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デジタル・クライシス白書-2021年8月度-【第63回ウェビナーレポート】

公開日:2021.09.01 最終更新日:2023.06.20

東京五輪関連の炎上事例が続発

桑江:7月下旬から8月にかけても、さまざまな炎上事例が発生しましたが、やはり東京五輪関連が多かったですね。五輪開会式を中継した韓国のテレビ局はウクライナ、ハイチの選手団を紹介する際に当事国を差別、揶揄するような字幕と画像を使用して批判されました。
この放送局は、韓国代表が戦ったサッカーの試合でも相手チームの選手がオウンゴールをしたときに「ありがとう」という意味の字幕を流して物議を醸しましたが、これらの事例には共通点があります。
それは、以前なら国内から浴びるだけで済んでいた非難が、SNSを介して世界中から殺到したということです。まさに、今の世の中を表していると言えるでしょう。

前薗:こうした報道に対しては韓国世論も否定的で、マスメディアの報道姿勢と世の中の論調に乖離が生まれた事例でもあります。韓国は日本よりSNSの活用が盛んと言われているので、これから日本でも起こりそうな炎上の先行事例が出てくると思いますね。

桑江:ソフトボール選手の金メダルに突然かじりついた市長にも大きな批判が出て、市役所に抗議が殺到しました。金メダルを噛まれた選手の所属企業も市長を批判し、自社がスポンサーを務めるJリーグクラブと市の連携協定締結式をキャンセルする事態に発展したところです。

前薗:この行為自体は出来心以外の何物でもないでしょう。その一方で、企業が関わる組織や団体の関係者が問題を起こした場合は率先して関与しなければならない、あるいは関与することでポジティブに転換できる可能性があるということを示した事象だったと思います。

桑江:自社がスポンサーなどを務めている番組やイベントの不手際は静観するのがセオリーでしたが、かなり風向きが変わってきていますよね。
ちなみに、この市長は職員に直筆の謝罪文を配ったのですが、走り書きで内容も乏しかったことが暴露され、さらなる炎上を引き起こしてしまいました。例えインナーコミュニケーションの手段であっても、自分の手を離れたメールや文書などは当たり前に世の中に出回ってしまうということを意識しておかなければならないでしょう。

前薗:我々もセミナーなどで「SNSに投稿する際は、その内容が多くの人の目に触れても問題ないか確認すべき」という話をしていますが、インナーコミュニケーションとして送るメールも同様です。
仮に外に漏れた場合も法的、社会的責任を問われない内容かということは、よく見ておく必要があります。今回の炎上事例に関しては、謝罪文が流出したことについての学びが大きいですね。

タレントの差別発言に批判、CM起用企業は速やかに謝罪

桑江:続いては、メンタリストとしてテレビでも活動するA氏が、自身のYouTubeチャンネルで生活保護受給者に対する差別発言をして炎上した事例です。それ自体は「炎上商法では」と推測されましたが、本人が想定していた以上に大きな炎上になってしまったのが実態だと思います。A氏は一度謝罪したものの、「論点がずれている」などと否定的に捉えられてさらなる炎上を招きました。
2回目の謝罪も余儀なくされたのですが、A氏は過去に「泣き落としが相手の譲歩を引き出す」というツイートを投稿していたことも知られていて、あまり信用を得られていないというところです。
一方、本人が出演しているCMのスポンサーであるB社はInstagramで速やかに謝罪しました。起用しているタレントの不祥事で企業がこうした対応を取るのは珍しかったのですが、それによってB社への批判はほとんど見られませんでした。このように先手を打てたという事実は、他の企業にとっても参考になると思います。

前薗:世の中で問題になっていることに対し、自社がどう取り組むのかということをお考えいただく方がいいでしょう。消費者から「どう思っていますか」という問い合わせがあるかもしれませんし、話題になっている事象にアンテナを張っておくことが重要だと感じます。

桑江:ちなみに、この問題ではA氏と容姿が似ていると言われる政治家のSNSにも批判が殺到し、火消しに追われる事態になってしまいました。企業に置き換えれば、不具合などが原因で炎上した他社商品と似ている自社商品が批判されることも十分想定されますので、そのあたりはしっかりウオッチしなければならないでしょう。

前薗:今回の事例には「過去の発言が掘り返される」「スポンサー企業は対応を迫られる」「類似しているという理由で飛び火することもある」という炎上の3つの「型」が全部入っていました。そうした意味でインプットしていただきたいですね。

改正薬機法、アフガン写真…チェックしている人は必ずいる

桑江:8月1日に施行された改正薬機法にまつわる炎上事例も発生しています。Jリーグクラブのマーケティング責任者も務めるE氏が、自身が監査役を務めるR社の商品である除菌・消臭剤を宣伝するツイートを投稿したところ、「薬機法に抵触する内容」と指摘されました。

前薗:8月は五輪関連の炎上が話題になりましたが、改正薬機法で強化された広告規制の違反が疑われる行為には厳しい目が注がれています。課徴金の範囲も拡大しましたので、足元をすくわれかねない表現にはしっかり注意するべきでしょう。
経営層などは比較的自由にSNSで発信するケースが多いのですが、法に触れる可能性がある表現については社内で改めて啓発・啓蒙していく必要があると思います。

桑江:アフガニスタン情勢も注目される中、フリージャーナリストのN氏が提供した「現地写真」が物議を醸しましたね。全国紙の配信記事に掲載されたC氏の写真に対し、ネット上では「撮影者や撮影日時が明らかでない」という指摘が相次いだのです。
C氏は一部流用があったことを認め、新聞の配信記事は削除されました。C氏が提供した写真の一部は世界的にもフェイクと認定されていますが、写真の盗用・転用があった場合はすぐに分かってしまいます。
出典元となった写真を見つけるファクトチェックの手法も確立されていますので、写真素材を利用する際は気を付けなければいけませんね。例え無料でも、商業利用が認められていないものもありますから。

前薗:引用者も掲載するメディアも、「画像の出典元をチェックしている人がいる」ということを念頭に置いてほしいと思います。

情報が錯綜するコロナワクチン、企業の発信はリスク

桑江:新型コロナのワクチン関連の炎上事例も後を絶ちません。「接種時に副反応がなかった人ほど、感染しやすくなるようです」というブログを書いた教育評論家に対し、「事実ではない」という指摘が相次ぎました。
新型コロナやワクチンに関していろいろな情報が入り乱れている中で、誤った情報を記載してしまうとこうした指摘が出てしまいますね。

前薗:どういう意図で発信されたかにもよりますが、ワクチン関連の情報が錯綜している中で、そもそも企業や自社の社員がその件について発信するのはリスクになるということを認識しておく必要があるでしょう。

企業へのサイバー攻撃が急増、社外対応の備えを

桑江:さて、近年は企業などへのサイバー攻撃も増えています。製粉大手のD社がサーバーへの不正アクセスを受け、前例のない規模のシステム障害に見舞われました。
噂では、社名の発音が似ている「日本」への攻撃が、誤ってD社に向けられたとも言われています。実際に以前、「霞が関」を標的だったはずのサイバー攻撃で茨城県にある「霞ヶ浦」の事業所が狙われ、ハッカー集団が「間違えた」という声明を出したことがありました。
D社が攻撃されたのは東京五輪の開幕直前だったということも、そのように推測されている要因の1つです。

前薗:サイバー攻撃は急増していますので、広報やマーケティングの担当者はそうしたインシデントが起きた際、どのように社外対応を取っていくのかをリスクシナリオに組み込んでおく必要があるということですね。

桑江:顧客の個人情報などを扱っている企業は、かなりしっかり対応することを意識しなければならないでしょう。

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