年の瀬に見る2022年の炎上トレンドとは(デジタル・クライシス白書-2022年12月度-)【第98回ウェビナーレポート】
- 公開日:2022.12.28 最終更新日:2023.06.20
目次
生理中の女性用「真っ赤な入浴剤」が物議
桑江:「ジェンダー」関連の炎上事例です。雑貨メーカーのA社が生理中の女性をターゲットに開発した、湯船のお湯を真っ赤な色に変えるバスボム(入浴剤)が、SNS上で物議を醸しました。
宣伝用のポスターでは、生理中に湯船に浸かり、体をいたわる「生理浴」という概念を提唱しましたが、「そもそも生理中に赤い湯に入りたいかよ。落ち着かんわ」「生理中に真っ赤な大量の液体見たくないわ。余計鬱(うつ)になる」など、不快感を示す声が多く見られました。
ここまでなら従来と同様のクリエイティブ炎上ですが、A社によると社内でも赤色であることに否定的な意見が寄せられていたそうです。しかし、マーケティング面のキャッチーさや展示会への出展を優先した結果、他色の開発が間に合わなかったということでした。
前薗:社内で否定的な意見が出た場合、営業上・マーケティング上でどう優劣をつけていくかがとても重要です。ネガティブな声に対し、会社としてどのように向き合っていくのかはもちろん、社員がネガティブな声を上げやすい組織づくりも必要だと思います。
「萌え絵」ポスターの賛否議論が真二つに
桑江:JR大阪駅に掲示された麻雀ゲームとテレビアニメのコラボポスターは議論が二分しました。「性の商品化」などと批判した野党前代議士の女性に同調する意見があった一方、「捉え方は本人次第」「世代間ギャップもあるのでは」といった指摘も聞かれます。
いわゆる「萌え絵」をめぐる議論はジェンダー論、憲法論にまで発展しましたが、広告代理店は「複数の担当者で問題がないかを検討し、修正を重ねて出来上がった」と主張。掲示の契約期間満了まで撤去などの拒否を貫きました。
前薗:受け取り手の感覚や個人の主義・主張が絡むため、このような問題はこれからずっと議論が続くと思います。
2次元的なコンテンツに一定数のファンがついているのは事実ですが、批判的な声が上がった場合にどのような回答・対応をするかはリスクシナリオに組み込んでおく必要があるでしょう。
突然のサービス終了告知に「不誠実」と批判
桑江:次は「不誠実な対応」です。通信教育大手B社が英語教材のサービス終了を突然発表し、利用者から「8年間サポートすると言っていたのに」といった批判の声が上がりました。B社は公式サイトに謝罪文を掲載しましたが、中には入会からわずか3カ月〜半年ほどの受講者もいたそうです。
また、家族向けSNSを運営するC社もサービス終了を突然発表し、利用者に衝撃が走りました。通知からわずか1カ月ほどで利用できなくなるという猶予期間の短さに加え、子どもの写真や動画など思い出のデータがすべて消失しかねない不十分なバックアップ手段に不満が噴出したのです。
その後、家族アルバムサービスを運営する別の会社から支援の申し出があり、データの一括ダウンロード機能が提供されることになりました。サービスの終了日も12月27日から2023年4月11日に延期されています。
前薗:支援を申し出た家族アルバムサービスの会社が株を上げたという印象ですね。競合他社や同業他社がどのような動きをしていて、どのような批判や指摘を受けているかをよく見ておけば、1つのビジネスチャンスになり得るとも言えるでしょう。
ケーキの発送トラブルを訴えるツイートが拡散
桑江:オーダーケーキ専門店を運営するD社の発送トラブルを訴えるツイートも物議を醸しました。投稿によれば、注文したデコレーションケーキが受け取り予定日までに発送されず、その後の対応もずさんだったということです。
2022年の炎上事例は、企業などの不手際で被害を受けた消費者がSNSで公にしたクレームが大ごとになり、「私も同じ目に遭った」と後追いする投稿も相次ぐパターンが目立ちました。
前薗:そうですね。誰もがインターネット上でのリークをしやすくなったので、企業側にはもはやクレーム自体が届かないと考えていただいて問題ないでしょう。
リスクマネジメントにおいては、インターネット上の不満の声をいかに収集できるかがとても重要だと感じます。生活者の中には「自らの不満を解消する方法はコールセンターではなく、SNSで声を上げることだ」と思っている方も一定数存在するということを押さえてくださればと思います。
「やる気がない」から従業員を解雇?
桑江:続いての炎上事例は「経営者・役員の発言」です。ITベンチャーE社の経営者が、「やる気のなさ」を理由に従業員を解雇したように取れるツイートを投稿し、疑問の声が多数寄せられました。
経営者はツイートを削除した上で「契約期間の満了によるもの」と釈明しましたが、それまでの投稿内容と矛盾する点なども指摘されました。
前薗:2022年後半は、謝罪の仕方が指摘されるケースが目立ってきたように感じます。
顔と名前を公開したアカウントの炎上は増えているので、不測の事態が起きたときの対応指針を定めておかなければなりませんね。
高級ブランドに「児童虐待」の批判が殺到
桑江:次は「虐待・差別」の炎上事例です。パリに本店があるファッションブランドF社のアーティスティック・ディレクターが、児童虐待に当たるとの批判を受けて取り下げたホリデーキャンペーンについて、自身の公式Instagramで謝罪しました。
さらに、社長兼最高経営責任者(CEO)もブランドの公式Instagramに再発防止策などを含む謝罪文を掲載しています。
ただ、指摘を受けたキャンペーンのビジュアルは、セットの一部が児童ポルノに関する裁判資料でした。普通のチェックで気付くのは難しいと思いますが、今はそのような細かい部分まで見られてしまうということです。
F社は撮影用セットの製作会社などに損害賠償を求めましたが、インターネット上では「責任を他者に押し付けている」とさらに批判を集め、TikTokではD社の製品を破壊したりボイコットを呼びかけたりする動画が広まってしまいました。
前薗:まずは自社の責任を認めて謝罪した上で、契約などに則って提訴するという形にしないと責任の押し付けと見られてしまいます。
損害賠償請求を起こすだけでリスクは収まらないということを押さえていただければと思います。
外国人向けの差別的な貼り紙が波紋
桑江:大阪府内のコンビニチェーンの店舗にある肉まんの蒸し器に「外国人のお客様へ『これ』禁止。『肉まんください』と言って」という手書きの紙が貼られ、SNS上では「日本人なら『これ』でいいのだろうか?」といった批判の声が多数寄せられました。
前薗:外国人だからこうしてくださいというよりは、万人向けに日本語と英語を併記しておけばリスク自体を低減できたと思います。
「その他大学」のメール記述に「学歴フィルター」の批判
桑江:鉄道会社のG社が、インターンシップの受付サイトで、学校名を登録していなかった学生に送ったメールの宛名に「その他大学」と記され、SNS上では「学歴フィルター」を疑う批判が寄せられました。
前薗:本質的には、企業などの人事部門の炎上と似ていると思います。採用活動に携わる人事部門の発信は常に「上から目線だ」と受け取られる可能性があるので、すべての発信物に関して細心の注意を払うべきでしょう。
中国発ECサイトの衣料品に著作権侵害の指摘
桑江:「著作権違反・模倣」の炎上事例もありました。中国発の衣料品ECサイトを運営するH社が販売する商品に、自身の作品に酷似する絵が描かれていると指摘した日本人グラフィックデザイナーのツイートが注目されました。
前薗:インターネット上では引き続き話題になっていますね。アパレル系の関係者にはユーチューバーも多く、いくつかの検証動画がアップされました。
フランスの人気洋菓子ブランドは「パクリケーキ」謝罪
桑江:東京都内で教室を開いているフラワーケーキデザイナーの女性が、フランス発の人気洋菓子ブランドにデザインを模倣されたと訴えていた問題では、ブランドの運営会社が模倣の事実を認めて謝罪しました。
最近は画像認識の精度がかなり上がっているため、この事例に限らず模倣しているかどうかはすぐに発覚します。
前薗:12月の炎上事例には、さまざまな要素がありましたね。
炎上そのものの型として、一度話題になった事例は、他にも似たような話題がないか探す動きが必ず起こります。そうした中、実際に証拠となる書類などが出てきた、あるいはインターネット上で何らかの声が上がったことで炎上が横展開していくということも考えられるでしょう。
「コンテンツ」と見るか、「性の商品化」と見るかで価値観が完全に二分化されたJR大阪駅のコラボポスターのような問題も、引き続き起こると思います。