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危機管理と顧客対応:顧客の不安を払拭する対応とは(デジタル・クライシス白書-2024年11月度-)【第127回ウェビナーレポート】

公開日:2024.12.20

チョコに異物?事実誤認の投稿内容に神対応

桑江最初のカテゴリーは「不誠実な対応」です。この事案は「不誠実」と正反対の対応ですが、2番目に紹介する事案と対比するために取り上げます。

11月4日、包み紙を開けたチョコレート菓子に生きた虫が混入している画像や動画が、Xに投稿されました。

投稿者は「パーティー用に2、3日前に購入した」「量(虫)が桁違い」など複数の投稿を行い、SNS上で拡散されました。

製造元のA社は同日中に、「季節商品で昨年以前に発売された商品と推察」「投稿主様にDMを送りご返信をお待ちしている」「投稿主様と皆様にご不快とご不安を与え、大変申し訳ございません」「早急に調査し、ご報告します」と、公式Xで状況を説明しました。

また、翌日には「最近購入した事実は誤認であり、ご自宅での保管状況が良くなかったことが確認できた」「ご家族とご本人様からお詫びの連絡をいただいたため、投稿主様へのコメントやお問い合わせはお控えください」などと呼び掛けています。

迅速な対応や投稿者に配慮する姿勢に、SNS上ではA社に対する称賛が相次ぎました。

前薗:異物混入のインシデントにどう向き合うべきかという、まさに広報対応の手本となるような事案だったと思います。

初動対応のスピード感もさることながら、事実誤認の告発をした投稿者本人のケアまでされたことが非常に良かったという印象です。

片や3週間を過ぎても放置し、テレビ番組で騒がれる事態に

桑江:A社と対照的な顛末をたどったのは、ほぼ時を同じくして発生した別の菓子メーカーB社の異物混入事案です。

東京都内でB社の菓子を購入した40代の女性は、袋の中にカメムシとみられる虫が混入しているのを発見し、B社のお客様相談室に問い合わせました。対応した担当者は、2週間以内に原因と状況を報告する旨を伝えています。

しかし、それから3週間以上が経過しても、B社から報告はありませんでした。女性の夫が再び問い合わせたところ、「工場と連絡がつかないため難しい」との返答があったとのことです。

結局、この事案はテレビの報道番組で取り上げられ、大ごとになってしまいます。B社は番組の取材に対して「今後、誠意ある対応をしていく」と釈明し、放送の翌日には公式サイトに謝罪文を掲載しました。

前薗:異物混入の申し出を受けてから混入経路の特定までは、数営業日中に終えるべきです。2週間以内では遅すぎるのですが、それほど悠長な期間さえも超過してしまいました。

こうしたことを考えると、昨今の炎上の潮流に基づけばネット上やメディアで問題視されるのは当然です。A社の行動と対比することで、学ぶべき教訓が浮き彫りになる事案だと思います。

返品商品のすり替えトラブル対応に「不誠実」の声

桑江:問い合わせへの対応が遅れたことで批判されたという点では、フリマアプリを運営するC社と出品者のやり取りがSNS上で物議を醸した事案にも注目すべきです。

新品未開封のプラモデルを発送した出品者は、パーツ破損を理由とした購入者からのキャンセル希望に応じたのですが、自身のXで「中身が抜き取られていた」と主張しました。

出品者はC社の事務局とのチャット内容も投稿したのですが、そこには「返品商品のすり替え等のトラブルは警察や弁護士などの公的機関への相談をご検討ください」「補償等の対応は行っていない」など、C社からのメッセージのスクリーンショットが掲載されていました。

本事案について、著名な暴露系インフルエンサーが取り上げると、出品者に対するC社の態度について「不誠実」との声が続出し、「自分も同様の被害に遭った」という投稿も相次ぎました。

これらの反発を受け、C社は公式サイトに「お客さまサポートの方針と体制の見直し・強化に関するお知らせ」を掲載し、随時対応をアップデートしていくと説明しました。その後、「商品回収センターの新規開設」「お客さまのサポート体制の強化」「お客さまへの補償の拡大」「不正利用者の排除」に取り組むことも表明しています。

前薗:企業が気を付けなければならないのは、「炎上したから補償などの特別な対応を取った」と思われないようにすることです。

一度、特別な対応を取れば、他の類似事案でも同等の対応が求められます。そうしないと、ユーザーに対する公平性が失われてしまうからですが、「以前に同じような被害を受けた」という人たちが一気に補償などの対応を求めてくることも考えられます。

それらの要望に応え切れないとなると、火に油を注ぐこととなりかねませんので、事後対応の意思決定は慎重に行う必要があると思います。

「闇バイト」求人の排除策に不満が続出

桑江:スキマバイトサービスを運営するD社が公式Xに投稿した、いわゆる「闇バイト」求人の対策が物議を醸しています。

投稿には「求人内容は、勤務日までに全件チェックする体制を構築している」と記載されていましたが、SNS上では「応募の際に個人情報を渡した時点で取り返しがつかなくなる」「求人情報の掲載前にチェックすべきでは?」など、チェック体制の甘さを批判する声が噴出しました。

また、「現場で違和感を覚えたらすぐに勤務を終了し、通報ボタンでお知らせください」というD社の投稿内容に対しては、「逃げられる状況とは限らない」「なぜ利用者に丸投げしているのか」といった怒りも多く見受けられました。

前薗:世間が怒っているのは「なぜ掲載前に厳正なチェックをし、不適切な求人を排除しないのか?」という点です。D社の投稿内容は真正面から回答していないので、世間は振り上げた拳を下ろしてくれません。批判されている点に答えない限り、反発の声を沈静化させることは難しくなってしまいます。

今回の投稿については「掲載前にチェックできる体制を整えるまで、このような段階を踏んでいきますので、もう少しお待ちください」とアナウンスした方が、よほど印象が良かっただろうと思います。

県知事選で再選候補をサポートしたPR会社社長が炎上

桑江:次は「不適切発言・表現」です。近畿地方の県知事選で再選を果たした候補者の選挙活動をサポートしたPR会社の社長が「広報全般を任された」とアピールし、激しく炎上しています。

当初劣勢とみられていた候補者は、SNS戦略などを駆使したことで知事に返り咲いたといわれています。旧来のメディア報道のあり方や選挙活動について、さまざまな議論が巻き起こる中、社長は選挙活動におけるSNS運用の具体的な戦略や展開内容を、自身のnoteで自分の功績として投稿しました。

ところが、選挙運動に用いたとするコンテンツの企画などについて、総務省の公職選挙法ガイドラインは、ネットでの選挙運動で「業者が主体的・裁量的に企画作成している場合、報酬を支払うと買収となる恐れが高い」と解説されていることもあり、陣営や社長の行動は「公選法に違反しているのではないか」と批判の声が上がりました。

候補者は、報道陣の取材に対し、PR会社に約70万円の報酬を支払ったことを認めましたが、あくまで「ポスターやチラシのデザイン制作費用」だと述べました。SNS運用などについては社長がボランティアとして個人で行ったものだとして「公選法に違反していない」と反論。SNSの監修者で戦略立案したとするPR会社社長と説明に食い違いが生じました。

他にも、こうした指摘を受けてnoteの一部内容を修正・削除したことが批判されており、「自らが関わった候補者の選挙戦術を公表するのは守秘義務違反」「有権者に対する情報操作」などと糾弾する声も上がっています。

前薗:また、選挙であろうとなかろうと、企業が業務上知り得たことを口外してはならないのは当然の所作です。個人のSNSアカウントだとしても、顧客企業に関する発信をする以上は、法や社会規範に沿う内容かどうかを慎重に検証する必要があります。

ピザ店の配達員がバイクで歩道走行

桑江:続いては「バイトテロ」です。大手宅配ピザチェーンE社の店舗配達員が、歩道をバイクで走行するドライブレコーダー映像がSNS上で拡散され、問題になっています。

映像には配達員が信号待ちの車を避け、歩道にバイクを乗り上げて走り去る様子が映っていました。

SNS上では「どんなに配達時間に遅れようが、交通ルールはしっかり守らないと」「配達員個人の問題もあるが、店のバイトリーダーや店長がしっかり指導していないのだろう」など、多くの批判が上がりました。

E社はメディアの取材に対し、「警察署に相談の上、厳正に対処する所存です」と謝罪しています。

前薗:企業としては、このようなことが起こるという前提で注意・啓発をすることが大事です。交通ルールを破る事象が実際に発生している以上、どんな言い訳もできないと思います。

製薬大手がステマ、PRと明記せず有償のSNS投稿を紹介

桑江:最後に「今月のトピック・注目記事」を解説します。消費者庁は、大手製薬会社F社がインフルエンサーに報酬を支払って書いてもらったSNS投稿を、第三者の投稿であるかのように自社サイトへ掲載した行為が「ステルスマーケティング(ステマ)」にあたるとして、再発防止の措置命令を出しました。

自社のサプリメント商品に関するSNS投稿には会社のPRであることが明記されていた一方、自社サイトにその記載はなく、第三者が自由な意思で書いたかのような表示となっていました。同庁は「一般消費者が事業者の表示であると判別するのは困難」とし、景品表示法違反にあたると判断しています。

前薗消費者庁によるステマ規制のガイドラインには、本事案のような行為がステマの具体的な典型例として書かれています。ガイドラインを精読せずに「PRマークさえ付けておけば問題ないだろう」という認識だと、今回と同様の事象を招いてしまう可能性があります。

企業には改めて、どのような考えのもとで規制が運用されているのかということを、しっかりと押さえておいていただく必要があると思います。

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