炎上を鎮める「真摯な謝罪」とは(デジタル・クライシス白書-2023年7月度-)【第109回ウェビナーレポート】
- 公開日:2023.08.02 最終更新日:2024.03.05
※当記事は「Twitter」当時の内容となります。
目次
業界大手で相次ぐ「不正・不祥事」
桑江:最初のテーマは「不正・不祥事」です。ハウスメーカー大手A社の営業担当者が住宅ローンの不正利用を顧客に指示したと、週刊誌で報じられました。A社は公式サイトで謝罪しましたが、その数日後には幹部社員が就活生に暴言を吐いたと、同じ週刊誌で報道されています。
中古車販売大手B社の保険金不正請求問題も大きな注目を集めていますが、前社長が全店の店長宛てにメディアを批判するような内容のLINEを送ったのは致命的でした。社内のコミュニケーションがリークされるのはもはや常識で、それを前提として行動しなければなりません。
B社は経営計画書の内容も報道されて「ブラックすぎる」と話題になりました。SNSには「店舗前の街路樹が次々と枯死している」という報告が上がり、検証写真も続々とアップされています。
また、「自動車保険の契約目標額を下回った販売店の店長が、上回った店長に現金を支払うという『慣行』がある」と全国紙で取り上げられたのは2016年12月のことです。その後の続報にも完全黙殺を貫いたB社が初めて開いた記者会見では当時の社長が退任を表明しましたが、SNS上では真摯さについて評価しないコメントが目立ちました。
前薗:A社に関する不正・不祥事はこの週刊誌が毎週報じており、組織的に見えるパワハラや営業目標を達成するための不正がB社と共通しているように感じられます。
企業のコンプライアンス違反がいとも簡単に出回るという構図は、今に始まったことではありません。企業としては明るみになることを前提に、自社がどのようなリスクを内包しているかを棚卸しして対処することが求められるでしょう。
また、真摯な謝罪に関して言えば、記者会見に出席したB社の前社長は台本を読みながら謝っていたという印象が強く残っています。一方、新社長はテレビカメラから目をそらすことがありませんでした。それだけでも、イメージはかなり変わると思います。
遅きに失した記者会見、前社長らの言動にも批判
桑江:新社長は記者会見で涙も流していました。しかし、それに対する批判があったのも事実です。
そもそも今まで記者会見を開かなかったことに加え、前社長がマスコミ批判のLINEを送ったことで企業側の「本心」が見え透いてしまったのが大きな理由でしょう。「騙す」「隠す」といった不誠実な行為は火に油を注ぎ、批判を増長させてしまいます。
また、前社長は不正について「天地神明に誓って知らなかった」と言い切りました。しかし、その言葉をひっくり返すような証拠が出てくると、これまで以上の猛批判を浴びるのは確実です。
前薗:非常にリスキーですよね。報道によれば、新社長は記者会見の当日、全社員に社用携帯電話のLINEアカウントを削除するよう指示しました。社員からは「不正の証拠を隠滅しようとしているのではないか」と疑う声が上がっているようです。
さらに、保険金不正請求についても「社長が知らなかったはずはない」と指摘する関係者の証言が聞こえてきます。記者会見に姿を現さなかった前副社長の動向にも関心が寄せられており、まだまだ予断を許さない状況です。
桑江:記者会見では、数々の不正が全て社員のせいにされました。責任を負わされ、傷つけられた社員が実態をリークするのは間違いありません。
前薗:最後は撤回しましたが、前社長が社員に対して「刑事告訴」という言葉を口にしたのは、社員に全責任を負わせるスタンスで記者会見に臨んだということの証左でしょう。
またも「社内いじめ」動画が拡散
桑江:さて、引っ越し大手C社では、運搬トラックとみられるコンテナ内で撮影された「社内いじめ」動画が拡散しました。C社に関しては以前も同様の動画が出回っており、ネット上でも「またか」という批判の声が上がりました。
「社内いじめ」は特異な事象と思うかもしれませんが、どの企業にも会社が把握していない現場の証拠があるでしょう。ある日突然、そういうものがSNSなどに上がってくるリスクにも備えておかなければなりません。
前薗:直近のコンプライアンスやコーポレートガバナンスでは許容されない言動があるという認識を全社的にきちんと共有しなければ、「内輪ネタ」のような不祥事がどんどん出てきてしまう恐れがあります。
他責型のリリースは炎上パターンの典型例
桑江:続いてのテーマは「模倣・盗用」です。ヘアケアブランドDのPR用Twitterの文面に対し、あるユーザーが「自分のツイートを勝手に使われた」との抗議が寄せられました。
ブランドの販売会社は公式サイトで謝罪しましたが、Twitter広告の制作・運用は広告代理店に委託しており、当該広告も広告代理店が投稿したと釈明しています。
前薗:同じ日に広告代理店も謝罪したので大きな問題にはなりませんでしたが、外部のせいにするのは他責型のリリースとして批判される炎上パターンの典型例かと思います。
「夏=水着」のプロモーションはリスク?
桑江:続いてのテーマは「ジェンダー」です。製菓大手E社がキャンペーンの一環として公式Twitterアカウントに投稿した「水着の女の子」のイラストが物議を醸し、賛否両論が巻き起こりました。
以前は「夏=水着」が当たり前でしたが、最近はそれ自体がリスクになるということでしょう。世の中には、さまざまな見方があるということにも気づける事象かと思います。
前薗:批判的な指摘を受けることも想定した上での投稿だったかどうかで、キャンペーンの成否の評価は変わってくるでしょう。ただ、水着関連のコンテンツは、どちらに転んでもリスクの方が大きい気がしますね。
ECサイトより高かったクラファンの応援価格
桑江:次は「不誠実な対応」の事例です。スマートホーム家電大手F社がクラウドファンディング(CF)で販売したロボット掃除機について、「大手ECサイトの方が安く販売されている」という不満が上がりました。
F社はCFのサイト上で謝罪し、無料保証期間の延長や返品・返金などの補償も提示しましたが、その対応にもさらなる批判が寄せられています。CFを使ったプロモーション・販売のリスクが浮き彫りになったケースかと思いますが、価格・販売戦略には注意を払わなければなりません。
前薗:ユーザーが謝罪のリリースに期待していたのは「CFでも大手ECサイトと同じか、それを下回る価格で提供できたのではないか?」という疑問への明確な回答だったように思えます。
求められている答えが何なのか、どう回答するべきかをしっかり見極めなければ、リリースを出すこと自体が悪手になってしまいかねません。
Twitterの新機能「コミュニティノート」に注目!
桑江:最後は「今月のトピックス・注目記事」です。Twitterが新機能「コミュニティノート」の提供を開始しました。実際にどんな投稿に追加されているのかを私たちが調べてみたところ、「原発」「マイナンバーカード」「ロシアウクライナ」などに関する投稿に対してでした。賛否両論の意見が対立しがちなテーマが多い印象です。
noteプロデューサー/ブロガー徳力基彦氏は「コミュニティノートは個別のツイートに対して非常に強い立場で匿名で指摘ができる機能であるため、明白なフェイクニュースへの対応としては効果があると考えられますが、意見が分かれる事象については新たな火種になり、分断を加速させる可能性も含んでいます」と話しています。
今後「コミュニティノート」がどのように使われていくのかは非常に見えづらいのですが、注目される機能になるでしょう。場合によっては自社のアカウントに追加されるケースも想定されますので、どう対応するかも考えていかなければならないと思います。
前薗:そうですね。
桑江:なお、Twitterの名称は「X」に改められ、新ロゴが正式決定しました。徳力氏も「1つの歴史の転換点になるのは間違いなさそう」との見解を示していますが、今後はスーパーアプリのようなインフラを目指して展開することになると思います。
一方、Twitterの一時的な閲覧制限により、地域特化の掲示板サービス「爆サイ.com」のトラフィックが急増しました。Instagramと連携している「Threads」は匿名性もないので「普及しないだろう」といわれています。現時点ではやはり匿名のサービスに流れる傾向が強いと感じます。