応ぶりも悪印象となったのか、C社の株価は一気にストップ安の水準まで下落してしまいました。
劇団員の転落死に関するリリースを密かに削除
所属する女性団員が自宅マンションの敷地内で転落死した歌劇団。事故が発生した直後に公式ホームページに掲載していたニュースリリースを密かに削除していたとして、世の中の批判を浴びています。
そこにはファンや関係者への報告と、詳細については公表を差し控えることなどが綴られていました。しかし、スクリーンショットを撮った複数のファンにより、SNS上には削除前のリリースが出回っています。
このように、一度でもネット上にアップしたものは消すことができないと考えなければなりません。
もちろん、リリースなどを出す場合は内容に注意を払うことが大前提です。その上で、公開したものを修正しなければならない場合も安易な削除は禁物です。やむを得ず削除したとしても、削除したという事実を踏まえたリリースを出さなければなりません。対応を誤ると、逆に注目されて出回ることになってしまいます。
新人研修「100kmウォーキング」に「パワハラ」の声
次は「労働環境」が原因となった炎上です。「デンタルケア商品などを手掛けるD社が、新人研修で24時間以上ひたすら歩き続ける『100kmウォーキング』を行っていた」。そんな事実が、参加者からSNSのインフルエンサーにタレコミがあり、その後SNSインフルエンサーによる投稿で明るみになりました。
体調不良などで欠席したとしても翌年に必ず参加させられることや、「『ビリ』から5人中3人がウチの社員だって、これは誇らしいな」などと書かれた社長のブログなどが合わせて晒されました。
パワハラと思われる言動に対する世間の目はシビアです。インフルエンサーやユーチューバーにリークされると、このような形で広がってしまいます。企業内でも思い当たることがないかどうか、しっかりと確認しておく必要があるでしょう。
店員の貼り紙で営業を休止、過酷なワンオペが物議
「牛丼チェーン大手E社の店舗の入り口に、『ひとりできません』と営業を休止する旨の貼り紙が貼られていた」。そのような告発がX(旧Twitter)に画像付きで投稿され、物議を醸しました。
1人で店を切り盛りしていた店員が「ワンオペは無理」と自己判断して貼ったものです。自らの承認欲求を満たそうとするバイトテロとは異なりますが、SNSに投稿されるとすぐに拡散されてしまいました。
ワンオペに対する風当たりが強まっていることもあり、今回の事例をめぐるネット上の論調はE社への批判が強い印象でした。
AIで作成した政治広告、メタが情報開示を義務化
最後は「今月のトピックス」です。FacebookやInstagramを運営するアメリカの企業メタは、生成AIを使って作られた政治や選挙、社会問題に関する広告の動画や画像について、「AIが使用されている」という情報開示を広告主に義務付けると発表しました。
メタに対しては、広告の審査基準に関する批判が根強くあります。そのため、このような対処に踏み切ったと思われますが、他のプラットフォームもAIで作ったかどうかを判別できるような措置をとる流れが強まってくるでしょう。
AIは、さまざまな形で企業の利用が進んでいます。しかし、情報漏洩防止を含めたセキュリティ面と権利侵害の可能性については、しっかりと意識しなければなりません。
AIを使うこと自体も、ネット上を中心に賛否両論が巻き起こっています。AIを使ったコンテンツを世の中に出すべきかどうかも、改めてよく考えるべきです。
その上で表に出すと決めた場合は、一定の批判を受けることを想定した上で対応する必要があるでしょう。