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「そのままでいくと落とすよ」 採用担当者の発信は、なぜ炎上しやすいのか?

公開日:2024.11.29

就活面接のインタビュー記事発言に批判

2020年8月、人材サービス大手のA社グループで新卒採用の統括責任者を務める男性のインタビュー記事が炎上しました。

就活面接をテーマとした外部の人事業務情報メディアの記事に書かれていたのは、「ごめん。今日、そのままでいくと落とすよ。どうする?」「あなたに2億円の価値はありますか?」などインパクトのあるフレーズです。

15万人以上の学生のキャリア支援に携わってきたという男性の強い言葉に、SNS上では「内定・選考通過を盾にしたハラスメント」「圧迫面接で従属を強要している」「採用や評価、人事の権限を持つ人が一番言ってはならない言葉」といった批判が相次ぎました。

インタビュー記事を読めば、「そのままでいくと落とすよ?」という言葉の背景には、「就活生に本音の言葉を語ってほしい」という思いがあることがわかります。 「あなたに2億円の価値はありますか?」という言い回しにも、「入社後は人件費や研修などに莫大なコストがかかる。だから、会社としては2億円くらい稼げるようになってほしい」という願いが込められていると理解できます。

とは言え、このような「意識高い系」の発言がSNS上で物議をかもし、燃え広がってしまったことについては、相応の原因があると言わざるを得ません。

本事案が2024年10月にXで再炎上したことは、インタビュー記事の発言が現在の社会でも受け入れられないことを表していると考えられます。 そのため4年前の記事ではあるものの、取り上げることにしました。

「上から目線」の発信はコーポレートリスクになる

就活を取り巻く過去の状況を振り返ると、採用担当者が「うちの会社は実力主義。とにかくがむしゃらに働ける人が欲しい」など、自己中心的とも取れる企業の文化や価値観を堂々と発信することがポジティブに受け入れられた時代もありました。

しかし近年、SNSに集う人々は「上から目線」の言動に敏感で、自分を下に見る相手に対して強い不快感を表します。採用担当者が自らの立場をわきまえず、上から目線の発信をしてしまうことは、今や明確なコーポレートリスクになり得るというわけです。

また、企業として注意しなければならないのは、未来の投稿・発信に気を付けることだけではありません。SNS上などに過去の不適切な投稿・発信が残っていれば、ある日突然取り沙汰され、批判を浴びてしまう可能性も残り続けることになります。アクセスが集まればお金になるため、SNSユーザーは過去のコンテンツを蒸し返してまで炎上しやすいトピックスに飛びつき、バズらせようとします。

ちなみに、採用担当者による炎上事案は、2020年頃にはすでに発生していました。今回のインタビュー記事が公開されるにあたり、A社がどこまでのリスクシナリオを準備できていたのか気になります。

ネット上に残る自社コンテンツの棚卸しを

この記事をご覧いただいて​​​いる企業の皆さんにお伝えしたいのは、未来の炎上を阻止するだけでなく、過去のSNS投稿や発表物の棚卸しをしていただきたいということです。広報部門の仕事は、自社が発信したコンテンツのPV数やホームページへの流入数などを調べて終わることも多いかと思いますが、これからは過去のコンテンツを漏れなくデータベース化する体制づくりが求められるでしょう。

その上で、ネットで閲覧可能な自社のコンテンツを最新の法令や社会規範に照らし、問題のある表現が見つかれば非公開にする、あるいはそのまま様子を見るかを判断する必要があります。このような役割を担うのは広報担当の方でなくても構いませんが、企業としては炎上リスクを顕在化させないようにハンドリングをする必要があります。

ただし、非公開とする場合、単にコンテンツを削除すれば済むということではありません。ケースによっては社内外への説明を省いて消しても構いませんが、「問題を隠した」と捉えられかねない措置が疑問視されたときにどう対処するか、ということまで想定した準備を整えておく必要があります。

ソーシャルリクルーティングのチャンネル戦略見直しも必要

ソーシャルリクルーティングのチャネルが多様化する現在、SNSなどを使わない採用活動は不可能でしょう。ただし、企業の一方的な広報は嫌われてしまいます。採用活動においても自社のコンテ​​​​​ンツマーケティングをしっかり行った上で、求職者に対して有益な情報を発信し、自社に好意的な感情を持ってもらうための接点を構築しなければなりません。

ベンチャーフェーズの企業であれば、給与や福利厚生だけをもって自社の魅力を訴えるのは難しいでしょう。その場合は、仕事のやりがいや企業としての存在意義、将来性の高さなどを強調しなければなりません。ところが、企業側の思いを強調しすぎると、「意識高い系」のメッセージ色が強まり、ネット上で​叩かれやすい状況に陥りがちです。人を選ぶ側、評価する側と見られている採用担当者が、就活生を精神的に追い込むかのような言葉を発信すれば、「上から目線だ」と批判されてしまいます。

そもそも、仕事のやりがいや企業のポテンシャルなどを140字のみのX上で伝え切るのは、ほぼ不可能です。そのため、炎上しにくいMetaのプラットフォームや、YouTubeのような動画でメッセージを伝えることを考えてみても良いでしょう。特に、YouTubeやTickTock、Instagramは、アルゴリズムによるレコメンド性の強さが特徴のため、発信者と閲覧者における価値観のミスマッチが起こりにくいと言えます。

ベンチャーフェーズの企業に多く見られる「情熱」のような要素を、言葉だけで表現するのは至難の業です。しかし、部活動のキャプテンのような熱さを持つ社員が動画に登場し、「一緒に成長しよう!」という姿勢を見せれば、情熱にあふれた会社だということは、より伝わりやすくなるでしょう。多くの求職者に情報を届けられるソーシャルリクルーティングのメリットより、炎上リスクに直結するデメリットの方が大きくなってしまう状況を防ぐ上でも、チャンネル戦略を見直すことが大切になります。

「Brand Integrity」の実践が炎上リスクを抑える

もちろん、動画を発信する際も、表現には注意すべきです。弊社は、YouTube動画の制作支援やコンプライアンス面のチェックも手掛けています。そのうちの事例の一つとして私が担当したある企業の採用動画では「この会社で長く働きたいと思いますか?」という社員インタビューが使われていました。

会社に対する社員の愛着度をアピールする意図があったのかもしれませんが、そのような質問は、同一企業で長く働くことを是とする古い価値観の押し付けとも捉えられます。長く働かなければ給与が上がらないのでは、という邪推も招きかねません。そこで私は、インタビューの質問を「この会社でどういうキャリアを築きたいと考えていますか?」という切り口に変えるよう提言しました。

インタビューで20代の社員が「​​​​​​30歳まで​​​​​​にはチーフになりたい。そのためには、いろんなことにチャレンジして頑張っていきたい​」「この会社は早くから役割を与えてくれるので、チームリーダーとして皆が楽しく働けるようにしたい」というような答えを発信すれば、求職者の方の共感を得やすくなるはずです。

採用活動に限らず、企業が最も大切にしなければならないのは、あらゆるステークホルダーからの信頼を醸成するということです。弊社は、企業ブランドとして誠実さ、真面目さを大切にする「Brand Integrity(ブランド・インテグリティ)」の考え方を提唱しています。そのような考え方を実践することが、採用担当者の不適切な投稿・発信を防ぎ、万一炎上した場合も被害を最小限に抑えることに繋がると考えています。

文=前薗 利大

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