大きく変わった2022年の炎上傾向を専門家が解説。2023年のリスクトレンドとは?-デジタル・クライシス白書2023発行記念ウェビナー-【第101回ウェビナーレポート】
- 公開日:2023.02.15 最終更新日:2024.05.09
※当記事は「Twitter」当時の内容となります。
目次
2022年の炎上件数は減少も、下半期は急増
桑江:2022年の炎上件数は前年比196件減の1,570件で、2019年の統計開始から初めて前年を下回りました。
一方、6月以降の件数は一気に増え始め、下半期(6〜12月)の月平均件数は168件と前年全体の月平均を上回っています。
※「デジタル・クライシス白書2023」より引用
山口:統計開始以来、初めて炎上件数が減ったというのはなかなか興味深いですね。新型コロナウイルスに関してセンシティブな状態は続いているものの、人々が新型コロナウイルスに対してかなり慣れてきたように思います。
一方、下半期で増えたのは感染者数との相関関係があるのか気になるところです。これは感染すると、思考がネガティブになったりSNSを眺める時間が増加する等の様々な理由が考えられます。このまま高止まりするのか、一時的に増えただけなのかがとても重要なので、2023年の統計にも注目しています。
法人、一般人の炎上割合が増加
桑江:さて、炎上事案の主体も大きく変化しています。2022年は著名人の割合が下がり、法人と一般人が増えました。統計開始から初めて法人が著名人を上回り、一般人の炎上が勤務先の企業や団体に飛び火することも十分起こり得ます。
※「デジタル・クライシス白書2023」より引用
山口:一般人が増えているのも興味深いですね。5年ほど前にNHKと一緒に分析したことがありますが、一般人の炎上は非常に大規模化しやすいことが分かっています。
例えば、大手回転ずしチェーンの店舗で撮影された不適切動画は、運営会社の時価総額を暴落させました。一般人の炎上が企業に大きなインパクトを与えることもあるので、自社だけで危機管理対策を完結させるのではなく我々のような専門的な立場のものが入りケアしていく必要性も高まっていると思います。
ジェンダー不平等、男女差別などの問題行動が続出
桑江:2013年にはバカッター、2019年にはバイトテロが騒がれました。4、5年おきにこうした問題が表面化しているため、2023年がどうなるのかも興味深いですね。
2022年に炎上した問題行動の内容を見ると、ジェンダー不平等や男女差別など、特定の層を不快にさせるような内容・発言・行為の割合が前年の35.4%から42.6%に増えました。サービスや商品に関連する過失・欠陥などに該当する分も増えています。
※「デジタル・クライシス白書2023」より引用
山口:ジェンダー問題に関しては毎年のように大炎上する企業が現れていますが、なかなか学習が進んでいないのが実態ということですね。
広告などのコンテンツを制作するときは多様な人を集めるだけでなく、心理的安全性を確保しなければなりません。例えば、20代の女性でも自由に発言できる雰囲気をつくることが非常に重要です。
また、サービスや商品に関連する過失・欠陥などは炎上するかどうかを抜きにしても大きな問題であるため、割合が増えているのは由々しき事態でしょう。企業は今一度、気を付けるべきかと思います。
桑江:企業の炎上事案は「娯楽・レジャー業界」が最多の159件、「IT・メディア業界」が152件と続きました。
山口:ランキングに関して例年と大きな違いははないと思いますが、やはりBtoCのビジネスは炎上しやすいので気を付ける必要があるでしょう。
炎上の発端となっている媒体としてはTwitterが圧倒的に多いようですね。
桑江:無作為抽出した炎上事案100件のサイト別露出源は、Twitterが45.0%から71.0%に急増しました。ちなみに、5ちゃんねる発の炎上事案は0件でした。
※「デジタル・クライシス白書2023」より引用
山口:Twitterが一番多い状況はずっと続いています、最近はTikTokやInstagramでも炎上が増えている印象ですが、2023年はどうなるかが注目されますね。
桑江:毎年、発生した炎上事案から無作為に100件を抽出してメディアに取り上げられる割合も調査しました。円グラフでも示す通り、ついに2022年には100%に到達したのです。
「24時間未満」で放送・記事化される炎上事案の割合も高まり、2022年は前年比11.7ポイント増の59.0%と半数を超えました。これは、メディア側も速報体制を整えているということの表れかと思います。
※「デジタル・クライシス白書2023」より引用
山口:メディアが取り上げると、炎上は激化・大規模化しやすくなります。
とりわけ、インターネットメディアは炎上記事を書くことでページビューを稼いで儲けるビジネスが成り立っているので、放送・記事化される炎上事案が激減する未来は予想できません。今後も、炎上事案が大規模化すると言えると思います。
週1回以上の認知割合が過半数、炎上がより身近に
桑江:2022年12月21~26日には、スマートフォンかパソコンを保有している全国の5,142人(10~60代)を対象に「炎上事案の特性に関する調査」を実施しました。
炎上を1日1回以上認知している人は17.7%、週1回以上認知している人は54.6%に上っています。2021年の前回調査より増えており、炎上がより身近になっている印象です。
※「デジタル・クライシス白書2023」より引用
山口:ネットをよく使う人なら、炎上を目にするのは珍しいことではないでしょう。50代、60代でもそれなりの割合が認知しているので、炎上がいかに一般化されているかが見えてくると思います。
桑江:炎上を認知した媒体は「SNS」が最多の36.6%で、「テレビ」「ニュースサイト・アプリ」が続いています。「家族や友人、職場の同僚から」というパターンもそれなりの数に上り、リアルな場でも話題になっていることが分かります。
山口:SNSがテレビを上回っているのは面白いですね。
テレビが炎上事案をあまり取り上げなくなったと同時に、SNSの利用時間が増えて一般化したのだと思います。告発系インフルエンサーも増えている中、炎上事案がSNSで拡散されることによる影響は計り知れないので、早めのケアが一層重要になるでしょう。
炎上は売上や株価を直撃する
桑江:炎上した企業の商品・サービスの購入や利用を再検討・停止する人は30.6%で、優先順位が下がったと答えた人も含めると59.6%に達しました。
※「デジタル・クライシス白書2023」より引用
山口:炎上が企業の売り上げや株価にネガティブな影響を直接与えるのは間違いありません。これだけ多くの割合の人の消費行動を左右するという調査結果からも、対策の重要性が見えてくると思います。
桑江:炎上後の企業の対応を確認する人は66.8%、その内容次第で良い印象を受ける人は38.0%でした。
さらに、対応スピードによって印象が変わる人が51.1%と初めて半数を超え、24時間以内に対応が公表されると良い印象を受ける人も28.2%と増加しています。
山口:炎上を100%予防するのは不可能なので、万一の場合に社内の各部署が連携して迅速に対応することが重要です。
対応が良かったことで企業の評判が高まった事例も、正確さ、丁寧さと共に事実をしっかり公表することが求められていると思います。
多様化する炎上への備えが一層重要に
桑江:SNS上での立ち振る舞いだけでなく、リアルな現場も含めたさまざまな場面でも、炎上が発生するリスクがあります。
企業の場合は従来のバイトテロだけでなく、プロモーションの表現方法やそれを採用するに至ったプロセスについても批判されるケースが見受けられます。
また、企業の不正を是正しようと考えた従業員が、インフルエンサーなどを通じて社外から告発するというリークカルチャーも成熟してきている印象です。
炎上の理由が多様化する中で発生をゼロに抑えるのは困難ですが、いざというときにどのような対応をして信頼を取り戻すかを、日頃からしっかりと考えておかなければなりません。
その上で、常に最新の炎上トレンドを把握し、自分たちの情報をアップデートしていく姿勢も求められると思います。
山口:炎上事案がすごく減ることは考えにくいのですが、改めて2023年の推移を注意深く見ていく必要があるでしょう。
告発系インフルエンサーが増えていることも気になります。迷惑系ユーチューバーなどと違い、彼ら自身が何かのミスを犯して退出していくことは少ないと思われますし、マスメディアにも匹敵する驚異的な影響力を持っているため、どんな炎上も無視できません。
内部告発をしやすくなっている中で企業にクリーンさが求められるのはもちろんですが、迅速かつ正確に炎上に対応するための仕組みを事前に整えておくことが一層重要になっていると思います。