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企業における週刊誌的「危機管理論」【第56回ウェビナーレポート】

公開日:2021.07.14 最終更新日:2023.06.20

ネット社会で高まる「内部告発リスク」

桑江:今やさまざまな企業スキャンダルが週刊誌で報じられる時代になり、企業広報も週刊誌の記者と対峙する機会が増えています。つまり、週刊誌の記者から連絡が入るということは、企業にとって危機が迫っているということでしょう。
企業スキャンダルが増えた理由は、インターネット社会になってどこから情報が漏れるか分からなくなったからです。週刊文春の企業スキャンダル報道もネットで情報提供を募る「文春リークス」発が顕著だと言われています。つまり、世間を騒がせる大スクープの多くが「タレコミ情報」によってもたらされているということになりますね。

赤石:おっしゃる通り、スクープの裏側では「リーク」が目立ちます。社内、もしくはその周辺から情報が提供され、スキャンダル報道になるということですね。文春リークスはその典型例で、世間を騒がせている週刊文春のスクープは9割方が文春リークスによるものと言われていて、毎週のように多くのタレコミ情報が編集部に集まっています。
ネット時代を迎え、誰でも簡単に編集部にアクセスして内部告発をできるようになったという状況も確かにあるでしょう。つまり、企業は昔以上に内部告発のリスクを抱える時代になったと言えると思います

桑江:週刊誌の華はスキャンダル報道ですから、有名人や有名企業の「裏の顔」を書くことが強力コンテンツの1つになりますよね。逆に言えば、週刊誌に記事を書かれるというのは企業にとって大きなリスク要因です。なぜ今、そのリスクが高まっているのでしょうか。

赤石:週刊誌報道が以前に増して世の中で騒がれやすくなっている背景にあるのは、映像や音声のリークを重視するようになったことです。決定的な証拠になるそれらの素材を入手できれば、テレビやネットにも話題を拡散できますから。

桑江:企業広報に週刊誌の記者から連絡が入るときはそうした素材がそろい、裏付け取材は全て終了しているというケースがほとんどですよね。

記者会見で許されない嘘と保身 準備不足なら見送りが得策

赤石:不祥事の記者会見は基本的に「公開処刑の場」に近く、記者は血眼になって質問します。メディアに全面降伏する心構えで臨まなければ、非難の集中砲火を浴びてしまうのです。
「組織を守りたい」「騒動を収めたい」といった中途半端な気持ちで記者会見を開き、組織の論理を何度説明したところで理解されるわけがなく、炎上状態に突入するということですね。

桑江:なるほど。

赤石:記者会見で重要なポイントは2つです。1つは嘘の発表。記者はいろいろな情報を集めた上で質問します。表面的な回答で取り繕おうとしても反証を出されて叩かれてしまうので、嘘をつくこと自体が大きなリスクになってしまいます。
問題の全容が把握できていないのであれば、記者会見自体を見送った方がいいでしょう。プレスリリースで「調査中」とする方が、中途半端な状態で記者会見を開くより傷が浅く済むと思います。
もう1つは、「記者会見は誰に向かって開くのか」ということです。組織の論理ばかり主張し、自らの保身だけを考えている姿勢を示すのは本当にマイナスであるようにしか見えません。
記者会見はメディアを通じ、その先にいる国民に向かって開かれるものであるということを理解しておく必要があります。自分の都合や理論、感情を出したところで国民には伝わりません。求められるのは国民が納得できる明確な回答です。

桑江:それを用意できないなら、記者会見を開く意味はないということですね。

赤石:記者会見を開けば、メディアに映像、写真を撮影する機会を与えることにもなります。質問に対して明確に答えられなかった場合、テレビではそのシーンが繰り返し報道されるので、ネガティブ情報が拡散されるきっかけになりかねません。

「把握」「分析」「処分、対応」…危機管理に不可欠な迅速さ

桑江:スキャンダルが発生したときの危機管理は、どのように対応すればいいのでしょうか。

赤石:「問題の全容を迅速に把握する」「メディアの報道を分析する」「問題についての処分、もしくは対応を決める」という3つのステップが重要になります。
ステップ1の社内調査で失敗しがちなのは、社内の関係者の言葉を鵜呑みにしてアナウンスしてしまうことです。直後の記事で真相が明らかになれば、「嘘つき企業」と呼ばれて炎上するでしょう。記事が出る前にどこまで事実に迫れるかが、危機管理上の大事なポイントと言えます。

桑江:週刊誌から連絡が入ったということは、何らかのファクトを押さえられているはずだと考えるべきですね。

赤石:ステップ2は報道された後の話で、「スキャンダルの続報はありそうか」「他メディアも後追いで動いているのか」といったことに目を配っておかなければなりません。
そしてステップ3は、スキャンダルが報じられた後の被害を最小限に抑えるのが目的です。スキャンダルには法令違反と倫理的な問題の2種類がありますが、法令違反は社内処分を迅速に行い、あとは当局に協力するしかありません。
一方、不倫など倫理的な問題は世論の反発を買う可能性が高く、人間の感情をどうコントロールするかが問われます。いかに早く謝罪するかが大切で、その姿勢を示さなければ世論も「反省していない」と納得しないでしょう。落としどころがないままでは、いつまでも報道が続いてしまうことになりかねません。

メディアを司るのは世論の感情 時には「耐える勇気」を

桑江:メディアと向き合う上で、心掛けるべきことはありますか。

赤石:メディアの本質は感情論で、報道は必ずしもフェアではないのが現実です。同じような話題でも激しいバッシングに遭うケースもあれば、全く話題にならず報道が立ち消えになることもあります。両者の違いは「許せない」という世論の感情が揺さぶられたかどうか。いったん感情が盛り上がってしまえば報道は過熱し、世論はさらに揺さぶられることになります。

桑江:世論の感情をどうコントロールするかが重要なんですね。

赤石:企業スキャンダルの記者会見に弁護士が同席し、質問への回答内容を制限するシーンを見たことがある人も多いかと思いますが、ほとんどの場合はプラスになりません。弁護士は法廷で法律論を戦わせる能力に優れていても、感情論の世界をコントロールするのは素人同然です。「この質問には答えないでください」というアドバイスは、国民感情の悪化を招くことの方が多いと言えます。
記者会見は100%の準備ができていないのであれば「百害あって一利なし」です。最も安全な策は迅速に処分を公表し、時が過ぎるのを待つことでしょう。
有事で炎上している最中に記者会見を開き、さらに炎上を加速させた企業、芸能人の例も多く見てきたので、時には耐える「勇気」も大事だと思います。

常に冷静に世論を見つめる視点を持つ

桑江:SNSと一般社会の世論には違いがあるとお考えでしょうか。

赤石:世論の一部をSNSが担っていることは間違いないでしょうが、「SNS=世論」とまでは言えないと思います。週刊誌が報じるスキャンダルに限れば、記事が出た瞬間にSNSも含めた世論が沸騰するというイメージがあります。
週刊誌サイドとしてSNSによる拡散状況は気にしますが、さまざまな意見の中身まで気にすることはあまりないですね。

桑江:玉石混交とも評されるネットメディアの現状については、どんな印象をお持ちですか。

赤石:週刊誌のような紙のメディアからネットメディアへと徐々に流れが傾いていくことは避けられませんが、取材をしてファクトを詰めていくとかギリギリまで踏み込んだスキャンダル報道を展開するという文化は全く根づいていないように見えます。
いわゆるコタツ記事や評論的なコンテンツが多い中、まっとうな報道に近いネット発のメディアがどこまで成長していくか注目はしていますが、まだそういう形にはなり得ていないイメージですね。

桑江:週刊誌から連絡があった時点で、「記事を書かれる前に公表してしまおう」とリリースを出す企業も見かけます。そうした方法で、世論の反発を和らげる効果は期待できるのでしょうか。

赤石:週刊文春は毎週火曜に校了し、木曜に発売しています。芸能人などに多いのは発売前の水曜にスキャンダルなどを公表するパターンですが、翌日発売の記事が注目されて余計に炎上するケースも少なくありません。
「週刊誌が報じる前に発表したということは、よほどまずいことなんだろう」とも思わせかねないので、必ずしも得策ではないでしょう。
結局、木曜には全誌が書ける状態になるだけで、表沙汰になることを防げるわけでもありません。そのような手を使った相手には週刊誌側が恨みを持つため、取材攻勢がより強まるリスクが高まる気もします。

桑江:「耐える勇気も」というお話もありましたが、企業広報として危機管理を担当する皆さんに改めてメッセージをお願いします。

赤石:危機管理は非常に難しく、神経を使う仕事かと思います。しかし、企業内広報であっても企業の立場と異なる視点で世論に対応することを心掛ける必要があると思います。
「社内の人を守りたい」という意識だけで広報に力を入れても批判されることの方が多くなってしまいますので、常に冷静に世論を見つめる視点を持つことが大事ですね。

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