キャンセルカルチャーにどう向き合う?過剰な糾弾に問われる企業姿勢
- 公開日:2024.10.28 最終更新日:2024.12.02
目次
はじめに
「キャンセルカルチャー」は、非道徳的あるいは差別的な言動をしたとみなされる個人・団体などを糾弾し、社会的に「キャンセル(抹殺)」しようとする動きです。
※参考:https://www.nttcoms.com/service/social/column/cancel-culture/
本記事では、企業を取り巻く事例や、被害の軽減・防止策などについて解説します。
キャンセルカルチャーとは?
キャンセルカルチャーは、問題となった言動を批判するだけでなく、特定の人物や製品などの社会的な地位・評判を落とそうとする動きが伴います。過去の言動やSNS投稿を掘り返し、バッシングを浴びせることも多々あります。
企業の関係者の言動や製品のCMなどが標的となれば、経営者の辞任要求や不買運動などに発展する恐れが高まります。
キャンセルカルチャーの光と影
キャンセルカルチャーにより、差別など社会問題の解決が図られる場合もあることは事実です。これらの問題に対する人々の意識が高まれば、公正な社会の形成に繋がるかもしれません。
一方、他者を糾弾する動きについては、多くの問題点も指摘されています。キャンセルのきっかけは、運動に参加する人の「行き過ぎた正義感」であることが少なくありません。不適切とされる言動の基準は個人の価値観に左右されることが多く、法的な根拠があるとは限りません。
被告発者を叩きのめそうとすれば誹謗中傷などに発展しやすく、事実と異なる誤情報が拡散する危険性もあります。さらに、キャンセルの過程で発生する対立は、相反する価値観を持つ人々以外にも広がり、社会全体の分断を助長する可能性があります。このように、キャンセルカルチャーがもたらす意義とリスクを考慮すると、対話や相互理解の重要性が増すと言えるでしょう。
企業の「起用者責任」が、ますます重要に
企業の商品・サービスなどが原因でキャンセルが起きれば、ブランドイメージの低下や業績の悪化を招くリスクが高まります。また、プロモーションやキャンペーンに起用したタレント、アーティストなどの不適切な言動が引き金となり、不買運動などに発展することもあります。近年は「事前の身辺調査が甘い」「危機管理対応が不十分」など、企業の「起用者責任」を厳しく問う論調が勢いを増しています。
過激発言で炎上した経済学者の広告起用に批判
大手ビール会社A社が著名な経済学者のB氏を広告起用し、SNS 上で物議を醸しました。B氏は2021年のネット配信番組で、日本の少子高齢化の解決策について「高齢者の集団自決しかない」と発言し、炎上しています。
A社はB氏の起用をPRしたSNS投稿を削除し、広告も動画も取り下げました。しかし、A社はB氏を起用する前から、過去の炎上発言を把握していたと考えるのが自然です。他者の意見を否定しながら持論を展開するB氏の論法には、批判する層が存在することも認識していたと推察されます。
A社に対しては、B氏の広告起用のみならず、簡単に取り下げたことへの批判も上がりました。本事例は、過去の炎上も蒸し返されることに加え、広告起用を決定する際は十分なリスクシナリオを考えておくべきという教訓を残しています。
キャンペーンソングのビデオに「人種差別」の声
大手飲料メーカーC社とのコラボレーションで、人気アーティストDが制作したキャンペーンソングのミュージックビデオ(MV)が、ネット上を騒がせました。MVでは、貴族風の格好をしたメンバーが架空の島にたどり着き、原住民の類人猿に人力車を引かせたり、音楽や乗馬などを教えたりするシーンが収められていました。
「人種差別だ」との批判を受けたアーティスト側はMVの公開を停止して謝罪しました。D社もメディアの取材に「いかなる差別も容認しない。今回の事態を遺憾に受け止めている」と答えています。しかし、MVの内容については「事前に把握していなかった」と釈明し、リスクを認識していなかったことに批判の声が巻き起こりました。
生成AIのクリエイティブにも注意が必要
生成AIを使用したCMなどを制作する企業が増えている中、それらの制作物に対しては「人間味がない」「気持ち悪い」といった否定的な反応が根強く聞かれます。「著作権侵害のリスクがある」「クリエイターやモデルの仕事を奪う」との反発もあり、生成AIをクリエイティブに用いた企業がサービスの解約や不買運動に見舞われ、謝罪に追い込まれたケースも見られます。
生成AIを用いる場合、「何かあればコンテンツを取り下げれば済む」という考えは通用しません。使用を決めた背景や、企業としての立場を明確にしておく必要があります。
キャンセルされても再起は可能
シエンプレが運営する一般社団法人デジタル・クライシス総合研究所がまとめた「デジタル・クライシス白書2024」によると、炎上の主体となった法人などが取り扱っている商品・サービスの購入や利用を再検討・停止するという人は28.9%に達しました。購入、利用の優先順位が下がったという人を合わせると48.5%を占めます。
出典:『デジタル・クライシス白書2024』第5章炎上の認知特性_9-1.
一方、企業が炎上している状況をテレビやSNSなどで実際に見聞きした人でも、「タイミングに関わらず謝罪文の公表などの事後対応があれば悪い印象は受けない」という人が18.8%に上りました。このデータは、一度キャンセルされた企業も、行動を改めれば再起は可能であることを示唆しています。
出典:『デジタル・クライシス白書2024』第5章炎上の認知特性_7-1.炎上後の対応スピード
企業が取るべきキャンセル対策
キャンセルカルチャーを取り巻く状況は、厳しさを増しています。万一の場合に再起を図りやすくするためにも、被害の防止・軽減策の準備が欠かせません。
ガバナンス体制の確立
キャンセルの標的にならないようにするためには、法令や企業・社会倫理に即したガバナンス体制の確立が不可欠です。健全な事業経営のルールや仕組みを整え、法令に則って運用することで、キャンセルが起こるリスクも正しく評価できるようになります。
WebとSNSをモニタリング
自社に対するネット上の論調の変化を速やかに察知できれば、何が批判されているのかを早急に知ることが可能となり、迅速かつ的確な対応も取りやすくなるでしょう。SNSなどの論調を普段から観察することで、キャンセルに結び付きやすいテーマや言動のトレンドも見えてきます。
広告物や起用タレントなどのリスクを事前チェック
広告物の内容や、起用タレントの言動のリスクなどを事前にチェックし、キャンセルに発展しそうな要素を排除することも重要です。直近までの炎上事例を踏まえて有事のシナリオを想定し、自社に疑問などが寄せられた際の回答内容も準備しておくと安心です。
「Brand Integrity」を実践
ブランドとしての誠実さ、約束を果たすという「Brand Integrity(ブランド・インテグリティ)」の考え方を実践していれば、キャンセルカルチャーが起こった場合も被害を最小限に抑えることができます。
この他、自社のプロモーション施策などについては、「SNSなどで非道徳的または差別的との指摘が増えない限りは露出を継続する」という基準を定めておくことで、安易な批判に迎合しない体制も構築できます。
当社は、キャンセルカルチャーにまつわるリスクと被害を抑制する各種サービスを提供しています。企業を救う「次の一手」の普及に向け、これからも全力を尽くしてまいります。