2020.10.30
その表現は大丈夫?広告「炎上」で不買運動も!転ばぬ先のクリエイティブリスク診断
2020年7月10日
2020年4月30日、米国Twitter社が発表した2020年1~3月期決算は、SNSの存在感の高まりを見せつける結果となりました。
新型コロナウイルスの感染拡大で広告収入が落ち込んだにも関わらず、売上高は前年同期比3%のプラス。市場の予想を上回る伸びを後押ししたのは、収益につながる利用者の増加でした。
収益につながる利用者とは、Twitter上の広告を閲覧した人を指します。1~3月期は、1日当たりの広告閲覧者数が前年同期より24%も多い1億6,600万人に達しました。これは、過去最大の増加率です。
厳しいロックダウンが敷かれた欧米各都市はもちろん、緊急事態宣言が出た日本でも「自宅で過ごす時間が増えた」という人は多いことでしょう。
プロモーション活動にSNSやYouTubeを活用する企業、芸能人も、新型コロナの感染拡大前と比べて目に付くようになりました。
目次
一方で、こうした状況は消費者の心理や行動にどんな変化をもたらしたのでしょうか。
企業のSNSマーケティングを支援するアライドアーキテクツ社が2020年4月に実施した「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う消費者のSNS利用実態調査」によると、「新型コロナの感染拡大以降、特定の企業に対する見方がプラス、マイナスに変わった経験がある」と答えた人は、全体の44%に上りました。
つまり、SNSを使った企業のプロモーション活動に対し、コロナショック以前にはなかった反発や不快感などを抱くようになった人が一定数いるというわけです。
新型コロナ感染を予防する「新しい生活様式」が浸透する中、「withコロナ」「afterコロナ」の世界では、インターネットやSNSの活用がますます盛んになるでしょう。
そのような世界では新たなネットサービスが生まれ、より効率的に情報を発信・共有できるものへと進化していくかもしれません。しかしそれは、企業のリスクも増えることを意味していると言えるのです。
企業のリスクとは、具体的にどんなことを指すのでしょうか。
その答えは、SNSのプロモーション活動で生じた反感や不快感の行き着く先にあるもの、すなわち「炎上」です。
企業が大切に守り続けてきたブランド価値を瞬時に瓦解させかねない「炎上」は、取り返しがつかないダメージを招く恐れがあります。
SNSの存在感が増す「withコロナ」「afterコロナ」の世界では、「炎上」リスクへのより強固な備えが必要です。まずは、「炎上」が発生するメカニズムを探ってみましょう。
「炎上」の主なきっかけには、以下の4つのパターンがあります。
1.自社関連(公式サイトやアカウント、商品、サービス、アルバイトやパートを含む従業員)
2.消費者関連(一般、または著名な消費者)
3.取引先関連(製造関連、販売関連)
4.その他(活動家、マスコミ、競合他社)
想定される4つのパターンのうち、未然に防ぎたいのが自社関連の要因による「炎上」です。
公式のサイトやSNSアカウント、製品やサービスなどが火種になり得ます。
道徳に反する広告表現などが世間に受け入れられなかった、あるいは企業が発信したメッセージなどの真意を消費者が誤解して騒動に発展してしまう場合もあるでしょう。
さらに、いわゆるバイトテロ動画など、従業員のリテラシー不足による「炎上」も典型的な自社関連のパターンです。従業員が個人のSNSに上げた不用意な投稿が拡散され、勤務先の企業イメージを傷付けてしまった事例は枚挙にいとまがありません。
大阪の百貨店HのSNS投稿をめぐる1件も、本来なら未然に防げたと思われる自社関連の「炎上」でした。
大阪の百貨店HのSNS投稿をめぐる自社関連の「炎上」
その投稿がFacebookの公式ページに書き込まれたのは、2020年が明けて間もない1月3日のこと。バレンタインデーに照準を合わせて1月22日に開幕するチェコレートフェアの告知でした。
もちろん、そのこと自体が「炎上」の原因になるはずもありません。火種となったのは、投稿内のある記述でした。
フェアでは、台湾メーカーの人気チョコレートを販売することになっていました。
ところが、投稿では「中国」の商品として紹介されていたのです。
このチョコレートが世界的な品評会で数々の賞を獲得したほどの逸品だったということもあり、ネット上にはたちまち「台湾は中国の一部ではない」「デパートの営業時間に抗議の電話をかけよう」といった厳しいコメントがあふれ返りました。
Hは翌朝、Facebook上に訂正とお詫びのメッセージ掲載を余儀なくされましたが、晴れの告知を自らの手で一転させてしまった事態は痛恨以外の何物でもなかったでしょう。
また、各種媒体での言葉遣いには相当な注意を払っているはずのメディア関係者も、自社関連の「炎上」を起こしました。
2020年3月13日、全国紙Aの編集委員が自身のTwitterアカウント上で「新型コロナは痛快な存在」と投稿し、猛批判を浴びたのです。
投稿の全文は「あっという間に世界中を席巻し、戦争でもないのに超大国の大統領が恐れ慄く。新型コロナウイルスは、ある意味で痛快な存在かもしれない」というものでした。
全文を読めば、新型コロナの感染者はもちろん、営業自粛などで経済的損失を被った事業者らを揶揄したとは解釈できないかもしれません。
しかし、まさに命懸けの苦しみを味わっている人々がいる中で「痛快」という言葉を使ったのは、やはり不適切だったと言わざるを得ないでしょう。
ネット上では「人でなし」などと投稿に反発する声が相次ぎました。Aの広報が謝罪文を発表する事態に追い込まれたのは、騒動から一夜明けたばかりのタイミングでした。
次に挙げる消費者関連の「炎上」は、事前の対策が最も必要なパターンでしょう。
SNS時代の消費者は、製品やサービスへの不満を企業に直接伝えるのではなく、ネット上に投稿することで多くの人の共感を得ようとします。
新型コロナをめぐっても、自治体の休業要請に応じない店舗などの情報をSNS上などでさらす「自粛警察」の動きが全国各地で活発化しました。「自粛警察」とは、新型コロナに伴う自粛要請に応じない個人や商店などに対して、偏った正義感や嫉妬心、不安感などから私的に取り締まりや攻撃を行う一般市民やその行為・風潮を指す俗語です。
消費者が自身のSNSやブログで企業を批判すれば、当事者である企業が気付かないうちに不買運動などに発展してしまうかもしれません。その消費者が著名人であればなおさら、影響力の大きさは計り知れないでしょう。
ここで、消費者関連の「炎上」事例のひとつを挙げておきます。
中古車販売会社Bの従業員による消費者関連の炎上
2020年2月、中古車販売会社Bの従業員が、顧客から預かった愛車を「ダサいっしょ、超ダサいっしょ」などと大笑いしながら侮辱する動画がTwitter上にアップされました。
投稿主は顧客本人。問題の動画はドライブレコーダーで撮影されたものでした。これを見たTwitterのユーザーからは「ここの会社は正直本当に酷い」「自分もBには酷い目に合いました」などと同調する意見が相次ぎ、「炎上」に至ったのです。
消費者関連の「炎上」の怖いところは、たったひとつの投稿がきっかけで雪だるま式に賛同者が集まる、いわゆる「♯Me Too」現象が起こりやすいことにあります。火種は小さくても、最終的に大きな騒ぎに発展してしまいかねないというわけです。
まさかの「炎上」の落とし穴が待ち受けているのは、取引先関連も例外ではありません。
例えば、フランチャイズ展開をしている企業が、加盟店の顧客対応などのまずさからイメージダウンを余儀なくされる、あるいは商品の納入先である販売代理店の失態で商品自体の印象が悪くなってしまうといったことが挙げられます。
早速、取引先関連の「炎上」事例を振り返ってみましょう。
千葉県の携帯電話ショップ店員による、取引先関連の「炎上」
※以下の記事に詳しくまとめておりますので、合わせてご覧ください。
https://www.siemple.co.jp/article/futekisetsu_memo_ryusyutsu/2020年1月、千葉県の携帯電話ショップの従業員が、機種変更のため来店したある顧客を「クソ野郎」などと罵倒したメモを残していたことが発覚しました。
そのメモはなんと、従業員がその顧客本人に手渡した販売資料に紛れ込んでいたことから、知人経由でTwitter上にメモ画像が投稿されたのです。
当初の投稿で、地域やショップ名などは明かされていませんでした。しかし、メモの内容からキャリアが判明。Twitter上ではショップを特定する動きも強まり、運営会社とキャリアはそろって謝罪に追い込まれてしまいました。
このほかにも、著名な活動家やマスコミ、株主からの発信、競合他社による嫌がらせなどが「炎上」につながる場合もあります。
最も多いのは各種メディアに情報をリークする内部告発で、当事者の企業が知る前にハラスメントなどの不祥事が世間に発信されてしまうパターンです。
初動の準備が整っていない段階で情報だけが広まると対応が後手に回ってしまい、企業に対する信用を失いかねません。
これまで紹介したように、「炎上」にはさまざまなパターンがあります。被害拡大を食い止めるために何をするべきか、「炎上」の発生状況などに応じて適切に判断しなければなりません。
物を言うのは初期対応です。推移を注視しつつ、事態が拡大したら即時リリースを配信できるよう準備を進めておきます。
もちろん、リリースを発信するプラットフォームも慎重に選ばなければなりません。
自社の公式サイトか公式SNSアカウントか、あるいはネット上では公開せず当事者の個人とのやり取りに収めるべきか、SNS上の拡散状況なども踏まえて選択します。
リリースを出すと決めた場合も、事態発生から12時間以内、さらに事態把握から6時間以内の配信が望ましいでしょう。消費者の不安とデマなどの拡散を抑える上では「事実を把握していること」「現在調査中であること」を伝える必要があります。
なお、配信の際には次回の情報公開時期も明示することも忘れてはなりません。予告したタイミングで配信する次回リリースには第三者機関の調査結果やコメントを添え、公平性を確保することが大切です。
企業批判などをした相手が一般消費者の場合、相手の言い分が誤っていたとしても真っ向から否定することは避けましょう。自社の主張を事実関係の説明にとどめておくことで、無用の摩擦を引き起こさずに済むのです。
「炎上」はいつ、どうような経路で発生するか分かりません。正しいタイミングで的確なリリースを配信できるよう、リリースのフォーマットは平時のうちにいくつか用意しておくのが望ましいでしょう。
もちろん、「炎上」の1次被害を乗り切ったとしても安心できません。2次被害への「飛び火」を監視する必要があるのです。2次被害とは、フェイク口コミやフェイクサイトの出現、あるいは自社に関連する検索ワードなどの汚染を表します。
これらが度重なれば、弁護士や専門業者と連携して対処しなければなりません。判断を誤ると、さらなる「飛び火」を許してしまいかねないため、ネット上の動きをしっかりと見極められる体制構築がカギとなります。
あらゆるパターンの「炎上」を食い止めるのに最も有効な手立ては、そのきっかけとなりそうな投稿が拡散されていないかどうかをしっかりチェックすることです。
SNSの重要性が増すであろう「withコロナ」「afterコロナ」の社会では、これまで以上に緻密な危機管理対応が求められます。
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