デジタル・クライシス白書2025発行記念「2024年の炎上事例から学ぶ 企業対応の重要性とリスク管理の新常識」
- 公開日:2025.02.28

目次
2024年の炎上発生件数は過去最少の1225件
桑江:シエンプレが運営するデジタル・クライシス総合研究所がまとめた「デジタル・クライシス白書2025」によると、2024年の炎上件数は1225件でした。2023年の1583件と比べると358件、22.6%の減です。調査を開始した2019年の1228件も下回り、過去最少となりました。月間の平均発生件数は102.1件で、前年の131.9件から30件近く減っています。
炎上原因となった問題行動の主体は、著名人が37.2%、一般人が28.4%、メディア以外の法人が25.5%、メディアが8.9%でした。2023年と比較すると、著名人の割合は4.7ポイント、メディアは0.2ポイント増加し、メディア以外の法人は同率、一般人は4.9ポイントの減少という結果になりました。

山口:最も注目したのは、炎上発生件数が大幅に減ったことです。しかも、過去最少でした。2024年はSNSが各級選挙の結果に大きな影響を与えたにも関わらず、炎上発生件数は下がっています。その理由が一体何なのか、気になるところです。
予想される理由は、2つです。1つは、2024年は偶然そうなっただけということです。もう1つは、著名人や企業のコンプライアンス意識が高まったため、という理由は考えられますが、恐らく2024年は偶然そうなっただけという可能性が高いと思います。
そうだとすると、炎上が減少トレンドに向かうということではなく、これからもしっかりと対策を取ることが重要だと考えています。
業界別は「メディア」がトップ
桑江:炎上事案を業界別に見ると、「メディア業界」の炎上発生件数が最多の106件でした。次いで多かったのは、「娯楽・レジャー業界」の89件です。2023年と同様、消費者に直接アプローチする業界の炎上が目立ちますが、両業界の件数差は若干開いています。

山口:驚いたのは、「メディア業界」が相当な差をつけて1位になったことです。2023年も同順位でしたが、それ以前は「娯楽・レジャー」がトップでした。メディアがこれほど炎上しているというのは、この業界が世間からいかに厳しい目で見られているかということの証と感じます。
能登半島地震発生後、SNSで虚偽情報が拡散
桑江:それでは、2024年の炎上事例を、いくつか振り返りましょう。元日の能登半島地震では、震災発生後からSNS上で虚偽情報の拡散が相次ぎました。Xに自身の住所を明示され、「息子が挟まって動けない」と身に覚えのない投稿をされた石川県の40代女性は、「デマとしか思えず、家の場所もわかってしまう。投稿を消してほしい」と訴えました。
災害時の虚偽情報は、救助活動や支援の妨げとなって人命に影響する可能性があります。 2016年の熊本地震では、動物園のライオンが逃げ出したとのデマを拡散させた人物が逮捕されています。
山口:2023年は、Xの収益化が可能になったことが話題になり、インプレッションを増やす目的で迷惑投稿を行うアカウントの俗称である「インプレゾンビ」という言葉も登場しました。年明け早々の能登半島地震では、国内のみならず、海外のユーザーが、偽の救助要請やデマの複製投稿が大量にポストされたことが明らかになっています。
背景には、閲覧数を増やしてお金を稼ぐアテンション・エコノミーの広がりがあります。X側は「対策をした」と主張していますが、このような状況は続いていくと思われます。
展示住宅の施工不良を指摘したSNS投稿者への対応に批判
桑江:1月は、大手ハウスメーカー「タマホーム」が炎上しました。 住宅展示場を訪れた会社員男性が、モデルハウスの階段でむき出しになった金属のタッピングビスを発見し、写真に撮影してSNSに投稿したところ、タマホームから「当該ポストを削除してほしい」という電話がかかってきたそうです。
男性はビスが飛び出ている部分を相手に伝えました。しかし、タマホーム側はビスがあったことは認めつつ、引き続き削除を求めたといいます。 男性は「そのうち気が向いたら消します」と答えたとのことですが、タマホーム側は夜8時過ぎに直接男性宅を訪問した上、訪れた人物は名刺を出さず、名乗りもしなかったようです。
モデルハウスを訪れた際に記入した住所、氏名をもとに支店長が男性宅を訪れ、削除を直接依頼したのであろうということがSNS上で拡散されるや否や、タマホーム側の行為に非難が殺到し、炎上に発展することとなってしまいました。
山口:企業側の対応は、かなりひどかったという印象があります。今は、消費者がSNSを通して生の声を発信できる時代です。企業側が隠ぺいしようとしてできなかった場合は、隠ぺいしようとした事実だけが残り、より大きな騒動になってしまいます。本件は、すべてが裏目に出た事象で、リスク管理の方法が非常に良くなかったと感じます。
「高齢者は集団自決」発言の成田氏を広告起用も非難殺到で撤回
桑江:3月には、大手ビール会社のキリンが炎上しています。経済学者の成田悠輔氏を広告に起用したのですが、成田氏が過去に「高齢者は集団自決すればいい」といった過激な発言で物議を醸していたことで非難が殺到しました。SNS上では「#キリン不買運動」などのハッシュタグが使われ、広告起用への不快感や、キリンの高齢者福祉事業との整合性を問う声が上がりました。その後、キリンは成田氏を起用した投稿を削除し、広告とムービーも取り下げています。
山口:成田氏の広告起用に非難が集まることは、容易に想像できたはずです。過去に炎上したり問題発言をしたりした著名人の起用に関しては、リスクとリターンを しっかりと見極めた上で、どういった事態が想定されるのか、どこまで許容するのか、どのように自分たちの考えを表明するのかという軸を定めておくべきだと思います。
「芸能人が不倫」 滝沢ガレソ氏の憶測投稿に所属事務所が反発
桑江:5月には、著名なインフルエンサーの滝沢ガレソ氏が、アーティストの星野源氏を連想させる不倫疑惑をXに投稿しました。星野氏が所属する芸能事務所のアミューズは、投稿内容をただちに否定しただけでなく、滝沢氏を名指しで批判して「事実無根の情報拡散、誹謗中傷に対し、今後とも厳正な姿勢で臨む」と表明しました。
2024年の炎上発生件数が減少したのは、実は本件が大きな要因ではないかと見ています。騒動以降、滝沢氏は自らのXアカウントの運用方針を変え、6月から8月にかけては炎上ネタを扱うこと自体を控えるようになりました。それまでは真偽不明の話題も先んじて投稿していましたが、第三者がすでに取り上げた事象をまとめることが多くなりました。
山口:この出来事以降、滝沢氏は投稿姿勢を変えるという趣旨の発言をされましたが、それが炎上件数の減少につながったというのは興味深い分析です。
アミューズの対応は、迅速かつ効果的だったと思います。この手の噂は、一般市民には確かめようがないため、否定しなければどんどん広がっていきます。騒動が大きくなることを承知で迅速に対応したことにより、「滝沢氏が事実ではないことを投稿した」という受け止め方が定着し、一般市民に対してもメディアに対しても効果があったと思います。
ルッキズムに関する広告やLGBTQの接客指針が物議
桑江:10月には、大手日用品メーカーのユニリーバが展開するパーソナル・ケア製品ブランドのDove(ダヴ)が、渋谷駅で「私たちに必要ないカワイイの基準」と題した広告を展開し、物議を醸しています。広告は「基準や正解」とされている容姿のワードに対して打ち消し線を用い、「#カワイイに正解なんてない」と異論を唱える内容でした。
公式サイトの特設ページでは、「子どもたちの自己肯定感を育むことが目的」として特集も組まれましたが、それがSNSで拡散されると、「ルッキズムを却って助長している」「既存の美容界隈に美の基準があることを知らしめた」「子どもたちが通学中に見たら泣く」などの批判が殺到しました。
同月は、女性用下着メーカー大手のワコールが発表した新しい接客指針も波紋を呼びました。 指針では、LGBTQや障害者を含む多様な客層に配慮し、性別に関係なく利用できる試着室を案内することが含まれ、 SNS上では「男性が下着売り場に来ること」「女性用の試着室を利用できること」への不安や、「盗撮や従業員に対するセクハラ」を懸念する声が多く上がりました。
山口:ダイバーシティは、欧州では日本企業が想像する以上に重要なキーワードになっています。そのため、広告で多様性を肯定することが、支持を集めることにつながることは十分あるかと思います。
ただし、ルッキズムに強く反論しようとすれば、公言することが憚られていたネガティブな側面をわざわざ強調することとなり、マイナスの捉えられ方をされてしまう場合もあります。センシティブなテーマについては、広告にはそれほどの影響力があるということを理解した上で取り扱う必要があります。
解剖研修の現場写真を投稿した美容外科医に非難殺到
桑江:12月には、東京美容外科の黒田あいみ氏が、グアムで行われた解剖研修の写真を自身のInstagramに投稿し、批判が殺到しました。投稿には、解剖研修が行われている室内の様子や、笑顔でピースする黒田氏の写真が含まれており、モザイク処理が施された献体も写っていました。
この投稿がSNSで拡散されて批判が集まると、黒田氏は自身のブログで「倫理観が欠けていた」と謝罪しました。しかし、「解剖研修から得られる学びを多くの医師に広く知ってほしいため投稿した」という記述に対しては、「問題の本質を理解していない」といった厳しい声が上がりました。
本件に関しては、統括院長の麻生泰氏も自身のXで数回にわたり釈明や謝罪を行いましたが、「アメリカのため日本のルールとは異なる」「今回の件で臨床医が解剖に関わる機会を失うことがないよう願う」などと発言したことで、著名人を含めて多くの人々から非難を受けました。
山口:医療界には、このような写真を撮影する文化もあるのだとは思います。ただし、それをSNSに投稿するのはおかしいですし、医療界の視点で見ても倫理観が欠けていたのは間違いありません。
解剖研修の写真を投稿したのは、承認欲求などがあったからだと思いますが、このような投稿が大きな騒動に発展するというのは、個人も企業も変わりません。今はインフルエンサーによって瞬く間に広がりますので、「これを投稿することで誰かが不快にならないか?」「倫理的に大丈夫か?」ということを、よく考えて行動することが大事だと思います。
2024年の総括と今後の予測
桑江:2024年は、炎上件数が減少しました。しかし、SNSの潜在的なリスクが解消されたわけではありません。多様化している炎上のきっかけを把握していくことは、 これまで以上に困難になっています。
2025年は「企業の透明性への期待の高まり」「社会的不平等への感度の向上」が、炎上のトレンドを牽引する可能性があります。こうした状況においては、炎上に対するリスクマネジメントを定期的に見直し、適切な予防と早期対応の体制を構築することが不可欠と言えるでしょう。
山口:炎上の影響の大きさや、迅速な対応の重要性は依然として示されており、企業・ブランドや消費者行動への影響も明らかです。そのため、企業は炎上リスクを事前に分析し、適切な対策を講じる必要があります。
また、多様性の重要性が叫ばれる中、それをテーマとした広告展開はSNSで話題になりやすく、企業としての姿勢を示すことで自社の評判を高めることにつながります。 しかし、LGBTQなどのテーマはセンシティブです。だからこそ、多様なバックボーンを持つ社内の人たちが事前にかかわって遠慮なく発言できる機会を保証し、意図せず生活者を不快にさせる可能性がないか、さまざまな観点から検討することが重要だと思います。
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