過去の過激発言や内部告発など、炎上事例の蒸し返しや類似炎上の多い3月を振り返る(デジタル・クライシス白書-2024年3月度-)【第119回ウェビナーレポート】
- 公開日:2024.04.10 最終更新日:2024.08.05
目次
「ヤングケアらーは、かっこいい」 3年前のポスターが物議
桑江:まずは「不適切発言・表現」についてです。
厚生労働省がヤングケアラーの認知度向上を目指して3年前に作成した啓発ポスターが、今になって物議を醸しました。
自身の職場に掲示されたままのポスターを見つけたSNSユーザーが「ヤングケアラーは、かっこいい」と書かれた表現を疑問視する投稿を行ったところ、「介護の責任を子どもに押し付けているようで不快に感じる」との批判が集まりました。
他にも「やりがい搾取」「公助に頼るな、自助共助でやれということね」といった意見が上がっています。
当初は取り沙汰されなかった表現が数年後に問題視され、自社サイトに残っていた過去の記事や文章表現について指摘されるケースは、これまでもよく見受けられました。
しかし、ポスターのような製作物は、いったん配布してしまえば修正しようがありません。
前薗:確かに数年も経てば、世の中の論調は様変わりすることが多々あります。「やりがい搾取」という観点からの批判も、当時はあまり聞かれませんでしたから。
小・中学校入学式のカメラマン募集投稿に懸念噴出
桑江:映像制作会社の代表が、小・中学校の入学式を撮影するカメラマンをSNS上で募集した投稿も波紋を呼びました。
素性の分からない人が集まりかねない採用経緯の不透明さなどから、「子どもの安全を確保できない」「小児性愛者が紛れ込む恐れがある」といった不安や批判が噴出しています。
学習塾の講師による教え子の盗撮事件も世の中を震撼させた中、こうしたリスクへの対処法を明確に打ち出せなければ批判を浴びるということです。
前薗:児童ポルノに対しては昨今、一部のインフルエンサーも厳しい声を上げています。
海外では日本以上にシビアな視線が注がれているということも、あわせて押さえておいていただきたいですね。
住民とトラブルのテレビ関係者「一般の方々と我々は違う」
桑江:民放テレビ局の番組ロケ時に発生した住民とのトラブルを巡っては、現地にいた撮影班のスタッフが「一般の方々と我々は違う」というような発言をしたとして物議を醸しました。
自宅の敷地を無断で使用されて出入り口を塞がれたことや、スタッフから吐かれた暴言を告発する住民のSNS投稿も拡散され、スタッフの不適切な対応に非難が殺到しました。
制作会社は近隣に迷惑をかけたことを謝罪しましたが、昨今はテレビ局などマスコミ関係者への風当たりが非常に強まっている印象です。
前薗:風当たりが強まっているのは、マスコミ関係者だけに限りません。どんな企業も自ブランド、自業界が外部からどう見られているのかを認識しておかなければ、一部の言動を切り取られてネットに上げられてしまうリスクを払拭できないと思います。
「高齢者は集団自決」発言者を広告起用も早々に削除
桑江:大手ビール会社が著名な経済学者のA氏をWeb広告に起用した件も、SNSで物議を醸しました。A氏は2021年のネット配信番組で日本の少子高齢化を巡り、「解決策は高齢者の集団自決しかない」という過激な主張を発して炎上しています。
自社が取り組んでいる高齢者福祉事業との整合性を問う声も上がった中、このビール会社はA氏を起用した投稿を削除し、広告もWeb限定ムービーも取り下げました。
A氏を起用するに当たり、会社側は過去の発言についてもちろん把握していたはずですが、今回の事案は過去の炎上であっても蒸し返されるという実態を改めて知らしめたと思います。
前薗:A氏の論法は、他者の感情を逆撫でするエッジの効いた表現を繰り出しながら、自身の見解を主張するスタイルです。そのようなキャラクターを支持する層に商品を届けたかったということが想像できますが、穏やかではない物言いには当然アンチも存在するはずです。
一方、このビール会社に対しては、広告に起用したにも関わらず早々に取りやめるというどっちつかずの対応を批判する声も少なからずありました。
企業としては起用を決定する時点で、十分なリスクシナリオを考えておく必要があると改めて感じています。
上タン50人前注文の顛末はウケ狙いの「インプレゾンビ」?
桑江:次は「製品やサービスの不具合・不誠実な対応」についてです。
焼き肉店の食べ放題プランを利用して上タンを50人前注文した客のSNS投稿が大きく拡散し、2日後には閲覧数が1億回を超えました。
「怒った店長が『こんな頼むひと初めてだとかキレてた』」という煽情的なイメージの投稿内容が賛否両論の議論を巻き起こしました。しかし、店舗を特定した週刊誌の現地取材では、店長やスタッフが客に注意や文句を言った事実は確認されませんでした。
しかも店側は、問題とされた客は常連で、投稿内容は事実無根と回答しています。
投稿主はXのアカウントを非公開にしている状態ですが、諸々の事象から考えると“盛った”内容を投稿したと考えるのが妥当でしょう。
Xの仕様変更などにより、最近はインプレッション(閲覧回数)が一気に1億回を超える投稿も続々と出ています。
今回の事案も状況証拠を見る限り、実際にトラブルはなかったと考えるのが妥当でしょう。
面白おかしい話をつくり上げてウケを狙った投稿が予想外にバズったということかと思いますが、地道に事業を展開している企業がこのような事象に巻き込まれてしまうケースも想定しておかなければなりません。
前薗:自分の収益に繋がる閲覧回数を増やすためなら迷惑行為も厭わない「インプレゾンビ」という言葉が世の中に浸透し始めているのは、こうした活動が盛んになっているということの証だとも思います。
もちろん、企業が巻き込まれた場合に指をくわえて見ているしかないというわけではありません。沈黙を貫いたままだと拡散された内容が事実であるかのような形で残ってしまうので、正しい論調を主導するべく介入していく必要性が高まっていると考えています。
桑江:そのためにも、企業としてはXの公式アカウントを持っておくべきですね。数年前までは「日常的に投稿する情報がないので持っていても仕方がない」という声も聞かれましたが、今は反論をするための有効なツールになり得ます。
平時の情報発信はプレスリリースで構いませんが、今回のような事案ではXの公式アカウントを活用する必要が出てくるでしょう。
前薗:反論の手法としてはリプライなどより、自社の公式アカウントで事実関係をお知らせするのが一般的に望ましいかと思います。相手と直接絡むメリットは少ないですからね。
スキー場リフトの危険行為はアルバイトの仕業だった
桑江:続いては「バイトテロ」です。山梨県にあるスキー場の運営会社は、リフトの搭乗者が体を上下に大きく動かしてリフトを揺らす危険行為動画がXに投稿された件について、行為を働いた人物が自社のアルバイト従業員だったことを認めて謝罪しました。
当初は利用客の行為と考えられて拡散されたのですが、調査によって従業員の関与が判明しています。運営会社は再発防止のために全従業員への教育と訓練を徹底し、今後は法的措置も含めて顧問弁護士とともに厳正な対応を検討すると発表しました。
前薗:友人のアルバイト先に遊びに行き、その場で写真などを撮るというのは昔からよくあることです。
ただし、悪ふざけの度が過ぎた写真などがネット上、とりわけSNSに投稿されれば、社会問題化してしまいかねません。企業にとってはそうしたリスクをどう食い止めていくかということに心血を注ぐ必要があります。
またも「客テロ」ファミレスでの迷惑行為が拡散
桑江:次は「客テロ(迷惑行為)」についてです。外食チェーン大手の運営会社は、SNS上に拡散された自社のファミリーレストランでの迷惑行為の動画についての対応を公式サイトで明らかにしました。
2023年夏頃に撮影されたとみられる動画には、調味料を容器ごと口に入れる男性の様子が映っています。動画は一般のSNSユーザーによって投稿され、客テロ動画サイトが転載したことで大きく拡散しました。
運営会社は、衛生管理を徹底している中でこうした行為は容認できず、当該店舗の特定と当事者に対する厳正な対処を進めていくとしています。
前薗:迷惑行為のレベルは客テロが相次いだ1年前と変わっておらず、投稿する側が何かしらの注意を払っている素振りもありません。もはや客テロをゼロにすることはできない状況で、企業としても自社で起こり得ることを前提に対処するしかないと思います。
学生サークルが合宿先の旅館で破壊行為 大学は謝罪
桑江:関西地方の国立大学は、非公認バドミントン同好会の学生が合宿先の旅館で不適切な行為を取ったことについて、公式ホームページで謝罪しました。
天井や障子を破る、灰皿を壊すなどの行為で、SNSに投稿された画像と動画で確認されています。
投稿主自身は同好会に所属していないものの、「春合宿の写真です」「迷惑行為が散見」「新入生に知っておいて欲しい」など、告発するような形を取りました。
同様の迷惑行為はこれまでも全国各地で発生しましたが、直近1年間ほどで広まったSNSのリーク文化によって非常に大きなリスクとなっています。
また、今回は大学生による事案だったとは言え、企業の社員旅行や研修でも非常識な行動は厳に慎むよう気を付けなければなりません。
前薗:今回の事案では、告発するという明確な意図を持ったSNSユーザーがいました。リークを目的とするアカウントが次々と続報を出した影響も大きかったように思います。
能登半島地震関連のデマ・誤情報1,821件を削除
桑江:最後に「今月のトピックス・注目記事」を紹介しましょう。
LINEヤフーは、能登半島地震に関連するネット上のデマ・誤情報として1,821件のYahoo!ニュースコメント欄やLINEオープンチャットなどへの投稿を削除したと発表しました。
コロナワクチンに関わる2023年までのデマの削除件数を2カ月間足らずで大幅に上回り、削除した投稿には人工地震などの虚偽情報や不謹慎に当たるとした内容も含まれています。
また、YouTubeは、AIで合成された動画に「合成または改変されたコンテンツ」というラベルを表示する仕組みを導入することを明らかにしました。
こうした仕組みがどれだけ機能するかは現時点では何とも言えませんが、プラットフォーム側も能動的に対処しつつあるという動きは覚えておいていただければと思います。