炎上からの復活劇!企業が顧客の信頼を取り戻すためには【第110回ウェビナーレポート】
- 公開日:2023.08.16 最終更新日:2023.08.28
1日平均4.3件炎上が発生する昨今、企業が炎上から身を守り、顧客の信頼を得るためにはなにが求められます。セミナー内では事例を交えながら解説・分析いたしました。
消費者の購買行動を左右する企業炎上
桑江:デジタル・クライシス総合研究所がまとめた「デジタル・クライシス白書2023」によると、2022年に発生した炎上の件数は1570件(1日平均4.3件)でした。
これらはすべてメディアで取り上げられ、うち59.0%は「24時間未満」という速さで放送・記事化されています。
火の手が上がったばかりのタイミングで報じられる炎上事案のインパクトは強く、企業が当事者となった場合は消費者の購買行動に与える影響も決して無視できません。
白書のデータでは、炎上の主体となった法人などが取り扱っている商品・サービスの購入や利用を再検討・停止するという人は30.6%に上りました。購入や利用の優先順位が下がったという人を合わせると59.6%に達しています。
宮下:例えば、外食産業を取り巻くのは「異物混入」「バイトテロ」「クレーマー対応」「法令違反」など、あらゆる炎上リスクです。リスクマネジメントの成否次第で、レピュテーションリスクに濃淡が生じてしまいます。
外食産業は口に入れる食材を扱うため、お客様の健康被害などセンシティブなリスクとも隣り合わせです。タッチポイント(顧客接点)が多く、従業員が多い場合は個人のサービスレベルのコントロールにも気を遣わなければなりません。
また、サプライチェーンが複雑で、人件費などコスト面のプレッシャーも抱えています。近年は人手不足も深刻化し、経営の舵取りが非常に難しくなっている状況です。
ブランドと業績をV字回復した日本マクドナルド
桑江:炎上リスクを回避するエッセンスとして、我々は「Brand Integrity(ブランド・インテグリティ)」の考え方を提唱しています。
ブランド(企業)に対する消費者の信頼を醸成するため、ブランド(企業)としての誠実さ、約束を果たすことを意味する言葉です。
シンプルに言えば各ステークホルダーに真摯に、誠実に対応するということで、近年のSDGsの広がりからも改めて注目され始めています。
宮下:そうですね。例を挙げると、日本マクドナルドは経営戦略や品質管理をめぐる数々の騒動が発生した後の2015年、起死回生に向けた真摯な一歩を踏み出しました。一番大事なステークホルダーであるお客様の声を直接聞こうと、当時の社長が47都道府県を回って開いたのが「タウンミーティングwithママ」です。
計352人の母親から「マクドナルドに期待していること」「提供しているサービスと求めているサービスのギャップ」などあらゆる声を吸い上げ、それらを基に「信頼回復のためのアクション」を実行に移しました。
宮下:直接的に取り組んだアクションは6項目です。まずは社外有識者と関係部門の選抜社員によるタスクフォースを組織し、過去の騒動を調査・分析することで導き出した課題を経営陣に答申しました。
その内容を受け、経営陣が策定したのは従業員教育や異物混入報告基準、情報の一元化、ソーシャルメディア対応などに関する20のアクションです。
さらに、食品安全・品質管理に関するポリシーやシステム、プロセス、管理体制などの自主行動計画も定めました。
桑江:白書を見ると、炎上した企業の事後対応を確認するという人が66.8%を占めます。さらに、内容次第では良い印象を受けるという人も38.0%に上りました。
企業が顧客の信頼を取り戻すことは可能で、炎上で悪化してしまったイメージが好転すれば「Brand Integrity」が実ったということになるでしょう。
宮下:もちろん、信用を回復するだけではビジネスを回復できません。ビジネスをドライブしながら信用を回復していく必要があります。
日本マクドナルドは「お客様にフォーカス」「店舗投資の加速」「地域に特化」「コスト削減と投資」の4つのカテゴリーから成るビジネスリカバリープランを立て、経営資源を集中投下しました。
その後の業績はV字回復を遂げており、一連の取り組みが持続可能な効果を生み出せるものだったということを証明できたように思います。
桑江:そうですね。消費者からの信頼を失わないために、企業が平時から取り組んでおくべきことは何だとお考えですか?
リスク管理の5つのポイントとは?
宮下:リスク管理には5つのポイントがあると思います。1つ目は、リスク要因を因数分解し、有効な社内・社外向けアクションを立案して優先順位を決めておくことです。
2つ目として、ブランドの信用力を高める平時のアクションと事件発生後のダメージを最小限にするためのアクションを分け、準備しておくことも重要です。
また、3つ目のソーシャルメディアの対応は複雑で、日々進化しています。シエンプレさんのような専門家の知恵もお借りし、組織横断的なトレーニングをルーティン化しなければなりません。
4つ目はリスク対応力の向上です。経営と直結する組織横断的なリスクマネジメント体制の確立や情報のリアルタイム共有、FAQアップデート、スポークスパーソンのメディアトレーニングの準備などをしておくべきです。
最後に、平時から信用を積み重ねておくことの大切さを挙げておきます。ビジネスリテラシーを共有すべく、自社の業界の専門家や著名ジャーナリストなどのKOL(キーオピニオンリーダー)と定期的に交流することで良好な関係を構築できると安心です。
桑江:失った信頼を取り戻すのは容易ではありませんが、企業が自らの非を謙虚に顧みて改善に取り組むのはさらに難しいことかと思います。一連のアクションとプランを社内で調整し、実行するのはかなり大変だったのではないかと推察しますが、日本マクドナルドの場合はどのような社内コミュニケーションによって実現まで至ったのでしょうか。
宮下:答えはひとつではないと思いますが、日本マクドナルドのコーポレートバリューにはお客様を大事にするというカスタマーファーストの精神があり、そのDNAが脈々と受け継がれています。
「正しいことを正直に誠実に、倫理観を持ってやり抜く」という気持ちが言語化され、社内でシェアされているのも炎上から復活できた要因です。創業者の言葉や経営陣が発信するメッセージなどにも時代を超えて、必ずそのようなキーワードが入っています。
また、一番大事なステークホルダーであるお客様の声を全国で直接聞き、それらをまとめた上で活動を起こそうと決めた当時の社長のリーダーシップも大きかったのは確かです。
社長がその気にならず、品質管理部門や広報部門に対応を押し付けていたら、根本的な問題解決は図れていなかったと思います。