原爆、豪雨、猛暑・・・。相次ぐ“不謹慎”投稿(デジタル・クライシス白書-2023年8月度-)【第111回ウェビナーレポート】
- 公開日:2023.09.14 最終更新日:2024.08.05
※当記事は「Twitter」当時の内容となります。
目次
「原爆」を想起させる投稿に批判
桑江:まずは「不謹慎」がテーマです。スポーツ動画配信サービスを運営するグループの日本法人が、プロ野球の試合をめぐってX(旧Twitter)に投稿した内容について「不適切な表現があった」と謝罪しました。
投稿文では、この試合で活躍した選手について「まさに核弾頭の働き」という表現を使用。これに対し、「不謹慎すぎる」「違和感を覚える」といった指摘が寄せられました。
また、着せ替え人形、原爆開発を題材とした2つのアメリカ映画を掛け合わせたファンアートが造語とともに拡散。着せ替え人形の髪形をキノコ雲に置き換えたイラストなどがXに投稿されました。
これらに対し、着せ替え人形の映画の公式アカウントがウィンクやハート形の絵文字などを用いたポジティブなコメントを送り、物議を醸しています。
前薗:欧州でナチスがご法度であるのと同様、メッセージングなどを誤ると現地の国民感情を逆なでしてしまう可能性があるので注意が必要です。
また、公式アカウントが関与した以上、ファンアートのようなムーブメントが公式のものではないという釈明は通用しません。謝罪時は当然、再発防止策まで言及するべきですが、今回はその点の対応も不十分でした。
エッフェル塔前でポーズ、女性議員研修が大炎上
桑江:与党の女性局がフランス研修中に撮影した写真が、参加した参院議員のSNS アカウントで投稿され、世論の猛反発を浴びています。
エッフェル塔をバックにポーズをとる姿に「世間の感覚とズレすぎ」といった批判が殺到し、この写真が投稿された時点で炎上を確実視する声が出ていました。案の定、国民の困窮を訴える声やバカンスシーズンの7月にパリを訪れたことへの疑問が噴出しました。
前薗:会社の研修旅行やイベントに出かけた従業員が、ソーシャルメディアにプライベートな写真などをアップすると、誰の目に触れるか分かりません。それらがたとえばクレーム対応中の顧客の元に届いてしまえば、問題が悪化する恐れもあります。
また、何らかの反論や経緯説明をする場合は、事実に基づき、メディアなどに反証されないよう注意しなければなりません。 そうした意味で、今回の事案は炎上要素のオンパレードという印象でした。
異なる炎上事案を紐づけるグルーピングが進行か
桑江:続いては「不祥事」です。日本のビジネスと人権をめぐる問題を調査するために国連人権理事会の専門家が来日して会見しました。大手芸能事務所B社の前社長による性被害の訴えが相次いでいることについて「数百人が性的搾取と虐待に巻き込まれるという、深く憂慮すべき疑惑が明らかになった」といった見解を示しました。
その上で、報道機関の責任にも言及し、日本政府が主体となって被害者の実効的救済を確保する必要性も指摘しています。
B社は、外部専門家による再発防止特別チームが8月末頃に取りまとめる予定の提言を受け、今後の取り組みについて記者会見で説明する考えを表明しました。引き続き、今後の推移をウォッチしていかなければなりません。
前薗:グローバル展開をしている企業は特に、海外から見たこうした問題への危機意識は日本以上に高いということを改めて踏まえておく必要がありますね。
桑江:養蜂場を運営するC社の専務が、東京都迷惑防止条例違反などの容疑で警視庁に逮捕された件も問題になりました。C社のXの公式アカウントが、逮捕発表の当日に、逮捕とは無関係な予約投稿をしてしまい、「会社としての謝罪がまだなのに」といった批判を集めました。
公式アカウントは謝罪しましたが、同時期に起こった大手中古車販売D社が、自動車の修理費用を水増しして保険金を過大請求していた不祥事が明るみに出たこともあり、「創業家」という観点で紐づけて言及する声も聞かれました。
前薗:炎上事案のグルーピングは非常に進んでいる印象です。D社の不祥事が盛んに取り上げられた間も、メディアが「創業家が強い会社」「オーナー企業」などのキーワードをひとくくりにしてキャッチーなタイトルの記事にしていることもありました。
同様に過去の炎上事案が掘り返されてしまい、今起こっている炎上事案と紐づけられる現象も起こり得ます。企業としては、ソーシャルウォッチの手を緩めないでいただきたいですね。
さらに、過去の炎上事案と紐づけられてしまった場合に想定される不利益や、どの段階まで騒動が大きくなったらリリースを出すのかといったことも、シミュレーションしておいた方がいいでしょう。
5年前のアンケート結果が招いた反発とは?
桑江:続いては「育児・結婚」です。中国地方のE市が出産を控えた女性に配布した文書に掲載された「先輩パパからあなたへ」というコンテンツの内容がSNS上で紹介され、家事や育児への理解が足りないという指摘が相次ぎました。
問題となったのは、市内に住む父親を対象に5年前に実施されたアンケート結果です。「妻のこういう態度、言葉が嫌だった」という項目には「わけもわからずイライラしている、少しのことでイライラして当たられる」「赤ちゃんの世話で忙しく家事ができていない」などと書かれていました。
前薗:5年前と現在の市民感情は大きく異なります。特に、子育てに関わる男女の役割分担のようなセンシティブなテーマについては、昨年のデータでさえ古いと思っていただくのが無難でしょう。
誰もが簡単にクレームを晒すSNSの怖さ
桑江:さて、「食品衛生」に由来する炎上事案もありました。回転寿司チェーン大手F社の店舗で提供されたみそ汁のふたに、食べかけのようなワサビが付着していたとする利用者がXに実際の写真を投稿し、「気持ち悪すぎる」などと訴えています。
回転寿司業界をめぐっては、過去にもいわゆる「客テロ」の加害者がSNSユーザーに断罪される事案がありました。しかし、店舗側にも何らかの不備があれば、同じように糾弾されてしまうということです。
前薗:こうした投稿が出ると、他のSNSユーザーもクレームなどの声を上げやすくなります。食品関係の企業などは他人事と思わず、注意していただいた方が良いでしょう。
桑江:最後は「その他」です。格闘家として活躍するG氏が、自らの公式Xで旅行会社とのトラブルを明らかにしました。G氏はこの会社を通じて70万円のビジネスクラスの航空便を予約したものの、空港に到着するとエコノミークラスに変更されていたといいます。
G氏は激怒し、この会社のカスタマーサポートとのやり取りを公開。格闘家の仕事に支障が出たとSNSで苦情を連ね、広く拡散されました。その後、G氏は自身と個別に連絡を取った会社側が最終的に100万円を返金することで落ち着いたと報告しています。
F氏の告発を受け、SNS上では「この会社にひどい目に遭った」という告発が次々と投稿されました。また、「G氏が有名人だから対応したのではないか」という批判も続出しています。
前薗:企業にとって一番怖いのは、著名人も一般人もクレームをSNSに簡単に上げるようになったということでしょう。
チャットツールを使うケースが増えたカスタマーサポートとのやり取りも、スクリーンショットを撮れるので公開されやすくなっています。
こうしたことを踏まえ、企業としてどこまでユーザー対応をするのか、許容できるコストも含めて検討しなければなりません。
Xの広告収益分配プログラムが始まる
桑江:最後に「今月のトピックス」です。Xのクリエイター広告収益分配プログラムが、8月8日から順次適用されています。
このプログラムは、X Premium(旧Twitter Blue)に加入しているXユーザーに広告収益を分配する仕組みです。参加するには「フォロワー数500人以上」「過去3カ月間の投稿に対するインプレッションが1500万件以上」「Twitter Blueまたは認証済み組織にサブスクライブしている」といった条件を満たさなければなりません。
そのため、有名アカウントに無意味なコメントを書き込み、インプレッションを増やそうとする動きが実際に出ています。フォロワー数が多い企業の公式アカウントなどはそうしたユーザーが増える可能性があることから、スパムとして対処する意思表示などの必要性が高まるかもしれません。
また、Xの投稿自体にお金が発生してしまうので、著作権のチェックが厳しくなる可能性もあります。グレーゾーンの投稿が多いインフルエンサーなどを企業が宣伝活動に起用する場合は、十分に気を付けなければなりません。
前薗:Googleはベータ版であることを公言しながら公開し、サービスを改善していくスタンスをとっていますが、Xのスタンスは現時点で不透明です。そのため、想定外のトラブルが起こり得ます。
さらに、Xは人員削減の影響もあり、トラブルが起こった場合に問題を解決できるだけのリソースがあるかどうかも分かりません。企業としては、万が一のときは自社ですべて解決するという気概を持っておかなければならないと思います。