ステマ規制がスタート、暗躍するステマ警察(デジタル・クライシス白書-2023年10月度-)【第113回ウェビナーレポート】
- 公開日:2023.11.08 最終更新日:2024.08.05
※当記事は「Twitter」当時の内容となります。
目次
ランキング系ビジネスの隆盛にブレーキ?
桑江:10月1日から景品表示法が改正され、ステルスマーケティング(ステマ)規制がスタートしました。
こうした中、スタートアップ系のメディアが、ランキングサイトを運営するA社について「規制開始の初日になっても特に動きがなかった」と指摘しています。
どういうことかというと、A社は「東京にある脱毛サロンのおすすめ人気ランキング」で、ある脱毛サロンを2位にランキングしていました。しかし、脱毛サロンの運営会社が破産手続きを開始した途端にランキングをサイレント修正したことが分かっています。
今回の事例が、これからどうなっていくのか。ランキングサイト、アフィリエイトサイトにとって、それが今後の動き方の基準にもなると思われます。
前薗:今回のステマ規制では、企業側が「これはステマではありません」と決めることはできません。一般消費者が、広告であるにも関わらず広告だと認識できなかったとなれば、それはステマに該当してしまうということです。
つまり、企業側の意図・意思はあまり関係ないということをしっかり押さえておかなければ、不意にステマを疑われてしまいかねません。また、ステマの白黒判定は一般消費者の受け止め方次第ということを考えると、ランキング系ビジネスは今後、かなり指摘を受けることになる可能性が高いと考えています。
インフルエンサーは規制対象外なのに…
桑江:一方で、こんなケースもありました。コロナ禍の最中は「自粛警察」「マスク警察」による炎上事例が続出しましたが、世の中の関心を集めているステマ問題についても炎上仕掛け人が「ステマ警察」さながらの動きを見せています。
その一例が、女性タレントB氏のSNS投稿に対する嫌疑です。とある京都の旅館を称賛して勧めた結果、「ステマではないか」との指摘を受けました。
しかし、ステマ規制の対象は事業者のみで、インフルエンサーは対象外です。つまり、仮に旅館側から依頼を受けての投稿だったとしても、B氏が罰せられることはありません。
逆に言えば、インフルエンサーが自らの一存で企業の商品・サービスを推奨した場合、企業側が「ステマだ」と批判されてしまう可能性もあるということです。
知らないうちに自社の商品・サービスをPRするコンテンツが投稿され、いきなりステマ批判が降りかかってきたとなると、さすがに焦るでしょう。インフルエンサーに商品・サービスを無償提供していれば、特に注意を払わなければなりません。
前薗:ステマ規制はグレーゾーンが非常に多く、どこまでがセーフで、どこからがアウトか分かりにくいのが実情です。
企業としては、ステマ規制の中身と何が広告なのかという定義をしっかりと理解した上で、自社のプロモーションがステマに当たるのか当たらないのかを判断する必要があります。もし当たらないというのであれば、なぜそう言えるのかという根拠も準備しなければなりません。
一般消費者から指摘を受けたとき、「このような基準に沿ってチェックしたのでステマではない」と明示できる状況をつくっておくのが望ましいでしょう。
性加害償う新体制に好感⇒記者会見「NGリスト」で一変
桑江:次は、創業者による性加害事実への糾弾が止まない大手芸能事務所C社の続報です。社名変更などの新体制を発表した10月の記者会見は、好意的な反応も多かったように思います。
しかし、この記者会見では、特定の記者を指名しないようにする「NGリスト」が存在していたことが発覚。世論の風向きは、一気に逆風へと変わってしまいました。
また、テレビ各局はこの間に、C社との取引に関する社内調査の結果を相次いで報道しています。C社に対する「メディアの忖度」について真正面から伝えたと評価された局がある一方、音楽番組のキャスティングなどで「まだ忖度しているのではないか」と厳しい目を向けられている局もあります。
世間からどう思われているかということを踏まえてコミュニケーションを構築していくことは、一般的な企業の不祥事対応でも必要です。そういった視点でC社の問題を見ていくと、いろいろな気付きを得られると思います。
前薗:世間は「テレビ局が忖度していた」という印象を持っているので、それを潔く認める報道を期待しているわけです。「忖度はなかった」というトーンだと世間の認識とギャップが生まれ、炎上自体が収束しない可能性がありますね。
またも「上から目線」、人事担当者の発信が物議
桑江:物流テックD社の人事担当者は、求人応募者の履歴書から住んでいる場所を調べ、「家賃からライフスタイルを想像してしまう」とXで発信。これに対し、他企業の人事担当者から「ストリートビューで見ちゃうのもあるある」「マストです!」といった共感の声が上がりました。
この投稿を見たSNSユーザーは「ネットに社名も名前も出している状態で書くことではないだろう」「このようなことを書き込む人物が人事にいてはいけない」などと反発し、物議を醸しています。
応募者の居住地について調べるのは、人事担当者にとって「あるある」なのかもしれません。しかし、今回のような投稿を第三者が見てどう思うかは、しっかりと意識するべきです。
前薗:人事担当者の発信は、どうしても「上から目線」に見えてしまいます。過去に発生した数々の炎上事例も、元を正せばそれが原因。今や人事の仕事について発信すること自体、リスクをはらんでいる気がします。
人事担当者がSNSで顔や名前を出すのは、ユーザーとの距離感を縮められるというメリットがあるかもしれません。
その半面、反発を招いたときのデメリットも大きいということをSNS運用の検討材料にしなければ、今回のような騒動はなかなかなくならないでしょう。
「女子供用ミニラーメン」のメニュー表記に賛否
桑江:「熊本市内のラーメン店には『女子供用ミニラーメン』というメニューが存在する」。そんなX投稿が拡散し、少ない量のメニューを「女子供用」と限定するかのような表記に批判的な声が相次ぎました。
一方、麺の量を少なめに注文しても値段は変わらないのに対し、同じ量の「女子供ラーメン」は200円安く設定されていることから、店側の気遣いにも理解が寄せられています。
「レディースセット」「レディースデイ」「ママさん向け」といったフレーズは珍しくありませんが、これからは使い方に気を付けなければならないかもしれませんね。
前薗:「女子供」という表現は「男性から見て弱い対象」というイメージが強く、それが影響したような気がします。仮に「レディースラーメン」のメニュー名で、なおかつ「性別・年齢を問わずご注文いただけます」という一文が添えられていれば違ったかもしれません。
大手新聞が「見出し詐欺」!? コミュニティノート炸裂!
桑江:最後は、ブロック紙を発行している大手新聞社E社の事案です。読者のミスリードを誘うような見出しのデジタル記事を投稿したXが非難の的となりました。
全国チェーンのハンバーグレストランの値上げを報じた記事の見出しは「メニュー4割値上げ」。確かに、全商品が4割アップすると思わせるセンセーショナルな言い回しです。ところが実際は、全メニューのうち約4割を10円から60円値上げするというだけのことでした。
もちろん、この記事はあっという間にコミュニティノートを被弾し、「見出し詐欺」といった不名誉な言葉も浴びてしまいました。
前薗:ゴシップ系のWeb媒体などではなく、マスメディアの一角を成す新聞がこんなことをするのかという声が上がっていたのも印象的でしたね。
課徴金納付命令もあり得るステマ規制
桑江:さて、本日のメインテーマであるステマ規制は、商品またはサービスについての表示であれば、すべてが対象です。ネット上の表示(SNS投稿、ECサイトのレビュー投稿など)だけでなく、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌なども該当します。
規制の対象となるのは「商品・サービスを供給する事業者(広告主)」です。違反行為が認められれば、消費者庁(または都道府県)によって告示違反に対する措置命令が行われます。
さらに、表示内容に優良誤認や有利誤認がある場合、課徴金納付命令など景品表示法上の措置を受けてしまうことも覚えておいてください。
今回のセミナーでもお話ししましたが、ネット上では「ステマ警察」が目を光らせている現実もあるため、ぜひ気を付けていただければと思います。