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チョコ菓子の異物混入騒動に見る企業対応とファンベースマーケティングの重要性

公開日:2024.11.29

事実誤認の投稿内容にも冷静に反応

2024年11月4日、包み紙を開けたチョコレート菓子の中で生きた虫が動いている動画が、X上に投稿されました。ショッキングな動画は瞬く間に拡散され、一部の投稿は2000万件を超える表示数を記録しました。

これに対し、製造元のA社は同日中に公式Xで反応し、「投稿のお写真は毎年発売の季節商品と思われますが今年は2週間後の発売のため、昨年以前に発売された商品と推察されます。投稿主様と皆様にご不快とご負担を与え大変申し訳ございません」と表明しました。

その後、買ったばかりのチョコ菓子の中に虫が入っていたという投稿は、誤りだったことが判明しました。A社は、投稿主本人と家族からお詫びの連絡があり、最近購入したものではない商品の保管状況が良くなかったことを確認したと明かしています。

一方、ネット上では異物混入の投稿に対し、事実関係が判明する前から「投稿主の保存状態が悪かったのではないか?」「営業妨害で訴え、損害賠償請求もすべき」といったA社寄りの意見が目立ちました。

しかし、異物混入が「事実誤認」と確認された後も、A社は冷静沈着な対応に徹し、投稿主や投稿内容への不快感や反発を表す行動は取りませんでした。一歩間違えば経営にダメージを与えかねない投稿でしたが、そのような行動を貫いたのは、なぜだったのでしょうか?

また、食品への異物混入は健康被害などをもたらす恐れもあり、本来なら企業の製造責任を追及する声が高まってもおかしくなかったはずです。それにもかかわらず、当初からA社を擁護する声が多かった理由は何だったのでしょうか?

「ファンとの密なコミュニケーション」を重視

実は、A社は2013年にも、SNS上に「チョコ菓子の中に虫が混入していた」という苦情が投稿され、拡散されたことがあります。

その際もA社は、苦情のあった商品は半年ほど前に出荷されたものであることを説明し、チョコレート・ココア製品の製造者団体のリンクを紹介した上で「写真の虫は生後30~40日以内の幼虫」と回答しています。虫は商品を購入した後に混入したという見解を論理的に説き明かした対応は、当時のネットユーザーや消費者にも称賛されました。

シエンプレが運営する一般社団法人デジタル・クライシス総合研究所は、2021年7月セミナーに、A社の社長をゲストとしてお迎えしました。そこでお伺いした「実践している炎上対策」のお話の中からは、二度の異物混入投稿を乗り切った丁寧な対応の根拠を見いだせます。

社長は、炎上トラブルに関して、事実関係の精査によりユーザー側(投稿主)の誤りや勘違いだと判明しても、相手を否定しないことをポイントに挙げました。また、エビデンスとして有効な第三者のサイトやレポートなどを表示し、問題の発見以降の対応は迅速に行うということもお話しされました。

その上で、「会社として力を入れていきたいのは、ファンとの密なコミュニケーションです。お客様と繋がって面白いことを起こしていくというのは、ほとんどやってこなかった取り組みですが、うちのように最終製品を作っている企業は、ファンベースマーケティングが一層重要になってきます」と明言されています。

その入り口として、A社が非常に重視しているのは公式SNSアカウントの活用です。自社でECを運用していないA社にとって、お客様と直接繋がることができる手段はSNSにほぼ限定されています。そのため、SNS上では、自社の商品を購入しているファンを見つけたり、キャンペーンのプレゼント当選者にダイレクトメッセージ(DM)で直接連絡を取ったりしているということでした。

お客様を否定しない姿勢を踏襲

2013年の投稿への対応は、異物混入の指摘に対する企業の取り組みがうまくいった事例の「元祖」と言えます。当時の対応がポジティブに受け止められた要因は、異物混入が誤りだったとしても、自社の商品を買ってくださった方はファンとして認識し、否定や非難をしないという姿勢でした。

今回の事例でも「ご家族とご本人様からお詫びのご連絡を頂いておりますので、投稿主様へのコメントやお問い合わせはお控えいただけますと幸いです」と表明しており、お客様を守ろうとする姿勢をしっかりと踏襲しています。

実際に、投稿主がどのような意図で異物混入の投稿を行ったのかは不明ですが、A社としては従来の方針にしたがって、本人と家族からの謝罪を寛大に受け止め、穏便に済ませたということでしょう。たとえ、異物混入の投稿主に何らかの悪意があったとしても、お客様に配慮するA社の初動対応は変わらなかったことでしょうまた、A社は公式Xのフォロワーと良好な関係性を構築しているため、悪意のある投稿が寄せられた場合は、多くのファンがA社の味方となって反論してくれることが予想されます。

二度の異物混入投稿が炎上しなかったのは、SNS上でのファンベースマーケティングができているからこそと言えます。企業にとっては、ピンチの局面で味方になってくれるファンを平時からどう確保しておくかが重要で、私自身も「ファンをつくることが一番のリスク対応です」とお話ししています。

もちろん、いくらファンが多くても、明らかに不適切な言動をしてしまえば、しっぺ返しにあいます。ファンを裏切らない真摯なコミュニケーションを積み重ねることが大事で、A社はそれができていたがゆえに擁護されたということです。

デジタルリスクの管理に必要な体制とは?

奇遇にも、今回の異物混入投稿とほぼ時を同じくして、別の菓子メーカーの商品でも異物混入が発生し、あまりの対応の遅さが大きな批判を浴びてしまいました。もともとは、お客様相談室に寄せられた事案だったため、普通に対処していれば大ごとにはならなかったはずです。A社は二度目の異物混入投稿の際、投稿主に素早くDMを送って事実関係を確認しています。お客様相談室に直接入ったクレームをそのままの状態にしておくことは、A社ではあり得ないと思います。

SNS上の問題に対して企業に求められるのは、責任者が陣頭指揮をとってスピーディーに状況を把握し、最優先で対応できる体制づくりです。その上で、信用できる第三者機関のエビデンスを活用できる状態にしておく必要があります。自社の業種・業界で起こり得るリスクを想定した準備を整え、誤った投稿をしてしまった方にも否定的な態度を取らないようにすれば、ファンからの支持はより強固なものとなるでしょう。

ちなみに、A社の社長は2013年に異物混入騒動が発生した当時、SNSチームを立ち上げて情報の発信・管理を担当した責任者でした。11年もの時を経て再び起こった出来事にも迅速かつ適切な対応を取り、ポジティブな反応を得たのは見事と感じたと同時に、「ウェビナーでお聞きした社長の考えが今も社内に根付いている」と、感慨深い思いに包まれました。

文=桑江 令

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