迷惑客から告発者まで。炎上対応の正解は拙速か巧遅か(デジタル・クライシス白書-2023年3月度-)【第103回ウェビナーレポート】
- 公開日:2023.03.29 最終更新日:2023.06.27
目次
止まらない「客テロ」、回転すし店、牛丼店で被害続出
桑江:まずは「迷惑行為」です。2023年に入ってから飲食店での「客テロ」がトピックになっていますが、2月23日にも回転すしチェーン大手A社の店舗で若い男性の来店客がレーン上のすしにスプレーで液体を吹きかける迷惑行為の動画が拡散されました。A社は「確認が取れ次第、民事・刑事両面で厳正に対処する」としています。
また、牛丼チェーン大手B社の店舗でも、若い男性がキックボードに乗ったまま入店する様子を撮った動画が迷惑行為としてTwitterで拡散しました。
人気とんこつラーメン店の店舗では、来店客が商品棚を蹴り上げて倒す様子などを撮影した動画がTwitterで取り上げられ、騒ぎになっています。この動画は2022年8月に発生し、既に一定の解決をした事案だったことが店舗のお知らせによって明かされました。「客テロ」が頻発している流れの中で、改めてSNSに投稿されたようです。
前薗:迷惑行為が発生する可能性は、引き続きくすぶっています。多くの方には、何かおかしなことがあったときにスマートフォンのカメラを向けて動画を撮るという行動が染みついてしまっているという印象です。
例えば、電車の中で騒ぎになっている出来事がSNSなどで取り上げられるケースも多く目にするので、一挙手一投足まで誰かに見られている可能性があるということを意識しなければなりません。
また、企業名がペイントされた社用車、あるいは制服を着た従業員の不適切行為が発覚した場合も炎上する可能性があります。BtoC企業ではないから大丈夫というわけではないということを、改めて認識していただきたいですね。
居酒屋チェーンの内部告発が拡散
桑江:続いては「内部告発」です。居酒屋チェーンC社の元社員とされる人物の告発が騒ぎになりました。1月11日に入社し、2月25日に退職したという人物で、社内SNSに投稿したとみられる「手洗いしようとすると嫌な顔をされた」「期限切れ食材を使用」「店舗の責任者に怒号を浴びせられ」などの問題点が暴露系で知られるインフルエンサーの投稿によってTwitterなどに出回り、拡散されました。
C社はインフルエンサーの投稿の翌日、「詳細の事実を確認中」とのプレスリリースを出しましたが、全社員に送ったのは「確認中」ではなく「社内SNSを告発に使うな」と釘を刺すメッセージです。インフルエンサーはC社の店舗に関する新たな内部告発とともに、全社員へのメッセージ画像も投稿しました。
その後、C社は社内調査の結果をリリースしましたが、社内向けと社外向けのコミュニケーションに相違がある場合、そのこと自体が晒されてしまいかねないというリスクを忘れてはいけません。
前薗:「詳細の事実を確認中」というリリースは迅速でしたが、社内と社外の足並みをそろえないと、今回のような続報がリークされてしまう可能性があります。
また、C社は社内調査の結果をリリースしましたが、内容を一読すると該当社員が従事した店舗のみで確認したという趣旨です。ところが、SNS上では「他店舗も不衛生だった」といった声がどんどん集まっており、1店舗だけの出来事として事態を収束させようとするリスクは非常に高いと感じた広報対応でした。
当然ながら、一定の基準に沿って全店をきちんと調査した結果をアナウンスする方が、リリース内容を引っ繰り返されてしまう事態に陥りにくいでしょう。炎上対応にはスピーディーに対応しなければならない部分と、あとから反証されてしまうことがないようにしなければならない部分の双方が存在します。
老舗旅館社長の記者会見が物議
桑江:次は「衛生・安全」ですね。福岡県の老舗旅館が週1回以上は実施する必要がある大浴場の湯を年2回しか交換していなかったと報道され、物議を醸しました。旅館側は大浴場の設備システムメンテナンスに伴い、入浴時間を変更すると公式サイトで発表。その後、報道を事実と認めて謝罪しています。
保健所の検査では一時、基準値の最大3,700倍ものレジオネラ菌が検出されましたが、旅館の運営会社社長は記者会見で「大した菌ではないと思った」との認識を口にしました。
前薗:大ごとになった事案は、記者会見での言い回しをひとつ間違えるだけでも叩かれてしまいます。
拒否反応を巻き起こした昆虫食騒動
桑江:徳島県の高校がコオロギパウダーを使った給食を試食で出したところ、「子供に食べさせるな」というクレームが相次ぎました。昆虫食は未来のたんぱく源としてクローズアップされていますが、拒否反応は相変わらず根強いことがうかがえます。
こうした出来事に付随し、Twitter上では有志がまとめた「昆虫食を推している日本企業&研究機関MAP」が拡散されました。それに巻き込まれる形でクレームや問い合わせへの対応に追われてしまう企業が出ており、コオロギパウダーを使った機内食を提供している航空会社にも拒絶感を示す声が多く寄せられました。
このような議論が白熱すると生まれるのが、いわゆるフェイクニュースです。今回の事案に絡んでは「2018年に内閣府食品安全委員会はコオロギ食の危険性を記載していた」というツイートが拡散されましたが、偽情報・誤情報対策機関「日本ファクトチェックセンター」(JFC)は不正確な内容であることを指摘しています。
前薗:さまざまな立場の意見が飛び交う状況を見ていると、新型コロナウイルスの「ワクチン」が「コオロギ」に置き換わっただけのように感じます。
企業が新しい問題に取り組む場合、一定の拒否反応を示される可能性を考慮しなければなりません。そうしたことを念頭に置いた広報対応などの準備が求められると思います。
「結婚は?」「子供は?」メディアの質問に批判
桑江:「ジェンダー」関連では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士候補者選抜結果に関する記者会見で、候補者2人への結婚やパートナー、子供の有無などを尋ねる質問があり、ネット上では「本質に関係ない」「時代錯誤だ」などと批判する声が上がりました。
前薗:社会はこのような質問と回答を求めていないことが多いということですね。メディア関係者の立ち居振る舞いにも、世間が関心を寄せているという事実を示す事例のひとつだと思います。
「女性用なしの公衆トイレ」に賛否両論
桑江:東京・渋谷区に新設された女性専用トイレがない公共トイレがネット上で拡散し、賛否両論を巻き起こしています。
区議の一人が「渋谷区としては女性トイレをなくす方向」とツイートしたのが発端ですが、区はホームページ上で「このトイレには共用トイレ(個室)が2ブースあり、性別に関わらず誰もが快適にご利用いただける環境が整ったもの」と主張しました。さらに、渋谷区は「今後のトイレ整備について女性トイレをなくす方向性など全くございません」と全面的に反論しました。
前薗:SNS上では、ミスリードを誘発しかねない投稿が目立ってきている印象です。リツイートもコメントもそうですが、「この内容は本当に正確か?」「この投稿に参加して問題ないか?」を確認してから反応するようにしないと、炎上の参加者と見られてしまう可能性があると感じました。
暴露系インフルエンサーも告発される側に?
桑江:続いては「モラル」です。埼玉県のある高校は、生徒による不適切動画がSNS上で物議を醸した件について謝罪しました。
問題の動画の内容は、東日本大震災の被災者を嘲笑するようなニュアンスの不適切発言です。批判されて当然の内容ですが、未成年の生徒の投稿をモザイクなしで投稿して拡散させた著名な暴露系インフルエンサーにも「私刑ではないか」というニュアンスの批判が殺到しました。
「他人の人生をつぶせるレベルに達しており危険」という声まで上がったのは従来と明らかに異なる反応で、風向きが一変したという印象です。
前薗:このインフルエンサーの影響力が大きいのは事実だと思います。もちろん、未成年であろうと不適切動画を投稿するのは許容できません。ただし、晒す行為が行き過ぎてしまうと自分に跳ね返ってくる可能性があることを実証したと言えます。
その半面、このインフルエンサーは影響力が強すぎるがゆえに、自身の投稿をめぐる炎上は広がらないまま収束しました。世の中の「悪」を暴いてくれる役割に期待している方々が、今も一定数いるということでしょう。
桑江:暴露系インフルエンサーを取り巻く状況は、もはや行き着くところまで行き着いたと感じます。1年前とは比べものにならないほど影響力が強まり、マスメディアにも匹敵するほどの「権力」を持つようになったこのインフルエンサーがどう振る舞っていくのかが問われているのではないでしょうか。
すでに一定数のアンチも存在しているので、今後どういう展開に変わっていくかを注視する必要がありますね。