急増する労働系・ハラスメント系リーク炎上の背景と企業が気をつけるべきこととは【第97回ウェビナーレポート】
- 公開日:2022.12.21 最終更新日:2023.10.10
第97回となる今回のゲストは働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役の新田龍氏です。
新田氏は、「ブラック企業就職偏差値ランキング」ワースト企業を複数社経験し、事業企画、営業管理職、コンサルタント、新卒採用担当等を歴任。2007年に現社を設立。労働環境改善による「業績向上&従業員満足度向上支援」と、悪意ある取引先相手の不払い、契約違反、信義違反、模倣、人材引き抜き、詐欺などの「こじれたトラブル解決支援」、および炎上予防と炎上時の危機管理対応による「レピュテーション(評判)改善支援」を専門としています。各種メディアで労働問題・ハラスメント問題・炎上トラブル問題を語り、優良企業は顕彰。トラブル解決&レピュテーション改善実績多数。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。著書は24冊。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)が発売中です。
今回は、『急増する労働系・ハラスメント系リーク炎上の背景と企業が気をつけるべきこととは』をテーマに、今年起こった労働問題やハラスメント関連の炎上事例を取り上げながら、日本のブラック企業問題について解説・分析いたしました。
目次
不採用者を見下すような投稿で炎上
桑江:名刺管理サービスを提供するA社の人事担当者が「採用は“採ってはいけない人”を見極める仕事だ」とツイートした件は、企業の人事担当者による最初の炎上事例です。
厳密に言えば「労働系」ではないかもしれませんが、Twitter上では「『面接で落とされた就活生が見ているかもしれない』という想像力が欠如している」といった厳しい批判が数多く寄せられました。
新田:会社の看板である人事部門の担当者が、社名を出してこう投稿してしまったことに疑問を感じました。
A社の採用試験を受けて不合格だった方には「自分は採ってはいけなかった人だった」と思われるネガティブな効果が出ますし、自社に関わってくださった方々の人格を否定する発言とも受け止められてしまいます。ツイートを読んだ相手がどう思うかという配慮が足りなかったと感じます。
桑江:新型コロナウイルスの影響下ではさまざまな分断が起き、消費者が企業を非難するケースもよく見受けられました。そうした影響もありそうでしょうか。
新田:あると思います。特に就職で苦労した方にとって、人事担当者による「上から目線」の発言は妬み、やっかみの対象になってしまいます。
私も人事の仕事に携わった経験がありますが、人事担当者は取引先に頭を下げられたり、何かをお願いされたりすることもあるものです。
無意識のうちに身についた傲慢さが発言や態度に表れてしまうかもしれないので、かなり自重しなければなりませんね。
給与を出し渋る印象の投稿に物議
桑江:コンサルティングファームB社の人事担当者による炎上も、A社の事例に近いですね。「給与や待遇にこだわりがある人とは働きたくない」とツイートし、物議を醸しました。
新田:経営側の立場からすると給与にこだわるだけでなく、仕事にやりがいを感じてくれる人を集めたいという本音があるのは理解できます。
ただ、採用担当者が堂々とそれを言ってしまうと、給料を払えない会社、やりがいを搾取する会社だと受け取られることもあるため、ネガティブな反応が多かったのだと思います。
この事例ではツイートした本人はもちろん、会社側も「給与はきちんと払っています」といったフォローを一切しないまま、うやむやにしてしまったのも気になるところです。
退職相談の看護師に「『なんか目標をもて』と言ってやった」
桑江:愛知県のC病院では、勤続3年目の看護師に「退職したい」という相談を受けた人事部看護師採用チームの担当者が「『目標をもってないからや、なんか目標をもて』と言ってやった」とチームのTwitter公式アカウントに投稿しました。
ネット上では「公開パワハラ」「やめたい理由も聞かずにひどい返答」といった批判が殺到し、公式アカウントは謝罪に追い込まれています。
新田:採用活動をしても必要な人材を確保できない企業の特徴は、こういうところにもあるのではないでしょうか。
この看護師は意を決して相談したはずですが、人事担当者はしっかりとしたヒアリングもしないまま一方的に精神論のようなアドバイスを押し付けました。他者から見ると「そんな職場だから辞めたくなってしまうのだろう」と捉えられる可能性があります。
人事担当者は「当然の仕事をした」という感覚で投稿したのかもしれませんが、情報を発信する際はどう見られるかということに気を付けなければなりません。
桑江:ここ数年、採用活動のためにSNSアカウントを開設する企業が増えています。今年はTikTok動画によるプロモーションが盛り上がりましたが、どんなことに注意するべきでしょうか。
新田:若手社員が同年代の就活生へのウケを狙った投稿アイデアを考えているのは涙ぐましい努力だと思いますが、閲覧者の世代が少しずれただけで「同調圧力が厳しそうな会社だ」と思われてしまうリスクもあります。
自分たちの年代にはウケが良かったとしても、それ以外の方々からネガティブに見られる可能性もあるので、多角的な見方を踏まえて投稿した方がいいでしょうね。
パワハラ苦か、回転すし店長が店の駐車場で自殺
桑江:回転すしチェーン大手のD社では、山梨県の店舗の店長が上司から日常的にパワハラを受けていたことを苦にし、勤務していた店の駐車場で焼身自殺をしていたと週刊誌で報じられました。
新田:D社の労働環境の悪さに関する内部告発は、以前から多々お聞きしていたところです。
違法性が疑われる数々の不祥事があったにも関わらず、一切コメントしないという企業側の隠ぺい体質が際立ったため、炎上しても仕方がないという気がしました。
桑江:2022年はハラスメント系の話題が繰り返されましたが、インターネット上の反応に対する企業側の変化は感じられますか。
新田:有名な大企業ほどメディアで取り上げられやすいので、ハラスメント防止の意識が高い傾向です。
一方で、炎上したときは言質を取られないように取材を拒否するケースも増えてきていて、しっかりした対応をしている企業とそうではない企業の二極化が進んでいるような気がします。
業務外の暴行事件で従業員が逮捕、批判の矛先は企業に
桑江:引越業大手F社の従業員4人が同僚男性の下着を脱がせるなどした上、けがを負わせたとして逮捕された事件も起こりました。
ちなみに、F社では妊娠中の女性従業員が作業中の現場で破水して入院したことなどが週刊誌で報じられています。
新田:いじめの件は業務中に起こったことではないため、会社が全面的に監督責任を問われて謝罪を迫られるというのはかわいそうな気もします。
ただ、従業員のプライベートな行動だったとしても、企業名の公表は避けて通れません。
「世の中を騒がせたことお詫びした上で事実関係を調査し、加害者に該当する従業員を社内規定に基づいて厳正に処分した」、というくらいのことは発表した方がいいでしょう。
桑江:以前なら、こうしたトラブルは地方紙などの記事になるだけで終わることが多かったのですが、ここ数年はSNSなどで話題になっています。
業務外の従業員のトラブルなどにも、企業としてしっかりと対応しなければならなくなっているという印象がありますよね。
新田:多くの方がSNSという発信手段を持っている以上、スマートフォンで記録した動画や写真、音声があっさりと投稿されてしまいます。
例えフォロワーが少ない方が投稿したとしても、誰かが見つけて拡散すれば一気に広がる可能性も考えられるので、「誰かがどこかで見ている」という意識を持って行動するしかありません。
「やる気がない」を理由に契約社員を解雇?
桑江:最後に紹介する炎上事例は、ITベンチャーG社の経営者による「今朝1人解雇した」というツイートです。
解雇の理由は「やる気がない」ということでしたが、定量化しづらい「やる気」を理由に解雇したように取れた上、それを公にしたことに疑問の声が多数寄せられました。
その後、この経営者は投稿を削除し、「解雇」は雇用契約期間の満了による契約終了だったと釈明しましたが、当初のツイートでは契約を途中で打ち切ったことを示唆しています。
新田:経営側と従業員側は立場が全く異なるので、雇用関連のトラブルは炎上しやすいテーマです。
契約社員は正社員より解雇しやすいと思われがちですが、契約社員を契約期間中に解雇するのは違法です。そういう知識がある方には「堂々と違法行為をしている」と受け止められたと思います。
経営者の謝罪前後のツイートの内容は矛盾していることから、長期的に見ると信頼を失う行為だったと言えるでしょう。
不都合な情報も隠さない誠実さが求められる
桑江:個々のネットユーザーは発信力や拡散力を持ち、不祥事などもリークしやすい環境が整っています。
企業としては、インテグリティ(誠実さ)やコンプライアンス(法令遵守)の体制をしっかり整えることが重要ですね。
新田:不祥事は極力表に出したくないかもしれませんが、あとから隠ぺいが分かってしまうと炎上が加速することがあります。
どんな情報も全てオープンにして「自分たちが未熟だった」と最初から認めた方が炎上を防いだり、早く鎮火したりできるため、やはりインテグリティが大事ですね。