内部リーク、誤送信など 様々な情報漏洩が多かった6月を振り返る(デジタル・クライシス白書-2024年6月度-)【第122回ウェビナーレポート】
- 公開日:2024.07.19 最終更新日:2024.07.26
目次
学生の名前だけで「留学生」と判断、不採用を通知
桑江:最初のテーマは「差別・偏見」です。日本国籍を持つ学生が「名前だけで留学生と判断されて不採用通知を受け取った」という内容をXに投稿し、物議を醸しています。
就活情報サイトで企業側からスカウトが届いた学生は説明会への参加を予約したものの、「留学生は採用していない」と断られたそうです。
学生は「ナイジェリアにルーツを持つが、日本で生まれ育った日本国籍を有する日本人で、名前だけで留学生と判断されて非常に残念に思う」と述べています。
企業はその後、誤りを認めて謝罪しましたが、差別的とも取れる行動には批判の声が上がりました。
前薗:「自分もこんな目に遭った」という声が寄せられやすいトピックスです。
過去にも、ある企業が学歴差別を疑われるメールをエントリー者全員に送り、炎上してしまった事案が発生しています。その際も「自分は学歴差別をされている」「差別されているに違いない」と考えている方々から同様の声が上がりました。
本件からは、そのように捉えられてしまうリスクに注意しなければならないことを学べるかと思います。
働き方の個人的な見解を発信、採用担当者のX投稿が炎上
桑江:続いては「不適切発言・表現」です。ITエンジニア派遣サービスを手掛けるA社の採用担当者が、「ボーナスをもらってから辞めようというマインドで続けるなら、早く辞めた方が会社のためにもなるしあなたのためにもなると思いますが、いかがでしょうか?」とXに投稿しました。
「人事はどうして炎上したがるのか」など、過去に発生した人事担当の発言による炎上事例への言及も含めた批判が殺到しています。
その後、採用担当者はXで謝罪し、アカウントを削除しました。
前薗:ソーシャルリクルーティングが加速する中、人事の方が何らかの発信をすること自体は悪いとは思いません。
ただし、働き方や給与など何らかの価値観に関わる発信をすると、どんな表現でも不快感を抱かれてしまう可能性が高いと思います。
そのため、人事の方の発言は炎上する可能性が高いという認識に立ち、社内のガイドラインを見直す際も、価値観に関する内容は人事担当者が発信してはいけない事項に盛り込んでいただく必要があるでしょう。
会社説明会で就活生と1対1で話す分には問題のない内容だとしても、SNSにアップすることで炎上してしまう可能性が十分あります。
アルコール飲料の駅イベントに抗議、SNS上では賛否が二分か
桑江:飲料メーカー大手のB社と首都圏の私鉄会社が協力して開催したアルコール飲料のイベントが、話題となっています。
イベントでは私鉄会社のある駅にアルコール飲料の商品名の一部を冠した駅名看板を掲げ、ホームでの飲食を楽しめる催しを開いて好評を博しました。一方で、その前日にアルコール関連問題の予防に取り組むNPO法人と主婦連合会がイベントの中止を求める連名の申請書を主催者側に送付したことを表明しました。
申請書には「駅は極めて公共性が高い場所」「20歳未満や妊婦、禁酒中や飲めない人もいる」などと記され、実際に一部の広告が撤去されたことについてメディアの取材を受けたB社は「ご指摘を受け広告を縮小した」と述べています。
前薗:酒やたばこ、パチンコなどの広告掲載は注意が必要です。その一方、広告を縮小したことに対して批判が寄せられるという流れもありますので、それを踏まえて判断しなければならないと思います。
転職者情報を漏らした?誤情報が拡散し謝罪
桑江:食品メーカーC社が、同社の在籍社員による転職情報サイトへの登録状況を人材・広告大手のD社から入手していたという週刊誌報道が話題となっています。
報道では、C社の社長が転職を希望する社員に「D社から聞いた」として恫喝メールを送っていたとされており、C社だけではなくD社にも批判が殺到しました。
D社は報道内容を否定するリリースを出し、C社も「D社から情報を入手した事実はなく、ひとえに弊社の事実誤認であることが判明いたしました」と謝罪しています。
前薗:C社は4月以降、週刊誌でさまざまな不祥事が報道されていますが、リリースを出して反論したのは一部の事例についてです。そのため、反論していない事例は「事実と認めている」という印象を与えてしまっています。
インシデント発生時の対外広報は、そのような見られ方をするということを押さえておいていただければと思います。
Jリーグクラブの公式Xアカウントが「誤爆」
桑江:次は「SNS運用(誤爆・公私混同)」です。Jリーグ(日本プロサッカーリーグ)のあるクラブが公式Xアカウントでクラブと無関係のポストを投稿したとして謝罪しました。
アカウントでは公式戦の試合中にスクール水着の女児イラストのポストを引用した投稿が行われたほか、テレビの人気アニメ番組に関する投稿に「いいね」が付けられたとのことです。
クラブ側はすぐに該当の投稿に気付いて削除し、公式Xアカウントで謝罪した上で再発防止に努めると表明しました。なお、誤投稿は短時間のうちに削除されましたが、それまでの間にXユーザーが転載したことで拡散されています。
プライベートのアカウントにアクセスできる状態で、公式アカウントを運用してはなりません。
ツールを使う、あるいは端末を変えるといった対応を絶対に取るべきで、そうした環境を準備できなければSNSは運用しない方がいいと言えるほどです。
前薗:SNS運用を誤った場合、専用端末の保守費用を超えるブランドイメージの毀損を招いてしまうことは間違いありません。
「土下座しろ!」老舗天ぷら店でのカスハラ動画が話題に
桑江:続いて「客テロ(迷惑行為)」です。東京・銀座の老舗天ぷら店で、男性客が店側に激怒する動画がネット上で話題となっています。
店側が男性客の会計を間違えたことが発端で、男性客は店側の謝罪に応じず「土下座しろ!」などと約10分間にわたり店長を怒鳴り続けました。
前薗:この動画を録画して公開したのは店側でも男性客でもなく、近くに居合わせた第三者です。もちろん、アップした人物は事の顛末の全てを把握しているわけではないでしょう。
今回は店側にメリットがある動画でしたが、自社にとって都合が悪い部分だけを切り取られる、あるいはそこにフォーカスした動画が上がってしまう可能性も十分あり得ます。企業としては、そのようなリスクがあることを認識しておかなければなりません。
広報担当の皆様はそのリスクを踏まえて自社の論調を速やかに把握し、場合によっては論調の是正や事実関係、情報の開示をしなければならないことも押さえておいていただければと思います。
中学生276人分の個人情報がネット上に流出
桑江:では「情報漏えい」に移りましょう。札幌市内の中学校の教員が、生徒276人分の個人情報が書かれた資料を一時紛失し、その内容がネット上に流出したことが明らかになりました。
札幌市教育委員会は会見で、紛失した資料は複数の生徒がスマートフォンで中身を撮影していたものの、それらの画像は削除させ、外部への流出は確認されていないと説明していました。
前薗:本件のような事案については、「調査をしたところ、現時点で情報漏えいは確認されませんでした」と回答するのが適切かと思います。
安易に「全く問題ない」と言い切ってしまうと、ひとつでも問題が発覚すれば発表内容自体が嘘になってしまいますので、危機管理対応には注意しなければなりません。
サイバー攻撃を巡るハッカーとのやり取りがメディアにリーク
桑江:出版大手E社がランサムウェアを含む大規模なサイバー攻撃を受け、動画共有サービス全般と社内業務システムの一部を停止しました。
本件に関しては、あるニュースサイトが一般には公開されていないE社とハッカーとのやり取りや、身代金についての特集記事を報じています。
そのタイミングで報道されたことに疑問を抱いたE社の社長は苦言を呈しましたが、サイト側は「記事の情報はハッカー側から提供されたのではなく、複数のE社関係者への取材によるもの」と主張しました。
前薗:社内向けと社外向けの情報が一致していなければ、リークの余地を生んでしまいます。大きなインシデントの際は、どのように情報統制を図っていくかが重要になってくるでしょう。リークは起こるものなのです。
「韓国人立ち入り禁止」神社の貼り紙が物議
桑江:続いて「その他」です。長崎県内の神社が韓国人の立ち入りを禁止する貼り紙を境内に掲示し、物議を醸しています。
この神社では、一部の韓国人観光客が境内でたばこの吸い殻をポイ捨てしたり、進入禁止場所へ立ち入ったりする迷惑行為が相次いでいました。
韓国人に限った立ち入り禁止措置は「差別」と指摘される恐れがある一方、SNS上では迷惑行為に対する批判の声が多く上がり、神社の対応を支持する意見も聞かれます。
前薗:インバウンド需要が高まっている中、サービス業に従事されている方や、サービス業を営まれている企業には、外国人旅行客によるトラブルも炎上リスクをはらんだトピックスと捉えていただきたいですね。
企業においては本件を機に社内のガイドラインやマニュアルを見直し、一人ひとりの従業員が適切に対処できるようにしておくことも求められるかと思います。
高評価投稿を依頼、「ステマ」認定の医療法人に初の行政処分
桑江:最後に「今月のトピックス・注目記事」を紹介します。消費者庁は、患者に対して割引を提供する代わりにGoogleマップへの高評価投稿を依頼した東京都の医療法人Fに対し、景品表示法違反(不当表示)に当たるとして再発防止を求める措置命令を出しました。
口コミを装った商品やサービスの宣伝がステルスマーケティング(ステマ)に該当すると判断されたもので、2023年10月に規制が始まって以来、初の行政処分に至ったケースです。
前薗:本件は、インフルエンサーやタレントを起用した大々的な企画ではありません。しかしながら、身近な民間病院の口コミ対応であっても、行き過ぎれば処分の対象になってしまうということがよくわかる事例かと思います。
投稿してくれた方全員にクーポンを渡すことは問題ないものの、星4か星5の高評価投稿を割引の条件としていたことがかなり問題視されたとの指摘もあるため、そうした点を併せて確認していただければと思います。