健康被害や不適切発言 企業責任の多い4月を振り返る(デジタル・クライシス白書-2024年4月度-)【第120回ウェビナーレポート】
- 公開日:2024.05.08 最終更新日:2024.08.05
目次
内定辞退者に対する採用担当者の不満投稿が物議
桑江:まずは「不適切発言・表現」です。とある会社の採用担当者が、内定者から入社10日前に内定辞退の通知を受けたことについてXの匿名アカウントで不満を漏らし、計1万回以上リポストされました。
採用担当者は、内定者が入社直前になって内定式で署名した誓約書を反故にしたことに憤り、「顔にドロをかけられたような気分だ」と表現しています。
この投稿に対しては、同情する声も上がりました。その一方、「企業だって人生を懸けて就活している学生にお祈りメール1通で済ませる」「お祈りメールもやめるべき」といった否定的な意見も多数寄せられ、大きな物議を醸しました。
このウェビナーでも何度もお話ししてきたとおり、SNS上では採用担当者というだけで「上から目線」と受け止められてしまう土壌があります。
もちろん、内定承諾後の内定辞退と採用試験の不合格通知は意味合いが異なりますが、双方を混同した反応が出てしまうのもXならではのように感じます。
前薗:この時期の前後は悲喜こもごもの出来事があるので、採用に関する発信をする際は非常に注意しなければなりません。人によっては内定をもらう時期であり、選考に落ちる時期であり、会社に入る時期でもあり、はたまた「入社前に聞いていた話と違う」といって会社を辞めていく人が出る時期でもありますから。
「労働者守られ過ぎてませんか?」人事部長の投稿に批判
桑江:次も人事関連の話題ですが、オウンドメディアの企画制作・運用サービスを提供するA社の人事部長が「労働者守られ過ぎてませんか?」といったSNS投稿を行い、これが拡散されて批判の声が上がりました。
本事案はインフルエンサーなどが取り上げたわけではありませんが、「また人事の問題発言か」といった感想が殺到しました。SNSで類似事例の炎上が繰り返されていることから一般ユーザーの間で注目されやすく、拡散されていったという流れです。
なお後日、問題の投稿のみならずA社の採用情報も削除されたことや、この投稿者が2022年卒で人事部長という肩書があることなどに対しても疑問の声が多く集まりました。「若いのに人事部長」というやっかみも加わってしまった印象です。
前薗:今回はトピックとしてアウトというより、誰が言うかということがすごく大事であるということが分かる事例だったと思います。
自社公募レシピへのネガティブ表現で公式アカウントが謝罪
桑江:家電メーカーB社の公式Xアカウントは、自社の人気電気調理鍋を使ってユーザーが考案したレシピの紹介方法に、批判の声が上がったことについて謝罪しました。
該当の投稿は「ずぼらレシピ」を公募した自社の企画が題材でしたが、企画者、応募者でもない公式アカウントが「限界飯」「ずぼら飯」「まずまずうまい」など、ネガティブな表現を繰り返していたことに批判が集まりました。
また、謝罪内容についても、自社の他製品の広告企画に対して「私が関わることもやめます」という表記がありました。そのため、公式アカウントのはずが、かえって「中の人」の存在を強調してしまったという疑問の声も目立っています。
前薗:「中の人」感をあえて出すのは、ソーシャルメディアの運用にとって有効な手立てのひとつでしょう。
ただし、何かまずいことが起こったときには、一社員の独断で謝罪していると受け止められてしまいかねません。そのため、会社としてしっかり謝っているということを理解してもらう重要性が高まっていると思います。
「チキン詰め放題」開催!? エイプリルフールネタが騒動に
桑江:ファストフードチェーンを展開するC社の公式Xアカウントでは、エイプリルフールのネタ投稿として「チキンの詰め放題」を開催すると伝えましたが、「こういう嘘はだめ」などと批判を集めました。
投稿を受け、X上では「さすがに度が過ぎている。普通に店舗に人が来る」「企業倫理が問われる」といった反応がありました。実際に店に出向いてしまったユーザーからは「迷惑がかからない嘘をついてほしい」という声も出る事態となりました。
エイプリルフールネタのSNS投稿は10年以上前からさまざまな企業が参画する一大イベントになっています。ただし、ひと目で嘘だとわからなければ、炎上リスクが高まるということが分かる事案です。
前薗:C社は実際に、数店舗限定で常設食べ放題を実施しています。「自分たちの地域の店舗でもやってほしい」と思っていた人たちが飛びついてしまった可能性もありますね。
アンバサダーの不適切投稿で契約企業に批判も
桑江:アイスクリームのブランドと販売店を展開するD社は、自社のキャンペーンアンバサダーによる不適切な投稿について謝罪しました。
問題となったのは、台湾東部沖の大地震発生後に海上保安庁の航空機の写真を挙げて「こんな時お偉いさん達はプライベートジェットで緊急避難か」「いいですねー」と書き込んだ投稿です。投稿主がD社のキャンペーンアンバサダーだったこともあり、批判が寄せられました。
ネット上ではD社に対して批判的な声と擁護する声の両方が見られ、D社は公式Xアカウントで深くお詫びした上で再発防止の徹底を約束しています。謝罪後、該当の投稿は削除され、投稿主のプロフィールからアンバサダーの称号が外されました。
キャラクター起用の際のリスクが顕在化した事案ですが、このアンバサダーは過去にも自身の主張を強調するような投稿が確認されています。そのため、事前にチェックをしていれば防げたと考えられます。
前薗:アンバサダーがインフルエンサーだったとしても、消費者にとっては芸能人を起用したのとほぼ同義です。
そのような立場をお願いする際にはやっていいことと、やってはいけないことをしっかり定義しておかなければ同様の問題が起こり得ると思います。
企業の公式Xアカウントが女性蔑視的な投稿に「いいね」
桑江:続いては「SNS運用」です。レッグウェアブランドを展開するE社の公式Xアカウントが、女性蔑視的な投稿に「いいね」を付けているとしてXユーザーから指摘を受けました。
E社が社内調査を行ったところ、SNS公式アカウントに関する運用規定が順守されておらず、運用管理が不適切な状態だったことが確認されたとの報告が上がっています。
この結果を受け、E社は公式Xアカウントの運用を当面停止すると発表しました。
公式アカウントによる「いいね」は外から見られます。反応しても問題のない投稿かどうかを見極めなければなりませんし、マニュアルにも定めなければなりません。
この事案に関しては「いいね」を押した社員が、自分の個人アカウントと間違えて公式アカウントで押してしまったのかもしれません。物理的に端末を分けなければ、このようなことが起こります。
前薗:プライベート端末との誤用については企業が公式アカウント専用の端末を用意する、あるいはダブルチェックをするなど、誤用を防ぐ術がないわけではありません。仮にアカウントの取り違えが原因だったとしたら、運用体制そのものに問題があると思います。
バイトテロ動画を狙い撃ち?著名クチコミ掲示板がXに投稿
桑江:次は「バイトテロ」です。神奈川県の焼き肉店で働くスタッフが、厨房内で口から液体を吹き出す動画が著名なクチコミ掲示板のアカウントによってX上に投稿されて拡散し、衛生上の懸念から大きな批判を浴びました。
また、佐賀県の焼き肉店では、商品が入った段ボールを従業員が踏みつける動画が同じ掲示板のアカウントによって投稿されて拡散しました。こちらもまた、大きな批判を受けています。
双方の事案に共通して言えるのは、勤務中は私用のスマートフォンを触らせないようにするしかないということです。
投稿した掲示板は店舗系ビジネスの不祥事を取り上げる確率が高いので、気を付けなければなりません。
前薗:この掲示板は飲食・サービス業という切り口だけでなく、個人にフォーカスすることが多い印象がありますね。顧客とのトラブル場面の動画がアップされるケースもよく目にします。
企業としては影響力のあるアカウントをしっかりチェックした上で、自社の従業員が取り上げられた際にどう対処するのかも含め、あらかじめ社内で固めておく必要があるでしょう。
老人ホームの女性職員が勤務中にライブ配信
桑江:介護サービスを提供するF社が運営する東京都内の施設内で、若い女性職員が入所者を介助する様子などを、動画サイトで配信していたことが判明しています。
暴露系ユーチューバーが該当の動画を自身のYouTubeチャンネルでライブ配信したところ、女性職員が着ていた制服や施設の内装などから「F社の施設ではないか」との指摘がコメント欄に寄せられました。その後、X上などでも「F社が運営する東京都内の老人ホーム施設ではないか」とする指摘があり、「自治体に通報した」といった報告まで上がっています。
配信内容の中では、介護職員が入所者への愚痴を言っていたり、キャンディを舐めていたり、不適切な業務態度が映し出され、F社も動画撮影などの事実関係を認めた上で職員を厳格な処分対象とする考えを表しました。
前薗:勤務中にライブ配信をするという選択肢を持っている人たちがいるということを押さえておかないと対応が後手に回り、同じような事態が起こりかねないと感じさせる事案です。
健康食品の摂取で死者も 初動対応の遅れが浮き彫りに
桑江:次は「製品やサービスの不具合・不誠実な対応」です。製薬会社のG社が製造・販売した健康食品を摂取した人が、腎臓の病気などを発症したとされる問題が発生しました。
これまでに全国で5人が亡くなり、全国で健康被害の訴えが相次いでいます。
なお、2024年4月19日時点で製品と腎疾患との関連性の有無は確定されておらず、因果関係の調査が続いています。
一方、1〜2月にはすでに医師や患者からの連絡を受けて腎疾患の症状を訴える人がいることを把握していたG社は、原因がわからなかったため、外部機関を入れず自社だけで対応していました。
その結果、関係各所との連携や適切な情報開示などが後手に回り、リスクマネジメントにおいて最も重要な「初動対応」が不十分だったと言えます。
死亡事例が出ている以上、原因がわからなかったとしても速やかに現状報告をすべきでした。デマやフェイクニュースなどの誤情報が拡散した際には、それらを是正するリリースや発信を行う必要があったと思います。
前薗:問題となった健康食品の自主回収が行われたのは、3月下旬になってからです。消費者は何か問題が起こればメーカーが早々に自主回収するものだと思っていますが、今回のケースは「問題が顕在化したから自主回収した」という印象が強かったように感じます。
消費者が自主回収という企業の対応方法を認知している以上、健康被害を含めて何らかのリスクがある場合は速やかに自主回収するか、自主回収できないのであれば自社の売り上げ・利益などの事情以外の要因を説明できるよう準備することが求められると思います。
今回の事案に限らず、企業としては目の前で起こっている問題についてどんな解決策を示せば消費者が納得するか、しっかり想定したシナリオを整えておく必要があると思います。
19人中17人が入社辞退の食品会社 週刊誌報道で火だるまに
桑江:最後は「ハラスメント」です。食品メーカーH社の今春の一般職採用の新入社員19人のうち、9割に当たる17人が入社を辞退していたことが週刊誌の取材でわかりました。
週刊誌ではH社が、入社後の社員寮について「ボロ家社宅」で同期との共同生活を指示していたこと、入社式で人事が「一般職の募集要項は嘘です」と発言したこと、入社後に募集要項より3万円低い給料を掲示していたことが報じられています。
本事案は週刊誌とインフルエンサーの両方にリークが集まり、第2報、第3報と続報もどんどん出る状態になってしまいました。
社内向けメールなども晒されており、ここまで事態が深刻化すると社内向けのコミュニケーションが筒抜けであることを前提として動かざるを得ないことがわかる事案です。
週刊誌とインフルエンサーに同時進行で両面対応しなければならないケースは、これから増えることが想定されます。リアルタイムで動いている今回の事象を自社に置き換え、どう対応するべきかを考えながら推移を見守っていく必要があると思います。
前薗:事実関係はわかりませんが、SNS上ではこの会社が同族の経営者に私物化されているような情報が多数投稿されています。自社でも同じような問題はないのか、問題があったとしてもすでに是正されているのかを総点検しないと、企業の存亡に関わる事態にも発展しかねません。
世の中の潮流としては、コーポレート・ガバナンスが厳しく問われているということですね。