問われる従業員へのコンプラ教育(デジタル・クライシス白書-2023年4月度-)【第105回ウェビナーレポート】
- 公開日:2023.05.03 最終更新日:2023.10.11
目次
動物園での迷惑行為に批判殺到
桑江:「動物虐待」についてです。民放テレビ局の情報番組で、レポーター役のお笑い芸人が栃木県の動物園でフンボルトペンギンに餌をやる様子を生中継した際、スタジオの司会者が「池に落ちるなよ!気をつけろー!足元に気をつけろー!」という「フリ」の言葉を連発。この芸人はペンギンのいる池にわざと転落しました。スタジオでは笑いが起こりましたが、世の中では「動物を傷付ける」としてかなり問題視された事案です。
動物園は放送当日にTwitterで遺憾の意を表明し、テレビ局は番組のWebサイトと番組内で謝罪しています。この芸人は施設に直接謝罪したことが後になって分かったため、どちらかと言えば事態を誘発した番組側への批判が目立ちました。
桑江:また、キツネの展示を中心とした宮城県の動物園では、キツネにリュックを奪われたとする入場客がTwitterに動画を投稿し、「キツネが数匹集まってきてリュックを取り返せなかった」「放飼場にスタッフがおらず子どもには危険」などとコメント。動画は拡散しましたが、防犯カメラでは投稿者自身が悪質行為を働いてそのようなキツネの行動を誘発していたことが分かりました。
拡散されやすい動画を撮るために自分勝手な振る舞いをするのは、今年初めから回転寿司チェーン店などで騒がれている「客テロ」と同じ構図です。施設側が悪質行為を証明できなかった場合、あるいは公表しなかった場合、施設側に非があると広がってしまうリスクがあります。
店舗や集客施設を運営されている方は、どういう形で被害を防ぐのかを考えておかなければなりません。
前薗:このような話は、以前からありますよね。例えば、「コンビニエンスストアのおにぎりの中に虫が入っている」という写真が出回った直後に「衛生管理がずさんだ」との指摘が相次ぎました。しかし、時間が経つにつれて「店頭の商品に虫が混入するのか?」「誰かが封を開けたのではないか?」といった疑念が強まって議論が是正されていくパターンです。
ただし、責任のある企業が善意の第三者に議論の是正を期待するのは、あまりにも成り行き任せで危険な賭けかと思います。論調をしっかり見定めながら、いかに的確に介入し、フェイクも含めて間違った情報を修正していくかが重要です。
桑江:投稿者に厳しい制裁が下るよう誘導するのか、そこまで本人を追い詰めないような形で騒ぎを収束させるのか、介入のトーンも世論を見極めながら慎重に判断するのが望ましいと思います。
前薗:「やり過ぎた処遇」は逆に批判を招いてしまうため、企業としては気を付けなければならないでしょう。投稿主を過度に否定しないよう自制する必要があります。
不適切投稿への厳正対処が評価
桑江:続いては「不適切投稿」の問題です。東京都に本部を置く国立大学は、大学構内のギャラリーの業務を委託しているスタッフが、個人のTwitter上で不適切な投稿をしたとして、契約を解除すると発表しました。
投稿者は女性アイドルグループのメンバーがこの大学への合格を公表したというインターネットサイトのニュース記事を引用リツイートする形で、「職権をついに濫用する時が来ました」と言及したものとみられます。
実は私も、前後の投稿を見ていました。投稿者は本気で何かをしようとしていたわけではなく、おそらく「冗談」だったと思います。
しかし、有名な国立大学で働いているような立場のある方がこうした投稿をしてしまうと、このご時世ではこれほどの影響が出るということですね。
前薗:まさに、そう思います。
桑江:不適切投稿の2日後、ギャラリーのWebサイトにはお詫び文が掲載され、大学のWebサイトでは当該スタッフの契約解除が発表されました。
さらに翌日、ギャラリーは「ハラスメント防止研修を実施するため1週間にわたり臨時休業する」と表明し、そのタイミングで新所長に異動した教授も着任報告に合わせて本件について謝罪しています。
ニュース記事を引用リツイートして自分の意見を主張する投稿パターンはよくありますが、例え冗談のつもりでも「他者の危機感を煽る表現」と受け止められてしまうと、このようなことになります。
投稿者の立場で気を付けなければならないのはもちろん、企業としては従業員の軽率な投稿によって謝罪や補償を余儀なくされる可能性を念頭に置かなければなりません。
ただ、大学がハラスメント防止研修の実施を発表したのは騒動の翌日です。今回の事案を重く受け止める姿勢が見えたこと以上に、これほどスピーディーに動ける体制が整っていたというのがポイントです。実際に、大学を非難する声は全く表面化しませんでした。
迅速かつ的確な対応をしたことで、批判の矛先が向かなかったということでしょう。
前薗:そうですね。他の事案でもぜひ参考にしていただきたいのは、東京芸大には謝罪文を一度リリースしたから終わりというスタンスが見えなかったという点です。
新所長の就任を最終的な落としどころとして、何度も謝罪をし続けた姿勢が評価されたと言えます。
謝罪をして、ネガティブな指摘を受ける件数が減っていれば「もうあまり触れたくない」と考える企業心理が働くことは否定できません。ただ、折に触れてしっかりと謝罪をすることで「真摯に受け止めている」と評価されれば、自社のレピュテーションがプラスに転じることもあります。今回の事案は、そういった意味でも参考になるでしょう。
公式Twitterで一般ユーザーに絡んだ企業が謝罪
桑江:こちらも不適切投稿のお話ですが、消防用設備の施工などを手掛けるA社は、従業員が公式Twitterで「特定の方の人権を傷付ける不適切な投稿を行っていた」と謝罪しました。
同社のアカウントは猫がいる職場の紹介で人気です。ところが、脱走防止対策を紹介した動画に対し、あるTwitterユーザーが「怖がっているように見える」などと疑問を呈しました。
これに対し、A社はこのユーザーのプロフィールに記されたプライベートの悩みを引用して「ご自身の将来の心配をされた方がいい」と告げ、「ついでにブロックもしました!」などと書き込んだリプライも送信。こうした反応に、一般のTwitterユーザーからはかなり批判が出ました。
自社の公式Twitterに粘着して毎回ネガティブな投稿をするユーザーにどう対応するかは、悩ましい問題でしょう。とは言え、企業という立場で個人を攻撃をしてしまうと第三者にもネガティブな感情を持たれ、謝罪に追い込まれてしまいます。
前薗:企業の公式アカウントが、個人アカウントへ過度に反応、干渉することは、あまりお勧めしません。それが原因で炎上した事例もあるので、注意が必要です。
企業対個人となると、どうしても企業側が大きく見えてしまいます。少なくとも一般ユーザーをブロックするかどうかはかなり慎重に判断する方が良いと思いますし、企業が偏った意見を表明するのは賢明ではありません。こうした運用が起きないよう、しっかりとしたガイドラインや利用規約の整備が必要ですね。
コンビニバイト中に生配信、外国人店員の動画に騒然
桑江:次も話題になりましたが、大手コンビニチェーンの店舗で、外国人のアルバイト店員が勤務中にライブ配信する動画が拡散し、物議を醸しました。
店員は自らをスマートフォンで自撮りしながら、視聴者に「ギフトちょうだい」と投げ銭をせがんだり、他の外国人の店員同士でコラボ配信を始めたりする様子も。動画には「これはクビでしょ」「日本でこれはダメ」といったコメントが殺到しました。
2019年に多発した「バイトテロ」は、撮影済みの動画をInstagramのストーリーズに投稿するケースが大半でした。しかし今回の動画は、まさかの生配信です。
そもそも勤務中にスマホを使うのはNGですが、企業としては今やこんなことまでされてしまう可能性があるということを想定しておかなければなりません。
前薗:海外のコンビニエンスストアで、スマホを触りながら接客している店員に戸惑った、あるいはそういう話を聞いて驚いたという方も多いでしょう。
少子高齢化で働き手が不足する中、日本のサービス業界でも留学生などを雇用している店舗は多いと思いますが、日本人と外国人の「当たり前」は違います。カルチャーギャップをしっかり認識しておかなければなりません。
頭ごなしではなく、「日本でこういうことをすると、こういう理由で処分される」ということをきちんと説明しておかないと、今回の事案のようなリスクを招いてしまう可能性があります。
ユーチューバーの個人情報を私的利用
桑江:続いては「個人情報」に関する事案ですね。人気ユーチューバーB氏は自身の公開動画で、スマホを契約している大手キャリアから営業電話がかかってきた後、SNSのダイレクトメッセージ(DM)で担当者個人から直接連絡があったことを詳細に報告しました。
DMを送付した担当者は営業電話でB氏の声を聞き、名前も一緒だったので連絡をしたということです。キャリア側も認めましたが、仕事を介して得た情報を個人利用したことが、かなり問題視されました。
前薗:B氏は配慮しましたが、DMのアカウント名や送り主の名前がもし晒されていれば、この担当者の身元が特定されて攻撃の対象になることも十分考えられました。
このような従業員個人にとってのリスクもしっかりと啓発し、今回の事例を他山の石として同様のことが起きないようにしていただければと思います。
電話をかけた相手が、どれだけ影響力のある方かは分かりませんので。
学生寮の前時代的ルールが明るみに
桑江:最後は「その他」の炎上事案です。あるTwitterユーザーが九州の国立大学学生寮について「飲み会では先輩が許すまで正座」「LINEのスタンプなどは許可が出るまで禁止」といったルールがあると投稿、インフルエンサーが取り上げたことで拡散しました。
大学側は「パワハラなどを理由とした入寮辞退や退寮は把握していない」としていますが、「身内」のルールであってもインフルエンサーに晒されてしまえば全国的な話題になるということです。
前薗:企業内や支店・拠点内のルールも同じことが言えるでしょう。世間の感覚に合わせてどんどんアップデートしていくか、ルールの意図や目的を説明できるようにしておかなければ批判されてしまいます。
Twitter、ヘイト投稿に注意ラベル
桑江:さて、今月のトピックス・注目記事も紹介しましょう。Twitterの運営会社がヘイトスピーチ含む投稿に対し、利用者に注意を促すラベルの表示を近く始めると発表しました。
各SNS媒体の運営側もヘイトスピーチや誹謗中傷、デマなどの投稿をできるだけ抑制しようという動きを取っていますが、どこまで実効性があるのか見守る必要があります。
Twitterは現在、さまざまな変化が加えられているので、その辺りもしっかりウォッチしていかなければならないでしょう。
前薗:2段階認証の設定なども変わってくるので、そうした動きも企業のガイドラインなどに即座に反映できるオペレーション体制を敷いていただければと思いますね。