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その表現は大丈夫?広告「炎上」で不買運動も!転ばぬ先のクリエイティブリスク診断

2020年10月30日

その表現は大丈夫?広告「炎上」で不買運動も!転ばぬ先のクリエイティブリスク診断

今ではよく使われている「セクシャル・ハラスメント」という言葉。いわゆる「セクハラ」が一般に知られるようになったのは1989年のことです。

平成最初の流行語大賞。「セクハラ」という言葉が新語部門・金賞部門に選ばれるほど注目された理由の1つは、セクハラ被害をめぐる日本で初めての民事裁判となった「福岡セクハラ訴訟」でした。

福岡の出版社に勤める男性編集長が、女性社員の私生活に関する悪評を流したこの事件。性的な悪評が元で、女性社員は解雇されてしまいます。女性社員の弁護団は、こうした悪評を流すこと自体が人格権を侵害すると主張し、見事に勝訴。それ以降、「セクハラ」という言葉は誰もが無視できないものとして定着しました。

奇しくも1989年は、広告業界でも「女性差別」という観点で物議を醸した事例が相次ぎます。「レイプを思わせる」と反発を浴びたウイスキーのポスターとCM。扇情的な女性モデルのポーズが媚態に感じられると批判されたプールのポスター。あるいは、女性モデルの表情が「性」を連想させると糾弾された百貨店の新聞広告など。

こうしたことを踏まえ、「女性蔑視」は企業イメージを守る上で避けて通れない問題になったと言えます。

Tシャツデザインに「女性蔑視」の批判

1990年代以降、広告業界では、いわゆる「性の商品化」を思わせるプロモーションは徐々に影を潜めていくことになります。しかし、「家事は女性がするもの」といった「性役割の固定化」を含め、批判を受ける事例は未だ後を絶たないのも事実です。

もちろん、批判された内容が、広告を制作した企業側の意図とは異なる場合もあるでしょう。さらに、以前の批判は女性団体などが最初に声を上げるパターンが目立ちましたが、インターネットやSNSが普及した昨今、企業を糾弾する意見は何をきっかけに、どこから上がるか分かりません。

しかもそれは、SNSなどの「炎上」という形で多くの消費者の目に、一瞬にしてさらされることになるのです。

2020年4月、衣料品・雑貨の有名セレクトショップAが販売したTシャツのデザインも、「女性蔑視」と糾弾されて「炎上」に見舞われました。

きっかけは5月26日、Aの公式TwitterにTシャツの画像が投稿されたこと。写っていたTシャツに描かれていたのは、背後の男に口を塞がれて頭に銃を突き付けられた女性と、下着が見えた状態でしゃがみ込む女子学生のイラストでした。

これに対し、「DVと買春のどこがかわいいんだ」「ファッションが社会に与える影響をもっと自覚してほしい」といった批判が続出します。

8月30日には突如、Aの公式Twitterが「炎上」、このTシャツを紹介したAの投稿には2,000件以上ものコメントが寄せられました。

翌8月31日、Aは該当商品の販売中止を発表。商品を紹介したツイートも削除し、「炎上」の事態を収束に向かわせましたが、Aへの不信感や不買運動を促す投稿が続いてしまうことになったのです。

制作意図が歪曲されて拡散される恐れも

もちろん、Aに「女性蔑視」を肯定する意図などなかったことでしょう。

事実、Aは「イラストのモチーフとされた事象へのアンチテーゼがデザインに込められていという解釈のもとだった」と釈明、デザインの意図を正しく伝えることを徹底できていなかったとしました。

過去の「炎上」事例を見ても、企業側が意図したメッセージが受け手側に伝わらなかった場合が多く見受けられます。

企業側は「アンチテーゼ」を発信したつもりでも、その説明が不足していたり、メッセージの一部を切り取られて拡散されたりすることで、本当に伝えたいことが歪曲されて広まり、「炎上」に至ってしまうことがあり得るのです。

Aの場合、公式Twitter投稿から2カ月ほども経ってから「炎上」しました。
このTシャツの存在を、Aのファンやファッションに興味がある人しか知らなかった段階では、過激なデザインであっても反感を買うことはなかったのかもしれません。

しかし、影響力の強い人の投稿によって広く知れ渡ったことで、デザインの理解や受け取り方に変容が表れたのが「炎上」要因の1つだったと考えられます。

ちなみに、2019年に登場した大手百貨店グループBのメッセージ広告も、本来意図していた内容とは別の解釈をされてしまった例と言えるでしょう。

その広告に使われていたのは、女性の顔一面にパイが投げつけられた写真と、「わたしは、私。」などのキャッチコピー。Bは「同化圧力から脱却し、私らしく生きることを応援させていただきたいという意味を込めています」と説明しましたが、「暴力的で気分が悪い」「悪意を感じる」といった声が続出しました。

「別に目くじらを立てる必要はない」「『仮にパイを投げつけられても私は私なのだ』というストレートなメッセージかと思います」などと前向きに捉える意見もありましたが、やはり「炎上」は免れなかったのです。

消費者に受け入れられるプロモーションをサポート

「炎上」した企業が受ける被害は、単にイメージが悪くなるということだけではありません。BtoC企業のAとBをめぐっては、Twitter上で不買運動の動きが表面化しました。

男女差別や人種問題、政治的な発言といったセンシティブな内容については、広告などの表現を十分に精査する必要があります。SNSなどで制作意図に反する拡散をされないか予測することも欠かせないでしょう。

広告表現への深い知見や実績があるからといって、予期せぬ「炎上」に見舞われないとは限らないのです。

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