日本のインターネット広告の歴史~黎明期から現在まで~【第106回ウェビナーレポート】
- 公開日:2023.05.17 最終更新日:2023.12.05
ネット黎明期からのインターネット広告の変遷と日本のインターネット広告の問題点について、解説・分析いたしました。
※当記事は「Twitter」当時の内容となります。
目次
いまだに発展途上のネット広告
桑江:日本のインターネット広告の黎明期から携わってこられた立場として、現在の状況について教えてください。
関口:ネット広告はまだまだ発展途上で、マスコミ4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)と比べても課題が多いと思います。今なお、負の「輪廻転生」を繰り返しているのが実情です。
桑江:なるほど。
過去の炎上例を知ることがリスク低減に役立つ
関口:1994、95年頃からの検索・ポータル時代のネット広告には、男性の登録者が女性に成りすます「ネカマ問題」や、「ギミックバナー問題」、「ページビュー(PV)/インプレッション(imp)問題」などがありました。いろいろなやり方でバナー広告をクリックさせる「ギミックバナー問題」は、いまだに存在しています。
一方、WebサイトのPV数と広告配信のimp数の乖離が大きい「PV/imp問題」は減ってきました。しかし、広告配信の調査システムを使うと、現在も両者の数字に差が出てくることがあります。
広告内容の「だまし」や掲載量の正確性、若年世代のネット環境などの問題も同様で、これまでにどんなことが起こったのかを知っておいた方が良いでしょう。企業としては過去の悪例を知ることがリスクの低減に役立つはずです。
桑江:そうですね。
関口:2004年頃には、無料のブログサービスが始まりました。
クリック保証やコンテンツマッチ、行動ターゲティングなどによる広告が注目されましたが、AIなど存在しなかった当時のコンテンツマッチは、記事内容によってはマイナスプロモーションになってしまうことが問題視されたわけです。
また、レビュー・タレントタイアップも活発化しましたが、「やらせ」記事の横行やペニーオークション詐欺などが問題になりました。
検索エンジンではリスティング広告が始まったものの、当初から掲載順位の不透明さが指摘されています。
こうした時期に「炎上」が見受けられるようになりました。広告主側は、ブランドセーフティーを意識しなければならないということを考え始めた時代と言えるでしょう。
桑江:単純にネット広告を出すというだけでは、うまくいかないということが分かってきたということですね。
不適切投稿のリスクヘッジ意識が欠かせないSNS
関口:はい。SNSは2006年頃に台頭しましたが、SNSサービスならではの広告形態は、ほぼ存在しませんでした。
SNSでは単純な広告というよりプロモーションのような宣伝活動が重視されており、Twitterの即時性は他のサービスにない唯一無二の力があると思います。
ただし、SNSは配信システムがいまだに脆弱です。企業の公式アカウントを含め、不適切投稿による炎上も頻発しています。
正しく配信されているかをチェックする体制を強化しなければならず、広告やプロモーションを含めた不適切投稿に対するリスクヘッジ意識も高めておかなければなりません。
桑江:確かに、そうした問題は昔から変わらないですね。
媒体側の配信責任をいかに高めるか
関口:予約型広告の枠を埋められない雑誌や、Webサイトなどの媒体(メディア)を提供する会社を集めたアドネットワークは、動画広告を包含するディスプレイ広告の大半を網羅し、運用型広告が全盛になりました。
計画に合わせて自らターゲティングすることで広告が掲載され、広告料は実際に掲載された場合のみ発生します。非常に効率が良いのですが、実は問題がすごく大きくなりました。
掲載できなかった広告には広告料が請求されず、不適切な場所に掲載された広告については広告主側に掲載費が返却されます。しかしそれは、媒体側の配信責任がかなり希薄になったと言い換えることもできます。
消費者はそのサイトから発信されていることを信頼して広告を見るのが普通ですが、媒体側は「広告発信プラットフォームを提供しているだけ」という認識です。つまり、広告内容が間違っていても気にしないという風潮が広がっています。
新聞やテレビなどの広告は出稿段階の考査が非常に厳しく、「日本一」「日本最大」と言い切る表現はほぼ認められません。ところが、ネット広告では頻繁に使われています。
桑江:配信広告の品質は、広告主側が自己管理しなければならない状況に近いということですね。
関口:このままではだめだということで、日本アドバタイザーズ協会(旧日本広告主協会・JAA)と日本広告業協会(JAAA)、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の広告関係3団体が2020年12月、デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)を設立しました。定期的な監査を通し、一定の基準をクリアしたプラットフォームや代理店を認証しています。
広告主側がJICDAQの認証を受けたプラットフォームや代理店にしか発注しないという意識はまだまだ定着していませんが、あと5年もすれば状況は変わってくるでしょう。
また、データドリブンの時代において、自社データや外部データとの連携は模索が続くと思いますが、最近話題のChatGPTは広告制作(コピーづくりなど)に役立つ可能性があります。クリエイティブ業務にも、AIの流れが押し寄せているという印象です。
桑江:広告のクリエイティブに関しては、AIによってさまざまなアイデアの方向性が出てくる可能性がありますね。
3、4年おきに再発している「やらせ」問題
関口:媒体側の「やらせ」「データの不正利用」「掲載場所品質」の問題は、ネット広告が誕生したときからずっと起こっています。
特に「やらせ」は3、4年おきに再発している問題です。大きな理由はネット広告の人材の流動化が激しいことで、そのプラットフォームで発生した過去の事故が蓄積されていないケースが少なくありません。
そうした状況の中で間違いを繰り返しながら、徐々にクオリティーが上がることを目指している状態が続いているように思います。
一方、広告主側では広告の効率を意識し過ぎるケースが散見され、ブランドセーフティーの意識はレベル差が大きいですね。
桑江:そう思います。
関口:ネット広告が黎明期から抱えている問題が完全に解消されていない状況では、過去に失敗したサービスが焼き直されて復活する可能性もあるでしょう。
ネット上では新しいサービスやシステムがどんどん生まれてきましたが、メタバースにはどうも新しさを感じられません。
過去に存在したものがクオリティーを高めてもう一度出てくるようなフェーズに入ったとも思えるので、新しいサービスやプラットフォームが出てきたときは、過去に同様のツールがなかったかどうかをチェックする必要があるでしょう。
また、クリエイティブのAI化も進んでいく中、ChatGPTに頼り切ってしまえば効率ばかりが重視され、落とし穴に陥ってしまう気がします。
広告主側のダメージを防ぐ上では、やはり人間の目が非常に大切になるはずです。
桑江:広告主としては、自社のブランドを守ることをしっかりと意識してネット広告を使わなければならないということですね。
自社の炎上を防ぐために必要なことは?
関口:「事故防衛」は、あくまでも「自己防衛」です。広告代理店が何もしなくていいというわけではありませんが、ネット広告はマスコミ4媒体に比べてまだまだ成熟していません。そのため、広告主側が「炎上から身を守らなければならない」という防衛意識を持たなければならないと強く思っています。
ネット広告に関して同じ失敗を繰り返さないようにするためには、過去のデータを収集し、きちんとリスト化した中で炎上を防ぐ体制を整えるのがベストでしょう。
桑江:TikTokなどを含め、広告媒体としては新たなメディアやサービスが増えていくと思います。そうした媒体への広告出稿を考える際は、どのようにリスクの有無を判断すれば良いでしょうか。
関口:その媒体社で最近起こったネット広告の事故や失敗例がないかを確認するのもひとつの手です。そうした行動が、プラットフォーム側を育てることにもなると思います。